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四十八話 ウォー・ゲーム 4

「オイ! クソッたれが!」

ルノさんの魔術によって一瞬でグラウンドに避難できたニックさん。

さっきまでいたチームのベンチの中は蠅で埋め尽くされ最早中を伺い知る事は出来ない。

「審判! 待ってくれ! 流石に中断……」

「ニイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィィク!!!!!!!!!!!!!!!」

うわ、とんでもない声がそんなベンチから飛んで来た。

これ、さっき会ったキャプテンからか。

「時間を稼げ! できるだけ、長引かせろ!」

えーと、チームの監督だな。この声。

「とにかく! 勝つ事だけ考えろ! 今は時間が必要だ! お前の脳ミソはスプーン一杯分だけしかないバカなん……」

本当はもっとセリフが続くだろうに、キャプテン・レッドの耳にも続きが聞こえない。

羽音で消えたのか、言えなかったのか。

“君が選んだ戦場だろう”

「ルノ」

“あえて言うがね”

「影の中で何とか避難できたか。ヒトシもか」

僕たち三人だけですが。

「ベースボーラーはあれこれ考えねぇといいプレイができねぇんだけどよ」

“我は行うべきをただ行うだけなり、とディアスは言うだろう”

「クソ野郎になって言われた事だけ、やってくる」

審判が、続行か? と聞いてくる。

「OK。問題ない」


「プレイボール!」

審判が指が欠損した右腕を掲げて、試合が再開される。

ニックさんは左のバッターボックスに入り、構えを取る。

相手は右投げ。スイッチヒッターのニックさんとしては左に入った方がボールは打ちやすい。

ただこんな文字通りの超人たちの戦いだとそんなのが意味があるのか、わからない。

ちなみに、ニックさんの影に隠れつつ、例によってパイプを使って外を確認している。

 相手ピッチャー、ニックさんより肌色が濃く、大柄だ。

ボールが渡され、早速投球フォーム……。


 ゴン


 え?

ニックさんがすでにバットを振り終えて、ボールが後ろのフェンスに突き刺さっているのを音で確認できた。

これにファールと審判が言う。

「フラッシュピッチャーか」

キャプテン・レッドの眼でも全く確認ができなかった。

“おそらく、幻覚だ。威圧か何かを私たちは喰らっている。知覚がおかしくなっている”

ルノさんが言う。

 ドゴン、とまた音がした。

ニックさんがやはり振り終えながら。今度は相手の投球フォームさえ全く見えなかった。

“加えて、単純に投げるまでの速度が早過ぎる”

ボールは水を切る石の様に地面を跳ねて行って横の壁にめり込んだ音がした。

ファールがこれで二回。


 またピッチャーはボールを審判から受け取る。

僕が知っている野球ならファールでバッターアウトにはならないはずだけれど、今はツーストライクの状態になっている。

ただこの世界ではどうなるのか。

ピッチャー投球……、左?

…………ボールが来ない?

いや、消えた?

“何が起こっている? ヒトシ、何か感じるか?”

“このキャプテン・レッドでも……、いや、感じるのはあるが……! ボールでは……!”

羽音が聞こえて来た。

蝿の、異形の羽音だ!

「ヤベエ!」

一瞬で羽音がニックさんの周囲を覆う。

“くそう! 『吹きと……』”

ルノさんの魔術よりも早く、蝿の羽音より大きく、ボールがニックさんの脇腹を抉る音が聞こえた。


 ニックさんの体が、ボールみたいに地面を数回バウンドして、ようやく止まった。

「…………! デッドボール!」

審判が蝿を叩き落としても叩き落としても群がる蠅の隙間から、そう判定を下す。

「あー! 待って下さいや! 審判!」

ニックさんの声を出す。

「えーとですね! 驚いて大げさに避けちまっただけでして。なんともねぇんですよ! 

