三十三話 締め切り前の出来事
「…………」
ヤバイ。どうしよう。
ネタがない。
目の前にあるのは半日以上真っ白なままのパソコンの画面。
日が昇る前にネームを概略だけでも仕上げないと、間に合わない。
編集が来る、アシスタントが来る、締め切りが迫ってくる!
ああ、ああ!
出てくるのは焦燥感だけだ!
漫画のコマ割りすら思いつかず、動かすべき主人公の顔さえもどう配置すればいいかわからない!
「……………………」
逃げよう。
そう思って、椅子から立ち上がった時だった。
いきなりプリンターのスイッチが入った。
そして一人でに動き出す。
……何を印刷してるんだ?
プリンターが吐き出した紙、それには野球のバット?
続いてそれを握る手。黒人系のごつい手だな。写真みたいなリアルな絵だ。
長い腕をそのまま印刷していき、うつ伏せ状態の野球のユニフォーム姿の大柄な男をプリンターは今までやったことない途切れる事のない印刷を続けていく。
背にしている似合わない派手な剣は何だ?
ついには大柄な黒人野球選手の等身大の絵が、床に伸びていった。
なんじゃこりゃ。
「って、これはねぇだろ!」
今度はその床に伸びた絵が、紙から立ち上がった。
「なんだこりゃ? FAX……じゃねぇ、プリンターか! なんで俺はこんなモンから出てくるハメになったんだよ!
白黒じゃねぇのがまだ幸いか」
すると男の手首に巻かれていた、不釣り合いな極彩色のバンド状の物が壊れた。
「これお守りつってな。だから紙が途切れねぇで、しかもカラーだったのかもしれねぇな。役割終わって壊れたかよ」
男は真っ平なまま立ち上がり動く。
どうして二次元の存在が三次元で立ち上がって自由に動けるんだ。
こんな状況、漫画にすらならない。
「って、この部屋の住民はお前さんか! すまねぇ、ダチが俺と同じように印刷されるかもしれねぇんだ! 紙とインクを補充してくれ! 頼む!」
すると別な所のスイッチが入ったのが聞こえた。
趣味で買った3Dプリンターが動き出したのだ。
ここ数年で3Dプリンターが急に安くなり、フリーのデータさえあればちょっとした小物程度なら店に行く事なくそろえる事ができるようになった。
部屋にあるのはそんな3Dプリンターの中でも家庭用の中では高価な一品。
特撮の怪獣やアニメキャラを精巧にフルカラーで作る事の出来る仕様だ。
パーツごとに作る事で時間さえかければ大きなキャラを組み立てることだって可能。
そんな3Dプリンターが動き出している。
「なんだこりゃ? 機械が勝手に人形を作ってやがんのか? ……てことは」
3Dプリンターは大きさ的に15センチ位の人形を作っている。
服装は黒い学生服。体の感じから少年のみたいだが……こんなデータは果たしてあったか?
驚いている様子の少年が足元から組みあがってくる。
「おい、ヒトシ! 大丈夫か!?」
「え、ニックさん? いや僕、どんな状態ですかこれ?! やけに小さい気がするんですけど!」
3Dプリンター内の少年がしゃべり、動いた。
そしてさっきの男と同じ極彩色のバンドが壊れた。
「ヒトシ! よくわらねぇがお前さんはその機械で足から組みあがってきた。サイズは掌に乗るくれぇだ。それで俺は紙にプリンターで印刷されて、体はペラペラだ。なんでこうなっちまったか、全くわからねぇ」
「うわぁ、また状況が悪いですね……。って、僕に限ってはまだマシか。ニックさん、僕をここから出せますか?」
「こんな体じゃ難しいぜ。なあ、そこのあんた。出してやってくれねぇか? 俺のダチなんだ。助けてやってくれ」
一体何が起きているんだ……。
ともかく少年を3Dプリンターから出した。
「そっか、3Dプリンターか。だからってなんでここから……。まあいいや。
すいません、そこの大きなアクションフィギュア借ります。そこに下ろしてもらっていいですか?」
こないだ現実逃避でパーツごとに3Dプリンターで出力して組み上げたマヒルちゃんか。
等身大アクションフィギュアバージョンの。
借りるって、なんだ?
「あ、すいません。ありがとうございます。じゃお借りします――――――――――――――――有難いことに等身大スケールといったところでありますわね。元のままじゃ小さすぎて危ないですので、この体をお借りしますわ。ごめんあそばせ」
へ?
