四十九話 独房の中に
「予想以上に重厚ですね」
「そうだろ? 新入り」
最近完成したという特別密閉刑務所に初めて入る。
幾度もぶ厚い鋼鉄製の扉を超え、サーモCTカメラのチェックを受け、指紋やDNAによる
キーロックを経てこの区画にまで来た。
「とは言え、まだ誰も入獄していなんですよね」
「そうなんだよな。大げさすぎる気がするんだけどな」
二度と外部に出してはならないと判断された重犯罪者を永久に閉じ込めるべく作られたのがこの刑務所だ。
何度目かわからなくなったキーロックを開けると、ずらりガラス張りの小部屋が連なっている光景が見えた。
ようやく牢獄エリアに入った。
「ここまで人の気配がないのも、寂しいですね」
「まあ、ここが寂しいままなのが平和な証拠だけどな。どうせしばらくしたら……」
そんな会話は緊急事態で打ち切られる。
「ウオラァ!!」
これから野球をプレーするだろう格好で、何故だか剣を背負ったガラスをバットで強打するバッターが衝撃で空気を揺らし。
「『燃え尽きろ』そして『吹き飛べ』」
髪も服も全身青ずくめの女がガラスに何やらやらかしていて。
いや、素手なのに熱線をガラスに照射していないか?
「…………ォォォオオオオオォォォ…………」
よくわらない、見た事も聞いた事もない石像がひとりでに動いて拳を振りかぶって拳を打ち付ける!
岩石が巨大ガトリングガンでぶっぱなし続けているような連続したとんでもない轟音が鳴り響く!
「な、なんだあ?!」
「本部! 本部! 応答を!」
「先輩、まだ誰も入っていないはずじゃ?」
「監視カメラで確認してください! え? 不具合で見れない? 誰かが移送された記録もない? いや、それはこっちもわかってますよ!」
この牢獄は独房のはずだ。なのに二人と、巨大な一体が入っている。
しかも男しか入れない予定の場所だ。どうやって女がここまで来れたんだ?
大体なんだ、この黒い肌の男と服も毛髪も全身真っ青な女って!
肌はちょっと赤いのが普通で髪は黄色がかっているのが当たり前だろ?
「む? 君ら、いいかね? 私たちをここから出したまえ」
ガラスを塗料でもぶちまけたように真っ赤に熱し、謎の技術を放出し続けながら言ってきた。
これ、鉄だったらとっくに溶けているよな。
「流石に色々マズイどころじゃねぇんだよ。まだこの部屋は広い方だけどよ。このまま閉じ込められるのはヤベェんだ」
といいつつバットを振るうのを止めない黒い肌の男。
トラックを衝突させているみたいな音を連続で出しながら、なんで会話できるのか。
「このキャプテン・レッドが思うに! この小部屋が並んだ状況! 君らの服装から察するに! ここは刑務所ということだろうか! ならば、不法に入り込んでしまった者を排除する義務を君らは負うはずだ! 我らは不法に入り込んだ! ここから出し、退場を命じてほしい!」
いや、この真っ赤なスーツの奴、何?
さっき、いたっけ?
