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三十五話 悪魔・悪しき者との会話

私はこのように聞いた。

ある時師は大樹の下で座して瞑想をしていた。

度々、悪魔・悪しき者が訪れては身の毛もよだつ程の恐怖を起こして、瞑想を止めさせようとして師に近づいた。

その度ごとに師は「これは悪魔・悪しき者が身の毛もよだつ程の恐怖を起こして、瞑想を止めさせようとしている」と気づき、こう言った。

「友よ、悪しき者よ。私はあなたの動揺を受け取らない。あなたがあなた自身の動揺を受け取り、食べるがよい」

 そして悪魔・悪しき者は「師はわたしの事を知っておられる。正しい御方はわたしの事を知ってられるのだ」と打ち萎れ、愁いに沈み、持っていた琵琶を倒し、去って行った。


 またある時。

思いもよらぬ、見分を超えた、不可思議な悪魔・悪しき者が師の元に訪れ、それは師の心、表象、想像の中に入り込んできた。

「うお!」

「うわ!」

「ぐむ!」

それは三人の悪しき者・悪魔であった。

「って、ルノ! 大丈夫かよ! 俺らの下敷きじゃねぇか!」

「今回シンプルについてませんよ! 大丈夫ですか?! 僕とニックさんとバットで200キロ近い重量ですけど!」

「くそう。うちのバカに押しつぶされたような痛さだ。ついとらん!」

 その姿は度々現れる師の心、表象、想像の中に入り込む悪魔・悪しき者とは違う姿であった。

それは黒い肌の男、黒い服の少年、奇妙に青い女の悪魔・悪しき者たちだった。

「全く、やはりといえばやはり、私ばかり怪我をする」

「大量にルノさんの服の中に薬や包帯を仕込んでいたのがさっきから活躍してますけど」

「内側にポケットとかやたら多いみてぇだしな。ただ今回は一体どういう所だ? 前にもこんな感じの所に来た覚えはあるけどよ」

師は「思いもよらぬことだ。これは誰であり、何なのだろうか」と微細に緻密に思考した。

「これはこれらは、悪魔・悪しき者だろう。語りかけてこないのならば、こちらから詩をもって語り掛けてはどうか」と思った。


「不可思議で思いもよらぬ姿をとって悪魔・悪しき者は如来を惑わすという禍いを醸し出した。

そのような姿であれ、足の指さえも動じない。

動じないが故にこの如来に悪の報いは起こらない」

このように師は悪魔・悪しき者に詩をもって告げた。

「なんだ? なんか声が聞こえる? いや、ルノの魔術での通信みてぇだ。誰かいやがんのか?」

「確認します――――――――――――――――――――――このキャプテン・レッドが見、そして聞いた限りでは! 周囲に人間はいない! だがこの感覚! かつて覚えがある! おそらく何者かの精神の中ではなかろうか?!」

