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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1094話 神様たちの新年の抱負は?

 ハルと女の子たちが愉快にすごろくを楽しんでいる頃、異世界の方でも天空城にて、神様たちの会合が行われていた。

 といっても、ゲーム運営に関する会議は神界ネット上で行える。今はそういった集まりではなく、こちらも単にお正月だから集まっただけである。


「あけおめですマスター! 白銀の、新年の装いを見るです!」

空木うつぎも、お着物を着てみました。どうですか、マスター?」

「うん。二人ともとっても可愛いよ」

「やったです!」


 そんなハルを、待ちきれず会場である銀の城へと引っ張って行くのは小さな白銀と空木。

 二人ともお正月らしい着物に着替えてやる気十分だ。まあ、別に何をするわけでもないのだが。


 二人に手を引かれながら城の一室へと入ると、そこには既にこの世界を守護する神様たちが勢ぞろいしていた。

 皆、一様に色とりどりの着物に身を包んでいる。それぞれが、自分の色の着物を身に着け実に鮮やかだ。


「きゃー♪ いらっしゃいハルさんー♪ 主役の登場だね♪」

「主役は君たちでしょマリンブルー。だから無理にハイテンションでいなくてもいいんだよ」

「んっ? でも、お正月はイベントで、イベントは盛り上げないとだぞ♪」

「まあ、君が良いならいいけど……」

「好きにさせておきたまえよハル。そいつも別に、これは無理してやっているという訳じゃあないのだからね」

「セレステはもう少しシャンとしようか」


 まずハルを出迎えてくれたのは、明るく元気なマリンブルー。そして対照的に落ち着いた、いやのんびりした、もっと端的に言えば『だらけた』姿のセレステだ。

 二人とも青い系統の着物だというのに、ずいぶんと差があるものだ。


「主役は我々なのだから、だらけていたって良い訳だ。それに、着崩れた着物が色っぽいだろう?」

「まあ、色っぽいけどね。でも君の場合だらしなさが先に来るんだよなあ……」

「セレステちゃん、枕営業失敗! 業界の平和は保たれた♪」

「いやいや。私は営業なんてしないとも。営業するってことは、仕事をしなければいけないということだからね」

「君はもうちょっと仕事しなよーセレステー。普段と正月、なーんの変化もないじゃん」


 そこでセレステにダメ出しするのは、真っ赤な着物に身を包んだ少年、マゼンタだ。

 同じくサボり癖のある少年のはず、なのだが、最近ではそのお株をセレステに奪われてしまっている感がある。

 いや、別にそんなもの奪われてもいいのかも知れないが、彼らの間では自己の存在の定義にも関わる問題なので深刻、なのだろうか?


「仕事はしているさ。私はハルの家に、永久就職したのだからね!」

「それ仕事する気のない女の言い訳じゃん」

「やーん♪ セレステちゃん主婦になって引退♪」

「引退でもなければ主婦でもないさ。私は、自宅警備員なのだから!」

「余計にダメだろ!」


 日がな一日お屋敷でごろごろしているだけのセレステに、実は裏では働き者のマゼンタから激しいツッコミが入る。

 こんなでも紛れもない神様ということもあり、メイドさんたちにも甘やかされっぱなしだ。


「聞いてよハルさん。こいつ、最近は自分の国にもほぼ干渉する気ないんだよ? ちょっと怠けすぎじゃない?」

「おや? どの口が言うのかなマゼンタ? 君こそ、自国の守護を放り出した神の代表じゃあないか」

「ぐ、ぐぐっ……、それは、そうだけど……」

「まあ、いじめるのは良いとして」

「良くない!」

「いいとして、私も別に、怠惰たいだで国を空けている訳ではないよハル。これにも考えあってのこと。君の方針とも一致するはずだ」


 ハルの方針、というのは、この異世界において徐々に、人は神の庇護ひごを離れるべきだという考えだ。

 もちろん、彼らが自立できるだけの十分な環境を整えた後の話にはなるが、その後は世界は彼らの手へと委ねたい。

 この天空城も徐々に高度を上げ、眼下に見える梔子くちなしの首都からもいずれ見えなくなっていく予定だ。


「まあ、そうなんだけどね。それでも、まだ早くない?」

「なにも私もね? 今後いっさい手出ししないとは言わないよ。でも今は、あの国は大きく動こうとしている。そこに神の介入があれば、今までと同じさ」

「あー、あれっすねー。わたしのやらかしの事っすねー。本来『アレ』はこんなに大事おおごとになる予定じゃなくて、もっと内々に、秘密裏に処理されるはずだったんすけどね。これに関しては、平謝りするしかなく……」

「いや、いいさエメ。状況をかき回したのはむしろ僕だ」


 大きな動きというのは、エメの暗躍により起動された遺産装置が、『魔力を生む装置』として瑠璃るりの国にて存在感を示していることだ。

 その魔力量はさほどの大きさではないが、それでも瑠璃の国は七つの国の中で最も世界に対し貢献度を高めている、と外交的には主張している。


 そして、装置起動の立役者たてやくしゃとなったアベル王子も、王族としての権力争いレースにて頭角を現してきた。


 そのようにセレステの守護する国は外から見ても内から見ても、今は実に動きの大きな年となっている。


「しばらくは、あのアベルとやらに任せておけばいい。なに、結局は茶番さ。あの装置に、そんな価値などないのだからね」

「そっすね。別に、装置が無限に魔力を生み出す魔法の井戸って訳じゃあないっすから。アレは次元の狭間との接続器。かつてのわたしの、そして今はハル様が管理している『エーテルの塔』から漏れ出る魔力を分けてやってるだけっす」

