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三十七話 わだばけやぐ

「取り合えず、食糧は確保した」

「わいはー。どんばだ」

例によって酷い事になっているルノさん。

4人で密着した状態で異世界に移動したところ、ルノさんだけがなぜだか引き剥がされる様に少し離れた悪い状態の場所に転移してしまった。

手にしている木の実はその戦利品ではある。

「よりによって猿がたくさんいる檻に転移って、なんでこうなるんですか。しかもルノさんだけ」

「全く、何かろくでもない呪いでもかけられているのかと我ながら思う」

ルノさんに襲い掛かった猿たちは、軽く全身を炙られ、檻の床部分に生首状態で鳴き叫んでいる。

檻の底から猿の首から下がぶら下がっている状態だ。

ルノさんがやる、『沈み込め』っていう魔術をかけられたらこうなるんだな。

「だからって、檻にいた猿の餌を奪うのはどうかと思うんだけどよ」

「なんだろうと食えるものは確保せねばならん。この世界の状態がわからんのでな」

多少は八つ当たりの感はあるな。猿の餌なら毒はないだろうし。

いきなり出現した人に驚いて襲い掛かったら、焼かれて生首状態になって、餌まで取られた猿も災難である。

「怪我は大丈てで? 酷ぐかっちゃかれていら」

「引っかかれた傷は顔だけではある。服で他は問題ない。となると目立つだけに顔の化膿や感染症が怖いな。仕方ないやるか『燃えろ』」

って、自分の顔を燃やしたよ、この人!

「オイ! 無茶だろ! いくらなんでも!」

「止まなぐまれ! めごい顔のんだかきや! わだばおうじざま!」

そんなルノさんの腕を掴んで止めたのが、前訪れた世界から一緒にきた女の人。

社交ダンスで着るような赤いドレス姿の、多くの動物たちがいる空間にはそぐわない服装で、この世界にきてから意味がよくわからない方言を放っている。

前の世界だとこういう口調じゃなかったんだけど。

確か名前が……イグサンプル・バッドだったか。

「わだば、もうざ、そんな名前でね。イグサンプル・バッドは、死んでまね」


 この女の人が探してきたアルコールで消毒して、ルノさん持参のワセリン状傷薬を塗って、同じく持参の包帯を顔にミイラみたいに巻いて取り合えず治療。

薬の消費が早い。

こんなんだから初めて会った時は薬を切らしていたのか。

「つーかよ、ルノの通訳を介しても分かりにくい口調になっちまったけどよ、どういう事なんだよ」

「正直、この通訳魔術の性能が私の想定と違っているのだ。その人の思考やしゃべりの影響がその時やその人によって異なる事がある。構築した私にもわからん」

あのギャルドラゴンとかまさにそれだな。

「それだげども、わだば前世の記憶さ戻りますたぁ。そんで前世と今生の思いさ大切にしで、こん体でお天道様さ恥じね生き方ばしていこうど思ったかきやではねべさか」

「それは結構。どこまで君と行動を共にできるかわからんがね」

「なが言った事じゃし」

「てか、通訳できてんのかよ、これ」

うーん。


「まあいいや。お前ら、助けてやっから、少し黙れ」

するとニックさん。

猿が生首状態で叫んでいる檻を、バットで叩くと。

すぽん、という軽快な音と共に、猿が全員某黒ひげと同じ様に飛び出てきた。

 助かったのはいいけど、さらにパニックに陥いる猿たち。

それに連動して騒ぎ出す鳥たち、鹿、牛、馬、ラクダ、何かの肉食動物、巨大ネズミ的動物に、ミニ象らしき動物たち。

 うわあ、まさに動物園。多分、今僕たちがいるのはそのバックヤード。

あまりのうるささで最早会話すらできない!

“魔術で通信するしかないな。実はあまり魔術を使えん者と双方でやるとりする通信魔術は得意ではないのだが”

“すまねぇ。威圧すりゃ大人しくなるとは思うけどよ。あんまやりたくねぇしよ”

“ごのベコに馬っご、水が足りてねぇべ。まんま、よろ足りのぐて怒っていら”

水に、餌? あ、猿の餌は結構あったけど、他の動物はあんまりないな。

てか、飼育員どこ行ったんだ?

こんだけ騒いでいたらすぐ来るもんじゃないのか?