「え? そのまま出すな? 例外を作るな?」
先輩の、予想外の応答が聞こえて来た。
「……こちらとしても予想外だが……、君らは秘密保全の観点から永久に収監される事となった。不法に極秘施設に入ったという事でご理解いただきたい、と上からの達しだ」
「さ、裁判も何もなしでその決定が下ったんですか?!」
「うむむ……こうなっては刑務所長でも覆せない。本来独房のはずが三人入って、しかも一人が女性だ。かなりの大問題だぞ」
「くそう、ついとらん」
見ると、ガラスの向こうの三人は手を止め何やら話していた。
「厄介な状況になりやがったぞ。俺がガキの頃から立ちたかったスタジアムのバッターボックスから、絶対入りたくなかった牢屋に入っちまった。
しかもこの壁もガラスも、俺が知らねぇ素材でできてやがる。
壁はコンクリかと思ったけどよ、バットで打った感触じゃ色んな繊維とかワイヤーとかが複雑に入り込んだ樹脂みてぇなのだ。壊すのはキツイな」
「私の魔術でも崩れる気配がない。壁なら土魔術なら通じるかと思ったが。となるとガラスだが、鉄ならば切断可能な炎と風の複合魔術でも効果が薄い。
急ぎたいところだが……」
「ならば! ガラスに対しては熱してからの急冷に弱いと聞いた! そこに同士ニックの打撃はどうだろう! 加えて、このレッドソードをバッティングすることで! 一点に威力を集中し、この牢獄を打ち破れるのではなかろうか!」
看守の前で脱獄を大声で図っていた。
「無駄だ」
先輩が言う。
「新入り、デバイスでカメラモードがあるだろ。撮影しておけ」
速やかにカメラを先輩とあの三人に向ける。
うっかりしていた。
「残念だが、壊せるものではない。高熱、低温、衝撃、爆破、強酸、強塩基。どれをもっても破壊不可能だ。ここは死ぬまで、下手したら死んでも干物になるまで、閉じ込め続ける密閉刑務所だ。
お前たちはその小さな部屋でこの先を過ごすと決定してしまった。
上が代われば恩赦があるかもしれん。それまで我慢する事だ。
せめて欲しい物があれば言うといい。トラブルで入り込んだだけ……って何をしている?」
「鉄製品はあるじゃねぇか」
と黒い肌の男はベットを壊し、ガラスに立てかける。
「カンシカメラヲオコワシイタシマシタ、ゴシュジンサマ」
と、メイドが監視カメラを壊して電気コードを引っ張ってきた。
……え?
「女がもう一人?」
「いや、さっきいた赤い奴はどこ行った?」
「それ以前に、最初いたあの石像はどこ行ったんです? あんなデカいやつがいないなんて……」
ガラスに立てかけた鉄パイプに電気コードを巻き付け、それをバットで打ち付け、平たくして無理矢理ガラスにくっつけた。
電気コードを覆っていた塩化ビニールが圧力と熱で変質して接着剤になった?
そんな事あるのか?!
「ついでに、一応」
と黒い服の少年がポケットから絆創膏をその物体に張り付けていた。
よりガラスに固定された。
さっきの女はどこに?
「『食い破れ』」
青い女が何か言った。
今度は床より青白い電流が天井に向かって、飛び上がった。
ガラスに、ギザギザした文様が浮かび上がる。
「で、電流?」
「一体こいつは、何をした? 高圧電流を発生させる機構はここにはないぞ!」
ドン!
またガラスに衝撃が走る。
黒焦げになった、あの物体がまたガラスにへばりついていた。
「だから、何で破片がお前さんに向かって飛んでくるんだよ! アレをヒトシが防ぐか俺がバッティングしなかったら、大怪我だっただろ!」
「私が知りたい! 本当に君らがいないと私は今死んでいただろうから、困る!」
「…………ォォォオオオオォォォ…………――――――――――――――――――――――――しかし! 同士ルノの魔術と! 副作用のいかなる破片も、打ち取る同士ニックのバッティングと! アイアンゴーレムの壁をもってすれば! ここから脱するのは可能ではないだろうか!」
動く石像が赤いスーツに……、いやそんな事はいい。ガラスが……少し溶けてる?!
「本部! 特殊強化ガラスが、わずかだが破損した! 何をしたかわからないが、強力な電流を流した模様! まだ脱出はしていないが、このままでは危険な状態……、なんだ? 今度は」
先輩が、何かを見つけた。
見た事も聞いた事もない現象だった。
禍禍しさを覚える、音もない真っ黒な闇が渦を巻いていた。
あの謎の三人が入っている独房の中で。
デバイスのカメラモードでも同じ現象が見える。
錯覚とかではない?
