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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1085話 艦砲射撃

 断続的にハルの世界に撃ち込まれる艦砲射撃かんぽうしゃげき。それは工場エリアだけでなく、世界そこかしこに降り注いでいった。

 工場にはアルベルトが防御シャッターを配備してくれているので損害は出ないが、その他の地域はそうはいかない。

 自然のままの草原にシャッターを建造するほどアルベルトも酔狂すいきょうではなく、着弾した地点を地面もろとも粉砕し巻き上げていた。


「ふむ? なかなか容赦がない。これ、普通の国ならビビっちゃうだろうねえ」

「ハル様。落ち着いている場合ではありません。我が国にとってもこれは脅威。地下鉄のチューブを狙われては運行に影響が」

「ああ、それはマズいよねハル君? 敵はこっちの国の地形が見えてんだとしたら、地下鉄の路線はあからさまに浮き出て見える。狙いどころだよ」

「地下鉄なのに狙われる心配をするとか、浮き出ているとか変な話だけどね」


 まあ仕方ない。ハルたちの地下鉄は、あくまで実際の地下鉄の構造を模して作ったというだけで地上に存在する地上鉄なのだ。

 そしてその外壁は洞窟の岩壁のような形状でアイリが作ってくれた物。艦砲射撃には、少々心許こころもとないだろう。


「……まあ、外装が破壊されたとて、あの地下鉄チューブ内の真空状態は環境効果だ。穴から空気が流入することは別に、」

「なにをおっしゃいますかハル様! 空気は入らずとも、砲弾や砕けた壁片へきへんや内部に崩れ落ちます! それは、進行方向の障害物となりましょう!」

「すっかり地下鉄狂いになったなアルベルト……」

「失敬。この国の血流ですので」


 これなら、本当に地下に作れば良かったのかも知れないが、それだとアイリたちの負担を増やしてしまう。

 ここは、国主として国の公共施設インフラを守るべくハルが働かねばなるまい。


「エメ。状況は見えているかい」

「《はいっす! ばっちりっす!》」

「よし、では全ての砲弾の軌道計算。着弾地点の予測ポイントを送信しろ」

「《うげぇー! ばっちりなんて言わなきゃよかったじゃないですかー! 詐欺じゃないですかー! ……とはいえ? そんな計算なんかお茶の子さいさいですよ。知ってます? 弾道計算って我々の得意中の得意、基礎中の基礎なんすよ?》」

「だったら黙って早くやるんだ……」

「《らじゃー!》」


 エメの示す着弾ポイントが、メニューのマップに重なるようにして表示される。

 その中には、地下鉄に直撃する物もいくつか含まれていた。やはり敵も、あの大地を横断する妙なラインに気付いたようだ。


「アルベルト。予測地点の『最寄り駅』に乗客を運べ。速やかに」

「はっ! 砲弾などとは比べ物にならない我が鉄道の速度、いざご覧に入れましょう!」

「……むしろこっちが砲弾になってるけどね最近」


 そんな砲弾も真っ青な加速にて、中継地点から次々と人形兵が吐き出される。それらはハルの指示により、着弾ポイントにて飛来する砲弾を待ち構えた。


「どーすん? ハル君?」

「当然、体で受ける」

「やっぱし」


 防壁が無いなら仕方ない。自分自身が防壁になればいい。そんなハルらしい考えのもと、その思想を強制された哀れな兵士たちがいわゆる『肉壁にくかべ』となり砲弾の前に散る。

 ……ことは、なかった。ここで散っては、彼らは中央で復活することになってしまう。そうしたら、次の砲撃を防げない。


「アルミシールド。41センチ砲の直撃にも耐える無敵の盾だ」

「名前が弱そう! それに、シールドはともかくそれを支える兵士は無事では済むまいぞハル君」

「平気だ。彼ら自身もフルプレートで全身を固めている」

「何が平気なのか……、もはや根性論だー……」


 流石のユキもドン引きな、体で、根性で砲弾を止めろとのハルの指示。だが兵たちは実際に根性を見せ、複数人で固まるように盾を支えて砲弾を受け止めてみせた。


 エメの示した被害予想ポイントへと、迅速に列車はその根性ある兵士を送り届け、『路線』への被害をことごとく防ぐ。

 さすがに兵士の被害ゼロとはいかないが、欠損した兵員もまた、『始発』から再び乗り込むと速やかに戦列へと復帰を果たし再び元気に鉄のラグビーボールを受け止めるスクラムに加わって行くのであった。


「《うわぁ。もはや言葉では言い表せないブラック。死ぬまで体を張って働け、いや死んでも復活してまた働け。そんな指示を平然と出す国主と、横でお国の為なら当然みたいな顔してる参謀さんぼうの極悪コンビっす……》」

「なにを言いますかエメ。失礼な。国の為ではありません。ハル様の為、ですよ」

「いや地下鉄のためだろうお前は」


 とはいえ、これはハルたちだから止められたようなもの。他の生徒がこの艦砲射撃に曝されては、ひとたまりもないのではなかろうか?