“水か。それは私がやっておく。こやつらへの餌を探してみてくれないかな”

“乾草さ、食わせるべ”

赤いドレスの女性がドアノブに手をかけた時だった。

「下がれぇぇぇぇ!!!」

動物たちが騒ぐ中でもニックさんの声がはっきりと聞こえてくる。

大股で檻を乗り越え一瞬でバットを女の人の背中に付く距離まで近づく。

女の人が宙を舞う。

いや、明らかにバットにくっつけて放り出したぞ。

 続いてバットは高速で振り回され、豆の様な固い物体を次々に打ち取っていた。

ああ、これ。

“くそう、戦争か”


「連射だけは早いピッチングマシンだな、オイ!」

ニックさんがあと一歩で外に出る位置で、バットを高速で振り続ける。

自らが的になりかねない位置で。

一点集中のマシンガン射撃は、コースが決まっている分、マッハスピードで的確にヒットにつなげる事の出来る人物には脅威とはならないというのか。

しかも見れば弾丸をそのまま相手にお返している。

これはニックさんがおかしいだけだろうけど。

 いや……、マズイな。

「『燃え尽きろ』……くそう。そして『巻き上がれ』」

マシンガンを撃ち続けるロボ数体が炎の竜巻に襲われる。

「ダメか。ではどうか。『吹き荒れろ』そして『巻き上がれ』」

すると風雪が竜巻に柱の様に乗って巻き上がる。

ロボが数体、氷像同然になって固まり付いて、沈黙した。

強烈な寒暖差で破壊したか。


 これはなんだったのか。

記憶とルノさんの魔術で氷漬けになった残骸から言って、四つ足の戦闘ロボ。

牛や馬並みの大きさに、顔には機銃、背には諸々を積み込んだブラックボックス。

それもニックさんがピッチャー殺しの要領で返した無数の弾丸、ルノさんの炎魔術でもってもなかなか仕留め切れなかった。

ああいったロボットが開発されているのは僕の世界でもあったけど、それが戦車の様に頑丈になって戦闘ロボとして実用化されている世界なのか。

5、6機がまとまってやってきたのだからこの動物たちが放置されてしまうのも無理はない。

って、そうだ。

「キャプテン・レッドが! 脅威は過ぎ去ったかどうか! 確認しよう…………!」

来る。

後ろにもある扉。

足で蹴破られて。

そこからマシンガンの顔が覗き込んできた。


 ますます動物たちは騒ぐ。

パニックになって檻に体を打ち付ける個体もいる。

でもかまっている暇がない。

「…………ォォォオオオォォォ…………」

アイアンゴーレム。

両手を広げて立ちふさがる。

続くマシンガン射撃。

多くを受け止める。

ロボが射撃し続け、動物たちの間を掻き分け、入り込む。

「落ちづいて。なも、わの、けやぐ。わの、けやぐ」

そこに赤いドレスが翻った。

ロボの後ろ足。飛び掛かり、足をくの字に関節を極めた。

不安定になったロボを巧みに転がし組み伏せる。

「怖ぐね、怖ぐね。どうどう」

そう言うとドレスの裾をロボの顔にかけ、ひっかけて覆い被せた。

スン……と、ロボは動きを止めた。

……マジ?


ドレスを破って顔に縛り付ける。

「ベコも馬っこも、めんめ隠せば大人しぐなる。もう大丈夫だども」

いや、その前に。

「いや、君は何者だ? と言うより、何者だったのだ?」

関節技のアームロックの要領で四つ足戦闘ロボの後ろ足を極めて転がすって、どういう事?

アリムじゃあるまいし、そんな細腕で!

「わだば……まいねぇ!!!」

まいねぇ。

この意味はわからない。

でも、言いたいことはわかった。

空に、見慣れたこれ以上ない禍々しい暗闇が渦巻いていた。


「キャプテン・レッドが確認する! 何が出てくる?! 何が!」

何が来る?

空に渦巻く暗闇は無くなろうとしている。

でも、何も確認できない。

視覚も、聴覚も。

くそ、他の感覚を研ぎ澄ませろ。

動物たちの騒ぎがうるさい。

一向にうるさい。

……凄く……? うるさい……?!!

「レッド・エレクトリック!」

何か、いる!