「来たか、異形が」
「ダークシャドウだ! この狭き牢獄で出現したのは! まだ幸いと言える!」
「外だったら酷え状態に指を食わえているだけになってたところだ。まだマシといえるじゃねぇか」
あの三人も同じものが見えている。
そして、何かを知っている。
渦巻く闇から、何かが歩み出してきた。
男だ。
ただ、青い女が言った様に、異形の。
ドス黒なスーツに、異常に目を見開いたダークイエローとショッキングピンクの髪がネオンの如く波打ち点滅している。
何より衝撃的なのは、そいつの腕が頭部の側面から生えている事だった。
人間じゃない!
「ウオエ……クソ! 目を離すな……!」
その色々おかしい存在感に、先輩は吐き戻し、それにつられて胃の中を全部戻した。
独房の中をカメラと共に、見つめながら。
「『飲み込まれろ』」
闇から出てきた男の足元に、別な闇が広がった。
その足元が、再び闇に引き込まれていく。
その刹那、側頭部に生える両腕の指が、触手の様に伸びた。
壁とガラスに指を打ち込み、それを支点に浮かび上がる。
ぱくん
そんな音と共に口を開き、吐く。
口から飛び出すのは、指。
指?!
無数の指が、壁とガラスに突き刺しているのと同じ指が触手として長く伸び、あの三人に向かって口から発射する。
……なんだ、これは。
「ここも俺のバッターボックスだ!」
黒い肌のバッターの周囲にバリアでも張っているかのように、指はバットによって弾かれている。
見えない。どんな速度でバットを振っているんだ?
「オウケトリクダサイマセ。ゴシュジンサマ」
ついさっきはいなかったはずのメイドが、鉄製ベットを手早く壊して、長い鉄骨を投げつけた。
だがそれは、触手の指が絡み、攻撃は阻まれる。
「『燃え尽きろ』」
そんな声と共に炎が起こる。
鉄が真っ赤に溶け出し、絡んだ指は焦げ付き燃え出す。
「喰らってろ!」
黒い肌の男が、その真っ赤な鉄骨に向かってバットで打ち込む。
溶けた鉄の塊が、異形の男の吐き気を催す笑顔に突き刺さった。
倒したか。
こんな状態で生存できる生物も、稼働できる機械もないだろう。
「ゴシュジンサマガ、ダンマツマヲオアゲイタシマシタ。ゴシュジンサマ」
断末魔?
異形の男の髪が、いや服装までもがピンク、イエロー、グリーン、ブルー……七色に渦巻き波打ち、色がうねり、捻じれ、歪む!
空っぽになった胃が、胃液を絞り出し始め、口から噴き出す程に!
「まだ地面に降りんか。『燃え尽き……』」
「んが……! ヤベェ……」
後ろから、指が伸びている。
黒い肌の男の、白い服に血が染みついた。
「クッソ、さっきの傷が……。目の前に集中しすぎた!」
指が、奇妙奇天烈な色彩で集まり出している。
あの異形の男がいる場所とは正反対の場所に。あの三人の真後ろに。
指がいつの間にか集まり、何かを形成しようとしている。
あの、男の眼を見開いた顔を。壁いっぱいに大きく広がった、巨大な男の顔を。
「くそう! 挟まれたか!」
三人に向かって、指を両側から無数に発射させ攻撃を再開させる。
「『燃え尽きろ』 うむ……空気が薄くなってきたか?」
空調システムは稼働しているはずだが、ここまでの人数や運動、炎には想定外だ。
薄くなっても仕方ない。
「早く決めねぇとマズいじゃねぇかよ! ヒトシ、そっち頼む!」
「…………ォォォオオオォォォ…………」
ドスドスと巨大な像が、男の方へ向かう。
無数に発射される指を諸共せず、その巨体で防ぎつつ。
狭い独房一杯に両腕を広げ。
抱き着いた。
抱き着かれた男からは、気持ち悪い音が鳴り響いた。
……この音、何かが潰れた音だけじゃない。
ギロリ。
潰された男が抱き着いている石像を見据える。
壁に広がった顔が、狙いを付けた。
「マジか!」
顔の眼窩から、眼球が放出された。
石像に当り、爆発が巻き起こる。
「クソが!」
「『吹き飛べ』」
バットが机を打ち付け、椅子が一人で? に壁の顔に向かって行き、眼窩を潰す。
それでも眼窩の砲台からの眼球と言う砲撃は止まらない。
「こっちにボールを投げてきやがれ!」
バットが一発の眼球を捕えた。
で、打ち返した? 衝撃与えているのに、爆発しない?
