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番外編 科学者は魔王と打者と人形に遭遇する2

複合氏の作品、「科学者は21世紀初頭に憧れる」https://ncode.syosetu.com/n5073bk/とのクロスです。

「さっきまで俺がいた倉庫みてぇだな、この部屋。目がやたらでけぇ女の絵ばっかだ」

そうあの青い女と同じようにいきなり現れた黒人は、周囲を見渡しながら言う。

使っている言語は英語か。日本人である私にも聞き取りやすいのはこいつの癖か?

あれ、あの青い女は明らかに日本人じゃないけど日本語だったよな?

 190越えの身長で均整の取れた体つき。

本物のアスリートかもな。

ただ着ているユニフォームは時代遅れのデザインだ。

20世紀の60~70年代ってところだぞ。

解せないのは背負っている派手な剣だ。どこのアニメから持ってきたんだ。

 ん? 倉庫?

もしや私の秘蔵のお宝倉庫か?

「ねぇ、にぃに」

妹の一人が声をかけてきた。

なんだい?

「あの人殺すね? にぃにはあたしだけ。あたしだけいればいいの。近づく男は殺さないと殺さないと」

……ヤンデレモードを切り忘れてた。

本来ならたくさんいる妹の誰かにに向けられるだろう殺意を、黒人に向けた。

妹同士争わない様にしていたのだ。

しかし色々もしかしたら鬱積していたのかもしれない。

一斉に刃物を再度ちらつかせ突進する妹たち。

殺すね、殺すね、殺すね、殺すね、殺すね、殺すね、殺すね、殺すね。

京ぽん型装置を操作する指先より早く、愛しい妹たちは黒人に向かっていった……。

ピュン

 風切り音がした。

黒人に近づいた妹たちが手にしていた刃物がひしゃげ、私の足元に落ちた。

そう思った瞬間、妹たちが木の葉の様に、ふわり宙を舞った。

「非衝撃ホームラーン!」

そう言いながら。

虚空を舞う妹たちには、一切の怪我はなかった。

「インパクトの瞬間、バットを止めている。怪我はしねぇよ」


 ピュンピュンと次々起こる風切り音。

あの黒人が目に捕らえる事も出来ないほどの速度でバットを振るっていた。

 音を立てて次々に私の足元に積みあがる妹たちの変形した刃物。

そして風に舞い上げられたように、妹たちは全員先ほど出したクッションの上に落ちた。

 ……ホームランとか言ってたからバット打った?

待て、物理学的にありえん。怪我一つ負わさずにあそこまでバット一本でやるなんて。

妹の一人が起き上がり声を出す。

「殺してあ」

黒人が妹たちに向かってバットを構えた。

「あ…………」

クッションの上でみんな、動きを止めた。

直接向かい合っていない私でも感じる。

これは、本当の殺意だ。

「あんまこういう事したくねぇし、言いたくもねぇんだけどよ。ちょっといいか」

目を見開き怯え切った妹たちを尻目に、私に顔を向け、言った。

「止めとけ。こういうのは」


 一体何が起こっているというのだろうか?

ただ私は世界を救ったニートとして一切働かずに妹たちと爛れた、底なし沼に沈没するような日々を送りたいだけなのに。

 強大な力の厄介な女を排除した途端、健全なアスリートが私を糾してくる!

「バットで触れてわかった。あの子たち、空っぽだ。まるで作り物の人形みてぇだ。

何やったのか、どういう出自なのか、わからねぇ。お前さんが一体何者なのか、どんな事情があるか、それもわからねぇ。

でも、これだけは言わせてくれ。

お前さんはいい大人の男だ。お人形遊びは、終わりだ。もう止めろ」

 私の、何がわかるのだ……。

「知らねぇよ」

私は天才だ、世界を救った……。

「知らねぇよ」

待て、世界を破滅させようとし、世界を救った私を本当に知らないのか?

「知らねぇ。わかるのはお前さんが大人の男だってことだ。ならやるべきことがあるだろうがよ」

……私を大人だと。

「そうだろ。大人だから何をやるかはそいつ次第だろうけどな」

 不意に、銃声が聞こえる。

クッションにいる妹たち。彼女たちが集まって、対戦車ライフルの引き金を引いていた。

ヤンデレモードを切るのを忘れてた……。

「襲撃吸収バンド」


 黒人はバットを横に構えた。

野球のバンドの体勢だ。

銃弾が音もなくバットに当たり、地面に落ちた。

 ……何が起こった?!!

「ん、銃弾が命中する瞬間にバットを銃弾の速度以上のスピードで引いただけだ。衝撃を完全に吸収したから音もしねぇんだ」

頼む、科学者の目の前で物理学も生物学も無視しないでくれ!

そうか、魔法か。野球の神様に祈ったんだな、そうだろう!?

「神を信じる気にならねぇんだよな。いるんならコールド・ウォーを終わらせろよ。

人が死んでいくのを助けやがれ。あと俺に鉄砲を持たせるなっつの」

そう言うと、黒人は。

「さて」

またバットを構えた。

ギュウゥゥゥというバットを握る音が聞こえてくる。

足を踏み込み、バットを振るう。

台風の様な暴風が部屋に巻き起こり、妹たちにそれは向かった。

聞いたことのない音がして、対戦車ライフルの銃口が花が咲いたように八方にめくれ上がり、何かが精密にコントロールされて銃口に飛び込んだ事を表していた。

「銃弾は返したぜ」

さっきの銃弾を打ち返したのか……。


 黒人の周囲の空間が歪む。

「ヤベ!」

黒人がバットを……消した?

いや、あまりに高速で振るったから見えなかったんだ。

だから、そういう力学も医学も人体工学も物性学も生化学も量子学も無視した行為をしないでくれ。

「やっぱ無理か……!」

こうして空間の歪みの中に消えていった。


これが科学の勝利……とは言えんな……。

正直科学者としてありえない物を、拒否しただけだ。

魔法を目の当たりにした時と同じ反応だ。

いつだって私はこうだ。

見たくないもの、聞きたくないもの、償いたくないもの、やりたくないもの、希望といえるもの。それに責任。

全て見ないで、逃げていた。

今、この空間だって……。

 そんな私を大人だと?

そう言ってくれたのは、初めてだ。


 部屋に張ってあったポスターは剥がれ、置いてあった大切な同人誌は散乱した。

「おにいちゃん、どうしたの? 悲しそうだよ?」

妹たちが聞いてきた。

なんでもないよ、まずはお片付けしようか。

 ああ、お片付けなんて胸次郎やヴィナにしつこく言われないとやらなかったな。


 みんなで片付けをしていた時だった。

「ココハドコデゴザイマショウカ。ゴシュジンサマ」

また変なのがやってきた。

 あからさまにロボットのような声で、しかもそれがどこか不安にさせるような声の、背の低いメイドだった。


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