悪魔・悪しき者の一人はさらに姿を変え、なおも師を惑わそうとした。

「悪魔・悪しき者か。まあ、この言葉を放つものが人間であるならば、私は魔王であるからそういわれても仕方はないが」

またある悪魔・悪しき者の一人は、師を惑わそうとし、我は悪魔の王の魔王であると、言った。それは奇妙に青い女であった。

 師は「かつてないことだ。魔王が現れこの如来を惑わそうとしている」と気づき、この言葉を思った。

「色鮮やかな悪魔が、この物体であり体である色を見せて動揺を誘う。それ故に、色を如来は楽しまない」


「今の言葉はどういう意味だってんだ?」

黒い肌の悪魔・悪しき者が言う。

「同士よ、見ろ! 我らの色が……」

赤い体の悪魔・悪しき者が言う。

「な?! 特に私が……」

奇妙に青く、これほどまでに人の心を固く捕える色は他にない、女の美しき色を誇る魔王が叫んだ。

「マズイ! 体の色……いや体ごと背景に溶け込んでいく! くそう!」

奇妙に青く、これほどまでに人の心を固く捕える色は他にない、女の美しき色を誇る魔王が如来の精神より、消えていく。

「くそ……う……」

「ルノ! クソったれ! 非衝撃ホームラーン……感触がねぇ?」

「同士よ! しっかりするのだ! 色彩と共に体を消し去っている! 色と体を保つものはないのか?!」

「なんで俺らとルノで色が消える速度に差がありやがんだ? ルノはほとんど一瞬だぞ!」

「く……そ………………」

奇妙に青く、これほどまでに人の心を固く捕える色は他にない、女の美しき色を誇る魔王が如来の精神より、消えていく。


「………」

師は心の動揺を止め、奇妙に青く、これほどまでに人の心を固く捕える色は他にない、女の美しき色を誇る魔王が如来の精神より、消えていく。

「やべぇぞ。俺らも消えて行っている!」

「精神の世界ならば! こちらから何かできるかもしれぬ! だが……このキャプテン・レッドの、同士たちの言葉は! 果たして通じるのか?!」

師は心の動揺を止め、これほどまでに人の心を固く捕える色は他にない、悪魔・悪しき者の姿が如来の精神より、消えていく。

「“勤め励むのを、楽しめ”」

魔王の、最後に残った口から言葉が紡ぎ出された。


 師は、その言葉を留められた。

かつて心を最上に澄やかにした時に心に浮かんだ、そしてまた悪魔・悪しき者に戸惑う屎尿を掬うチャンダーの民に告げた言葉を思い出したからである。

「“勤め励むのを楽しめ 心を護れ 自己を難所から救い出せ。屎尿に落ち込みし牡牛の様に”」

そしてそれは悪魔・悪しき者に戸惑う屎尿を掬うチャンダーの民に告げた言葉そのものであった。

「ニック! ヒトシ! 抗え! いかに苦痛に満ちた最悪の状況であれ、時に力づくで、時に元凶を突き止め、苦痛を無くすがために方法を尽くせ! 自らをひいては他を救い出せ!

言葉を放つ者よ! 私は魔王だ! 力ある者、それが転じて人を害する意味を持つ魔の王だ! 仕留めるのならば私だけでよかろうが!

多くの者を罰し、殺害した私だけで!

多くの者の飢え、乾きを癒した私だけで!

ディアスの言葉を信じ、頼りにし、この私と他を救い出そうとした私だけで!」


師はこう思った。「こちらから詩をもって語り掛けてはどうか」と。

まことに、聖者の如き悪魔も、悪しき者如き聖者もいるからである。

「悪魔・悪しき者であっても、屎尿を掬うチャンダーの民であっても、血にまみれる事を楽しむ者であっても、のちに怠る事がなければこの世を照らす。雲を離れた月の様に」

 魔王は言った。

「魔である者も、人である者も、苦しみに覆われたり。のちに怠る事なくんばこの世の頼れる灯りとなりたり。天の陽の如く。ディアスの言葉だ」

それは正しく、悪魔・悪しき者であっても正しかった。

師はこう思った。「さらにこちらから詩をもって語り掛けてはどうか」と。

まことに、聖者の如き悪魔も、悪しき者如き聖者もいるからである。

「正しき者は称賛にも非難にも、思いや欲求にも動じる事はない。それは嵐に臨む大岩のようである」

魔王である女は言った。

「善き者の主は自己でなりけり。罵倒賛辞にも動ずること非ず。其は大水に立つ巨木の様なり。ディアスの言葉だよ。相も変わらず、私は怒りやすいがね」

それは正しく、悪魔・悪しき者であっても正しかった。

師はこう思った。「またさらにこちらから詩をもって語り掛けてはどうか」と。

まことに、聖者の如き悪魔も、悪しき者如き聖者もいるからである。

「怒りを滅ぼし、人は安らかに眠る。毒の根であり最上の醍醐味である怒りを滅すことで、人々は苦しみから放たれる」

鮮やかな魔王である女が言った。

「越え難き、避け難き怒りから逃れし者は、苦しみ難き極上の境地へ至れり。またディアスの言葉だがね。私はそうもいかんのだ。3万の民の怒りを私は背負う。

乗り越えがたい不条理を超えるがために、怒りを時に打ち滅ぼし時に背負うのだ。魔族と人間の軍勢に時に討ち勝つために」


 師はこう思った。

「極一部の悪魔・悪しき者の中には善き道へ至ろうとし、またその善き世間に入った悪魔・悪しき者だった何者かは、善い言葉のみを語るという。如来を惑わす風貌なのはまだその来歴が浅いためなのだろう。ここはお互い善い言葉を交わし、喜び合い、より精進できるのを望むのが正しいのではないだろうか」