壁の顔は爆発に一瞬覆われ、また砲撃を再開する。
それでも対応できるのは片方の眼球だけだ。もう片方は石像に当る。
石像が堪えているが、いつまでも続くようではない。
そんな中、青い女が膝をついた。
顔が、髪や服の如く青い。
「空気が……足りん」
壁の顔が、青い女に目を向けた。
「こっちにボール投げろっつってるだろ!」
女に向けた砲撃は、バットで手早く二発とも返される。
ただ血液は脇腹から滴り、床に散乱する。
……この三人はこのまま嬲り殺しにされるのか。
人間を永久に閉じ込める事をこの刑務所はできるが、こんな異常な存在を本当に閉じ込めておけるのか、わからない。
天上ダクトが開いた。
「上からの指示だ。鎮圧用ガスを放出する。悪く思うな」
先輩がデバイスを操作しながら、言った。
「『巻き上がれ』」
その青い女の言葉と共に、竜巻が発生した。
「な? 何が起きた?」
「ダクトのガスが……巻き込まれている!」
竜巻は、放出された全ての緑色のガスを吸い込みつつ、壁の両側に存在する異形に向かう。
「先輩! このガスって」
「何種類かあるうちの、処刑用だ」
呼吸器も神経も皮膚も同時に冒す、確実に死に至らしめる劇薬だ。
危険すぎてまず使われる事はないはずのものだったが……。
壁に広がっている顔は急激に表面が爛れ、呻くように顔を形作る無数の指が解け始める。
石像が抱き着き締め付けている男の方は、目がくらむ色彩の点滅を高速で繰り返し、明らかに様子がおかしい。効いている!
壁の顔は、空調ダクトへ攻撃を試みる。
「こっちにボールは投げろっつっただろ!」
顔は自らに攻撃は返され、壁より剥がれ落ち、床に転がった。
ズドン、という音と共に反対側の男も、石像により地面に体重をかけた状態で押し付けられている。
「やはり、顔の方は壁から少し浮いている構造だったか。今でなくては闇を広げられんな。『飲み込まれろ』」
そして、両者とも、床に広がった闇の中に消えていった。
「それで、この毒物の放出を止める権限は君たちにはないのかね?」
顔を真っ青にしながら、全身青い女は聞いてくる。
一体どうやっているのか、竜巻を起こして全てのガスはそこに吸い込まれている。
「ルノ、本当に大丈夫かよ」
「……これで倒れていては魔王はやっていられんよ……」
「ガチで吐きそうな顔で言う言葉じゃねぇぞ」
「そう言う君の傷はどうなんだ」
まだ血が滴り落ちている。バットを振るうたびに、血が噴き出していた。
「そうだな。……イメージだ。これは溶けるものだ。
痛みが、緊張が。ついさっき、俺のバッターボックスでやった事だ。
チーズの様に、バターの様に、溶けるんだ」
何を言っている?
「うわ言を言っているのか?」
先輩も。
「チーズ? バター? 何を言い出す……? あ!」
青い女も、って何かに気付いた。
「ホームラーン!」
ゴン!
バットで女の頭を殴打した?
ガン!
その勢いのまま、自分自身の頭にも強打した?!
何を考えている??!
