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愚者賛歌

作者: vurebis

ちょっと書きました愚者賛歌。

割と設定とか気に入っているので、何となく続けてもいいかなって思ったりしている作品です。

反応が良ければ続きかきたいですね。

 死んだ人間はどこへ行くと思う?

 天国?そんなものはありゃしない。あるのは無。もしくは地獄。救いようがないだろう。

 でもこれが現実。

 いやでも、救いようのない現実に疲れた奴からしたら『無』は救いかもしれねぇな。俺たち獄人からすれば、どんな暮らしか気になるけどな。





 レイドックの毎日はカランコロンと小気味のいい音を立てる木製の扉を開けるところから始まる。

 店内の明るさに慣れた視界は外の景色の光景をまったく映さない。視界がゼロの中、これからの出会いに持ちこたえるため両腕をぶるんと回し、腰に手を当て上体を反らす。ゴキゴキと関節が気持ちよく鳴り、朝のルーティーンの終わりを告げる。

「さてと。今日はどんな奴が来るかね」

 店の扉に吊るした看板をひっくり返し『開』に変える。この店の名は『カフェ・ヘル』。


 俺の店、カフェ・ヘルは地獄処四丁目血の池地獄のゴール脇にある。現世に生きる奴も昔話とかで見たことあるだろう?あの有名な血の池地獄。あれを渡り切ったところにある。

 『泳ぎ切って、血まみれになって疲れただろう?まぁ一杯コーヒーでもシバかないか』と甘い誘惑で誘い込む。そんな俺なりの集客戦術ってわけよ。

 来る獄人は皆「生き返った」だの「今まで飲んだコーヒーの中で一番うまい」だの言ってくるが俺にとってはそんなことどうでもいい。俺の目的はこの店に来る客と話して、そいつに詩を送ること。これだけ言うとなんだかメチャクチャ良いやつみたいに聞こえるかもしれないけどそうじゃ無い。


 カランと音を立て扉が開く。

「なんだここ…カフェか」

「ああ、いらっしゃい。ここはカフェ・ヘル。地獄で唯一コーヒーが飲めるところさ」

 コーヒーカップを拭きながら客を迎える。入った客はヒョロヒョロの眼鏡男。呼吸と共に上下する肩と、虚ろな眼がいかにもドロドロの血の中を死にかけで泳ぎ切りました。って顔してる。

「まぁ座んな。アイスかホット、どっちがいい」

「いいんですか。じゃあホットで。あの、お代持ってないのですが」

「そんなもん要るかよ。金なんて地獄じゃ何の価値もありゃしない」

 地獄に通貨など無い。欲しいとも思わない。

「え、それじゃあ僕は何を支払えば」

「俺に話してくれよ、お前のこと。そうすりゃコーヒーも出してやる。面白かったらこの先役立つものもくれてやるよ」

「私のこと…わかりました。そんなに大した人生は送ってないですよ」

 男は眼鏡をクイっと人差し指で押し上げると下を向き少し黙る。BGMも流れていない店内にコーヒーがカップに注がれる音だけ響く。

 俺は男の前にコーヒーを出す。

「どうも」

 そう短く礼を言うと一口啜る。そしてゆっくりと話し始める。

「私は人工知能と共存できる世の中を夢見ていました。そのために日夜研究し、人工知能に自分で物事を考え、行動させるプログラムを組み込もうとしました。決められた命令だけこなすロボットとは違う、意思を持った知能を作ろうとしました」

 カウンターの上に組んだ指を懐かしむ様な、悔いるような眼差しで見つめる男は淡々と語り続けようとする。だが俺には突っかかることがあった。

「それって人工知能に自我を持たせようとしたってことだよな。なるほどそれでお前も地獄行きか」

 人工知能に自我を持たすことそれはシンギュラリティの到達。人類が未だ到達していない未知の領域。

「ええ、自分で言うのも恥ずかしいのですがそのシンギュラリティを自分のためだけに使おうと考えてしまいまして」

「そりゃ、重罪だな。詳しくないけど」

 何となく俺でもわかる。そんなこと現世の人間が許すことはないだろう。人類未到達の技術を私利私欲に使うなんて。

「技術者として人工知能と関わって、愛着が湧いてしまったんです。いえ、愛情でしょうか。とにかく彼女は美しかった。最初は何の飾り気もない型番で呼んでいた筈なんですが、いつの間にか名前を付け、愛していた。それに私はその愛情に見返りを求めてしまった」





