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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1031話 同じ法則違う法則

「磁石が、出来ました!」

「よくやったアイリちゃん! よっしゃハル君。レールガン作ろうレールガン」

「おお! わたくし、知ってます! すっごく強い、武器なのです!」

「なぜそう知識が偏ってるかな君たちは。作らないよ? あんなの電気がいくらあっても足りやしない」

「しかし、目指す構造はほとんど同じと言えますね。電力を使って弾を飛ばす装置ならば、その逆の事をすれば? ですよユキ様」

「にゃるほど? 砲身に向けて弾丸を、思いっきし投げ込むんだ!」

「いや人力でやりはしないが……」


 そこは、この世界にある自然の力を使ってどうにかする予定だった。

 このゲームは、プレイヤーが想像し創造した環境が、変わることなくその場に残り動き続ける。

 脈動みゃくどうを続けるリコの機械城を見れば良く分かる。マップ環境は、外部からのエネルギー補給なしで動き続ける無限ループ。供給力無限の動力だ。


 そしてアイリが磁石を創造することが出来たので、事はとんとん拍子に進みそうだ。

 アイリはどうやらこの世界との親和性が高く、自在に望み通りの物を生み出せるらしい。あとはもう、やりたい放題ではないか?


 そうハルが思った矢先に、どうもそこまで上手く行かないらしいことがアルベルトから告げられる。


「……ダメですね。この磁石、我々の世界の磁石には反応しません」

「ふむ? まあ、考えてみれば当然ではあるか。ここの物は神力で作った見た目だけの物。実際の磁石が生み出された訳じゃない」

「それでも、挙動は物理法則に準ずる可能性に賭けたのですがね」

「みゃ! みゃっ!」

「どうしたのメタちゃん? 近道はダメって? 地道に楽しむ?」

「みゃん♪」


 まあ確かに、まるで<物質化>のように、全ての過程を無視して必要な物資を生み出せれば、それだけでゲームクリアになりかねない。

 ここは気を取り直して、もう少し長い目でこのゲームを楽しむとしよう。


「では仕方ありませんね。ハル様、私とメタの体を解体し、そのパーツから発電機を作成しましょう」

「みゃっ!?」

「お前は僕が『気長に行こう』と思った瞬間に、なに短気極まること言ってんの!?」

「しかし、効率的です。そもそも、補給なしで三人分の電力は賄えません。ゆくゆくは共倒れですので、ここは」

「首筋に電動ノコを当てるな! というかしれっとメタちゃんも巻き込むんじゃあないっ!」

「みゃ、みゃーご……」


 不服そうにしながらも、大人しく工業用カッターを首から離してくれたアルベルトにひとまずハルは安堵あんどの息を吐く。

 素直で働き者だが、やはり随所ずいしょで神様らしい極端さが抑えきれなかったアルベルトであった。


「変な方向に忠誠心を暴走させるなよ、まったく……」

「良い案だと思ったのですが。私やメタなら、運び手要らずの自走する資材も同然」

「ふみゃっ!?」

「特にメタ、あなたならば誰にも不審がられることなく例の音楽室への到達も容易でしょう」

「みゃ、みゃあ~~……」

「だからメタちゃんを巻き込むなと。嫌だよ僕、次々にメタちゃんの体を分解するの」

「ならば、やはり私が。確かに、私の方が一度で取れる資源の量も多いですしね」

「そういう問題ではない!!」

「ご安心を。古今東西、学園への潜入は事務員に成りすませば行けると相場が決まっております」

「事務員連続失踪事件でも起こすつもりか!!」


 ……久々に、息の切れるほどツッコミに回ってしまったハルである。

 まさかこのコントをするために、ノコギリ状の工具を持ち込んだのだろうか? そう感じるほど、アルベルトの提案する内容は猟奇的スプラッタな想像図になっていた。


「なはは。楽しそーだねハル君」

「そう思うならツッコミ役を代わってくれユキ……」

「いや、この役目はハル君にしか務まらぬ。誇りをもってほしい」

「いらんわそんな誇り」


