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四十話 超特急輪転王

超特急、超特急輪転王が当駅を通過します。白線より下がってお待ち下さい。

「非衝撃ホームラーン!!!」

超特急輪転王にホームランを仕掛けるそこの馬鹿、爆速で下がってお待ち下さい。


「下がれねぇんだよ!」

思わず安眠できそうな感触が当てられたバットから伝わり、しかもそれが壁の如く動かない。

バット一本でこの超特急を止めているお前、何をやっているんですか?

“『吹き飛べ』”

急に突風がこの超特急に襲い掛かる。

当超特急に降りかかって来るのはまさかの塩。錆させる上に視界を遮り走行を妨げる気か。

“ニック、まだ持つか! 相当な質量だろう! 海水で濡れた君の服を乾かすついでに目潰しをやったが……”

「まだ持つ! 持たせてみるけどよ!」

ここにいない誰かの声が聞こえる。

しかしこのこの超特急がやるべき事。それは。

超特急輪転王、真特急大蓮輪転王に移行します。

モードチェンジ、変形大漣開花。

職員及びホームの皆さんは改札口へ全てを投げ捨ててお逃げ下さい。

「なんだ? ……ってやべえぇぇぇ!」

鉄道レール、これより破壊します。

特急法典第壱条・“絶対定時に間に合え”を適応。

保安職員の皆さん、ごめんなさい。

ニトロエンジン始動。

邪魔する奴、ぶっ殺しモード。

「ニトロって……気軽にとんでもねぇ事言ってんじゃねぇぞぉぉぉぉ!」

バットで邪魔する愚か者を、車輪とレールの犠牲を払いつつ、死刑にします。

……あれ?

“『遥か飛べ』

くそう! ニックの抑えが効かんか! 色々マズイぞ! 制御し難いが仕方ない”

かつて首都を壊滅に追いやった無量大数台風に匹敵する突風を観測。

局地的な極大災害を感知。

真特急大蓮輪転王、通過予定の駅にて停止させられている、死ぬほど不本意な状態。

原因は一人の男の怪力と突発的な風。

火花が車輪とレールの摩擦により盛大に飛び散るも、全く進まない状況。

事実上の強制停止により、車輪、レール共に破損。通常走行はすでに困難。

許可を。裁判の上告を求む。


「初っ端からニトロって、何考えてやがんだ、この世界は! 爆発するだろ!! これのどこが通常運転だっつの!」

“どう言う物だ、それは?”

「ヤベェ爆弾だ。振動で爆発する。それ使って急加速しやがってる!」

“……と言うより、その物体しゃべってはいないか? ニック、君の大声のお陰で一方的な通信魔術でも会話できるが、同じくらいの声が聞こえてくるぞ”

「つーか電車に人の顔が付いているってどういう世界だ!? しかも脂っこいおっさんの!」

“人ではない物に人の顔? しかも、相当にしゃべる? 何を考えている世界なのだ?”

「それでも人様の顔をバッティングするのは気が引けてたけどよ! んなこと言ってらんねぇ! ヒトシ! 早くしろ!」


最強裁判所より通達。最強裁より通達。最高裁を遥か上に位置する全てを定時に送り届けるのに命を懸ける最強裁よりの通達である。

「なんかさっきから頭悪い事言ってやがんな! オイ! てか、一々声に出さねぇといけねぇのか?

頭の中の思考までしゃべりまくってんな!」

“詳しくはわからんが、同意する”

お前ら二人、死刑。決定。

燃料注入、ロケットブースター発火。

これより音速の壁を突破いたします。

「いたします、じゃありませんわ!!」

うおおお! 我が頭脳に! 我が頭脳に異物発生! 緊急事態!

我が頭脳を緊急スキャン!

頭脳内壁及び超特急頭脳に絵画が出現!

絵画が……動いている! そしてしゃべっている!