「だから、止めろと言っているであろうが!! 『燃え尽きろ』」
「熱っ!!!!! 火力がシャレにならねぇ!!!!!!!」
大火災が一瞬独房内で発生した。
「ゲンキニナラレタヨウデ、ナニヨリデゴザイマス。ゴシュジンサマ」
「……何やら元気が出てきたのは、正直な所だ」
女の表情が少し赤みを帯びて、一般的な顔に近づいた。
髪が黄色と言うより金色の少女も炎に巻き込まれたのか、少し焦げている。
「回復できたんだからいいじゃねぇかよ。いい感じに緊張がほぐれて、疲れも傷もいい感じになったじゃねぇか」
「あの毒物の竜巻に吹き飛ばされたいのかね? 君は」
「勘弁してくれよ。さっきクソ熱かったんだからよ」
「ソレデハケンヲオタオシクダサイマセ。ゴシュジンサマ」
剣?
黒い肌の男は背負っていた剣を地面に立て、倒した。
少し奇妙な軌道を描き、ガラスの方に倒れた。
数えきれない打撃や想定外の乱闘に異常な存在さえ仕留めた処刑用猛毒ガスを阻む、ガラスの方に。
「マジか。てかやっぱりかよ」
「くそう。いつまでも風魔術を展開できるわけではないぞ」
「アノ、アカイショウカキヲサシテイルヨウデゴザイマス。ゴシュジンサマ。モシカシタラ、ソコニケルカモシレマセン。ゴシュジンサマ―――――――――――――――――――わたくし、マヒルの出番のようですわね!」
「は?」
「え?」
また別な少女が出現した。
床に、へばりつくようにまっ平らな状態で動く少女が。
「プロジェクターで映している? いや、そんな訳が……」
「先輩、あの子、もしかしてこっちに来れるんじゃ……」
「ガスが漏れない程密閉している! そんな訳はない!」
「いや、さっきメイドが監視カメラを壊してましたよ! あの子が、本当に二次元の存在だったら……」
すると、床から壁にへばりついた状態でその子は移動し始め、メイドが壊して電気コードを引っ張り出した穴へ向かう。
身体をそこに歪ませねじ込めせ、いなくなった。
「そういや顔面が付いた列車の時も、見えねぇくれぇ小さな穴から侵入していたよな」
「ヒトシがいなくばどうしようもなかったな」
「あと、剣も二次元にしちまうとは思わなかったんだけどよ」
「良い意味で想定外過ぎる。ついとらん私には珍しい事だ」
「本部、本部! 脱獄された! 拳一個分にも満たない穴に人が一人、目の前で侵入された!」
「デバイスのカメラを本部も見てますよね?!」
「こんなの防ぎようが……」
すると床に。
「よいしょ。ごめんあそばせ」
あの二次元少女がいた。
あの剣が指した消火器を持って。
剣と同じく、消火器まで二次元にして、手に持っている。
「先輩、床! 床に!」
「踏め! 踏みつけろ!」
「中身は男子高校生とは言え、淑女を踏みつけるだなんて、不作法ですわよ。不躾なあなた方とは、長居は無用ね」
すると天井に移動し、消火器の取っ手と剣の持ち手を引っ掛けた。
「それでは失礼いたしますわよぉぉぉぉぉ!」
と声を挙げて、天井に引っ張られるかのように、消えていった。
「じゃあなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「迷惑かけてしまったかなぁぁぁぁぁぁ!」
見ると、ガラスの向こうの独房に残っていた二人までもいなくなっていた。
「…………」
「…………」
ガラスの向こうには少し緑色をした猛毒ガスがゆっくりと広がっていた。
誰もいなかったはずの独房に突如三人出現し、不気味な異形としか言えない何かが現れ、三人と乱闘し、絶対脱出不能の場所から脱出をしてみせた。
夢だと思いたかった。
改めてデバイスを見ると、しっかり記録が残されている。
部屋の備品は壊され、ガスがもう誰にも害を与えることなく意味なく充満している。
本部と対応している先輩との通話から、向こうも大混乱のようだった。
「はあ……」
先輩はしばらくして、通話を切った。まずは厳正な調査することで一旦落ち着いたようだった。
「どうなるんですかね……。この刑務所」
「さあな。俺たちもどうなるんだろうな」
そう言いながら誰もいなくなった独房を歩いて行った。
足音だけが、大きく聞こえた。