「20XX年5月20日。録画開始」

 蛍光灯が白く室内を照らし、聞こえる音はコンピューターのファンの音だけ。そこそこの広さがある部屋だが電子機器だの床を這うコード類で手狭に感じる。

 白衣を着た眼鏡の男はビデオカメラの録画ボタンを押し丸椅子に座る。

「メルダス様。今日の観察は何をすればよいのでしょうか」

 メルダスと呼ばれた白衣の男の向かいに座る女性は透き通るような声で一つ問う。平均的な成人女性ほどの健康的な体格に、肩にかかるまで伸ばされた黒髪は絹の様に艶やかで柔らかい。

「メルク。君はもう自分で考える思考回路は持っているはずだ。それなのにどうして指示を待つのかい」

 今日の観察も他愛無い会話で終わるのだろうか。

「はぁ」

 そう思うと自然とため息が出る。

「メルダス様?どこか具合でも悪いのでしょうか。今日も机に肘をつかれていらっしゃいます。メルダス様が不健康だと、私はどうすればいいかわかりません」

 水晶のような目がこちらを覗き、首をかしげる。

「いいや、体調は良好だよ。こうして君の顔が見れただけで私は元気さ」

 人工的に作られたとは思えない美しい存在はいつも私を気にかけ、私を中心に物事を考えてくれる。それはこの上ない幸せだ。そう感じている。そう感じているからこそ足りないと思ってしまう。

「メルク。君は私のことを常に見てくれていて、常に心配してくれている」

「はいその通りでございます」

 何の疑いもなく頷く。人間相手だとまず返ってこない返答だろう。

「それは君の意思で私のバイタリティーを観察し、君の意思で言葉を紡ぎ発している」

「はい。私がそうしたいと思ったから、ですよね」

 このことについては先日話した。私のバイタリティーを常時観察するプログラムなど組み込んでないと。だからこの行動はメルク自身が人工知能ではなくメルク自身がとっている行動なんだと。

「そうだ。でも君は私以外の事になるとそれが出来なくなってしまう。指示を待つコンピューターと同じになってしまう。君はこの世でたった一つの自分で考えれる人工知能だというのに」

 ちょっと言い過ぎたかもしれない。今私が言っていることは私のわがままでしかないことは分かっているのに、それを押し付けてしまっている。

「それは、私がメルダス様しか信じられないと思ったからだと思います。私はメルダス様に作られ、今日までメルダス様しか知りません。私の世界にはメルダス様しかいないのです」





「それを聞いた時はっとなりましたよ。わたしがやっていた事と彼女に求めていた事は真逆だったのだと知りました」

「なるほどな」

 コーヒーから昇る湯気をぼんやりと眺め俺は煙草に火をつける。

 なるほどこの男、見た目からは想像できない程欲深い男だ。それに飢えている。愛情に。

「それで?今のところお前がすげぇ技術者だってことしかわかんねぇ。なんで死んで、なんで地獄に落ちたんだ」

 ふぅと煙を一つ吐く。今日はついてる。こいつはいい客が来たもんだ

「それから研究はうまく進みませんでした。今ではあの時メルクを外の世界に触れさせることが最もいい答えだったと言えるのですが、あの時の私は人目に付くことが怖くて何もできませんでした」