「ああもう、先ほど漫画家の先生に頂いたマヒルちゃんイラストがこんな所に使うとは思いませんでしたわよ! 慣れなくてここまで入り込むのに苦労してしまいましたわ。 チャック付きビニール袋は本当に神ですわね!

と言いますか、先ほどの狭い舟でこの状態になっておくべきでしたわ!」

プログラムアンチウイルス、効果なし!

異物排除マジックハンド、効果なし!

かくなる上は気合と根性の全てを無視する大爆走モードで対応!

「ちょっと、話をお聞きなさい! あと今のわたくしは二次元の存在でありますの。微細な隙間より忍び寄れる上にウイルス対策ソフトはもちろん三次元の攻撃すらもききませんの。貴方はわたくしの話を聞くしかない立場なのよ。おわかり?」

……気合と根性の全てを無視する大爆走モードで対応!

「だから、話をお聞きなさい!!!」


うおおおお!

頭脳が! 弄ばれる!

「先ほどから言っておりますように! 話をお聞きなさい! このパルス信号の所を覆いかぶさる事は今のわたくしにもできますのよ!」

のおおお! 頭が割れる!

聞こう、聞こう!

「まずは停車なさい。それからですわ」

命を懸けて定時に着くのを誓ったが、止むおえない。

頭脳に異常があっては走行に異常をきたす。乗客の皆様、ご理解ください。

ブーイングは甘んじて受けます。

しかし、死刑しようとした二人が離れた。これでは執行できないか。

「停車なさいましたね。もうしばらく停車してほしいのですわ」

何!

「不本意は理解できますわ。でもちょっと、いえ、凄く危険ですの。すぐあの二人がそこに再度向かうはずですわ」

バット一本で運行を止めた輩が、確かに休むことなく向こうへと高速で走り去って行く。

それも超特急に匹敵する速度だ。あの台風並みの風を受けていると風力計が示している。

 待て。

この先の鉄道カメラの映像が届いていない。

破損したとは言えわずかに接触しているレールからは何かが侵してきている感触がする!

車輪急速回転!

「ちょっと!」

車輪よりレールを排除する必要があった! 気持ち悪すぎる!!

何かが来ている?!

何が来ている?

色彩、光り輝く毒の様な色彩がやってきている。

明らかに様々な生物の臓器を内包させた色彩の波が打ち寄せてくる。

こんなもの、今までの特急の運行における記録に存在しない。

この波の発生源は進行方向の向こう側。

レールが続く向こう。


「今おっしゃった事は本当? 何という事ですの! 二人は無事? わたくしの大切なご友人ですのよ!」

観測できず!

全てにおいて観測できず!

観測可能な物、それは目の前の色彩のみ。危険性が高いと推定!

「ああ、何て事! 貴方はここでお待ちを! 貴方は特急電車なのですからお客様を守らねばならないでしょう! せめてわたくしが抵抗いたします! ……あの二人ならば同じ決断をなさるはずです!」

隙間がないはずの超絶複合装甲金剛製の超特急頭脳格納庫から不自然な恰好で、その絵は出ていく。超微細な穴があったのだろうか?

「近づいていますわね――――――――――――――――オカクゴクダサイマセ。ゴシュジンサマ」

当超特急のペイントの様に張り付いたと思ったら、三次元の少女の姿を取って、あの奇妙奇天烈奇怪な毒の波へ向かって行く。

破損したレールを片手に、立ち向かっていく。

仲間がこの超特急を妨害しようとしたのに、この超特急を護ろうという気か。

 最強裁判所がこの定時に着くのが困難の事態と判断した。

そしてこの超特急輪転王の重い過失はない。定時に着けないという“残念”という判決だ。

不可抗力が続いた結果として、そんな判決が出た。

だからと言ってこの定時に着けないという事態は、許すわけがないのだ。

乗客たちが、ブーイングを止め、別な声を挙げてくる。

特急法典第壱百五拾参条・“あいつ嫌い”を適応します。

乗客の皆様、いいですね。


WE HATE LATE! WE HATE LATE! WE HATE LATE!