 ツッコミ要らずだった前回が懐かしい。思い返せば、ケイオスやミナミといった、優秀なツッコミ要員にハルは、非常に大きく助けられていたのだろう。


「ケイオス……、は呼んでも来ないだろうし、ミナミ……、にはまだ事情を明かしていないし……」

「じゃあソロもんだ」

「……そうだね。また彼に、この世の不憫ふびんを全て引き受けてもらおうか」


 まあ、ツッコミ要員の話はいいとしよう。いつまでも遊んでばかりはいられない。


 アルベルトの言うように、この世界の資材が利用できないというのなら、外から充電用の装備を持ち込むのが手っ取り早い。

 だがそれとは別に、内部で完結する発電機の構築もまた、諦めるには早いだろう。


「にゃうにゃう!」

「ん? どうしたのメタちゃん?」


 そうハルが考えていた矢先に、猫のメタが何か言いたいことがあるようだ。ハルの足元で、すそを前足でくいくいしている。

 ハルもしゃがみこんで猫の目線に合わせると、その艶のある毛並みをゆっくりと撫でて耳を傾けた。


「ごろ♪ ごろ♪」


 撫でられるに任せ、喉を鳴らしながら気持ちよさそうに寝転ぶメタ。とはいえこのメタは遠隔操作のロボットだ、感覚も無ければ本来お昼寝もしない。

 もちろん、マイペースなメタのことだ。ただしたいだけ、という可能性はあるが、今の状況であえて話の邪魔するような事をする猫ではない。実に、出来た猫なのだ。


 ならばつまりは、このポーズには、現状に関係する意味があるということ。


「ああ、なるほど。太陽光で発電出来てるってことだね」

「にゃっ!」

「おお。つまりは、私の装備でも」

「みゃうっ!」


 特殊な構造の繊維により、高い防御力と発電能力を持つメタの毛皮とユキの服。

 それが反応しているということは、この世界の陽光は現実と同様であるということだ。


 ちなみに、一般的に想像される太陽光発電のシステムとは微妙に異なり、一度熱を発生させそれにより電気を生み出す、ペルチェ素子そしのような構造らしい。余談なので割愛かつあいする。


「重要なのは、現実と同じ物質と、違う物質が混在しているところだけど……」

「頭痛くなってきた。あとは任せるよハル君。私は、日向ぼっこしてる。なー、メタ助ー」

「なうー」


 ともあれ、無制限に利用可能な自然エネルギーを利用する計画に変更はない。

 そこはアルベルトと相談し、なにか良いアイデアを用意しておくこととしよう。





「確かに。空気が無ければ呼吸もままならないものね?」

「ハル様の熟練の技にて、空気から発電機を作りましょう」

「だからそれはエーテルネットに接続してないと。それに、電子部品はどうも苦手なんだよね僕」

「あら意外。機械いじりが好きなのに。いえ、だからこそなのかしら?」

「かもね。気を抜くとすぐトンネル効果で電力漏れが出ちゃうし」

「漏らすなんて、はしたないわハル?」

「君ね……」


 量子力学の話である。苦手な分野のハルである。意外にも電気は、小さすぎる部品と相性が悪い。

 小さなサイズから物体を積み上げるエーテル技術とも、意外にもかみ合わせが悪いのだ。


「まあ、発電についてはアルベルトに一任する」

「お任せください」

「僕らはその間、正攻法での攻略について考えるとしようか」

「はい! ようやくわたくしも、お役に立てそうです!」


 生み出した磁石が予想外に活躍できなかったため、会話に参加できずにいたアイリがやる気を見せる。

 その磁石だが、なにやらアルベルトが削りだして加工しているので、あれはあれで何かに使うのだろう。そうなればアイリもまたすぐに活躍できるはずだ。


「さて? 攻略といってもどうするのかしら? リコの国はまだ、動く気配は見えないけれど」

「バリアが、張られたままなのです!」

「ですねー。向こうもきっと、装備を整えているのではないでしょうかー? 今のままでは、ハルさんに返り討ちにあうだけと痛感したでしょうからねー」

「《そっすね。恐らくですが、あの時はあれが最大戦力だったのでしょう。今から、それを上回る上位ユニットの開発となれば、そんなにすぐには出来ないと考えられるっす。もしくは、増援待ちっすね》」