ボールは当たってはいねぇんです!」

蝿の大量発生で土砂降りの如く視界が悪くなっている。

羽音の中、大きな声で伝えよう。

 蝿の大群の切れ間に、審判の腕が巨大化している様に見えた。

これもイメージをぶつけられた結果見えただけなのか。

それを棍棒の様に、蝿の軍勢を切り落とした。

蝿は地面に落ち、視界が晴れる。

本当か、と審判が詰め寄る。

「いや、当たっていたら怪我しているでしょうよ。本当になんともねぇです!」

審判は怪しんでいそうではあったが、取り消しを宣言しボールとなった。

 それじゃまたバッターボックスに移動だ。

どうも左投げが厄介すぎるし、どのような物かわからない。

ここは右打席に入るか。

って、ニックさんのバッティングルーティーンは、よくわからないぞ。

“俺になったつもりになりゃあ、それでいい。細かい事は気にすんな”

あ、もう気づかれたんですね。

正直不安になりましたよ。

そういや、あのピッチャーのグローブは特殊な構造だな。もっと早く両投げって気づけたらよかった。

いや、そんな事気にする場合じゃない。

 今僕は、デットボールをまともに喰らって負傷しているニックさんの代わりに、ニックさんに変化してバッターボックスに立っている。

ニックさん本人は、ルノさんの魔術で影の中に入って僕の足の裏を触っている。

 不思議だ。

こんな状況下でも、ホームランを打ちたい気持ちが心の中に存在しているなんて。

“俺だったらホームラン打ちたくてウキウキだ。でも今は我慢だ”

そうだ、ニックさんならキャプテン・レッドに匹敵する視力と聴力だから、こんな囁き声も拾える。

キャプテン・レッドほど雑多な情報を広範囲に一気に処理はしてないみたいだけど。

さて、ピッチャーだ。

ピッチャー左手でボールを投げてくる。

……消えた! またしても、……見えない!

ああ、異形の蠅が視界を遮って来る!

“!”

ニックさん?!

「ってぇ!!!?」

促される様にスイング。

ぱきん、と小高い音が出てバットに何かが衝突した。

何だ?

“やっちまったか”

え?

目の前に粉砕されたボールが転がっていた。

「バッター、イエローカード!」

え、この世界の野球じゃイエローカードあるの?

“気にすんな。ただまたボールクラッシュしたらレッドカードで退場だ”

という事は、ボールを壊さない様に色々コントロールしてプレーしているのか。

 ピッチャーに真新しいボールが渡される。

右……当たれ!

カン、という金属音が聞こえ衝撃がバットに伝わって来る。

ボールは真横に飛んでいき、壁に当たる。

またもファール……うん。もっとだ。もっとだ。

 次は……左!

もっとだ。もっとだ。もっとだ。


ニックさんに、成り切れ。


ボール……来ない……来ない……。

右腕が誰かに引っ張られたかの様に、勝手に動く。

打てる気がした。

地面スレスレに身体とバットを伸ばし、見えない何かを、予測する。

バアン

 当たった!

観測して顕在化した素粒子の如く、ボールがファールの方向に転がっていく。

 って、今の体勢ってほとんどうつ伏せで地面に寝ている状態だな。

辛うじてつま先一本で奇跡のバランスをとりつつ、辛うじてバッターボックスに入っていると言い逃れる状況。

つま先に力を入れつつ……、今のバッティングの衝撃を利用して…………、どっこいしょ!

「ファール!」

審判の判定が、バッターボックスに改めて戻った途端下った。


“オイオイ、今のは俺は打てなかったぞ”

下からニックさんの囁きが聞こえる。

って、マジですか!

“ヒトシにとって俺はそこまでできやがるんだな”

足元が、何だか熱い?

いや、この熱さは、スタジアムにいる超人たち全員が持っている!?

でもそれが今、特に熱くなってきた。

「ヒトシ、代われ」


また異形の蠅が群れてきた。

蝿は人の体に取りつくと針みたいなので刺してくる。

吸血でもしているのか、痛くて邪魔で不快だ。

視界を遮り、ゲームを妨害してくる。

この世界の命運を握っている、世界大戦が再開するかもしれない大切なゲームなのに。

視界がまた塞がる。

ん、土煙?