マヒルちゃんが動き出した?
「このキャラ、わたくしは知りません事。想像の性格と口調になってますことをお詫びいたしますわね。お嬢様キャラかと思いこんな感じにしましたの。どうかしら」
あ、うん。
声は違うけど、性格とかは大体そんな感じ。割と外見通りだから。
てか、あの少年が憑依したの?
「でよ、問題はルノだ。近くにいるのは確かだけどよ」
「わたくしたちがこんな形でこの世界に来たのですよ。もっと酷いことになっているのではありませんこと?」
するとパソコンから異音がしてくる。
パソコンは真っ白のまま、そのはずだった。
真っ白なはずの世界に、誰かいる。
(ええい、ついとらん! ここはどこだ!)
そんな吹き出しを画面に描きながら。
その画面の女性だけがその世界に色彩を与え、腕にはあの極彩色のバンドが巻かれたままだった。
(ニック、ヒトシ! 無事なら返事を! くそう、いないか!!)
真っ白な中で、不可思議な程全身真っ青な女性が叫ぶ。
角度的には少し俯瞰した角度から、その女性はパソコンから見える。
いや、設定をいじればどの角度からでも彼女を見る事はできそうだ。
「ルノ! オイ! マズいぞ、あっちからは俺らの事を認識できてねぇ」
「またしても状況が悪いですわね……。そこのあなた、お願いがありますわ」
え、何? うわ、実際目の前で動かれるとドキドキする。
「わたくしの魅力に見とれている場合じゃありませんの! このパソコンに使えるマイクはおあり?」
あ、そうか。
引き出しから出して、急いでセット。
(む? 声?)
青い女性に声が届いたようだ。
本当にどうなっている。このグラフィックソフト、そんな機能あったか?
(通信魔術でもニックにもヒトシにも通じなかったのだが……、ってどこから声を出しているのだ! 二人共!)
「ルノ! お前さんだけ取り残されている! コンピューター……つってもわからねぇか、とにかくお前さんだけアニメの世界にまたいるみてぇなモンだ!」
(な? またしても私だけか!!)
いや、またって。
前にも似たような事あったの?
「聞こえますの? ルノさん? わたくし、マヒルことヒトシですわ!」
(ヒトシ!)
あの少年、設定を結構頑なに守るな。
「わたくしたちは不完全ながら外に出る事ができましたの! 周囲に何かありませんこと?」
(いや、真っ白だ。何もない。魔術は使えるが……脱出に使うには賭けだぞ)
「魔術で何とかするとしたらよ、どうするつもりだ?」
(私自身を闇に飲み込む様なことになる。闇魔術特有の貫通を期待してね。とは言え死ぬかもしれん)
死ぬって、いや冗談にも思えない。
何が何だか本当にわからない。
あ、試しでやってみるか。液タブは正常に動く。
(む? なんだ、これは)
いつもの様に線を引いてみる。
パソコンの画面の中の女性にも見えるか。
続いてこの人が使えるような物を書いてみる。
携帯電話に紙とペン。漫画本。
あ、手に取っろうとして……引っ込めた。警戒しているみたいだ。
(これは?)
「それは魔術なしで遠距離で通信できる一品ですわ。そちらは筆記用具。もう一つが本みたいなものと思えばよろしいですわ」
「って、ヒトシ。こことお前さんのトコじゃ電話があんなに小せぇのかよ」
(待て、その前にだ)
アニメーションの様に、滑らかに女性は動きしゃべる。
そんな女性が明らかに驚愕の顔を浮かべる。
(これが筆記用具だとしたら、凄まじいことになるぞ! もしや安価なのか? そうなら木簡や竹簡を置く場所が節約できるではないか! それにこの筆は墨をつける必要がない? 多少費用がかかるかもれんが、情報伝達がどれほど容易になるか、保存が楽になるか、くそう、わが国で再現したい!!)
「食いつくのがそっちの方かよ」
その女性は空間に浮かぶ紙に手を伸ばし、色々いじっている。
匂いを嗅ごうとしたら、
「しまっ……」
紙の端っこで顔を切っていた。
「安定の細かい運の無さですわね……」
まあたまにあるよ、新しい紙で指切っちゃうのって。
気持ち出血は多いけど。
血は彼女の顔を滴る。
これをアニメーションでやるのはそれ用のアプリがないとかなりの労力になってくるぞ。
それだけ省略のないアニメだ。
なんでこういうことが起こっている?
