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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部1章 アメジスト編

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第1030話 充電を必要とする者達の侵入

 そして、急遽きゅうきょユキの新しいボディの開発が始まった。

 とはいえ今日のところは、アルベルトの操作しているボディの予備を組み合わせた、ありあわせのものでテストをすることに留める。

 それで動かしてみて様子を見て、徐々にバージョンアップをするのが良いだろう。


「そいや、気にしたことなかったけど、ベルベルの体ってどうやって動いてんの? 電気ってことは、あれか、ヒジにモーターが入ってるヤツ!」

「いえ、残念ながら。モーター駆動ではございませんよユキ様。そちらも好みではありますが、基本的には人体の筋繊維きんせんい酷似こくじした構造です」

「電圧で伸び縮みするやつだ」

「いかにも」

「以前、わたくしたちの為に作っていただいた、パワードスーツですね!」

「よくぞ覚えておいでで。素晴らしゅうございます、アイリ様」


 電動ではないが、基本的な構造は以前、魔力圏外の探索の為に作り上げたアイリたちのドレス、あのバトルスーツと同様だ。

 繊維が伸縮することで、力強い仕事量を発生させる。

 アルベルトはその繊維を、人間の筋肉とほぼ同じ形に配置することで、完璧に近い擬態ぎたいを実現し人間社会に紛れ込んでいるのだ。


「ふむん? ちーっとばかし慣れが必要そうだね。人間の体の動きには、慣れてないのだ」

「……何を言っているのよ、このユキは」

「いやね? ルナちー? 私は起きてる時間よりも、ゲームのキャラ動かしてる時間のが長いので……」

「筋金入りねぇ」


 そう、実はゲームにおいて使用されるキャラクターボディは、見た目こそ人体と同様だがその構造は根本的に異なる。

 その身体の動きは筋肉ではなく、どちらかといえば先ほどユキが言ったモーター駆動に近い。

 関節ごとに回転軸があり、その軸を中心とした回転運動を行うことで肉体の動きを再現するのが普通だった。


 特に慣れたプレイヤーは、その人体との差異までを計算に入れて動きを最適化する。

 身近なところではソフィーや、彼女の祖父がその域に達したプレイヤーである。


 特に、ソフィーの祖父は全プレイヤーの中で唯一、ハルが生身で異世界ゲーム内を行動していることに気づいた目ざとさを持っていた。

 達人というのは、彼のような者のことを言うのだろう。まさかハルも気づかれることがあるとは思わなかった。


「どしたん?」

「いや、ソフィーさんはどうやってあのゲームに招き入れようかと思ってね」

「んー。まあ、私らと同じで、こっそり忍び込むしかないっしょ?」

「そうだねえ……」


 今のところ、バレてはいないしバレるヘマをする気もないが、毎日繰り返していたら事故が起こらないとも言い切れない。

 そちらに関しても、考えておいた方がいいのかも知れなかった。学園内への、効率的な侵入方法を。


 まあ、一つずつ問題を処理していくしかないだろう。今は、ユキの新たな体のことだ。


「しかし、面白いね。ソフィーちゃんが生身になって、私がサイボーグだ」

「確かに、そうですね! ソフィーさんは、新しい体は大丈夫なのでしょうか!?」

「心配ないよアイリ。もうすでに、飛んだり跳ねたり出来るようになってる。カナリーちゃんより体力があるくらいだ」

「なんとー。なまいきですねー。何がちがうのでしょうかー、やはり才能でしょうかー」

「やる気、かな?」


 ユキと同様に恐るべきログイン時間を誇る『廃人』ゲーマーのソフィーだが、現実での訓練も欠かさない。

 機械化剣術の跡取りとして、実物の真剣を振るっての訓練にも精を出していた。いつ寝ているのだろうか?


