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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第4章 マゼンタ編

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第108話 未開の地へと歩を進める

「という訳で、アーマード・メイドさんです」

「どういう訳なのよ……」


 ログインしたら揃いのパワードスーツに身を包んだ武装メイドさんに、ずらりと並んでお出迎えされたルナがたじろぐ。

 わざとらしく目を細めた、いつものルナ目で威嚇される。彼女のログイン時間を日本で察知して、お出迎えの配置をしたのはやりすぎであったか。


「揃いの衣装でも、案外個性は出るのね?」

「僕らは毎日お世話になってるからね。そりゃ見分けはつくさ」


 メイドさんは皆、背丈も足の長さも、胸の大きさなども様々だ。それに揃いの衣装と言うならば普段からそうである。

 ただ、今回は顔や髪もすっぽりと隠しているので少々難しい。


 メイドさんたちのパワードスーツは、やはり元のメイド服をイメージした。

 しかし、顔を覆う必要がある関係上、そのままでは少しやりにくい。メイド服に、何のひねりも無くヘルメットを装着する訳にもいかないだろう。

 なので頭はずきんを被って貰いやすいように、上半身は和服にした。メイド服をイメージしたフリルをあしらった、和ゴスなどとも呼ばれるタイプ。

 下はいつもの長いスカートとエプロン。こちらも普段よりフリル多めで可愛らしいので、メイドさんもちょっと恥ずかしそうだ。仮面に隠れて表情は見えないが。


 すっぽりと柔らかなフードのようにずきんを被った奥には、仮面、いやお面で顔も覆って防御している。

 彼女たちの優しさを表現したやわらかな表情の、その裏側は高性能だ。全面モニターとなっており、素顔と遜色なく視界が通る。必要に応じて、各種情報も表示可能だ。そこはこれから実地を通してプログラムしていこう。


「みんな可愛いです! 普段着も、もっと可愛くしましょうか」

「そうだねアイリ。ルナにデザインして貰うといいよ」

「はい!」


 しかし職業意識の高いメイドさんだ、きっと辞退されてしまうのだろうとハルは予想する。


「ふんわりしているから、太った感じも出ていないわね。やるじゃないハル。手足のは……、苦肉の策かも知れないけど、案外似合ってるわ?」

「これは戦闘用であることも主張しないと。そうじゃないと、ただの顔を隠したメイドさんだし」


 アイリの時に洗い出された問題点。一回りふっくらして見えてしまうのは、和服をゆったりとして見せる事で解決した。

 足も長いスカートが隠し、少しふくれた足のラインを見せないよう、たおやかに防御。そして極めつけは、手足の鎧装備だった。


 ガントレットとグリーブ。可愛らしいメイド服からは、何処を取っても出てこないその無骨な鎧。にびに輝いて、可愛さの上から少し過剰にアクセントを加えている。

 彼女らが戦う者達である事を物語っているそれは、仮面と相まって、相対する者に緊張感を植えつけるだろう。


「それで、強いのかしら?」

「強いよ。アベル王子を1とするなら、一人2アベルくらいはあるだろうね。あの聖剣の直撃にも耐えられるし、魔法を使わなくても殴るだけでシールドも強引に突破可能だ」

「すごいです!」

「強すぎではないかしら……」

「セレステに勝てるとは思えないし、むしろ不足だよ」

「勝ててしまったら逆に問題だわ?」


 このスーツを着るにあたって、メイドさんにもナノマシン(エーテル)を注入した。アイリの時もそうだったが、彼女らも非常に親和性が高く、すぐに順応する。

 それにより戦闘時の身体制御と、スーツの動力を生み出すための発電能力もメイドさんに備わった。

 ただ、戦闘時に全員を意識的マニュアル操作は難しいので、反射で動作するようにオートでプログラムを組んでいる。

 見事護衛を全うした際には、太る事を気にせずたっぷり好きな物を食べてもらおう。


「メイド達もこれで、ハルさんに体を自由にされてしまうのですね!」

「ハルに体を奪われてしまったわね?」

「……ルナ先生、アイリの教育方針を間違ったよキミは。二人とも、僕がお手つきしたみたいに言わないの」

「体の制御を、奪われたと言っただけよ?」

「お手つき、なさらないのですか?」


 アイリが、きょとん、とする。ハルなら手を出すのが当然のように言うのは止めていただきたい。

 確信犯のルナも、きょとん、として誤魔化すのは止めていただきたい。





「それで、メイドさんを護衛に付けて未開地域の探索に向かうのかしら?」

「そうだね。近い距離から少しずつ慣らして行こう。調整も必要だしね」

「わたくしも頑張ります! わたくしのお洋服も、出来たのですよ?」


 メイドさんが、すっ、とアイリの試作スーツを運んでくる。控えめな動作の中にも、スピードがいつもの三割増しだ。彼女たちも浮かれているのが分かる。

 控えのメイドさんも羨ましそうにしていた。機敏に動くのをやってみたいのだろう。自分を押し殺して主人に尽くす彼女たちの、かわいらしい素顔の一部が見られてハルにも笑みが浮かぶ。