そう考えなおし、善い言葉を交わそうとした。

「オイ、大丈夫かよ。さっき口しか残ってなかったぞ」

「……色彩は戻らず、体もほとんど存在しないままだがね。身動きすらできん。言葉が通じる者なのがせめてもの幸いであったよ」

「それにしても、あの僕たちに向けた言葉は、なんか涙が出ました」

「勤め励むのを楽しめ、心を護れ、自己を難所から救い出せ。いい言葉じゃねぇかよ。一発で覚えちまった」

「またもし私の国に来ることがあれば、ディアスの言説集を朗読しようか? 君らも気に入る言葉ばかりだよ」

 だがこの時、師は感じた。

悪魔・悪しき者が来ると。


 思いもよらぬ、見分を超えた、更なる不可思議な悪魔・悪しき者が師の元に訪れ、それは黒い闇の渦を巻きながら師の心、表象、想像の中に入り込んできた。

 それは大きな偶像であった。

象よりも大きな真四角の中に多くの釘が打たれ、その釘に沿ってこの世にある全ての色彩を塗った鉄の玉が上から放たれ、下の穴へと落ち込んでいった。

その中央より少し上には、回転する三つの悪しき法輪を模した何かが回っていた。

「何を意味しているのだ、これは? いや、何の装置だ?」

「スロットマシン? いや、あの落ちてくる玉の意味がわからねぇ」

「パチスロですかね。なんでこんなん出てくるんだ?」

「ヒトシの世界の物体かよ」

 師はその悪魔・悪しき者を師の心、表象、想像の中に入り込んできた時、身に応え、激しく、苦しく、酷く、不快で、不愉快を覚えられた。

足を岩の破片で傷つけられた時より、苦痛であった。

 それは人々の欲望を誘おうとして、奈落に多くを導いてきたのを悟ったからである。

悪しき法輪を模した何かが三つ、瑞々しい果実を表した。

するとけたたましい、喧しい、姦しい、万を揃えた象の軍勢の咆哮を遥かに超えた音が師の師の心、表象、想像の中に入り込んできた。

「今度の異形は騒音で攻撃かよ!」

「このキャプテン・レッド! いかにこの騒音の中においても! 微細な異常を感知してみよう! 困難だが! 諦める訳にはいかん!」

「くそう! 耳すら塞げん! 体が動かん!」

 善き道へ至ろうとする悪魔・悪しき者が苦しんでいるのを見て、師は慈悲心を起こした。

また、この大きな偶像の悪魔・悪しき者への嫌悪感を発露した。

 師はよく気を落ち着け、はっきりと自覚して、心を害することなく、耐え忍んではいたものの、善い道へ至ろうとする者はマヒーの河で取れる砂金の様に、貴重だからである。

師は言った。

「友よ、悪しき者よ。私はあなたの動揺を受け取らない。あなたがあなた自身の動揺を受け取り、食べるがよい」

 象よりも大きな姿、万を揃えた象の軍勢の咆哮を遥かに超えた音を放つ悪魔・悪しき者が小さくなり始める。

象の大きさが、農民の家の大きさになり、厠ほどの大きさになり、馬の大きさになり、犬の大きさになり、鼠の大きさになった。

万を揃えた象の軍勢の咆哮を遥かに超えた音は、千を揃えた象の軍勢の咆哮を遥かに超えた音になり、百を揃えた象の軍勢の咆哮を遥かに超えた音になり、一匹だけの象が嘶く音になり、一匹だけの犬が嘶く音になり、一匹だけの鼠が嘶く音になった。