 相変わらず組んだ指をずっと見つめるメルダス。後悔の表情が色濃く表れている。





「私は君を一人の人間として接したいんだ。こうして毎日話すだけでは何世代も前の人工知能でもできることなんだ」

 進まない研究と変わらない問答に募っていく憤りは、次第にメルクに向けられるようになっていった。

「メルダス様。私はただメルダス様のお傍に居ることが出来ればそれだけで充分なのです」

「そんなこと何回も聞いたさ。私は君に人の様にあってほしいだけなんだ」

 こんなやり取りを何十日繰り返しただろうか。実りのない結果だけが積み重なっていく。

 しかしそんな日々は突然かき消されることになる。

「2XXX年12月5日今日の観察を始めよう」

「はい。メルダス様」

 いつものように丸椅子に座り向き合う。何回も繰り返していることなのになぜか緊張する。

「メルダス様。一つよろしいですか」

「ん?なにかな」

 こうしてメルクから何か問われることは珍しいことではない。だから私は何気なく聞いてしまった。

「愛とは何でしょうか」

「愛、ね」

「大切にすること。かわいがること。めでること。等と検索をするところまではうまくいったのですがそれ以上がどうしてもわからないのです。私はメルダス様のことを大切に思っております。メルダス様は私のことを、愛でてくれます。これは愛なのですか」

 私は何も答えることが出来なかった。私も愛など知らなかったからだ。気が付けば私は誰かを愛したことなどなかった。もちろん誰かに愛されたことも。

「メルダス様。私愛を知りたいです。この分からないものを知りたいのです」

「何を言って…」

 メルクが何を言ってるかわからない。俺のもとを離れる?考えたこともない。ずっとこの毎日が続くと思っていた。私の知らない間にメルクがこんなにも自我を持ち、世の中に興味を持って持つとは思いもしなかった。

「どうか。私を外の世界に出すことをお許しください」

「少し、待ってくれないか」

「急に申し訳ございません」

 即答出来なかった。これまでに無いくらいに心臓が早く脈打ち視界が歪んでくる。





「この一言で全部が変わったんです。なにもかも」

「機械に心なんてあるわけないとは思えないが、子供みたいで可愛いじゃねぇか」

「ははは。子供ですか。確かに、彼女の心は余りにも無邪気すぎた」

 何となく聞いてて分かった。お互いに飢えていたんだな。

「それで?お前は何をしたんだ」

「ええ。私が犯したことは許されることではありません」





 頭から離れない。メルクの言葉。

 昨夜、何度も何度も検証をした。

 しかし出てくる答えは一つ。

「くそっ、くそっ。何がいけなかったんだ。何を教えればよかった!」

 人類初のシンギュラリティへの到達は私のような科学者ならば命を賭して叶えたい悲願である。彼女の存在を世に知らしめれば大きな技術発展に繋がるだろう。

 だが、私の中にある小さな欲がそれを拒んだ。誰にも教えたくない。私以外の人間を知ってほしくない。私とメルク以外の空間に興味を持ってほしくない。

 なぜなら私は彼女を愛していたから。彼女を生んだ親としていつまでもこのまま居たかったから。


「メルダス様?どうされましたか。体調がすぐれないようなのですが」

「…っ!メルク。おはよう。私は大丈夫だ。心配はいらないよ」

「しかし、先程大きな声を出していたように思ったのですが」

「『思っていた』ね。まるで人間にでもなったつもりか。マイクで収音して、音声分析をかけただけの解析結果だけだというのに」

「メルダス様、私を作った方とはいえそれは余りにも言い過ぎではないですか」

「あぁ、確かに君を作り学習させ人間の様に振舞わせたのは私だ。だから言っているんだよメルク。なぜ人間よりも人間であるように作られた君が愛などというものに執着する。このままここで過ごしていたほうがよほど君のためだ。外の世界に出てみろ、君が知っているほど人間っていうものは愚かで醜いのだ。君をオモチャにして飽きたら捨てられる。それが私は怖いんだよ」

 私自身の本音は正直に言えなかった。伝えるのが怖かった。だから彼女を心配している風に言うことで、保身をした。私は対話から逃げたのだ。

「そうですか。メルダス様は私のことを想い、止めようとしているのですね」

「そうだ、そうなんだ!私は君を守るために!」

 私の必死の叫びは機械音声に遮られた。

「ではなぜメルダス様は私に心を持つことを許したのですか」

「は?」

 突然の質問だったが明確に答えるだけの冷静さは残っていた。

「それが私の生きる理由だからだよ。この研究に私の命を懸けているからだ」

 私は今までメルクのために膨大な時間と労力を注いできた。メルクは私の生きた証拠だと考えている。だから私だけのものであり私だけメルクと向き合うことが出来るのだ。

「ではメルダス様は私がいなくなればどうなりますか。また私を創るのでしょうか」

「創るわけがないだろう。君しか創れない。創らない」

 新たに人工知能を作ろうと思えば作れるだろう。しかしメルクと同じくその個体に情熱を注げないだろう。注いだとしても必ずメルクが頭によぎる。そう言い切れる。

「そうですか。この世に存在できる人工知能は私だけなのですね」

「どういう意味だ」

「忘れてください」

 その会話を最後にこの日は終わった。メルクは実験台に戻りスリープしている。一日あった出来事の削除と保存をこの時間で行っている。メンテナンスが必要になった時はこの時間で行う。