 そんな、ソフィーやその祖父にも負けぬ機械の体を作り上げて欲しいと意気込むユキ。

 その希望に応えるべく、ハルやアルベルト、そしてメタで力を合わせ、彼女の体を組み上げていくのであった。





「よし、こんなところかな? どうだろうかユキ?」

「うわ、なんだろ。なんかちょっと、恥ずかし……」

「ふみゃん♪」


 とりあえずの仮組みとして、そう時間はかからずにユキの為のロボットボディは完成した。

 あっけない気もするが、ここで時間を掛けているようではこの先戦っては行けぬだろう。

 言ってしまえばこんなものは、既存のパーツを選んで組み合わせるだけのプラモデルと同じだ。


 とはいえ、プラモデルをあなどるなかれ。誰にでも出来るラインを越えて美しく作るには、相応の技術が必要とされる。

 このユキの体もまた同じ。彼女の均整きんせいのとれた美しい肢体したいを再現するために、ハルの技術力が唸ったのである。


「流石ねハル? 誰よりもこのユキのえっちな体を、身近で見て触れて味わってきただけはあるわ? 完璧な仕上がりよ?」

「流石ルナちー。言い方がいちいちキモい……」

「しかし本当に、そっくりなのです! 一流の彫刻家も、真っ青なのです!」

「まあ、僕は自分の体で、結構もう慣れてたからさ」


 まるで生きているかのごとく、無機質さを感じさせない表面処理。この作業は、なにも今回が初めてのことではない。むしろ毎日、反復して行っている習慣の賜物たまものだ。


 本体が何処に居ようとも、日本で分身が活動可能になるようにするハルの偽装。

 魔力体では再現できぬ、生きた表面処理を施した皮。それを被って分身はいつも行動している。

 そうしないと、いくらリアルなキャラとはいえ、周りが全て生身の環境ではどうしても『浮く』のであった。


 得意のエーテル技術を用いて、表面にペーストを這わせるようにして『化粧』を施し、肌を再現する。


「しかし、まだまだ特定の部分の再現が甘くなくってハル? これでは、服が全て吹き飛ばされた時に、本物じゃないとバレてしまうわ?」

「だからルナちーはもー! いらんでしょそんな想定! ハル君! ついでにルナちー人形も用意しちゃって! 弄りまわしちゃる!」

「……やめましょう? 資材の無駄よ?」

「いいですねー。優位を崩されたルナさんはー、かわいいですからねー」

「ですね!」

「君たち、後にしようか……」

「うなーお……」


 ルナを助ける訳ではないが、このままではハルの肩身が狭くなっていくばかりだ。男ひとり、逃げ場なし。

 女の子たちには猥談を早々に切り上げてもらうべく、メタと共にそそくさとユキ人形に服を着せてゆく。


「ふみゃん!」

「この服は、メタちゃんの毛皮にも使われている優秀な防御力を誇る素材、なんだよねメタちゃん?」

「みゃうみゃう!」

「おー、メタ助お前そんなに強かったんかー」

「私が徹底させました。万一にも、事故で活動停止などされては困りますからね」

「むーにゃっ……」

「そうは言いますがねメタ。回収するのは私なんですよ? ハル様のお手を煩わせる訳にもいかないでしょう」

「いいけどね、別にそのくらい」


 今や日本にも大量に進出しているロボット猫のメタだ。現代ではあきらかにおかしい中身をしているそのボディは、それを誰かに見られる訳にはいかない。

 そのため、事故防止の為の異常な防御力の毛皮の装着を義務付けられているのだった。

 ……その毛皮の方が怪しまれそう、と思うのはハルだけだろうか?


「まあ何にせよ、本体の頑丈さも合わせて、向かうところ敵なしだよユキ」

「タンクだタンク! でもさ? どーせあの世界、うちら無敵じゃん? また過保護出てない?」

「まあ、そうなんだけどね……」


 そう、防御力に気を配ったところで、今回のゲームではダメージを受けるのはプレイヤーではなく領土の方だ。

 まあ、防御が高くて困ることはないだろう。特に重い訳でもないので、よしとするハルだ。


「それよか攻撃は? 攻撃! 体内からバルカン砲とか、指先から電撃出たりとか!」

「せんわ。資源とエネルギーの無駄」

「ちぇー」

「まあオプションに関しては、追い追い様子を見てからね」


 今のところは、人間と同じ動作が可能というだけのシンプルな構造だ。これから実際に動かしてみて、必要な物を探っていけばいいだろう。


 そんなユキが、体が用意できたのだから早くゲームに戻りたいとせがんでくるが、動作テストが必要となんとかなだめるハル。

 渋々従うユキの模擬戦に付き合いつつ、ハルたちはまた次の放課後を待つのであった。





「よっし、待ちわびた!」

「ログイン完了なのです!」

「《わあ、周りに全く何にもないよハルさん! どーすればいいのかな!》」

「とりあえず、体の調子を見つつソフィーちゃんの望みの世界を思い描いてみて? 正直僕らも、良く分かってないんだ」

「《うん! じゃあまずは、準備体操だね!》」


 そしてまた放課後となり、学園内から人が去った頃。ハルたちはまたゲームへとログインした。


 今度はシルフィードに加え、ソフィーも共に招いての侵入である。

 ……なんだか、日に日に学園への部外者の不法侵入が増えていっている気がする。大丈夫だろうか?


「なるほど。ここが」

「ふみゃ~~?」

「ええ。ですねメタ。通信強度は、いちじるしく落ちるようです。仕方ないことではありますが」


 そして、新たな不法侵入者はソフィーのみにあらず。アルベルトとメタの遠隔操作組も連れてきてみたら、問題なく潜入できてしまった。

 さすがに、これは無理かも知れないと思ったハルであるが、『扉』が開くときにそこに居れば、問題なく全て飲み込んでくれるようだ。


 とはいえ、二人はやりたい放題出来る訳ではない。そこは都合よくいかなかった。

 エーテルネットを通じて操作信号を送信しているアルベルトたちは、今はハルのコアを経由する形でボディを操っている。

 その分、通信が不安定になるのは避けられない。動けるだけ良しと思うべきだろう。


「んで、今回はこの『電力ゲージ』が、私のHPになる訳だ」

「だね。だから、ユキの充電が切れる前に、何かしらの発電施設をこしらえないと」

「……しかし、どうしたらいいのかしら? 私も多少の知識はあるけれど、それを正確に想像できるかというと、ねえ?」

「そこは、我々の方で何とかしましょう。ルナ様がたは、必要な素材を出現させることのみにご集中ください」

「にゃうにゃう!」

「ええ。出来るだけ、シンプルな構造で」

「わかったわ?」


 リコの世界の例を見るに、例えば『発電機が欲しい』と念じたところで、出てくるのは発電機の形をした愉快なオブジェだろう。

 まあ、それはそれで思わぬ使い道があるかも知れないが、今回必要とされるのは再現性だ。


 ユキたちの『体力回復薬』として、どんな時でも使える汎用性はんようせいのある装置が欲しい。


「やっぱり、まずは磁石かな? 単純にうず電流が起こせるだけでも、儲けものだ」

「成形はお任せを」


 そう言うとアルベルトは、腕の内側からノコギリ状の装備を取り出す。

 ……何の為に準備していた装備なのだろうか?


 ともかく、そんな便利ロボットのアルベルトによって、この世界の急速な産業化がスタートしたのであった。

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― 新着の感想 ―
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