「遅れるのは嫌だ」全く同感です。

皆様の命より大事な定刻到着。今一度、お命を犠牲にしてでも試みます!

当超特急が謝るのは定刻に着かない時ではありません、レールや設備を壊して保安職員に謝る時だけです!


無問題ノーマンタイ! 無問題! 無問題!


 乗客の皆様が一斉に答えた。ではご準備のほどを! 10秒で遺書をしたためて下さいませ!!!





  ロケット点火!!!!!!  イグニッション!!!!!!!





「オイ! 馬鹿か! この世界の奴らは全員馬鹿なのかよ! クソ女神とは違う方向で!」

「なんかうちのバカを思い起こさせるんだが!!」


これより真特急大蓮輪転王は乗客の皆様のご協力により、超越新幹線超絶輪転王とクラスチェンジいたします。

皆さま、ご一緒に!


LET‘S GO TO HELL! Bravo!



 この超越新幹線超絶輪転王と乗客の皆様の全ての命をかなぐり捨てる覚悟で進行方向へ爆走をし続ける!

進むごとに酷くなっていく醜悪な色彩、光景。

振動に酔った訳でもないのに吐き出す乗客の皆さま。

加速で身動きが効かない皆さまの御意思を無駄にいたしません。

色彩が大地とレールを穢し進行の更なる妨害ととなるも、ロケットエンジンは更なる唸りをがなり立て続ける!

戦車砲の24時間連続砲撃にさえ耐える超越新幹線超絶輪転王の体から悲鳴が上がり続けるのを、気合と根性で全てを無視し続け、乗客の皆様が定刻到着のお守りを必死で握りしめる。すると見えた。

 この色彩と臓器の元凶が。


 穴。

まずはそうとしか言えない。

正確にはトンネル……いや肛門? 口腔? ……性器?

盛り上がった丘の様なグロテスクな蛍光を放つ塊。そんな物体にぽっかり真っ黒く開いた穴。

そこから異形の水による、波が打ち寄せてくる。

 ……命を懸けろ。定刻到着の害をなすものに対して!

ロケットエンジン、これより第一宇宙速度まで加速!

天には青い月がある。

あの衛星になれる速度で、この害悪を排除するのだ!

「おう、クソ馬鹿。でも、思い切って行って来い!」

先程のバットの男が、この超越新幹線超絶輪転王の体を、今度は加速させる方向にバットをスイングした。

色彩をバットのスイングによる風圧で除けつつ。

さらに加速! さらに加速! さらに加速! さらに加速!!!!

「イッテラッシャイマセ。ゴシュジンサマ」

どこかからか少女の声が聞こえ、倉庫にいつも置いている廃油をかけられた。

「炎を纏え。君の様なバカはそこまで嫌いではない『燃え尽きろ』」

そして! 炎がこの身に包まれた!

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

この超越新幹線超絶輪転王を邪魔する色彩が、この炎と速度により焼き尽くしていく!

色彩に侵されたレールの上に無礼に鎮座する丘、その穴。

真っ暗な闇を、この超越新幹線超絶輪転王が照らし突き進む!!!


 穴の中、それは絶望。

得体のしれない七色の蛍光色の内臓と思しき物体が壁面に、天井に、地面にと所狭しと敷き詰められ、表現する気力さえ失われる感触が、全身に覆われる。

先程包まれた高温の炎でさえ、第一宇宙速度に到達させたロケットエンジンさえ。

ゆっくりと絶望感が忍び寄って来る。

炎は消え、速度は遅くなり続ける。

超越新幹線超絶輪転王、まさかの体中からの悲鳴が、乗客の皆様の絶望感が、押し寄せる。

諦める訳にはいかないのに。



Bravo……Bravo……Bravo!!!



