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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1048話 次の戦争に向けて整っていく

 再びのリコの世界との戦争。しかし、今回はうってかわり平和なものだ。

 互いに被害を納得済みで、被害規模も調整済み。ハルの手にかかれば、最終的には一ミリたりとも国境線の位置を動かさずに着地も可能。

 指揮官である二人も、今は顔を合わせて雑談中だ。現実なら、現場の兵士が見たら泣くだろう。


「これってさぁ。ウチの領土が一方的に削られて行くだけじゃんね?」

「そこは僕の方で調整するよ。良い感じに勝ったり負けたりしながら、正確に言えば足元の残骸を回収し終わったら、領土をそっちに戻す」

「永遠に戦争を終わらせる気のないやつだ。表で殴り合いながら後ろ側の手で握手する」

「……器用だね?」


 ……手の構造はどうなっているのだろうか? 普通は逆ではないだろうか。


 まあ、そんな事はどうでもいいとして。ハルの狙い通り、戦いにより生まれた『新品の古戦場』からは機械兵の残骸が次々と発掘されている。

 兵士の一部は、戦争を横目にせっせとそれを回収して、後方のアルベルト工場に輸送して行っている。


「それよりも、アレやって欲しいんだけど。ヘリで攻撃して地形上書きするやつ」

「んー、あれさー、すぐには用意できないんだよねー」

「まあ、そうだとは思った。仕方ないね。どの程度かかるの?」

「うーん。イマイチ読めないんだよねぇ。アレも地形と同じでさ、念じると出てくるんだけど……」


 リコが言うには、あらかじめメニューで『ユニット製造』を選択しておくと、本拠地に製造ポイントが出現するらしい。

 そこで、作り出すユニットをイメージすると、マップを生み出すように戦闘用の兵士兵器が生み出せるようだ。


「ウチらのイメージ力? によって時間は前後するから、前回とおんなじ時間で出来るとも言い切れないってゆーか」

「……ふむ?」


 コマンドを実行枠キューに入れてゲージが溜まるまで待てば、制作が完了するようなよくあるシステムではないらしい。

 ユニットを高速で生み出せるかどうかは、プレイヤーの想像力にかかっているということか。


「それって、本拠地でないと出来ないんだ?」

「そー。だからウチ、一回戻ってるね。……ウチが居なくなったからって、一気に侵攻しちゃダメだかんね?」

「しないって。君んとこ滅ぼしちゃうと、僕にとってもマイナスだって説明したろう?」

「むー。本当なら、バリア張って帰りたいんだけどなぁ」

「それはダメ。国境線が動かなくなっちゃう」


 リコの去ったのちもオートで戦闘を続けてもらわねば、この計画の意味がない。

 それに、バリアを張ってほしくないもう一つの理由としては、リコの世界の発展がなくなることがある。

 バリアは国境を『固定』するようで、被害を防ぐメリットの他に、世界の広がらなくなるデメリットがあった。


 資源エリアの拡大の為にも、拡張の余地は残しておいてもらいたい。


「でもー、でもー。そうしているうちに第三者が後ろから刺してきたらどーすんの? どーすんの?」

「その時は僕の兵士を防衛に向かわせるよ」

「それもなんか訳わからん状況。でも頼んだー」


 そう言ってリコは、ぐーっ、と大きく伸びをすると、自国の中央にある本拠地、城に戻ることにしたようだ。

 そこで、再びヘリの製造に着手してくれるのだろう。


 そんな彼女を、ハルはもう少しだけ引き留めることにした。


「あっ。ちょっと待ってリコ」

「えー、なにさぁ。まだ何かウチをこき使う気? これからハルさんの為に、せっせと働こうとしてるこのウチにー」

「いや、少し聞きたいことがあってね。まあ、別に通信でもいいんだけど」

「通信機くれるの!?」

「……分解はしないこと。したら自爆するよ?」

「あはっ。おっかなーい。しないしない。しないからちょーだい」

「どうだか……」


 まあ、一応こうやっていぶかしんだフリはするハルだが、リコが約束を守るだろうことはほぼ確信している。

 今の彼女は、ハルを出し抜きこの国土を得ることよりも、ハルに協力し機械技術の知識が欲しい気持ちが優先されている。


 魔道具の作成に熱中してたことも含め、そうした技術を学ぶことが根っから好きなようである。


 そして、ハルが今求めている情報もまた、その魔道具に関することだった。


「“あっち”では、リコはずっと魔道具の開発をやってたの?」

「そーだよー。それがなにか?」

「いや、そんな君に、聞きたいことがあってね」

「なにそれ嫌味ー? ウチの知ってることなんて、ハルさんは元から何でも知ってるっしょ」

「そうでもないよ」


 最初こそハルが先導して魔道具の開発研究は行っていたが、その後は他の様々な事情に気を取られていた。

 その後の発展の中にはもしかしたら、ハルの知らぬ重要な技術革新があるかも知れなかった。


「魔道具の動力源になる、魔力のインプット回路に関してなんだけど」

「んー。それはハルさんにレクチャー受けたものずっと使ってるよ。基本的に」

「その後、入力回路に新しい発見は何かあった? 具体的には、周囲の魔力を検知した時だけ起動する、小型の物」

「……んー、んー? ナニソレ。魔力って、あって当然のものだから、あんまその状況考えて作る必要ないってゆーか」

「そうだよね」


 基本的に異世界では、プレイヤーも異世界人も魔力圏内でのみ生活している。そのため魔道具も、魔力が無い場所で使うことを想定する必要はない。

 そんなことを考えるのは、魔力圏外にわざわざ出て行こうとするハルだけだろう。


「でも、とりあえず憶えとく。なんか分かったら、メッセ入れるってことで」

「ありがとう。期待してる」

「期待はNGかな~」


 そう言って笑うと、リコは今度こそこの場を離れログアウトしていった。

 しばらくは、本拠地にこもって兵器の開発をするのだろう。次に顔を合わせるのは完成後か。


