第1095話 正月そうそう仕事の話をする人達
ハルは続いて奥の席に居る神様たちとも言葉を交わしてゆく。こちらは比較的、落ち着いた者が多かった。
緑の着物が良く似合っている、落ち着いた大人のジェード。黄緑色に着物の柄で抵抗を示すシャルト。そしてこちらも紫はアクセント程度で薄めのオーキッド、通称ウィストだ。
「明けましておめでとうございます。ハル様。本年も、互いにとっていい年でありますよう」
「おめでとうございますハルさん。新年から気を引き締めて行きましょう。特に! こいつのたわごとに乗って無駄遣いとかしないでよね!」
「フン。新年だなんだと、日付が一日変わっただけだろう。オレは仕事があるのだがな……」
などと言いつつ、自分の神域は日本の神社風であり、そこで初詣イベントなども開催しているウィストである。
自身は研究所にこもり切りではあるが、実は人並み以上にこうした行事には理解がある神様なのだった。
……こういうのも、ツンデレなのだろうか? やはり男にツンデレが多いのは事実なのだろうか?
「こちら、お年玉でございます。どうかお納めくださいハル様」
「『お納めください』って、お年玉渡すときに使う言葉ですかジェード。てか賄賂だろそれ。自分の目の前で良い度胸だな!」
「いえいえ。お年玉ですよ、お年玉」
「ちなみにお年玉は経費で?」
「落ちます。故にお年玉、と? はははっ。ハル様も上手い事を言う」
「つまりそれ僕のお金じゃないか……」
そもそも、ハルはお金を必要としないのだが。まあ、こうしたものは気持ちだ。ありがたく受け取っておこう。
実際はそれが、大元はハルが管理する活動費用から出ているとしても。
「ジェードは最近どう? 儲かってるかい」
「ぼちぼち、ですね。例の、アイリスの操る力、最近はあれに目を付けまして。共同事業を持ち掛けているところです。警戒されてしまっていますが」
「あの文字通りの、『お金の魔力』か」
「あいつ味をしめちゃって厄介なんですよハルさん。『また投資しろ投資しろ』と。なまじ成功して自己資本が増えたからって強気になりやがって……」
「私は構わないのですけどね。こんな感じでウチの経理の許可が下りませんで。ハル様も説得をお願いできないでしょうか」
「ふむ? まあ、あとでアイリスにも会いに行ってみるよ」
「シャルトの説得という意味だったのですがね……」
「流石はハル様ですね。ざまーみろジェード」
それこそ、お年玉でも持っていけば喜ぶだろう。
それに言ってしまえばアイリスも今はルナの会社の社員のようなもの。ハルも福利厚生に気を配り、ねぎらいを入れるとしようか。
「ウィストはどう? 研究は順調?」
「あまり芳しいとは言えん。貴様の持ってきたデータを検証しているところだが、まだどれも過程の段階に過ぎん。だが、一つ興味深い内容のデータを見つけた」
「というと?」
「例の空間に使用されている魔力、その出どころについての仮説だ」
「おお」
例の空間、アメジストのゲームのことである。ウィストにはかねてより、マゼンタ同様にあのゲームの謎について調査を依頼していた。
自身が直接観測できない、次元を隔てた先であるだけにその調査は困難を極めたようだが、流石は一流の研究者。そんな中でも、なんらかの手がかりを見い出したようだった。
「ハル、お前の管理している次元の狭間。あの場所に流れ込む魔力の量が、アメジストが活動を開始したと推測される時期から先、微量の減少が見られる」
「……つまり、その減少分が、あのゲームの『運営資金』になっていると?」
「まだ推測だ。だが、エメの奴が管理していた時代のデータも提出させたが、」
「正確には、私が管理していました。データを纏めたのは、私です」
「空木に感謝するです! お礼を言いやがれですこの白髪!」
「フッ。貴様も白髪だろうが」
「白銀は銀髪です!」
「ならばオレもではないか……。まあいい、感謝するぞ……」
「いえ。どうということはありません」
アイリ譲りの、薄く青みがかった銀髪の白銀が、薄く紫がかった白髪のウィストをののしっている。妙な光景だ。
それはともかく、過去百年のデータから見ても、またハルたちやアイリスたちの活動による現象は除外して計算しても、そのブレ幅は無視できないとのことだ。
そして、その減った分だけのリソースがあれば、あの異空間にてゲームを運営するだけの魔力確保は出来るだろうとのこと。