「こういう馬鹿は嫌いになれねぇな! Bravo!」

あのバットの男の声が、聞こえる。

かなりの大声だからか。

すると一瞬、斜め前方に光が届いた。

「…………ォォォオオオオォォォ…………」

何か、人の形をした巨大な岩が高速落下してくれたように見えた。

そしてまた一瞬。

“『飲み込まれろ』”

今度は後方に光が差し込んだ。絶望を与える蛍光色が地面に広がった影に吸い込まれるように感じた。

“その愚直に自らの責務を完遂しようとする姿勢は評価しよう”

女性の声がどこからか聞こえてくる。

そしてもう一言。

“『遥か飛べ』 私のこれが全力だ”

来たのは、風。


そしてこの超越新幹線超絶輪転王もまた。

呟いた。


第二宇宙速度、突破

この大地の引力を振り切ります



そして、叫んだ。




Bravo!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!








 乗客の皆様、少々定時には遅れましたが、到着でございます。真に申し訳ございませんでした。

乗客の皆様は、この失態にも関わらず

Bravo! Bravo! Bravo!

と笑顔で下車されていった。

 保安職員の皆様、定時到着のために多くの物を破壊してしまいました。

申し訳ございません。

GOOD JOB!

と保安職員の皆様はあの異形の物体が残っているだろう場所へ、先ほどの超越新幹線超絶輪転王が経験した速度よりも速く、修理へと向かう。

定時に絶対的に間に合わせるのだろう。

 超越新幹線超絶輪転王、だった絶賛故障中輪転丸はこの場から動く事すらできない。

この大地の引力を振り切るだけの速度を定時に到着するのに使い切った。

もうすぐ牽引列車が来るだろう。

やはり、定時発射は無理だ。

すると。

「…………ぁぁぁぁぁああああああああああ!」

との叫び声が聞こえてきた。

生身の人間としては中々無理のある速度で駅のホームに突っ込んできた。

「衝撃吸収バンド! で着地!」

そして、地面にバットを地面に突き出して一切の衝撃もなく降り立った。

あの先ほど死刑とした二人だった。

「風魔術禁断で移動したのは、学生時代以来だったが……やるものではない、な……」

「オイオイ、大丈夫かよ。二人共よ」

二人?

すると黒い肌の男の背からホームにあの超特急頭脳格納庫に現れた少女の絵が広がった。

「あたくしは問題ないですわ。それにしてもこの姿は予想外に使えますわね」

「どんどん何でもアリになってきてねぇかよ。絵に変化ってムチャクチャじゃねぇかよ」

「うぷ……」

「ルノさん、ここで吐くのはよろしくないですわよ! あたくしにかかりますわ!」

「やっべ、なんか袋ねぇか?」

この絶賛故障中輪転丸の御座席にエチケット袋がございます。

よろしければお使いください。

「渡りに舟ですわ―――――――――――――――ショウショウオマチクダサイマセ。ゴシュジンサマ」

「ヒトシ、投げろ! よし。おら落ち着け。背中さするぞ」

「…………ああ、くそう。ついとらん。助かったよ」

定刻到着に御妨害された事に死刑判決を下しましたが、同時に定刻到着の援助をして下さったことを深く感謝しております。

もしよろしければ、お飲み物と軽食もございます。

牽引列車が来るまでにお取りくださいませ。

「すまねぇが多めに貰うぞ」


女性を介抱しつつ、飲食する二人。

あの小柄な少女が地味な少年に変化したのはなんなのか。

「……私も貰おう。食わねば持たん」

「今食うのかよ。タフだな。オイ」

「無理しないで下さいよ」

そろそろ牽引車が来ると連絡が入った。

何かございましたら早めに絶賛故障中輪転丸にお申し付けください。

「んじゃ、この剣の柄をドアに挟めるぞ」

すると男は背負っていた剣を差し出す。

そして引っぱった。

「んじゃな。あとBravoぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ところで、それどういう意味だぁぁぁぁぁ?!」

「お邪魔しましたぁぁぁぁぁぁ!」

次の瞬間、あの三人は地面に吸い込まれる様にいなくなった。

絶賛故障中輪転丸、御旅行の安全をお祈りいたします。


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