彼女は懐から傷薬らしきものを塗って止血していた。
(さて、はしゃぐのはここまでにしよう。『燃えろ』)
燃えた? え? 明らかに発火している?!
今書いた紙や漫画、携帯まで緻密なアニメーションとなってパソコン画面の中で燃えている。
「ちょっとルノさん! 何をなさっておりますの? そうそう、説明がまだでしたわ。今のはルノさんがおります空間の所有者と言うべきお方の絵画ですわ! そこから出るべく協力なさって下さるのよ!」
(ならば申し訳ないな。しかし魔術が使えるとは言え、それが効果をどう出せるか検証が必要なのだよ。このままでは転移できる保証がない。通信魔術が通じんという事は、私と君たちが別な空間にいるという事になるかもしれんのだ)
別な世界。それは間違いない。
漫画的な発想を許してくれるのなら、彼らはこっちの世界にとって二次元的なデータとして処理される情報と考える事ができる。
だからプリンターで印刷されたり、3Dプリンターで出力されたり、グラフィックソフトの中で動いたりしているのか。
携帯や紙を知らないという事を含めて考えると彼らは別な世界の2D人間なのだろう。
「なかなか……斬新な発想ですわね……」
「なんとか出力されねぇとこっちに来れねぇって事かよ」
今思いついた事を言ってみたら、そんな言葉が返ってきた。
「この状態でまずプリントしてみて下さる? 案外出てくるかもしれないですわ。通訳ができているという事は完全に別な世界ではないという事ではありますし」
アイコンを印刷に合わせ、クリック。
印刷された女性の絵が出ては来た。
「いや、ダメだ。出てきたのは今のルノの静止画でしかねぇ。俺みてぇに出てこれるわけじゃねぇのかよ」
3Dプリンターを動かしてみても、何も出てこない。
「前の世界でもらったお守りが相当性能がよかったのかもしれませんわね。わたくしのもニックさんのも砕けてしまいましたわ。ルノさん、お守りは変わりはありません事?」
(いや、何も変わらん)
見ると、あの極彩色のバンドは手首にまだ巻かれている。
そのバンドも一体何なのか。
「ここで描いた絵がルノが使えたりはできそうだけどよ、ここに来れるようなアイテムは描けねぇか?」
「そうですわね……扉はどうかしら。どこでもドアと言うものがわたくしの国の漫画にはありましてよ。空間を移動するのに使いましたわ」
「一か八かだ。すまねぇが、扉を描いてみてくれねぇか?」
何処でもドア。
自分の部屋の扉がそんなドアになっていた、なんて設定は色々使えそうだな。
コメディにもホラーにも。過去や未来に行けるのもネタとしていいかもしれない。
それはそれとして、液タブの上を走らせる。
画面の中の彼女が使えそうな扉が現れた。
(無事に使えると良いが)
彼女はドアノブに手を伸ばす。
ガチャリ
そんな擬音を手早く書き加えると、ドアノブが回った。
そして開いた。
今書いた扉は、開けてはいけない、何処でもドアだった。
(しまっ…………『燃え尽きろ』……抑えきれん!!)
その扉を開けた瞬間、さらなる謎の物体が流入してきた。
(『吹き飛べ』……ここで来たか! 扉が閉まらん! 迎え撃つしかあるまい!!)
これはなんだ、本当になんだ。
出てきたのは無数の歯車。
様々な原色の歯車がどぎつい色彩を放ち、モザイク状に組み合わさってくる。
嫌がらせ同然の色の情報が、吐き気を催す。
「ルノさん! こういう機械系統の敵には雷がセオリーですわ! 思い切り成敗なさいませ!」
(よし、『裁かれろ』)
青白い光が画面一瞬を覆い、歯車が色はそのままで破壊されている。
だが多い。まだまだいる。
「って、オイ。扉を描けたんだから消せねぇのか? あの歯車も一緒によ」
あ、そうだよ。うっかりしていた。
無秩序な歯車の流入が続く扉。
そこにカーソルを……、え?