「今回はずいぶんと薄いのね? 防御は例の装置と、メイドさんの護衛任せということかしら?」

「いいや、これでいて高性能だよこれは。全力で魔法に頼った。アルベルトの嘆く顔が目に浮かぶね」

「そうなのね?」


 アイリたちはそれを持って部屋へ入って行く。しばらくして、白いドレスに着飾ったアイリがルナたちと共に出てきた。

 ウェディング衣装をモチーフとしたルナのデザインを、戦闘に支障が出ないようにハルがアレンジしたドレスだ。もちろんパワードスーツであるので、露出は全く無い。

 肩はもちろん、首元から顔にかかるまでを布が覆い、激しい衝撃から身を守る。そこから足先までを、ひと繋がりのボディスーツがぴっちりと覆い、上はケープ、下はスカートがそのラインをふわりと隠している。

 ちなみにこのひらひら一枚で、銃弾の直撃も防御可能。


「どうでしょうか!」

「かわいいかわいい。流石はアイリとルナの服だね」

「そうね。でも少しウェディング感が出すぎてしまったかしら」

「とは言え、ひらひら付けないと単なる白いパイロットスーツだからね。スカートの形を、もっと考えてみようか」

「魔法少女風のスカートにしましょうか」

「魔法少女ですか? 普通の少女では? あ、魔法で生み出された少女なのですね!」


 魔法が当たり前の世界においては、魔法少女も超生物へと進化してしまうようだ。こわい。

 魔法少女風、というのは、パニエがたっぷり入って傘状にふんわり広がったタイプのスカートの事だ。きっとアイリに似合うだろう。


「あとは、仕上げにお化粧だね」


 ハルはかがんでアイリの頬に手を触れる。日本で変装する時に使ったような、ナノマシンで制御されたペーストを薄く化粧のように肌へ這わせてゆく。

 隠せない顔と髪は、せめてこうやって防御をする事にした。


 さて、全ての準備は整った。後は実地試験に向かう事にするハル達。

 アーマードメイドさんの中から四人が進み出て、ハル達はまた世界の境界、ヴァーミリオンの国境へと飛ぶのだった。





 ルナと残りのメイドさんを屋敷へ残し、ハル達は再び魔力圏ゲームの外へと足を踏み出す。内容はハルの分身が中継中だ。ゲームシステムが使えないので日本を経由するのが少し面倒である。それを見に、ユキもすぐに帰ってくるだろう。

 ハルの隣にアイリ。そして、その四方を守護するように武装メイドさんが囲んで進む。


「体調が悪くなったら言ってね。バイタルサインは把握してるけど、気分までは読めないから」

「かしこまりました。旦那様」


 メイドさんいわく、『ヴァーミリオンの兵士だって出ているのだから平気』、らしいが無理は禁物だ。慣れない環境に酔う可能性もある。

 メイドさんもこの国の兵士に張り合っているのだろうか。負けず嫌いなのはハルも同じなので好感が持てる。


 ハルたちは、そうして体を慣らすようにゆっくりと進んで行った。

 だが、アイリもメイドさんも体の軽さを、有り余るパワーを持て余している様子で、次第にそわそわし出す。

 今にもこの先へと向けて走り出したいような、そんな浮ついた気配をハルは感じていた。


「……少し偵察に行って貰おうか」

「はい! 旦那様!」

「あー! メイドだけずるいです!」


 しゅばっ! っとメイドさんが四方へ散っていく。駆け出したくてうずうずしていたのだろう。一瞬で彼方まで姿が遠ざかる。

 待機になる中央のアイリはむくれて不満顔だ。


「後でカナリーの神域の中を走り回って遊ぼうか」

「はい! 楽しみです!」


 未開地域は特に危険も無く、のどかな物だった。凶悪なモンスターが出没するとか、蛮族の兵士が闊歩かっぽしているとか、そういった事はなく、内部と同じまばらな木々の平原が続いているだけだ。

 当然、とも言えた。魔物モンスターというのは、神がプレイヤーの遊び相手として作り出した存在であり、人間は神の庇護のもとでしか生きられない。そのどちらも、魔力の外には居ないだろう。