 エメの予測に、ハルもおおむね同意見だ。リコは個人ソロのプレイヤーではなく、学内の知人と同盟を組んでいる。

 その派閥の仲間に、救援を求めているのもほぼ間違いないと見ていいだろう。


「……問題なのは、その同盟相手がどうやって助けを出すのか僕らは知らないって点だ」

「ですねー。その辺の情報も、早めにキャッチしたいですねー」

「監視カメラの映像は?」

「《今、映像の内容から予測し、派閥のリストを作成中です。精度を高めるには、もう少々時間をくださいっす》」

「カメラも全域に仕掛けた訳じゃないからね」


 どうやら、ゲームの情報交換に関しては、皆、相当慎重に行っているらしい。

 ハルの仕掛けたカメラに映る範囲では、そそくさとログインしていく姿が映るのみだ。


「《それじゃ、私の世界と合流しようハルさん! どこどこ? ハルさんの世界どこにある?》」

「ちょっと待ってねソフィーちゃん。今調べるから」

「《お役立ちのエメちゃんならもう解析済みっすよ! 頼っちゃいます? 頼っちゃいます?》」

「……いいからさっさと位置を言うんだエメ。あとで褒めてあげるから」

「《やたーっ! いやー、いいっすねえ。一人でオペレーターの立場は。物理攻撃が飛んでこないところが、特に、ってあいたぁ!?》」

「《いいからさっさと、位置を言うんだ》」

「今あちらに、ハルさんの分身が飛んだのです!」


 やはりツッコミ要員が欲しい。あと二、三人。


 まあ、それはともかく、エメの電波解析によればソフィーの世界はシルフィードのそれよりも近いらしい。

 幸い方向は真逆ではなかったようで、直線で三世界を結べば『く』の字型に接続される。

 ここまで明らかとなったなら、ハルたちの行うことは決まっている。


「よし、じゃあ、ソフィーちゃんの世界に向けてまた一直線に進んで行こうか」

「そうね? 私たちには、マップに出ていない仲間の位置が分かるという利点があるわ? その優位は生かすべきね」

「また頑張って、道を作るのです!」

「アルベルトー。方針は立ちましたかー? 土地の拡張始めちゃいますよー?」

「そうですね。皆様のお好きに進めていただいても勿論、構いませんが、よろしければ工場計画に都合の良い形で、創造をお願いできますか? 後からの変更は、非効率ですので」

「工場化するのはもう確定なの……?」

「にゃんにゃん♪」


 そんな風に、主にハルをツッコミ役に固定して、楽しく賑やかに開拓の旅は進んでいく。


 目指すは、第一の『派閥』の仲間、ソフィーの世界。

 接続が順調に行えれば、次いでシルフィードの世界へと方向転換を行う。


 目的はこのまだまだ謎の多いゲームの攻略の為だが、その一方で純粋に楽しみでもある。

 果たして、彼女らの創造した世界とはいったいどんな物となっているのであろうか? きっと、突拍子もない発想でハルのことを楽しませてくれるに違いない。


 その時はまた、ツッコミ役を要求されることになるのかも知れないが、それもそれで、楽しいのかも知れないとほんの少しだけ感じているハルなのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの重大な戦力不足が判明してしまいましたかぁ。ここはアイリスの出番かもしれませんねぇ。きっちりとボケを捌いてくれるはずですぅ! コスパがいいと判断したらゴーサインを出すので結局突飛なこ…
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