「まあ、期待していた訳じゃないが、収穫はなかったか。どういう切り口で調べたものかね」


 彼女に問うた、魔力の入力システムの事。それは、当然このゲームのログインに使われるシステムについて他ならない。

 その正体は魔道具、結晶化した魔力の物品だと当たりを付けて捜索中のハルであるが、未だそうしたアイテムは発見できていないのだった。





「……相手は魔力だから、センサーに引っかからないってのが厄介だ。『見つからなかったから無い』とは言い切れない」

「悪魔の証明なのです!」

「『そこにないならないですねー』、って言えないですねー」

「本当に無かったとしたら、それはそれでどうやってログインさせてるんだか」


 ハルたちの知らぬ、まるで未知の技術だとしたらお手上げだ。

 例えるなら、通信機を知らぬ古代の人間を相手に戦争したとして、彼らを情報戦で翻弄ほんろうすることは実に容易たやすい。

 古代人たちは、どのようにして情報がやりとりされているのかまるで理解できないだろう。


 今のハルも、そんな気分だ。まるで自分が何も知らぬ古代人になったかのよう。

 アメジストの使っている技術が、皆目かいもく見当もつかない。


「音楽室は徹底的に調べたはずなんだけど」

「楽器に擬態ぎたいしているに違いないと思ったのですが、ハズレだったのです!」

「ゲームだとそうなってたでしょうねー。現実はそう単純にはいきませんねー」


 まあ、これもゲームではあるが。ややこしいので今は口には出さないハルである。


「まあー、分からないものは置いときましょー。後でウィストにでも調べさせればいいんですよー」

「彼らは、こっちの直接干渉できないのも厄介さに拍車をかけているね」


 魔道具の設計に詳しいウィスト、『魔法神オーキッド』なら、何か手がかりを持っているかも知れないが、彼は異世界から出てこれない。

 特にこの学園には干渉する手段がなく、頼りきりにも出来ないのが難点だ。


 やはりどこまでいっても、『ならアメジストはどうやって?』、という疑問が堂々巡りするのみ。

 何か発想の転換で視点をずらして見るか、まだ知らぬ新たな知識へたどり着くしかないのだろうか? まるで難解なパズルゲームだ。


「それよりー、アイリちゃんたちの作った火力発電所を見に行きましょー」

「そうだね。なかなか強敵だったみたいだね」

「がんばりました! 今回、恐るべき改造に成功したのです……!」


 謎の多いゲームではあるが、プレイするアイリたちは実に楽しそうである。なので、何となくこのままでも良いかと思ってしまいそうになるハル。

 当然それではいけないが、まあ今は確かに考えていても進展はしない。

 そんなアイリたちの努力の成果を見に、アルベルトの発電所の扉をくぐり、地下へ向かう階段を降りて行く。


 そうして到着した先は、恐ろしい熱気の充満した、地下でありながら煌煌こうこうと明るく照らし出された広間なのであった。


「ついに溶岩地帯の生成に、成功してしまったのです……!」

「おおー、これは凄いですねー。地熱発電ですねー」

「大変だったみたいだねアイリ。頑張ったね」

「はい。中々溶岩は、狙って出せなかったのです。ルナさんとユキさんと三人で、協力しました!」

「……しかし地熱でいいのか? これ? ……地熱発電は“じか”でやらないだろ」


 見れば天井から溶岩に向けてパイプが何本も垂れ下がっており、その中に『直浸け』されている。

 よくこの熱に耐える合金など生み出したものだ。アルベルトとメタの技術力が光る。


熱いパイプ(ヒートパイプ)、だそうです!」

「いやヒートパイプってそういう物じゃないだろ……」

「まあー、中に水を通すのは同じですしー? いいんじゃないでしょうかー?」


 このパイプ内に水を注入し、溶岩の温度にて蒸気に変える。その蒸気でタービンを動かして、という乱暴すぎる発電方法だった。

 溶岩は風や川と同じく、尽きることのない地形効果として熱を吐き出し続け、大幅な燃料の節約に貢献しているらしい。


「これでまた、わたくしたちの世界が発展してしまうのです……」

「ハルさんの方も、なにか収穫があったようですねー」

「あっ! 見ましたよ! メニューに新しい項目が、追加されていたのです!」

「ああ。リコがずいぶんと気を緩めていたみたいで、あのヘリの製造方法を漏らしてくれた」

「ハルさんの巧みな心理誘導、なのです!」

「たらしこみましたねー」

「たらしてはいない……」


 このゲームでは攻略情報を共有することで、仲間の世界にも自分の発見したシステムを伝播でんぱさせる事ができる。

 その条件を満たしたようで、ハルたちの見るメニューの中にも、『ユニット製造』の項目が追加されていたのだった。


 これをオンにして、ログイン地点で望みの兵器をイメージすることで、ハルたちも兵器を生み出すことが出来るのだろうか?


 さて、早速この機能で強力なユニットを生み出すか、それとも領土の拡張を優先した方が良いのか。

 なんとも楽しく、悩みの尽きない方針ツリー選択を迫られているハルたちだった。


 そして、そんな戦備を発揮する為の相手が、そろそろ到着する。どうやらまだ見ぬ国が、ソナーで目と鼻の先まで近づいていることが感知されたようだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

 追加の修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/11/21)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人に器用と言いながら、ハルも前回やっていたのでは魔王や武王相手にやっていたような気がしますねー。なんなら神様たちとも裏の世界の表でバチバチと戦いながらその裏で握手しつつやっぱり水面下で情報…
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