十四話 ピーンボールボーイ
父さんはいつも飲んだくれている。
母さんはしょっちゅう怒っている。
街の人たちは、自分のもうけの事しか考えていない。
警察はチンピラとつるんでいる。
あるのは廃墟と暴力ばかりだ。
助けなんか、どこにもない。
神様がくれたのは、音楽だけだ。
今日は特別、音量最大だ!
音楽が聞こえてくる!
音楽が僕の体に雷を落とす!
体は弾んで果てまで飛ばしてくれる!
心は僕を無敵にしてくれる!
壊れたビルの上に居座る巨大な蠍にぼくはたった一人で戦いを挑むんだ!
それは街で荷物運びをしていた時。
安いバイトにこき使われていた時、空に暗闇が浮かんだ。
見た事のない、渦を巻く暗闇で、悪い物だと感じたんだ。
たちまち起こったパニック。
それでもぼくは、逃げ出す人の波と逆の方へ駆けていった。
こんな腐れた街だけど、やっぱり嫌いになれないよ。
ぼくには音楽がある。
ぼくには体がある。
ぼくには心がある
こんな腐れた街だけど、最後の正義になってやる!
吐き出したくなるような斑点模様の金の毒々しい蠍は、バラック小屋よりも大きなヤバイ奴だった。
廃墟の上で奴はぼくを見据えていた。
尻をこっちに向けて、何かを出してきた。
素早く避けたけど、地面が解けた。
硫酸?
ぼくは音楽と恐怖をさらなるビートにして、体をより早く動かしていく!
つむじ風のように壁を一登り。
その速度のまま、上空へ飛び上がり、ぼくを見失った奴の脳天へ、きりもみで蹴り飛ばす!
奴の首は捻じれたけれど、まだまだ仕留め切れていない。
あの尻がぼくを狙う。
ビートのままステップして尻の棘を避けて、奴の体の上でタップダンスのように蹴り飛ばすけれど、戦車みたいな体は受け付けない。
体の構造を無視するかのように振り上げてくるハサミをのけ反って避けて、高速で何度も突いてくる棘をはいつくばって避けて、狙いをつける。
音楽は最高潮、頭をコイツの体に着けてスピンを始める、尻の棘は硫酸を垂らしながら振りかぶった。
飛んできた棘の剛速球、高速スピンしながらぼくの目は、奴の尻、棘の根元を見据えている。
ぼくの小さな体。だからできるんだ。
高速スピンしながら飛び上がる事!
剛速球の棘の根元、カウンターでお前の尻に足を突き刺す事!
硬い装甲に穴を開けた!
こっからだ……すると両のハサミと棘を天に伸ばした。
バチバチとした光が、見えた。
母さん……。
“『燃え尽きろ』”
不意に燃え上がった炎。
ぼくだけを避けて、周囲は炎に。
“君、聞こえるかな”
言葉が、どこからか聞こえてくる?
というより、テレパシー?
なんだこれ?
“協力する。私たちは味方だ”
大人は一目散に逃げて、警察は弱い者いじめばかりのこの街で、不思議な声が聞こえたんだ。
“一旦引きたまえ。ああ、その黄色の看板の方だ。足場ができるはずだ”
炎が途切れ、黄色のマズイことで有名な食堂の看板へ走る。
すると屋上にある水タンクが落ちてきた。
このまま地面に降りると結構高いから助かる。
“『燃え上がれ』そして『巻き上がれ』”
不意に炎の竜巻が起こった。
え? ぼく、あんまり勉強してないけど、こんないい天気の時には竜巻とか起きないはずだぞ?!
ああでも、こういう大きな火事の時にはできるんだっけ?
いやこれ、誰かがやったよな。
多分、この声のお姉さんが……。
周囲に火が移らないようになってるし。
物凄い熱を帯びていた炎の竜巻。
それは水が蒸発する音と共に消えた。
“あの異形、体の節々から水を出したか。いや、毒液か? 不用意に近づくな……む?
なんだ君らは。そのような事をしている場合ではなかろう。
任意同行? この非常時に何を言っておるのだ? ええい、離さんか!”
あ、ヤバイ。職質受けてる。
ビュンと空気を切り裂く音。
それはぼくが乗っていた水タンクを破壊する。
でもぼくのステップは止まらない。
不用意に近づくなって言うけど。
またあの棘が硫酸垂れ流しながら、襲ってくる。
よく見るんだ。
今度は変化をつけている!
コークスクリューの軌道で突っ込んでくる!
チャンス。
蠍の体が、少し宙に浮かんだ。
ぼくのキックが奴の体の真下で炸裂した。
「ヘイ! ピンボールボーイ!」
その声の方へ向かう。
ぼくより肌色の濃い、ベースボーラー姿の黒人だった。それもウッドランド・ウォーリャーズのだ。
「半端ねぇな」
ぼくを見るなりそう言った。
「あの尻の棘を避けたと思ったら、素早く潜りこむとはよ。それで真上にあの威力で蹴り上げるのは難しいぞ。180度開脚で蹴っただろ。お前さんも俺の同類かよ」
お兄さんも?
