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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1092話 人生という名の冒険?

「『ゴブリンの群れに遭遇した。どうする?』、って、マスに止まった後で行動を決められるのか」

「はい! それが、この『冒険者ゲーム』の奥深さなのです!」

「……これって死んだらどうなるの?」

「死んだら、そこで終わりなのです……! というのは嘘で、所持金が半分になるのです。それでも十分きついのです!」

「へえ、命に保険が掛かっている訳か。優秀だね」

「どんな感想よ……」


 ルナが呆れるが、こう見えてハルは慎重派だ。欲よりも命を、生き延びることを何よりも優先したこの自分の分身たる冒険者くんを尊敬する。


「つまりこの世界において、命の値段というのは個人資産の半分の額という訳だ。そう考えると世知辛せちがらい」

「妙な事いっとらんではやく決めてーハル君。先は長いんだぞー」

「おっとすまない。当然戦う。死んだところで初期資金の半分程度。ベットしない理由がない」

「ちなみに死ぬと一回休みにもなるよ」

「それを早く言ってよ。まあ、戦うんだけどね」


 ハルが戦闘を選択すると、中央のメッセージウィンドウに詳細が表示される。

 このゲームはアナログゲームだが、どうやらマス内に必要な文字が収めきれなかったようで、詳細な長文はこうして表示されるようだ。


「《大抵はダイスを振って勝敗を決めるんだよお兄さん。今回は、三つ振って合計がだいたい九以上だったら勝利かな》」

「だいたい?」

「《うん。ダイスはそれぞれ、『攻撃ダイス』『防御ダイス』『素早さダイス』に分かれてるから》」

「妙に複雑だ……」


 まあ、それらの計算は全てゲーム盤側がやってくれる。『アナログゲームとは?』という疑問が湧きそうなところだが、これはプレイヤーが毎回ごちゃごちゃと計算しなくてもいいようにとの配慮だろう。

 それはそれで、楽しそうなところではあるが。今はスムーズさに感謝すべきか。なにせこの人数だ。


「はい、四、二、六。勝利」

「やりましたね! ギルドから、報酬が出るのです! こうして報酬と評価を集め、装備を整えのしあがるのです!」

「なるほど。のし上がるための装備は、どうやって整えるんだい?」

「お店のマスに止まらないと買えないのです!」

「妙にシビアだ……」


 マス目を見ると、どうやらお店は既に通り過ぎてしまったようだ。初手から六を出して急ぐはやの冒険者は、装備も持たずに魔物の群れに突っ込んで行った、という事なのだろう。