「おい、聞こえてるか? 油断するな! こいつらは、ここから断末魔を挙げる!」

それは黒い肌の悪魔・悪しき者による象の大声より大きな声であった。

 不意に、十万を揃えた象の軍勢の咆哮を遥かに超え、百劫の間残り続けるだろう音がなり始めた。

 突如として、大王国の王宮よりも巨大で威容を誇る、由旬を超える高さの偶像がそびえ立った。


 偶像の悪魔・悪しき者は、姿形は前と同様ではあったものの、百劫の間恐ろしく永く残り続けるだろう音をかき鳴らし、由旬を超えるほど巨大に変容していた。

大きな真四角の中に多くの釘が打たれ、その釘に沿って鉄の玉が上から放たれ、下の穴へと落ち込んでいった。

その中央より少し上には、回転する三つの悪しき法輪を模した何かが回っていた。

その三つの悪しき法輪は、鍵のような赤い紋様を三つ揃えた。

“くそう、念信魔術で会話を可能にしたが……、耳も精神も壊れるぞ!”

“やべぇな。てか、数字の7を揃えたってことは、何をしやがるんだ?”

“これは……! つまりスリーセブン! 同士たちよ! 大当たりだ! 気をつけろ!“

赤い善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者が言い終わる前に、偶像である悪魔・悪しき者が動き出す。

偶像の体の下に、穴が現れる。

その穴から、偶像の体を巡っていた多くの鉄の玉をそこから吐き出した。

豪雨の後の大水を思わせる量であった。

「ボールはベースボーラーに任せてくれ!」

黒い肌の善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者が棍棒を手に持って振り回す。

波を掻き分ける帆先の様に、大河を分ける中州の様に、赤と青の善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者を守り抜く。

“同士よ! 風の魔術は使えるか?!”

“ああ、いけるだろう。ヒトシ、頼むぞ”

“ウケタマワリマシタ。ゴシュジンサマ”

赤い善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者が姿を変えた。子を成したことのない少女の姿だった。

かつては姿を変える事で人を惑わしただろう悪魔・悪しき者は、善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者として飛び掛かる。

“オネムリクダサイマセ。ゴシュジンサマ―――――――――――――……ォォォオオオオォォォ……”

またその姿を大岩の人形に変え、偶像の一部を破壊した。

“くそう。力が全く出ないが……『裁かれろ』”

自らを魔王と称する青い善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者が雷を落としたと、師は感じ取った。

偶像の悪魔・悪しき者は少しずつ破損はしているものの、由旬を超える巨大な姿をとるまでになった以上、善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者たちは抗いを続けるのは難しかった。

 また師は感じ取った。

この善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者たちは、この偶像の悪魔・悪しき者ががなり立てる音に消耗していると。

師は言った。

「刺激に触れれば、心は動いて、苦しみを作り出す。聞かなくてよい事、見なくてもよい事、感じなくてよい事は、最初から知覚してはならない」


「って、なんだ?」

音が消えた。偶像の悪魔・悪しき者ががなり立ててきた百劫の間残り続けるだろう音が。

聞こえるのは黒い肌の善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者が打ち払い続け偶像へも叩きつける鉄の玉と棍棒の音と、姿を変え岩の人形となった善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者の打撃のみとなった。

「音が消えた……、そして今の声は……?」

そしてさらに師は言われた。

「悪魔・悪しき者たちよ、繰り返し修める事で離欲と寂静と明らかで正しい知覚と涅槃をもたらす事柄がひとつ存在する。

それは死を念ずることである」

青い、魔王だと言う善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者が言う。

「死を念ずる……か。いつか死んでしまうがために、私は私と手が届く誰かを救わねばなんのだよ。この身を代えても。そう簡単には死なんがね」

黒い肌の棍棒を振るう善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者が言う。

「だから俺はバットを振るうんだ。死んじまったダチ公とこれからの俺とチームのために。いつか全部なくなっちまうとしても」

姿を変じ、赤や子を成したことのない少女、岩の人形となり、再び赤い男となった善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者が言う。