「弾かれましたの?」
「あり得るのか、これ?」
「そんな、ないですわ……」
画面を埋め尽くさんばかりに歯車は増えてくる。
パソコン画面の中にいる女性の抵抗はさらに激しさを増す。
(『潤せ』そして『裁かれろ』)
降らしたのは雨、それに続き雷。
青白い光がつんざき、多くの歯車が感電し動きを止める。
歯車をこっちから消そうにも、消えない。
……色彩が激しすぎて、正視できなくなりつつある。
「あ、ちょっとよろしい?」
マヒルちゃん、君が癒しだ。
「メモリーは大丈夫なのかしら?」
え? あ!
急いで確認。
……明らかに急激に減っている。
あの歯車を消せない以上、ますます減る。
あんな無謀なまでの色彩の情報だ。そこまで持たない。
「オイ、もしメモリーがなくなっちまったら、どうなる?」
予想できる事は……、これ以上何も動かせなくなるわけだから、止まる。
歯車の動きも増殖も……ついでにあの女性の動きも。
命は動いているから生きている。動かなくなったら。
「死ぬ」
かも、しれない。
「クッソ、メモリーがどんどん減ってやがる! クソ歯車は増えやがるってのに! あの扉を線で囲ってみてくれ!」
急いでやってみる。一瞬そこで留まってくれる。だが線は多くなりすぎた歯車によって破裂されてしまう。
(『飲み込まれろ』……宙に浮くか! 『燃え尽きろ』そして『吹き飛べ』)
女性は画面に真っ黒な影を展開するものの、歯車を止められない。
角度を変えて見ると宙に浮いているのか。
続いてレーザーを放ち、歯車と扉の破壊を試みている。
歯車が多すぎ、扉にはダメージを与え切れていないか。
「今回、相当クソな状況じゃねぇか! 俺らが何もできやしねぇ! 見てるだけかよ!」
「……更なる一か八かを試すことにしますわ。あなた、紙になんでもいいから人物画をお書きくださいませ! 全身像が良いですわ!」
マヒルちゃんに憑依した高校生の言う通りに、走り書きで記憶の中のマヒルちゃんを描く。
「スキャナー……、あれですわね!」
その絵を持ってスキャナーに電源を入れ、スキャンした。
そこでマヒルちゃんは、動きを止める。
「オイ、ヒトシ……。いや、ただの人形に戻ってやがる」
恐る恐る、マヒルちゃん人形に触る。
明らかに、こないだ作った人形でしかない。
「まさかあいつ、ガチで無茶しやがったか!」
(成功いたしましたわ! わたくしをルノさんの元へ! 早く!)
パソコンの画面には、さっき描いたマヒルちゃんがそこで動いていた。
「ヒトシ! 今度は絵に憑依かよ! 何でもありになってきたな!」
(所詮ダメ女神のガバ設定ですわ! いいから早くなさって!)
(ヒトシ! 何やら無茶をしたのか!)
「ルノ、お前が言う権利はねぇ! ヒトシ頼むぞ!」
……高校生が憑依したマヒルちゃんをあの女性のところに切り取ってペースト。
(ルノさん! わたくしが参上いたしましたわ!)
(ヒトシか!)
二人は無事に二次元空間で出会えた。
(ではわたくしが特攻いたしますわね―――――――――――――――――――――――トビラヲオシメイタシマス。ゴシュジンサマ)
マヒルちゃんが冷たい感じがするメイドに変わった。
セリフもカタカナ。ロボという設定か?
メイドは歯車の妨害を強行突破する。
速い! 回転しダメージを与える歯車をもろともしない。
その進路を女性が放つ炎が薙ぎ払い、道を作る。
そして、あふれ出す歯車が出る扉を閉めた。
終わったか?
いや、残っている歯車の動向がおかしい。
「続いて断末魔だ」
ペラペラな男の声が、警戒を伝えてきた。
残された歯車が組み合わさってくる。
女性とメイドが攻撃を繰り返すが、歯車は止まらない。
これは……、寺にある曼荼羅か?
破壊された歯車が溶けて、一つになり背後に大きな歯車となる。
その端、十箇所にも歯車。吐きそうな色彩を載せて。
回転し出した。
思わずうめき声が出る。
ここで画面を見ているだけで、精神が体力が消耗してくる。
あの女性とメイドは……、くそ。クソ!
あの歯車はただ回転しているだけなのに!
メモリー……もうそろそろ限界じゃないか!!
「俺からも一か八かだ」
バットを持った男が、スキャナーの前に立っていた。
「電源は入ったままだな」
そしてバットを振りかぶった。
バキ、という音がしたと同時に、スキャナーのスイッチを入れた。
何してるんだ?