キャプテン・レッドの両腕から、前方に広く電気コードが伸びる。

そのうちのいくつかが、虚空に突き刺さる。

続けて流れる並みのザコなら一撃で倒せる高圧電流がその何かを追撃する。

 ショッキングピンクが、その空間に広がった。


「オラァ!」

「『燃え上がれ』」

ショッキングピンクに炎が上がり、同時にバットが斬撃する。

でも。

「同士よ! ダークシャドウは! ここに色彩を置いて! どこかに消えた!」

「音も気配もねぇ! 動物が騒ぐしよ! 狙っているのは俺らだ、一旦ここから出るか?」

「待て! 『燃え上がれ』」

部屋を一瞬覆う炎。動物たちのパニックが一瞬悪化する。

扉、窓。ショッキングピンクが遮った。

「触るな! ロクな事が起きんだろう!」

「このキャプテン・レッドが攻撃に使ったコードだが! 一部融解している! 原理不明だが、強力な酸かアルカリだ! 動物たちも近づかせるな!」


 状況。

外に出られない。

動物たちが多数いて、パニック状態。

声が届かないし、近づくとお互い不利益しかない。

そして、今回の異形。

透明でしかも気配が全くない。ダメージを食らうと空間に広がったショッキングピンクだけを残す。

そのショッキングピンク。

何やら粘液を垂らし、妙な煙を発生させている。

……もし攻撃をしなかったら、ここがもし屋内じゃなかったら、ここまでの状況にならなかった?

「君! どこに行った!」

「あ、あいつか?! いねぇのか?」

あれ?

あの赤いドレスの人がいない?

隠れている? いや、今回の異形にそれは悪手だ。

 何か匂いがする。

甘い、嗅ぎ覚えのある……。

「火ば使ったら、まいねぇ!」

その人は一番背の高い檻に上って、袋から何かを撒いていた。

あ、粉ミルクか、これ。

動物用の。

 キーキーキー。

猿たちが、一点を指さしている。

宙を舞う粉ミルクがぽっかりと空いている空間に向かって。


「勘弁な!」

ニックさん、バットを振るう。

檻の一部をスイングで千切って、そのままその空間に向かわせる。

音もなく、ショッキングピンクがそこに広がった。

ショッキングピンクに鉄パイプが突き刺さり、そこから液体が滴る。

でもまた移動しているのだろう。

粉ミルクが撒かれる。まだ異形がどこに行ったかわからない。

 っぺ!

誰か、何か吐いた?

「ありがとごし。そこだべ」

ラクダ吐いた涎が、虚空に浮かんで移動している。

「『吹き飛べ』」

手元の工具を突風で飛ばす。なおもショッキングピンクが広がり、まだ仕留め切れていない……?

キー! モー! プーイ! ヒヒーン! ガオ! ギャー!-

一か所に向かって威嚇が集中した。

部屋中の期待を載せたバットがそこに炸裂した。


……ん?

何かおかしいよな。

静かだ。動物たちがあれだけ騒いでいたのに。

異形に対してだけ、的確に威嚇している。

聞こえる声。

「けやぐ。けやぐ。なーど、わだばけやぐ」

あの女の人の、動物に向かっての声だけだ。

 いや、それは今考える事じゃない。

異形は明らかに粉砕されている。

ショッキングピンクがペンキをぶちまけたみたいに飛散している。

でも、空間に浮かんでいる色が、動いている。

少しずつ、一か所に。

「くそう! ニック、君ではどうだ?!」

「駄目だ! 本気でやっても効果ねぇ!」

無敵状態? まさかゲームじゃないんだぞ。

ルノさんの魔術、ニックさんのバットスイング、アイアンゴーレムの打撃。

それらでもピンク色の集合を止められない。

「……なんとか、地面に固定させろ。その隙に飲み込む」

「難易度たけぇな」

ショッキングピンクが部屋の中央に集まり、人の様な姿を取り出す。

微妙に宙に浮くそれの、色の彩度が上がり出し目が潰れそうになる。

目をそらすな。いや……、まさか術中にはまってはいないよな……。

クラッとして、アイアンゴーレムの膝が強かに地面に落下した。

ルノさんとニックさんもおかしい。

二人とも距離を取ろうとするが、動きが鈍い……。

動物たちですら、不自然に座り込んでいる。あれだけ興奮していたのに……。

「けやぐ。撃って」

その声が聞こえた。

マシンガンが射撃される。

え?