「ならばこそ! 正義を見つけ! それを貫くのだ! キャプテン・レッドがかつて! テレビの中で言った通りに!」

由旬を超える姿となったかつて百劫の間残り続けるだろう音を鳴らした偶像の悪魔・悪しき者は。

沈黙と共に、崩れ去った。

あたかも、風に散らされた塵の様に。


「ぐむ……本当に相も変わらず、ついておらんな、私は」

「俺らと会ってからどんだけ何かの下敷きになりゃいいんだよ、お前さんは」

「オタスケイタシマス。ゴシュジンサマ」

かつて由旬を超える姿を持っていた悪魔・悪しき者の残骸から、青い女の魔王であると称する善き道へ至ろうとしている者を子を成したことのない少女の姿を取った者と黒い肌の善き道へ至ろうとしている者が掘り出し、救い出していた。

青い女の魔王と称する者が、小高い山の様な残骸の真下に埋もれていたからである。

「とっさに諸々の魔術を使って被害を減らしたがね。まだまだ力が戻らん」

「まだ色が完全に戻り切ってねぇしな。俺らは戻って来たけどよ」

「オケガハゴザイマセンカ。ゴシュジンサマ――――――――――――――――――――――僕とルノさんが持っていた包帯とかを耳栓代わりにしてよかったですね。まだ耳鳴りがしますけど」

「音は流石に打ち返せねぇしな。特にあの大音量じゃよ」

「ようやく、なんとか立てるか。まあ、そろそろ移動すべきだ。誰かの精神の中だとすると、私たちはいい雑音だろう」

「誰かの中だからこそここで回復を待つべきかもしれねぇぞ。次はいきなり乱闘しねぇとも限らねぇ」

「……ところで、さっきの死を念ずる、ってなんでしょう?」

「自身が死んでしまう儚い存在だと忘れるな、という事ではないのかな?」

「だからこそ怠けんな、って言ってんじゃねぇのか?」

「その言葉ひとつで、あの異形を破壊してません?」

「……そう言われると、あの状況下で自然と私の思考を口にしたな……」

「……俺もだ。割と俺はただのベースボールバカ野郎なんだけどよ。もしそうじゃなかったら、クソも言葉でなかったぞ」

「僕に至っては、僕の言葉というより、キャプテン・レッドの劇中のセリフでしかないんですが」

「……あの異形は言葉や思考、下手をしたら意思や意識を持っていない存在だったから、破壊された、というのか?」

「ならよ、俺らがもし本気で何も考えてねぇ、惰性で生きているクソ野郎だとしたらよ、どうなっていたんだ?」

「あの、僕はテレビを小学生の時に見ていなかったら、死んでいたんじゃないですか? 大層な事を何も考えていない高校生ですよ、僕は。絶対、何も答えられなかったです」

「………」

「………」

「………」

「早めにお暇しようか」

「だな」

「かなりお邪魔しましたからね」


 また新たに遍歴の旅に出ようとする、三人の善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者たちを見て、師は言われた。

「もしも自らに等しい思慮深く聡明な者と共に歩むことができるのならば、心喜び、思いを落ち着け、共に歩め。

そして善き道へ至ろうとする者たちよ、最後に告げよう、諸々の事柄は過ぎ去るものである。怠る事なく、その歩みを続けなさい。

今はまだ、その如来を惑わすような色彩を必要とするだろう。それが必要としなくなる日を念じなさい」

この言葉と共にあの青い女の魔王だと称する善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者の鮮やかな色彩が戻った。

「魔の王である私にとってこの目立つ色彩は必要としている。戻してくれたのを感謝する。では、これで」

「迷惑をかけちまった。それじゃ失礼するよ」

「お騒がせいたしました。あと、ありがとうございます」

師と、三人の善き道へ至ろうとしている悪魔・悪しき者たちお互い善い言葉を交わし、喜び合い、別れを告げた。

黒い肌の悪魔・悪しき者が背負う剣がぱたりと倒れ、三人は

「失礼したぁぁぁぁぁぁぁ!」

「だぁぁぁぁぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

去って行った。


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