パソコン画面にはバットがスキャナーに当たった瞬間が取られている。
「試しだ、それをあのクソ野郎に当ててみてくれ」
……言われた通りにしてみる。
あの回転する曼荼羅状の歯車が、ぐにゃりと歪んだ。
一瞬回転も止まる。
すかさずグニャリと効果音を書いてやる。
……明らかにダメージを負ったぞ!
「次々いくぞ! この機械壊さねぇようにするけどよ、多少は勘弁してくれ! 非衝撃ホームランの応用だ!」
スキャナーからは壊れる寸前の音が連続してくる。
その度にバットの画像をペースト。
歯車は行動を止めていく。壊れていく。
あの歯車が壊れるって、スキャナーにダメージを与えずに、衝撃だけ送り込んでいる事になるけど、どういう理屈なのだろう?
ただ回転し存在するだけで被害を与える公害みたいな物体が、活動を止めていく。
(トドメニ、ジメンヲカイテクダサイマセ。ゴシュジンサマ)
ん? ジメンヲカイテクダサイマセ?
あ、地面を描いてくださいませ、か!
手早く、歯車の下に地面っぽいのを描いていく。
(よし、『飲み込まれろ』)
歯車が、地面に沈んでいく。その言葉通り、飲み込まれていく。
目の前の画面は再び白くなった。
目の前の青い女性とメイドを残して。
(どこかに異形が残っているかもしれん。そっちで確認を頼む)
えーと、まずウイルススキャンしてみるか。
あと変なダウンロードがないか、記憶にないファイルがないか確認。
大丈夫だ。
メモリーも歯車が消えた分、かなり余裕ができた。
「あとはすっかり邪魔しちまったここから移動だけどよ、ここで剣を倒しても問題がねぇのかわからねぇんだよな」
(なんとかここに来れないかな? 君の打撃が入れたのだ。君自身も来れそうなものだが)
ペラペラだからな。
やっぱり、あれか。
「まさか、とは思うけどよ」
とスキャナーに体を器用に折りたたんで入っていく。
「……体を曲がるはずのねぇところで曲げんのは、気持ち悪りぃな。すまん、スイッチを押してくれ」
スキャナーはギリギリのところで機動をしてくれた。
もう買い替えだな。
(えーと、体は……なんとか全身入れたか。本当にどうなってやがんだ)
それはこっちが聞きたい。
どういう法則が発生しているんだ。
(ともかく、これでお暇するとしよう。私が直接出会う事はなかったが、君、感謝する。君がいなければ、ここで私たちの旅は終わっていただろう)
(カンシャイタシマス。ゴシュジンサマ―――――――――――――最後はこのわたくしの姿でさよならするのがお礼になるかしら? わたくしの中身は、お察しですけれど)
中身は男子高校生でも、こっちの反応に返してくれるマヒルちゃんがいてくれて、うれしかったっす。
(んじゃ、剣を倒すぞ……なんか刺さったな)
剣を倒した野球選手姿の男が、ウインドウの枠に刺さった剣を引く。
(これでいいのかよぉぉぉぉぉ!)
(これは……どこに刺さったというのだぁぁぁぁぁ!)
(お礼を申し上げますわぁぁぁぁぁぁ!)
こうして、2D人間たちはパソコンの画面から、消えていった。
「…………」
一体、何が起こったのだろう。
夢にも思えるが、こないだ組み上げたマヒルちゃんフィギュアはスキャナーの所に佇んだまま。
そのスキャナーも、微妙に歪み、買い替えを考えざるを得ない状況になっている。
こんなの、漫画にしかならない。
「あ」
これ、漫画にできるじゃん!
時間がないからあの青い女性の姿をモデルにヒロインを作って、ヒロインの設定は主人公のパソコンに迷い込んで来た2D人間。
やって来る敵……、もうちょっと分かりやすく悪の魔王みたいな形にしよう。
その敵に2Dの彼女と3Dの主人公がボーイミーツガールな感じで協力して戦う。
「いける!」
ラストはパソコンの中身を敵ごと全部デリートして倒す、ヒロインはあの大柄の男みたいにプリンター出力でペラペラな状態だけど主人公の所にやって来て、問題はあるかもだけどハッピーエンド。
そんな感じでいいだろう。
「時間は……ギリ行ける! よし、急げ!」
液タブの上に、また更なる絵が紡がれていく。