別な世界に転移するみたいな勢いで、今度は僕がまた影の中に納まった。

「審判、少しタイム」

負傷したニックさんが、バッターボックスに入っている。

血が滲み、怪我は重い。それが影の中からもわかる。

ニックさん、バットを素振り……。


ドカン!


そのまま自分にバットを当てた?

なんだその大砲をぶっ放したか、交通事故でも盛大に起こしたみたいな音は!

……血が止まっている。

くすんでいた肌が、輝いているようにも見える。

 前の世界でルノさんにやった、緊張や疲労を無くすバッティングを自分に行ったのか!

ピッチャーにボールが渡される。

左……またボールが確認できない。

どこに……いや、ニックさんになっていた僕は何を感知した?

ニックさんはバットをスイングせずに、ピッチャーが立っている方向に差し出した。

そしてボールを吊り上げるみたいに上空へ飛ばした。

またもファール。


 えーと。

さっきはバッターボックスから見思いっきり右前。

今は大きく前方。

……もしかしてさっきは超スローの軌道がとんでもなく大きいカーブ?

で今は同じく超スローの軌道が大きすぎるショート?

それが威圧か何かで見えなくなっていた?

 そんな思考をよそに、ボールはまたもピッチャーへ。

蝿がなおもグラウンドを覆って来る。

グラウンドの様子を視覚で確認しにくい。

 ニックさんは蠅を振り払うように左手を振るった。


ぱあん


 そんな小気味いい音がして。

靄として覆っていた周囲の蠅が全部地面に落ちた。

ピッチャー、右手からの投球が、見える。

今の衝撃をピッチャーにも当てて、何かの影響をだしたのか。

右手だけで握ったバットが軌跡を描く。

「上手く……」


カキーン


「いった!」

白球が、異形が横たわるスタンドへ伸びていった。


 ホームラン。

これで先制だ。

「って、忘れてた」

……時間を稼げって言われてましたよね。

いや、ファールで結構粘ったと思いますけど。

あのベンチの様子じゃ……。

なおも覆われ、人影を確認できない。

一回裏で先制できたのは大きいけれど、次のバッターは出られるのか?

変化できる僕が代わろうにも、その人に直接触れていないと変化できない。

「とにかく、ダイヤモンドを一周だ。あの監督とキャプテンだ。生きてるだろ。生きてるなら、何かやる。大丈夫だ」

審判のホームランの宣言にもベンチからの反応はない。

 どうなる……。

 ニックさんが一塁に歩くくらいのスピードで入り、僕も影の中ついて行く。

僕一人でも影の中で移動できて、よかった。

 ん? あれ?