あの牛か馬位大きい、頭に機銃を装備したあのロボに、赤いドレスの女の人が寄り添い、射撃指示していた。

「伏せろ!!」

続いてルノさんの大声。

次の瞬間。

射撃しているマシンガンから火花が飛び、それが部屋中に広がって。

爆発した。


あ、そっか。粉ミルクを散々撒いていたから。

粉塵爆発だ。




「みんな、無事じゃか?」

「異形は?」

「いねぇな。吹っ飛んじまったか? ヒトシ、確認してくれ」

「…………ォォォオオオオォォォ…………―――――――――――キャプテン・レッドが確認するに! 周囲にはダークシャドウらしきものは確認できない! とは言え! 動物たちに確認させた方が良いようだ!」

「わだば、けやぐは何ともない言ってら。匂いもなんもない」

「私の国の炭鉱でな、しばしばこの手の爆発が起こるから知っていたのだが……、自分で火を使うなと言っておきながら、火器を使うのはどういうことだね?」

「申し訳ね。必死で頭が回らねだ」

換気の悪い炭鉱でよく発生する爆発でしたね。

燃える埃とかが空気中に舞っていて、それに連鎖的に火がついて爆発する粉塵爆発。

ちょうどアイアンゴーレムになっていた僕はなんともなかったけれど、他は中々酷い事になった。

いや動物たちは地面に伏せて何を逃れた。あのショッキングピンクを見て、座り込んでいたのも結果的によかったか。

予想以上に無傷なニックさん。

バットスイングで何とかしたとか言ってるけど、また物理を捻じ曲げている気がする。

例によって、ルノさんは焦げていた。

「まあ、いい。

ともかく、今回は乗り切れたようだ。

それで聞きたいことは多々あるのだが」

「わだばの事だべか」

赤いドレスは破れすっかり汚れてはいた。でも彼女は胸を張り、ロボに跨る。

「わだば、農家の娘じゃ」


「わだばの前世は農家の娘じゃ。ベコと馬っこをけやぐにして、ゲームをよくやっと。暴れる馬っこを寝っ転がすの、そん時に覚えたとじゃ」

前世は農家の娘で、牛と馬を友達にしていて、テレビゲームをよくやっていた。

乙女ゲーはその時やっていたのだろう。

「けんど、驚いた馬っこに蹴られて死んでまね。まいねぇのはわだば。馬っこさ悪くね」

でも馬に蹴られて死んでしまった。まいねぇとは良くない、と言う意味か。

「わだばがわだばだと気づいた時、あんゲームのイグザンプル・バッドになっとったじゃ。あんゲームを看取れた。もう未練ばね。だども、ひとつば贈り物貰えたとじゃ」

私が私だと気づいた時、あのゲームのイグサンプル・バッドになっていた。

ゲームを看取れて、未練はない。でも、ひとつ贈り物があった、と。

……なんか普通じゃない動きしていたもんな。

「イグザンプル・バッドに破邪の力ばあったと。そんれは元の設定にだけあっだ、聖なる獣の力ば借りる能力。

わだば、けやぐの気持ちばわかる様になったとじゃ」

イグザンプル・バッドに破邪の能力があった。それは元々の設定にだけあった、聖なる獣の力を借りる能力だった。

私は動物の気持ちがわかるようになった。あ、けやぐって、契約から転じて友達か?

この人の場合、モロに契約なのかもしれないな。


「なが言った事じゃし」

あなたが言った事です。

「私が君に言った、ただ善行を成せ、という事かな?」

ルノさんらしいな。

「んだんじ」

そうです、と。

「わだば、ここでけやぐと暮らきやしたい」

「そうか、今回爆発を起こしたが、それがよいかもしれん。君をかばい続ける余裕はない。毎回、異形と戦わねばならんのだ。ついとらん事にね。ただ言葉は通じないだろう。それは覚悟してほしい」