「その計算結果を盤石にするために、アイリスにもご協力いただきました。おかげで、『お金の魔力』でどの程度儲かるのかもだいぶ試算ができましたよ。はっはっは」
「だから君は黒幕じみているというのだジェード先生……」
正義のためという名目で、ちゃっかり儲ける算段をつけている。相変わらずの腹黒さ加減であった。
まあ、別に正義でもなんでもないのだが、日本人の安全の為とあらば協力してしまうアイリスも、守銭奴を気取りつつも根は真面目だ。
「つまりは地球側で生じ、そのまま現地で消費された魔力がその分、流れてくる量の減少に繋がったという訳ですね。金庫に手を突っ込まれている気分だ。厄介だね」
「まあ、誰の金庫でもないけどね」
「そんな甘いことを言っていて、また大元を全て押さえられでもしたら、エメの時の二の舞ですよハルさん。ここはしっかりと自分の財布だと認識して、お財布の紐を締めなきゃ」
「私もシャルトに賛成ですハル様。特にこのことは、謎だった魔力の発生原因を探るカギになります」
「地産地消でこのまま消費されても、オレの魔法研究に差し障るしな……」
おのおの理由は異なれど、魔力流入の減少の理由解明とその解消で、神様たちの意見は一致したようだった。
それを見ながら、なんだか本格的に資源戦争じみてきたな、などと呑気な感想を抱くハルだった。
◇
「ところで、君たちの本業、こっちの世界の運営はどんな感じ? 順調にいっているかい?」
「ええ。おかげ様で今は以前のようなカツカツさは解消されましたよ。常に魔力は増加傾向です。誰かさんが、ぽんぽん無駄遣いしなきゃだけどね!」
「投資ですシャルト。あくまで投資。将来は何倍にもなって返ってきます。今はその為の我慢の時」
「いつまで我慢する気なんですか貴方は! ぶっちゃけ永遠に我慢して無限に利益を最大化する気だろ!」
「はっはっは」
「フン。目的の無い稼ぎなど愚の骨頂だな」
「稼ぐこと自体が目的なのです。稼ぐという行為は、実に美しい」
「理解できんが……」
まさに三者三様、個人ごとにそれぞれの価値観を有する神様たちだ。
そんな彼らが互いに協力関係にあるのは、ひとえにこの異世界の国々を守護し導くため。
現在もその仕事は継続中であり、『ゲーム』として地球人を呼び込んでいるために様々な新規展開も常に継続中なのだった。
「目下の課題は、その増えた魔力で何をするかです。単純に国土の面積を増やし新エリアとするか。それともマップは据え置きで他のサービスにあてるか……」
「私は、神界の拡充を重視し現地は据え置きで行っていいかと考えていますよ。新エリアなどと言っても、結局は利益を得るのは異世界人。もっと、日本のプレイヤー様方に喜んでいただかねば」
「だが、国土の拡充はオレ達が奴らに約束した公約でもある。反故にもできまい」
「約束といっても、一年二年ですぐにでも、という話ではないでしょう。それより民の為を思うならば、魔道具の開発に力を入れては?」
「ふむ」
「やめろって! 魔道具は魔力バカ食いするんだよ! ……郊外に飛び地を作って、そこに新ダンジョンでも建設するってのはどうですか?」
色々と案は出るが、どれも決定打にはならない。こちらもこちらで苦労しているようだ。
もう半年もしないうちにまた周年イベントの時期が来る。プレイヤーの期待もそこに集中し、なにか新しいことをやり続けないという選択肢はない。
そして、何かをする為には必ず魔力が必要になり、となかなか厳しい。ここはお金も魔力も変わらなかった。新たな施策にかけた投資に見合う回収量が得られなければ骨折り損だ。
「……そう考えると、何でアメジストは地球でゲームを開催したんだろうね。君らのように異世界を舞台にすれば、ログインしたプレイヤーから魔力を回収できたのに」
「逆じゃないですか? 回収できる目途が立ったから、地球でやっているのでは。奴の目的は、どうやら超能力のようですしね」
「だとしても、確かに妙なのは確かですね。あの者はリコリスを通じて、こちらのゲームからでも日本の方々の肉体に干渉できるか実験をしていた。ならばそれを発展させるべきだ。それこそ効率がいい」
「それについても、探っていかねばならんようだな。オレたちも」
なんだか、新年の催しというよりも普通の戦略会議になってしまった男衆との会話。
しかし、これはこれで、収穫のある話が出来たのではないかと感じるハルだった。
※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。