「ついとらん!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ルノさんの絶叫がスタジアム中に、響いた。


「そういや、途中からアイツ、いなかったじゃねぇかよ」

大体僕とニックさんが入れ替わったあたりから、どこかに行っていた。

 ピッチャーマウントの頂上の少しセカンド側から、何かが大噴火してきた。

それは明らかに雷が、空からではなく地面から勢いよく立ち昇り、そこから焼け焦げた太くて長い何かの物体が丸まって飛んで来た。

 コバルトヤドクガエルを思わせる鮮やか且つ毒々しい色合いで、その節々からは真緑色の粘液を染みだしてきている。

 こんな異常事態にまともに喰らって蠢いている。その上、この原色の強烈な色合いだ。

「異形かよ」

それが二体目。

で、一人でそんなんと戦っていたのが。

 黒い手袋の右手が、地面に伸びてくる。

ゾンビの様な速度で。

見慣れた青い服の袖、次いであの鮮やかなどの世界でも見ない青の髪色が。

「ニック、すまん」

あ、見た事のない程にはっきりと頭に血管が浮いて見える。

「我慢の限界だ」


「退場を命ずる」

塁審が駆け寄って来る。

レッドカードを提示して。

「そうだね。退場するよ。私の怒りを発散させたらばな! この世界より消えよう! 『燃え尽きろ』」

炎が、ダイヤモンド内の全てを焼いた。


「ルノ! オイ、やり過ぎだ!」

「ええい! 最初からこうすればよかったのだよ!」

えーと、炎に巻き込まれた人は……ニックさんレベルの人たちだから大したことないな。

普通だったら、全員病院送りだ。

今出てきた異形には多少のダメージか。

「レッドカード! 強制退場を命ずる!」

主審が、いつの間にか指が欠損した右手でルノさんの頭を地面に押し付ける。

うわ、いつの間に。

それに対し、ルノさん

「『沈み込め』」

影の中に入り逃れ再度地上に出るも、今度は塁審たちに捕まる。

「『巻き上がれ』」

あ、竜巻で飛ばした。

「ニック、何がどうなった」

「あ。キャプテン」

あ、いつの間にかベンチの蠅がいなくなっている。

蝿が出てきた穴を、色々詰め込んで塞いで……、ってベンチの辺りは穴だらけじゃん。

みんな傷だらけだし。

「俺がホームラン打って、ダイヤモンド一周している最中ですけど」

ニックさんの声を遮る様に。

「『燃え上がれ』 効かんか!」

 ルノさんが審判たちを炎で炙る。

それに一切動じず、突っ込んでくる審判団。

「あの顔、さっきの姉ちゃんだよな。髪とか印象とか違うが。なんか火とか出してるし」

「えーと何つうか」

二重人格とでも言いましょう。

「……で、誰か足元にいるのか」

う、聞こえた?

プレー中は審判にもキャッチャーにも聞こえてなかったみたいなのに。

「そりゃプレー中は細かい事には気をとられない。一瞬ニックの様子が違ったから、それに関わっているな」

う、ばれた?

というか、あのベンチの何も見えない状態でわかった?

 すると。

「『断罪されろ』」

今度はスタジアムの周囲に雷が大量に落ちた。

「どうだね? 落雷によって通信ができなくなってしまったんじゃないのかな? どうなんだい? なあ、君たち! どうなのかな?!! 『吹き飛べ』 む、これを堪えるか! 『遥か飛べ』」

スタジアムに台風以上の暴風が吹き荒れる。

それでも耐え続ける審判団。

 そんな中、両脇にあるベンチから、機械を壊したと思しき音が聞こえて来た。

「突発的な天候悪化で機械や設備が壊れた! 審判! この天候の急激な変化とそれに伴うスタジアムの破損ではゲームを続行できない! 本国との連絡手段も失われた! 延期を要請する!」