「よし、次はわたくしなのです。まずは目指せ、Fラン脱出なのです!」

「あまりその言い方は感心しないわよアイリちゃん……」

「えふらん! いけませんか!」

「《えふらん、えふらーん♪》」

「可愛く言ってもダメよ? ……というかヨイヤミちゃん? それは煽っているわよね明らかに」

「《きゃー、ルナお姉さん許してー》」

「むむむ、お静かに、です。わたくし今から愛の力で、ハルさんに追いついて見せるのです。……たあ!」


 気合を込めてアイリが振ったサイコロの目は六。宣言通り、アイリは自らのコマをハルの隣に進めてご機嫌だ。


「えへへへへ、お揃いです、やりました!」

「アイリちゃんー、イカサマしましたー?」

「していないのですカナリー様! わたくしに、そんなスキルはないのです!」

「でも『愛の力』を発動してたじゃないですかー。それを使ってハルさんに接続し無意識下で力を借り受けて、サイコロの目をコントロールしたに違いありませんー」

「わたくしに、そんな能力が!」

「《あははは、難癖なんくせー。それっぽい理屈つけて納得させたら振りなおせるゲームかな?》」

「それも面白そうですが、この目は譲れないのです!」


 ……なお、実はアイリはやろうと思えば今カナリーの言ったことが出来るはずだ。ややこしくなるので、口には出さないハルだが。

 カナリーが難癖をつけたのも、アイリがゲームに夢中になるあまり、意図せずそうした力を発動させてしまわぬようにとの配慮なのかも知れない。


「……ともかく、アイリも六マス目だね。ゴブリンを狩るの?」

「いいえ、このゲーム同じマスに止まったら、そこのプレイヤーと接触できるのです!」

「へえ。それがさっき聞いた、先攻有利な部分か」

「はい! 先に鍛えて、新人狩りをするのです!」

「主人公に倒されそうだねえ」


 同じマスに止まったプレイヤーは、マス目の内容を処理するか、同じマスに止まったプレイヤーと接触するかを選べる。

 行動は協力か敵対かの二択。なお先攻側が協力を拒否した時は強制的に敵対となる。物騒な世界だ。


「わたくしはもちろん、協力するのです! この身と有り金の全てを、ハルさんに捧げます!」

「こらこら。そーゆーシステムは無いぞアイリちゃん。それにあくまで自分がトップを目指さないとマナー違反だ」

「しかし、人生ゲームには結婚があるものでは!?」

「知らんがなー。このゲームの作者は、冒険者は孤独なものって意識があったのでは?」

「なんと! 冒険者というのはパーティの仲間と良い感じになって、旅の途中でカップルになるものでは!?」

「それも一理ある」


 まあ結局冒険者なんて居ないので、好きに想像すればいいのではないだろうか。ただし、このゲームではルールに従わなくてはならない。


「仕方ありません。普通の協力をしましょう……」

「いいよ。どうするの?」

「《二人そろうと高難度クエストに挑めるんだよー。もちろん要求値も跳ね上がる。それで、二人でダイス振って、二人の目を合計して成否を決めるんだー》」

「さっきはそれでひどい目にあったね……」

「ユキさんがあんなところでいちを三つも出すからです!」

「《仲良く全滅だよもう!》」


 なかなか愉快なことがあったようだ。

 協力と言っても単にクエストが簡単になるだけではなく、参加者分だけサイコロの数が増えることになる。

 すると上から下まで、それだけ振れ幅も増し、意図せぬ大事故ファンブルにも繋がりかねないようだった。


「責任重大だね。足を引っ張らないようにしないと」

「大丈夫です! 二人の愛の力で、乗り切るのです!」

「こらそこー、別のゲームしてるんじゃないですよー。あくまでライバル冒険者なんですからねー」

「……これ、もし全員がハルとだけ協力し続けたらどうなるのかしら?」

「《うーん。上手くいけばハルお兄さんがそれだけ高報酬を得て一人勝ち。下手を踏み続ければ高難度にぼっこぼこにされて一人負け、かな? あくまでダイス次第だよ》」

「ハルの接待にはならないということね」

「安心してよルナちゃん。私は、ハルくんと会ったら戦うからさー」


 そうしてアイリと二人で振ったサイコロは無事に閾値しきいちを超え、二人は仲良く報酬を手に入れる。

 なるほど、これは確かに先攻有利の部分もある。自分の巡目はもう終わっているというのに、追加で報酬が得られるのだから。


 しかし、周囲は味方ばかりの冒険者稼業ではない。中には、ライバルを蹴落とし自分だけが上に行こうとするやからも出てくる。

 そんなならず者冒険者に目を付けられれば、同じマスに同居した際の運命は明らかだ。


「よーし、私も六だ。ハル君、かくごー」

「うわ、盗賊ギルドの人だ」

「残念、私も冒険者ギルドさ」

「ライセンス制度どうなってるの?」


 なお、どれだけ同業者と敵対しても、冒険者ギルドからは一切おとがめはない。彼らは公明正大な正義の組織ではなく、単なるごろつきのまとめ役なのだろうか?

 そんな、世界観の想像も自然とされてくるところだ。魔法の言葉『ゲームだから』を出してはいけない。


「当然、ハル君に敵対。やっつけちゃるー」

「わたくしがハルさんを守るのです!」

「そんなコマンドないよーアイリちゃんー。アドリブは効かぬ」

「わたくし、無力なのです! お傍で見守るしか、出来ないのです!」

「《人はそれを一人勝ちという》」

「ちゃっかり美味しいところだけを持っていくポジションね? やるわね、アイリちゃん」

「わたくし、悪女でした!」


 あくまで選択権は後攻にあり同一マスだからと手出しは出来ない。ここの選択が出来るのは後攻有利か。


 そんな同業者のユキがハルへと襲い掛かる。狩り場の使用権で揉めたか、それとも冒険者デビューする前からの因縁か。

 傍らで共に冒険したアイリがハラハラと見守る中、二人は向かい合って武器を抜いた。


「……なるほど、分かったわ? これは、痴情のもつれね?」

「!! なるほど! わたくしも分かりました! これが世に聞く、三角関係だったのですね!」

「そうよアイリちゃん? ハルの幼馴染おさななじみのユキは、そのハルが知らない女の子と楽しそうに冒険デートしている姿を見て嫉妬してしまったの」

「おお! ……しかし、わたくしに攻撃しないのですね?」

「それが複雑な女心ね。自分でも気持ちの整理が上手くできずに、もやもやする感情をついハルにぶつけてしまうの」

「すごいですー……」

「いや、真剣で切りかかるのはさすがにどうなの……?」


 少々過激な恋心だ。『貴方を殺して私も死ぬ』、というやつだろうか。

 楽しいから勢いで戦っただけのユキも、コマのストーリーを勝手に想像されてあたふたしている。なんと恐ろしいゲームだろうか。


「……ま、まあいいや。ハル君かくごー。えいっ。あっ、六、三、四だ。強い強い。私攻撃型だから、これかなり強いよ」

「なるほど。攻撃ダイスの目に補正が乗る訳か。これは、覚悟しないとかな、っと、僕もダイスロール」


 そうしてハルがモニターにタッチすると、運命のサイが勢いよく回転する。そうして止まった目はというと。


「…………」

「…………」

「……六、六、五だね」

「やはりイカサマ、では?」

「そうね? 最後だけ五なのが、妙に言い訳じみているわ?」

「いや本当に偶然だから……」

「これが、乱数を超えた『リアルラック』って奴なんでしょうかねー」


 そうして狂愛ヤンデレのユキは無事に打倒され、ハルは彼女の手持ちの資金を得て更に優位に立った。


 その後は巡目を進めるほど同一マスに止まる確率は下がり、しばらくは平和なすごろくが続いていった。

 いちマップ目の『Fランク冒険者』ではそこまで危険なクエストはなく、最初のゴブリンの群れが最も難しかったくらいだ。

 ハルたちはここで旅の準備を整え、評価を稼ぎ、次なるマップであるEランク、Dランクへと向かう。


 最終的には、Sランクマップに居る魔王と戦い、それに勝利した時点でゲーム終了のようだ。

 その時に自分の功績が一位になるように、時に協力し、時に足を引っ張り合いながら、ハルたちは楽しく冒険を進めて行くのであった。

※表現の修正を行いました。「人それを」→「人はそれを」。大筋に変更はありません。誤字報告、ありがとうございました。(2024/8/22)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相互扶助が目的であっても、構成員同士のトラブルまで責任を持てませんということかもしれませんねー? 仕事の斡旋まではできても、論外実力者の衝突は管轄外だったのでしょー。もしくは戦闘範囲の設定…
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