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07 『名探偵の再登場』

 ブーブッブー

 突然のクラクションに目を覚ました。どうやら私は眠ってしまったようだった。我ながら精神が図太すぎる。そう思うことにする。決してあの病気が原因ではないはずだ。



 車から出ると、ぐしゃっとした音が足元から聞こえた。どうやら土が濡れていたようだった。雨が降った記憶はないから人為的なものだろう。

 そう思って、足元から前へと意識を移すと、大きな花壇と大きな建物がみえた。花壇は前方1m程、建物からは10mほどのところにあった。

 私の位置から花壇との距離が近かったこともあり、花壇へ水をやる時に私が立っているあたりの土にも水がまかれてしまったのかもしれないなと思った。その証拠に、花壇の中に何かが植えてあるようなシルエットがうっすらと見えた。

 そして、建物は普通の家ではなかった。招待状にあった廃病院という名にふさわしいものだった。窓ガラスが割れていてそれでいてだだっ広い病院だった。学校のグラウンドを埋め尽くしてもおかしくないほどの大きさだった。


「さあ、こちらです。ついてきてください。」

 建物と花壇を見ていると、運転していた初老の女性が建物の中へと案内してくれた。

 建物の中は、白かった。ペンキで塗りたくったみたいにどこまでいっても白かった。

 玄関から入って白い廊下を見た時には、あまりにも白いせいで遠近感がおかしくなりグニャグニャと視界が揺れるようだった。

 そして、その雲の中に入ったような廊下を歩いていると、一つの部屋が現れる。

 白熱灯の示す暖かみのある光。そして、茶色の長机の上に敷かれた白いテーブルクロス。長机の上座、所謂お誕生日席と呼ばれる所には恰幅のいい口ひげを生やしたおじさんがむっつりとした顔で座っていた。その左隣にはタキシード姿に金髪の美しい女性が座っていた。

 女性の右隣にはちょび髭を生やしてタンクトップ姿の筋肉が厳つい三〇代くらいの色黒の男性。その右隣りには、白衣を着た男性が神経質そうに眼鏡を拭いていた。

 そして、誕生日席からみて右には、座っていても頭一つとびぬけるほどの長身に細面の男性。その左隣りには小さな子供がキャンディをなめながら座っていた。

 そして、その左の椅子を案内人は私に指し示した。

「渡 蓮眠様はこちらにお座りください。」


 *

「いやー、クレナイ殿と同じ美人な方とお目見えできるなんて嬉しいかぎりですなぁ。そういえばどことなく蓮眠ちゃんは浜ヨーコちゃんに似ているねぇ。」

 予想に反して軽薄な反応を示したのは白衣を着たガリガリの男性。屍治郎だった。

「いえいえ、よく言われますよ。可愛いって。そういう屍さんこそテレビで報道されている検視医探偵とは違って面白いんですね。」

 私は、この人を知っていた。

「死体が勝手に語りかけて犯人を教えてくれるだけで別に犯人とか興味ないんすよね。」

 と言い放って難事件を解決した。それで、世間からは難事件をいとも簡単に解決したことによる称賛と、犯人に興味がないと言い放ったことに対する非難を同時に浴びたことのある人だった。

 いや、この人だけでなく、全員の名前を私は知っていた。

「美食探偵フーガ」、「パーフェクト探偵クレナイ」「少年探偵つばさ」「筋肉探偵モウリ」すべて有名な探偵だった。

「それよりも姉ちゃんはみたことない顔だな。自分、何の事件を解決したん?言ってみ。」

 筋肉探偵モウリが日焼けして浅黒くなった手を組み、白いテーブルクロスに肘をつきながら問かける。

「え、すみません。私はミステリーツアーに参加しただけのしがない大学生です。」

「はあ、何言っているん?自分。自分も本当は、訳の分からん『名探偵たちに冤罪にされた無実の少女たち』とかいうけったいな送り主からの招待状をもらったから来てるんやろ。」

 関西人独特の語気を強めた口調で筋肉探偵は問いかけてきた。

「いえ、ホントに知りません。」

「はあ。まだ噓をいうん?それとも、冤罪にしてしまった犯人への心当たりでもあるから言いにくいん?」

「いえ、本当にミステリーツアーにきたんだけなんです。」

「それなら、そのミステリーツアーとやらの招待状を見せてみん。」

 そう言われたので持ってきていた本も入っているバッグの中から私は招待状を探す。しかし、招待状は探しても探しても見つからなかった。確かに電車の中ではあることを確認したはずなのに。

「見つからないんやろ?そりゃもってきてないもんは見つからんわなぁ」

 そう言って筋肉探偵モウリは笑った。

「違うんです。本当に。」

「はあ。見苦しいで姐さん。まあ、ええわ。わしも女をいじめる趣味はないしな。」

 そう言って、冷めた目でモウリが私をにらむので私は縮こまることしかできなかった。私は招待状をどこへやってしまったのだろうか?


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