「この世界はよ、戦争やってる。それでもあきらめんな。好きな事を大切にしていろよ。俺の世界でもこないだまで戦争やってたんだけどよ、そうやって生き延びた奴は多い。

俺自身も似たようなもんだ。

好きな事を無くしちまうかもしれねぇ、でも守れる範囲で守れ。悪い事はねぇはずだ」

「んだ思でゃ」

そう思います、かな。


「こんけやぐ、わだばといてくれる言ってら。元は馬っこだったべ」

優しく機銃付きの頭を撫でる。

あの爆発でもビクともしていないから、耐火性能はかなり高い。

信用できるの戦力があるのは安心できる。

しかし、本当に馬を改造したのか。

あと指令みたいなのが電波とかで届いていそうだけど、それをこの人は解除してしまったというのか。

「なら、悪い事をしてしまったかな。私が仲間を氷漬けにしてしまった」

「仕方ね。また元気になるかもしれねじゃ。家さぁけえる様にさいっておぐ」

天井から日光が差し込んできた。

爆発で天井が吹き飛んだか。

ボロボロで汚れ切った赤い服を着た彼女の門出を光の中で祝福するかのように。

動物たちに見守られながら。


「ソレデハコレデシツレイシマスゴシュジンサマ――――――――――――――突貫でしたけど、屋根は大丈夫ですよね」

「ありがとーごしござでゃ。なんからなんまで」

糞で汚れたツナギを着て彼女は僕たちに頭を下げる。

また異世界に移動するその前に、屋根を塞ぐことになった。

ただ予想外なのは。

「おら、猿ども。ありがとな」

ニックさんが猿とブルーシートをバットで釘打ちしながら屋根に貼っていて。

「鼻をかくも伸ばし、器用に扱うとは驚きだ。助かったよ」

ミニ象が鼻で、とルノさんが風魔術で屋根に資材を運んでいて。

ごしごしごし。

牛や馬、ラクダに頭を擦り付けられる僕。

アリム状態で資材をここまで運んだのだけれど、なんだか懐かれた。

「これでお別れとじゃ。

わだばわだばだった事、あたくしがイグサンプル・バッドだった事、そいを背負って生きていく。ほんに、ありがとーごしござでゃ」

 なんか、この人ターザンみたいになっているな。

放置された動物園で、動物たちと共に生きていく。

新たな人生に幸いがあるのを願うだけだ。


ニックさんが背負っていた剣を倒す。

すると……え!?

「『降りしきれ』……シャレにならんぞ!」

煙が出ているドラム缶にルノさんが魔術で大雨をかける。

「ゴミば燃やしたけんど、なんぼしましたぁ?」

ニックさんが速攻で火が消えたドラム缶に手を突っ込む。

「おい、まさかこれじゃねぇよな?」

出したのは燃え尽きかけた赤いドレス。

辛うじて布地が残っている状態だ。

「もう着る事のないべべでしたけんど……」

「多分これを使って剣を抜かないと、異世界に転移できないんですよ」

「そしたら事あるのすぅ?」

そんな事あるのかって?

そんな事ばっかなんですよ!


「……では抜こうか」

「……おう」

辛うじて残っていたドレスの生地を柄に巻き付け準備する。

息絶え絶えに必死になった僕たち。

一体お前ら何してんだ、という動物たちの眼が痛いよ。

……動物たちと前の世界から来た女の人の視線が気になる。

何かを見つけた?

「わんどはのんとかします。大丈夫てで」

「戦争中だろ。俺らはまだ手伝えるぞ」

「早ぐいってけろ。わだばおうじざまがた」

かすかに聞き覚えのある音が聞こえてくる。

あのロボに近い何かの。

「わんどはここで生きてあべます。なんどのやらべき事ばしてけろ」

「……承知した。幸運を祈る」

「ただ善行さ勤めなぐます。お達者で」

「君もね」

剣を抜こうとした。

やはり抜ける事はなく、僕たち三人は地面から落下する様に、この世界からいなくなる。

いなくなる瞬間、彼女と動物たちが手早く展開するのが見えた。


もう、きっと大丈夫であるのを祈るだけだ。


今回、津軽弁らしきものを使ってみました。

らしき、というのは自分が書きやすいよう勝手に変えた部分があるからですが。

もんじろうhttp://monjiro.net/というサイトの機能を使って、聞き覚えのある津軽弁を混ぜ、しかもやりやすいようにした形です。

一部意味が不鮮明かもですが、大体を掴めてもらえれば大丈夫かと。


余談。

馬の脚をアームロックみたいな形で関節を極めて馬を転がしてしまう、というのはどうもロシアの騎馬民族のコサックにそういう技術があるようでして。

子供でも寝かせてしまえるとか。

サンボ・柔道で有名だったビクトル古賀という方の引き上げ時の壮絶な状況を聞き取った「たった独りの引き上げ隊」(石村博子)の一節にそういう記述があったのです。

どうもビクトル古賀の関節技のルーツに牛や馬を制御する技術があると言う文脈で出たので、関節技なのは確かですが具体的にどうやったかはまったくわかりません。

牛ならもう合計8年近く世話しているのですが。

可能性があるのは倒牛法を素手だけでやったのかなと。

田中畜産の和牛チャンネル https://www.youtube.com/watch?v=JuENt1Arjs0

長いロープだけで牛を転がして子宮捻転を治すのに用いられる方法になりますが、素手だけでやれるかはわかりません。

四つ足の動物なだけあって、安定感は相当ですし。

牛の脚を持つこと自体はコツさえ掴めば中学生でも可能、と削蹄士でもある田中畜産の社長は言ってましたが。


ただ女子がロボット馬を素手で制御してしまうのはビジュアルとして面白いので採用してみました。

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