何もない夏だって。
雨が降り続き 蛍は流れてしまったのか
ひとつふたつ、みつよつ
網戸に泊まる蛍がいない
家の中に、ふうふう入ってくる
そろりと手の中に入れると
チカチカちかちか、光ってる
今年は会えなくて寂しい
文月に入り 雨続く
山の緑はおどろに伸びて
枝、下に下に垂れ下がる
野菜が育たぬ夏
稲も豆も花も
洗濯物も洗濯物も
日の光が欲しい
文月の終わり
いつもなら
ラジオ体操
子らの声が響く早朝
赤や青桃色の朝顔
解けて開いて
花咲かせるのに
蕾すらまだない
ひとふくろの花火を
毎日数本づつ楽しむ
幼稚園の男の子
おばちゃん、お外でしたいねん
深刻な顔をしてお話してくれる
おばちゃん、雨やから無理やねん
おばちゃん、川遊びも行かれへん
おばちゃん、お兄ちゃんまだ学校やねん
おばちゃん、そやから
どっこも行かれへん、あっつい!
小さい顔にかわいいマスク
おばちゃんもあっついわ
上だけ日焼けしたら
どないしよう 聞いてみた
うーん、と考えて、考えて……
きょねんよみせで買った
ヒーローのお面あげよか
残念やけど
おばちゃんの顔には、はいらへん
小学校の、お兄ちゃんの
夏休みはまだまだ先
だけど
夏まつりもなくなったね
花火大会も無くなった
夜店も無くなった
サマーキャンプも無いの?
うん、何もない。
そうか。ないないやね。
何もない夏が今からくる。