「我がチームも同様の事柄を進言したい! 同じく通信機が壊れた! ゲームができる状況下にない!」

ニックさんのチーム監督と向こうの監督と思しき人が、叫ぶ。

「今回! 乱入者及び天候悪化とそれに伴う設備の破損により、当ゲームは中断! 審判として延期を宣言する!」

それに主審が同意した。

審判の一人がレッドカードを振り回し、ルノさんを切りつける。

「それが武器か! 『燃え尽きろ』 くそう! 危ない!!」

ルノさん大暴れが止まらない。

「鉄が溶けてねぇか?」

あの炎でも退散しない審判の人たち、一体何なんだ。

身体が一部欠損しているから、行動に限界があるけどもろともしない。

 ルノさんは風魔術で空中に逃れ、かと思うと闇魔術で地下に潜り、この世界の住民では予想が不可能な多彩過ぎる魔術で攻撃を繰り返している。

審判団も威圧や幻覚、特異な身体操作をもってそれに対抗している。

「ぐむう!」

あ、ルノさんの動きが止まった。

 あのコバルトブルーの蚯蚓状の異形が、体の粘液を固形化させて、それを鞭として扱いルノさんを絡め取った。

ああ言う事をする異形か。

その一瞬止まった所を、審判団がルノさんの腕関節を極めて取り押さえた。

立たせた状態だから闇魔術で逃れられない。

「乱入者確保協力に感謝するも、貴様は潰れてろ!!」

主審の腕が大きく見えた。そして、拳骨が蚯蚓状の異形を叩き潰した。

うわあ。

「ゲームは終わりだ! 敵は散々邪魔しやがった、あのクソバエだ! ぶっ飛ばせ!」

今度は両チーム、うっぷん晴らしで雪崩れ込んでくる。

 全員ボール、若しくはバットとボールを手にして。

次の瞬間、音が消えた。

色彩も、消えた。

ただ、全てのベースボーラーのピッチングとバッティングのタイミングが完全に一致した。

 小型ミサイルがハーモニーを奏でて突撃して異形の巨大蝿という目標を爆破したとしか思えない光景が見えた。


「うむう!! 一体どういう体の構造をしとるんだ! 君たちは! 信念の強さと生来の身体の強さでウチのバカを超える耐久を得ているというのか! 一切の魔術なしで!」

ルノさん、連行されてる。

審判団が数人がかりとは言えあの人を捕まえるのに成功しているなんて、ルノさんの世界の人たちが知ったら驚愕どころじゃないだろうな。

って、どうにかしないと。打開できる策は、これしかない。

「キャプテン、色々聞きたいことがあるでしょうけど、待って下さい」

バッターボックスにまた入った。

左側だ。

「クソ野郎がまた狙ってます」

「そうか。クソ野郎がだな」

阿吽の呼吸でキャプテンがボールを握り、ピッチング。

地面に突き刺さり、抉り、穿ち、空中へ再び発掘する。

 あの毒色の蚯蚓が、放り出される。

うねる身体の先端が爆発寸前レベルで膨張し肥大しており、出された衝撃で悪臭がする何かを噴出した。

それはちょうどストライクゾーンに向かって。

 それに対しニックさん、バンドの姿勢に変えた?

って、ルノさんのいる方向にその何かが飛んで行った?!!

「予想通りじゃねぇか!」

跳び上がり気味で、その何かをバットで捕えた。

安打になるであろう軌道に変えた何かは、そのまま蚯蚓に突き刺さった。

蚯蚓は、コバルトブルーの飛沫をぶちまけつつ、グランド穢し、静まった。

 ……バンドでホームラン狙えてませんか? これ。

あとルノさんの不運が相手からの攻撃を自らに誘導する能力になってません?


 さてと。

「審判! すいませんが、これを」

研ぎ澄まされた感覚の超人たちが跋扈する中を、僕は素通りして審判団に近づいた。

いや、存在感が物凄くないからワンチャン気づかれずに済むかなーと。

ダメそうならアリムで特攻するか、マヒルちゃんの二次元移動で近づこうと思ったけど。

「君は誰だ。いつの間に近づいてきた?」

やっぱり気づいていない審判団。しかも全員。

ルノさんを取り押さえてるにしても。

「ヒトシ? 気づかなかったぞ」

あ、ルノさんも気づいてなかったんですね。

 僕の存在感の無さは一体どうなっているんだ。

「あの、ちょっとこの柄の部分を握って欲しいんです」

「何だっていうのかね?」

主審があの剣の柄を握る。


「キャプテン! 監督! すんません!

俺はまた行かねぇといけねぇんです! ルノとヒトシが俺を必要としているんで!

チーム登録抹消されるでしょうけど!」

「オイ! どういう……」

「あの蠅みてぇな異形のクソ野郎どもと決着付けてベースボールに戻ってきますんでぇぇぇぇぇ!」

ニックさんが、早口で説明と別れを告げて。

「『天よ 空高く舞い上がれ』 流石にこれならどうだねぇぇぇぇぇぇ!」

ルノさんの世界の勇者が使っていそうな強力な魔術でもって審判団を吹き飛ばしていた。

そしてまた、僕たちは地面から落下するような感覚を覚えながら、世界を転移する。


 って、ルノさんが一人で隔離されて、ニックさんがもっとちゃんと説明し終わったタイミングで転移するべきだったな、と今更ながら思った。

……謝ろ。


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