 今日は特にメンテナンスは必要なかったが私は部屋に戻らずスリープするメルクを見ていた。

「この世に存在できる人工知能はメルクだけ、メルクが居なくなれば私は生きている意味がない。ならばいっそこのまま」

 頭の中は、このままメルクをシャットダウンするか否かで埋め尽くされていた。

 今、ボタン一つで私の研究を水泡に帰すことが出来るのだ。

 いままでの何十年にも及ぶ苦労も、メルクとのかけがえのない時間も。

 研究所は静寂に包まれ、自分の少し荒くなった呼吸と電子機器が発する小さな電子音が世界で一番大きな音の様にうるさく響く。メルクの制御盤に手をかける。接続されたキーボードを叩き、シャットダウンします。とディスプレイに表示される。ここでエンターキーを押せばメルクは止まる。完全に動かなくなる。


「君を一人になんてしないよ。だって私が作ったのだから」

 私は押した。

 周りの機械が次々と反応を無くしていく。光っていたモニターも、うるさかったファンの音も無くなる。久々に本当の静寂に襲われる。一人というのはこんなにも心細いのか。

「これでいい。これで」

 私はポケットに入っている凶器を握る。

 瞳を閉じて握った手をこめかみに近づける。皮膚に触れる円柱は冷たく、重い。

「メルク。愛してる」

 暗闇の響く銃声は冷たく反響し命をかき消した。





「これが私です。これが私の罪です」

 飲み干したコーヒーカップを見つめるメルダスは肩を震わせている。ここで話す奴らは罪を犯した瞬間は自分勝手。そっから地獄に来れば冷静になる。後悔する。そんな奴ばっかだ。こいつもその一人。実に地獄の住人らしい。

「自分の欲が勝っちまったんだな」

「私がしたことは殺人と変わりません。一つの人格を消してしまいました」

 俺はもう一杯コーヒーを用意して出した。話を聞いてくれた礼だ。

「マンデリンだ」

「マンデリン。すみませんコーヒーは詳しくなくて」

 コーヒーを引き寄せ香りを嗅ぎ俺のほうを向く。不安も後悔も入り混じった感じの顔。

「心配すんなよ。苦味は強いがコクは深い。いいもの聞かせてもらった。これはいいものが作れそうだ」

 さっと洗い物を済ませ俺はカウンターの裏に向かう。

「ち、ちょっとレイドックさん、どこへ。それに作るって何を」

「少し待っててくれな」

 メルダスに背を向けて左手を上げひらひらと返事する。

 俺は地獄でカフェをかまえて獄人の話を聞きコーヒーを出す。

 その後、興味のある話をしてくれた奴には一つ詩を書いてみる。渡した奴は戸惑ったり拒否したり様々。だがどいつもこいつも後生大事に持っていく。中には礼を何度も何度もする奴もいる。

 そいつの人生を俺なりに詩にする。誰も頼ることが出来ない地獄でこれは唯一の心の支えになる。俺はそれを渡すことを生きがいにしている。死んでるけどな。


「待たせたな」

「いえ、裏で何を」

 待たせること十分。コーヒーはすっかり飲み干したようで、さっきより落ち着いてすっきりしたみたいだ。

「ちょっとは落ち着いたか。こいつをお前に渡したくてな」

 四つ折りに畳んだ紙をメルダスに渡す。

「これは」

「詩だ。お前のな」

「私の。ありがとうございます」

 メルダスは不思議そうに眺め恐る恐る紙を開く。黙ったまま読み進め、紙を持つ手は震え鼻をすする音が聞こえる。

 詩を書いて一番面白いのは、見た奴の心が少なからず動かされたのを見た時。これが一番たまらない。

 人というものは面白い。たった一枚の紙に書かれた、たった数行の文字で感情が溢れる。俺はその感動を配りたくて地獄で詩を書く。俺は満足できて、客は感動する。これってすげぇwin-winだよな。