 いや、この世界は確か魔物に脅かされていて、それを神が守っているという設定ではなかったか。魔物が自作自演マッチポンプならば、外に出ても実は問題無いのではないか。

 なんとなく、ヴァーミリオンの国が神から自立するのも当然の流れのような、そんな気分になってきたハルだ。

 もちろん生活は非常に厳しくなるだろうが、この先に進出して生活する事は、案外問題無いのかも知れない。


「ハルさん。メイド達が帰ってきました。……うぅ、楽しそうですー」

「示し合わせたように一斉に帰ってきたね。訓練してるのかな」


 偵察に出ていたメイドさんがまた、しゅばっ、っと戻って来る。急制動もお手の物だ。息一つ荒げず落ち着いて待機のポーズ。

 普段の数倍の力を出すのもただ楽しいだけで、困惑は見られない。すさまじい練度だった。どういう訓練をしてきたのだろう、流石はメイドさんである。

 彼女らのうち、北西方向へと飛んだメイドさんが口を開いた。


「アイリ様、旦那様、こちらの方向に野犬の群れを発見しました。魔物ではなく、単なる動物のようです」

「来ましたね! ハルさん、敵が出ましたよ、えんかうんとです! えんげーじです!」

「装備が花嫁さんだしね。でもまだエンゲージはしてないよ」


 敵だというのにアイリは楽しそうだ。ハル達ゲーマーの影響だろうか。勿論、ハル達は“野犬の方向へと進む”。まるでレベル上げにいそしむプレイヤーだが、何も指針の無い平原だ。何かあるならそちらへ進みたい。

 ちなみにエンゲージは会敵かいてきの意味で使われる。やはりアイリにゲームをさせすぎたようだ。お嫁さんである彼女には結婚の意味で使って欲しかった。


 北西方向のメイドさんに先導されて、揃ってそちらへと歩を進める。

 イベントの発生に、アイリが急ぎ足になり、つられてメイドさん達の速度も上がる。一人だけスーツを着用していないハルには少しきつい。<飛行>を使わせてもらう。

 背の低い草が這うように広がる平地を、楽しそうにアイリは駆けて行く。ここが神々の加護の外である不安よりも、今は普段の何倍もの速度で走れる事の楽しさがまさっているようだ。


「時々、岩とかが転がってるから注意してね」

「はい! でも不思議と転ぶ気がしません! ハルさんが何かしていますか?」

「勝手にバランスの補正はさせてもらってるよ」

「すごいです!」


 スーツ着用時は、その制御用に普段の何倍もの密度でナノマシンを増殖させている。それを使って反射に割り込み、姿勢制御を手伝っている。

 とはいえ、転んだとしても衝撃は空気を体表に固定した力場により阻まれ、スーツにすら届かないであろうけれど。


 そうして駆けて行くと、すぐにメイドさんの言っていた野犬の群れが見えてきた。

 高速で接近するアイリと愉快な仲間たちに警戒している様子。


「見つけました! やっつけますか?」

「襲ってきたらね。今は何でここに居るか知りたいな」

「狩って食べたい相手でもないですしね!」

「守るべき人家も無いしねー」


 とはいえスーツの性能試験にもなる。襲ってきたら迎え撃つとしよう。メイドさん達が二人を守るように前に出る。


 どうやらこの平原の奥は、少し山なりになって森が広がっている様子。日本の森のように、うっそうと、といった感じではないが、背の低い木が少し間隔を詰めて植わっているようだ。

 野犬はそこから出てきたのだろうか。代わり映えの無い平原に現れた変化に、ハルは少し冒険心が刺激される。


 そうして睨み合っていると、群れの中から攻撃的な若い個体が飛び出して威嚇してくる。それに続くように何匹かが陣を組み、じりじりと距離を詰めながら左右へ散開して行った。このまま包囲するつもりなのだろう。


「こっちの犬も習性は似てるんだね」


 地球の犬の事を思うハル。これは元々こちらの世界に居た物なのか、それとも神が地球から連れてきた物が野生化したのか。

 そんな事を考えていると、しびれを切らした一匹がメイドさんに牙を剥き、飛び掛って来る。

 そして無防備に構える彼女の腕へと、勢いを付けて噛み付いた。


「……どうですか? 痛くはありませんか?」

「はい、アイリ様。問題ありません。衣服の損傷すら無いようです」

「まあ、動物の物理攻撃で傷がつく様には作ってないからね。サメに噛まれても、カジキマグロに突かれても大丈夫だよ」

「それは、食べられる動物ですか?」

「一応ね。魚だよ」

「まあ!」


 野犬の群れに包囲されながらも呑気に語る主人たちを守るように、メイドさんも円陣を組む。

 牙を弾かれながらも、なお向かって来る一匹を、メイドさんのガントレットが迎撃した。

 ……さほど力を入れているようには見えなかったが、その個体は吹き飛びながら衝撃でミンチと化してしまった。


「……失礼しました。返り血など、お気を付けください」

「うん、ごめん。僕の方こそ出力上げすぎたかな?」

「返り血は力場に阻まれて届きません。自由に暴れなさい」

「はい、アイリ様!」


 その後も何体か飛び掛ってくる野犬をメイドさんが吹き飛ばすと、群れのリーダーは撤退を決めたようだった。

 ハル達は犬が逃げ込んだ先とは微妙に方向を外して足を進める。目的は害獣駆除ではない。この先に、何か有れば良いのだが。

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