 自分の丹精たんせい込めて作った世界、街並み、それらが砲弾の雨で粉砕される。

 そのショックとパニックは相当なものだろう。これをやられては、冷静な判断を誤らせ、敵国の言いなりになってしまうかも知れない。


 そう、見かけは派手で凶悪だが、冷静に見てみるとこの艦砲そのものはそこまで脅威ではない。

 確かに施設を破壊されてしまうのは悲しいが、しかし破壊された場所が浸食され敵陣になる訳でもない。


 そして、敵もまた無限に砲弾を撃ちだせるなんてことはないのだ。

 ハルたちは非常によく分かっている事だが、実体弾にて射撃をするということは、世界の一部を切り取って投げつけているようなもの。

 むしろ、領土の心配をするべきは敵の方なのかも知れなかった。


「……どうやら、止んだみたいだね」

「そだねー。やっぱ、無限にばかすか撃てる訳じゃないみたいだ」


 そんなハルたちの予想の通り、砲弾の雨はある時を境にぴたりと止んだ。

 砲弾を止められたことに驚いたからか? いや、それが否であることは、続いて聞こえてくるプレイヤーの声が証明してくれた。


「《ハルとかいうヤローに告げる! これは降伏勧告であーるっ! オレの最強艦隊にビビったか? 砲弾の雨にビビったよな? なら降伏しやがれ!》」


「おお、まさしく海賊だ。じつにチンピラっぽい」

「ねーねーハル君。このひと、普段は大人しいお坊ちゃまなんでしょ? ウケる」

「ウケないであげてユキ。ロールプレイだよきっと」


 威圧感たっぷりの拡声器による放送が響いてくるが、それを耳にしたハルたちはビビるどころかウケてしまう余裕ぶりだ。

 なにせ、大した被害は出ていない。逆にそれを、敵は知らないということの証明だった。


「《オレも鬼じゃねぇ。ここで負けを認めるなら、これ以上の砲撃は止めてやる。だから出て来いよ。本人が国境まで歩いてこい。貴君の賢明な判断を期待する、だったか? じゃあな! よく考えろよ!》」


「ハル君がやったのと同じじゃん。同類かな?」

「いいや。脅しをかけるにはまだまだヌルい。そして彼は鬼じゃないらしいが、僕は鬼さ」

「むしろ悪魔。いや魔王」


 とはいえ、気弱な生徒相手なら混乱して要求を呑んでしまうかも知れない。事実、そうして国土を広げてきたのだろう。ソウシと同じ先制攻撃タイプ。

 だが、その快進撃もここまでだ。そんなやすい脅しが、いつまでも通用しないという事を教えてやろう。


 ハルは敵の有難い警告を一切無視して、逆に国境に配備した兵を突入させるのだった。





「全軍、突撃。敵は海賊のようだ、容赦は要らない。皆殺しにしろ」

「うわぁ。本当に鬼だー」

「悪を裁くためなら、いくら非道になっても許されるのが人類の常さ」

「都合よくダシにした人類にあやまろ?」


 無敵の軍艦のように思える敵の、船の国。そこには大きな弱点があった。

 船として運用しているが、その実態は国、ひとつの世界。実際には船ではなく、船として当然のように持ち合わせているはずの強みを生かせない。


「攻撃の際には、国境線を確定してからでないと動けない。接舷せつげんしないとね」

「海の先から攻撃するという、最強のメリットを生かせないという訳ですね。この世界には、海が無い」

「世界を取り巻く虚空こくうを海になぞらえて航海をしているんだろうけどね、彼は」


 だが残念ながら、彼の砲弾は虚空を越えて届くことはないようだ。

 まあ、当然といえば当然。ゲームバランス上強すぎるというのもそうだが、ゲームシステム上意味がないという部分も大きい。

 顔の見えない相手を攻撃しても、攻撃側にも得る物がないのだ。むしろ砲弾という“国土”を一方的に失っている。


「つまりは現状、見た目のインパクトに全振りの残念国家と言わざるを得ない。まあ、有効なんだろうけどね」

「普通はビビっちゃうだろね。しかしソウ氏といい、お貴族様ってのはこーゆー脅しが好きなんかね?」

「好きというか、得意、慣れているんじゃない? 威圧的に有利な条件を引き出すことに」

「それも心理戦かー」


 だが、心理戦についてはゲーマーもまた負けてはいない。敵の狙いが何であり、どんなコンボを企んでいるのか。それを冷静に見極められずパニックとなれば、その時点で負けたも同じだ。


 ゆえにハルは一切相手の脅しに臆することなく、本体ではなく兵士を停泊中の船へとなだれ込ませて行った。


「一隻ずつ無力化し制圧しろ」

「乗員は一人も生きて帰すなー」

「そこまでは言ってない……」

「じゃあ見逃すん?」

「いいや、殺す」


 物騒極まりない会話であるが、実際に容赦はできない。この敵の世界には船室のような隠れ潜む場所が非常に多く、見逃しがあればそこを起点に手痛い反撃を許してしまいかねない。


 よって、ハルたちの兵は船舶に強襲をかける突入部隊のように、的確に一切の容赦なく、いわゆる『セーラー服』の船員兵士を射殺していくのだった。


「まるで精鋭部隊に乗り込まれた雑魚海賊の船だね。まるで勝負になってない」

「装備の差が歴然ですね。それでも、銃器を手にした初めての国であることは評価に値しますが」

「その装備の差を作り上げてしまった張本人が何を言っている……」


 敵も珍しく銃を装備しているが、全身を無敵板むてっぱんで固めた人形兵の前では豆鉄砲だ。

 対してこちらの銃は、電磁式の非常に高威力のもの。大人と子供、プロ場末海賊アマチュア。まったく勝負になっていなかった。


 しかし、油断はできない。この相手に警戒すべきは、人ではなく国そのもの。どんな兵器が搭載されているか、分かったものではないのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 仮にほぼ海で構成された世界があったら、船の世界にとって天敵になるかもしれないですなぁ。的当てゲームの始まり、なお当たりが出なかった場合のお代は船の沈没という。鉄底海峡の出来上がりですなぁ。…
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