「その『元栓』の鍵は、我らがハルが握っている。なに、調子に乗ったようなら元栓を締めてしまいなよハル」

「きゅっ♪ ってひとひねりだね♪」

「こいつらが言うと物騒に聞こえて嫌だなぁ……」

「そんなこと言っちゃダメだぞマゼンタくん♪ 首をひとひねりしちゃうぞ♪」

「そういう所が物騒だって言うんだよ!」


 と、つまりはそういった言わば歴史の分水嶺ぶんすいれいなので、ここで神が道を示してしまっては、今後の世界の為に良くないとセレステは語っているのだ。

 であるので、自分は一切の介入をせずに自宅でごろごろしているのである。

 ……理屈としては一応通りそうに思えるのだが、なんだろうか、この釈然しゃくぜんとしない気持ちは?


 まあ、先を読む戦略眼には優れた彼女だ。きっと今回のことも、何手先までをも見通しているに違いない。

 ハルは少々不安を覚えつつも、得意げな顔で優雅にさかずきを傾けるその美しい顔を眺めるのであった。

 だらけていながらも、実に絵になる姿がなんだかしゃくである。





「ところで、そーゆーマゼンタくんはどうなのかな? お国の方は、上手くいってる?」

「まあね。そこそこ。あっちのアベルと同じで、<王>であるクライス=ヴァーミリオンがコスモスたちのゲームに参加したことで、こっちは逆に神との距離が近づいたと言える」

「元は断絶状態だったもんね♪」

「ふんっ。厄介なことだよ。僕だってサボっていたいっていうのにさ。どうしてくれるんだいハルさん」


 などと口では言いつつも、元から彼はヴァーミリオンの国への支援は裏からせっせと行っていた。

 それが、堂々と表から行えるようになったことで、むしろマゼンタの負担は減ったことだろう。

 念願の仕事量減少だというのに、表面上はなんとも不機嫌そうなマゼンタなのだった。


「マスター。マスター。これは、『ツンデレ』というやつなんです? 男のツンデレに、需要なんてねーです?」

「それは違いますよおねーちゃん。慣習的に男はツンデレに分類されないというだけで、むしろ潜在的なツンデレりょくは男性の方が強く秘めています。当然、需要も、ありますよ」

「こらそこ! うっさいぞーちびっこども! 今はボクら真面目な話をしてるの!」

「おめーもちびです! 子ども扱いすんなです!」

「サボり魔が真面目な話をしていると言います。正体見たり、ですね」

「こーら君たち。あんまり喧嘩ふっかけないのー。仲良くしな」

「はいです!」

「了解です、マスター」

「お返事は良いんだけどねえ」


 神様同士はどうも互いに好戦的だ。そんな様子が、小さな白銀や空木にも伝染してしまったのだろうか? だとしたら教育に悪い。改めてもらうべきか。

 ただ、これが本能的、本質的なことであれば、彼らが改めたところでどうしようもないのかも知れないが。


「……えーと、なんだったっけ?」

「ツンデレの話?」

「違うよ! うちの国の話!」

「あっちでは『勇者クライス』でしたねハル様。結構活躍したとのことで、功績としてマゼンタから資源が与えられたようです。それを全て国民にばら撒いたとのことで、人気は上昇、神に対する国民感情も、また改善したらしいっす」

「ばら撒いた言うな。相変わらず我欲がないねクライスは。本人は大丈夫なんだろうか」

「気になるなら会いに行ってみればいいんじゃないすか? きっと喜びますよ」

「ついでに、『ローズ様』として会いに行っちゃいなよ。どんな顔するか見てみたいなぁボク」

「あっ♪ いいねそれ♪」

「絶対にごめんだね……」


 とはいえゲーム内ではさほど関りのなかったクライスだ。彼がどんな活躍を見せて、どんな思いで別の人生をプレイしたのか。その話にも興味がある。

 折を見て、ヴァーミリオンの国を訪ねてみてもいいかも知れなかった。


「しかし、今後はどうする気かねマゼンタ? 仲直りは喜ばしいが、今後ますます介入を強めるというなら、それはハルの意思に背くのではないかい?」

「別に、僕はそこに口出しする気はないけどね」

「ボクだって、そこまで過保護になんでもやってやるつもりはないって。あくまで、彼らが自立できるようになるまで多少手を貸してやるにすぎない」

「自立してくれれば、後はもうサボり放題、だもんね♪」

「そ、そういうことだよ! わかってるじゃないか!」


 そんな風にマゼンタを弄る手は若干強くなりつつも、この世界の国はどうやらつつがなく回っていることに安堵するハルなのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] セレステが動くときはそれはそれで厄介ごとが起きてるときでしょうし、動かないというならそれはそれで安心なのかもしれないですねー? どうにもどこかの胡散臭い神様と同じで言動に信頼感が伴わないの…
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