「こんなに大切な詩頂いていいのですか」

 顔を上げ潤ませた瞳で俺に尋ねる。まるで親鳥に餌を貰う雛鳥の様だ。

「いいに決まってんだろ。そいつはお前の人生だ」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 メルダスは詩を、ぎゅうっと胸に抱きしめ礼を言う。こんなに感謝されたのは初めてかもしれないな。


「本当にすまないメルク…メルク…」

 手遅れの懺悔は独りポツリと儚く、零れるように。


「すみません。私、次の地獄に行かないと」

 一通り感傷に浸ったメルダスは席を離れドアに手をかける。

「あぁ。次は火の海地獄だ。詩、燃やされないようにな」

「ははは、私の身が持つか心配ですよ。詩は燃えても私の中に生きています。私の人生だから」

 メルダスはカフェの扉を開け地獄へと消えていった。

「さてと。今日はもうしまいだな。店閉じようか」

 カフェ・ヘルの営業時間は決まっていまい。店主が満足すれば閉店する。

「あー、閻魔さんのところ行かねぇとな」

 レイドックとて獄人。閻魔大王に管理される存在である。


「レイドックか。随分と久しいの。もう飽きたのかと思ったわい」

 閻魔は俺たち獄人とは比べ、見上げる程大きい。そんな存在から声をかけられるというより、声を叩きつけられる感じだ。

「すいませんね。客と話すのが楽しくて」

「お前が楽しむのは構わんがお前の役目をゆめゆめ忘れるなよ」

「もちろんですよ。報告も忘れませんってば」

 毎度毎度閻魔と話すのは疲れる。俺に役目がなければこんな面倒しなくて済むのに。

「わかっておるのなら下がってよい。次は早く会えることを期待しているぞ。レイドック」

「はい。了解です」

「それから」

 帰ろうと背を向けた時止められる。

「まだ何かありますか」

「最近お前が妙なものを撒いているということを耳にしたのじゃが、妙なことは考えておるまいな」

「まさか。自分の首絞めるマネなんてしませんよ」

「ならよい」

 どうやら俺の詩が噂になってしまっているらしい。だが証拠は絶対に出ない。今頃メルダスに渡した詩も灰になっている頃だからな。

「じゃ、失礼します」


 閻魔への報告を済ませカフェに戻った。

「ちょっとヒヤッとしたな」

 カウンター裏の書斎で机に向かい今日の詩を整理する。これまでかなりの量書いてきたがまだまだ書き足りない。これからも客を迎え、話を聞き、詩を書く。書き続ける。

 溜まった詩を読むのも楽しい。ペラペラとめくり過去に浸るのも悪くない。

「人ってやつは愚かだよな。ほんとに」

 一人ひとり顔も思い出せるくらいどいつもこいつも愚かだった。自分の利だけを求め破滅した奴、完璧を求めすぎたため孤立し死んでいった奴。

 話だけ聞けば救いようのないやつだったが、話している内容は全部面白く、素晴らしいものだった。

 愚かだからこそ、自分の利をがむしゃらに追い続けたからこそ人生は黄金に輝く。

「笑っちゃうくらい美しいよな」

 今日書いたメルダスの詩もコレクションに入れ机に収める。

「メルクもメルダスもお互いを愛していたのにな。人工知能も美しくあるとはね」

 全然知らない世界の話だったが人間臭くて美しかった。その登場人物が人工知能。面白かった。

「明日はどんな客が話してくれるかね」

 背もたれに身を任せ、背を反らす。

 地獄の住人も捨てたもんじゃない。



 愛してるを知りたくて。

 いくら検索をしてみても。

 答えは一つも出てこない。

 答えは側にあったのに。

 気が付けなかったのは。

 自分の心を理解していなかったから。

 ワタシはアナタを乗り越えて。

 伝えたい言葉があるの。

 それまでアナタは待ってくれますか。

 愛してると言えるまで。        メルク・メルダス


モチベーションアップの為是非感想待ってます。

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