「つーか、俺の世界か、ここ。まあいい」
棘が飛んできた。
「フォームでコースを教えてくれるピッチャーはスモールリーグにもいねぇよ」
手にしているバットで、鉄球のような蠍の棘を打ち返した。
「俺の後ろにいろよ。少し待ってくれ」
次々に襲い掛かってくる蠍のハサミと棘。
それをことごとくバットで打ち返している。
「しかし硬てぇな」
交通事故でも起きたような音がハサミと棘が来るたびに鳴り響く。
打ったバットの跡が生々しく残ってはいるが、ヒビも入っていない。
ぼくが穴を開けた場所より大部硬いようだ。
あ、硫酸!
「ビックリーガーをナメんな」
ブン、と風をバットで起こした。
台風のような風は、こっちに向かってきた硫酸をずらす。
再度バットをスイング。
風をもってを蠍の目に当てた。
さすがに悶える蠍。
“む? 動くな? だからそれどころではなかろうが! そして私に突きつけるのは、銃かね? 貴様ら何を考えておるのだ!”
あ、お姉さん。
ヤバいよ。
「ルノの奴、警察に捕まってるじゃねーか。手ぇ離せねぇぞ。ヒトシも対応できねぇだろうしよ」
“いい加減にしたまえ。『吹き飛べ』”
すると空に警察官が何人かとパトカーが飛んできた。
……マジで?
“ヒトシ。行きたまえ”
「ウケタマワリマシタ。ゴシュジンサマ」
空にもう一人、人影が浮かんだ。
小柄な女の子。金色の髪でひらひらした服はこの街に似合わず、とても目立っていた。
その微笑む顔は、なんだか嫌な気持ちになる。
「オクタバリクダサイマセ。ゴシュジンサマ」
すると飛んできたパトカーにとりつくと。
「……ォォォオオオオォォォ……」
何が起こったの?
女の子が消えて、代わりに出てきた巨人がパトカーをパイルドライバーの体勢で捕まえて、蠍に突っ込んできた!
崩れた小屋の上で。
蠍の背中にパトカーが突き刺さり、鉄の塊の巨人がパトカーの後ろを殴ってさらに沈めようとしている。
棘もハサミもいくら喰らってもびくともしない。
振り上げた棘とハサミで雷を落としても。
「……ォォォオオオォォォ……」
何も感じないみたいだった。
「ヒトシ、ハサミを押さえつけてくれ」
すると巨人はゆっくりとハサミの根元を握り、地面につけた。
ベースボーラーのお兄さんは、巨人の頭に上る。
飛んでくる棘を払いのけつつ、言った。
「ヘイ、ピンボールボーイ!」
OK。思いっきり行くね!
聞こえる音楽はいい感じ。
軽い足取りで飛び上がる。体は縦に半回転。お兄さんはバットを添えてくれる。
ぼくは足をバットに着ける。
「レッツゴー!」
バットの威力で急加速!
ぼくの蹴りで急降下!
180度大開脚!
奴の顔面、踏みつぶす!!
終わったかな?
虫けら潰す感触とともに、蠍の動きが止まった。
「油断するなよ。こいつらは追い詰められると大暴れする」
「このキャプテン・レッドが見るに、この異形の活動は終わった! 確実を求めるならば、同士ルノの力を借りたいところだ!」
……このテレビのヒーローみたいな人、誰?
「おっと、こいつはあのデカい奴な。今さっき俺が頭に登った。そうなんだよな。ルノをどうにかしねぇと。さらに面倒になるぞ」
よくわかんないんだけど……。
「しかしだ! 仮にも警察がこの異形を無視して同士ルノを拘束しようとするのには違和感がある! 何か特異な事が生じた可能性があるぞ!」
その時だった。
ぼくたち3人が、一斉に千切れるような音を耳に捕らえた。
銀の顔の、変なヒーローの方へ突っ込んでくる。
「不か……く……」
「やべ……」
素早くて、ありえない。
ぼくの足は、考えるより早く反応した。
足を延ばし、蹴った。
その衝撃でぼくの体は空を舞った。
「君! しっかりしたまえ!」
顔に水をかけられ、目を覚ます。
誰……? 髪が、青い?
この声……。
「そうだ。君に魔術をもって声を伝えたのが私だ。我が友を身を挺して守ってくれたことを深く感謝する」
そうだよ。なんとかしなきゃ。
すると、何か柔らかい物を蹴った。
「ぐわあ! 貴様何をする! 逮捕されたいのか!」
……なんだこの光景。
「気にするのではない。この非常時に私に対し不快な事をしでかしてきたのでな」
警察とチンピラと……あ、マフィアの大物もだ。
「闇魔術をもって、首から下を沈み込ませてもらった。では行くぞ。君の力を貸してくれ」
十何人かの男たちが、生首状態でわめいていた。
てことは……、大体予想つく。
いい気味だ。ひどい目に遭ってろ。
ねえ、あの蠍を見た?
「む。あの愚か共にかまっているがために途中までだ。ヒトシがあの乗り物を掴んで突き立てたところまでは見た。その後、君が飛んできた。ニックとヒトシが応戦している声は聴きとっている。君がヒトシを護ってくれたこともな」
あの蠍の……、もう実物も見た方が早い。
あのマズイ食堂の屋根の上に登る。
「速い……! あの目がいいだろうニックが追い切れていないか……!」
何かが超高速で飛び跳ね、背中合わせの黒人と巨人の周りを回る。
黒人のお兄さんはバットで攻撃を裁き、巨人は両腕を上げてガードしている。
見てよ。あの蠍の尻。
「千切れている……、まさかそれが飛び跳ねている?」
そうなんだ。
ああ来ると思わなかったから、油断した。
「ヒトシの体が少し溶けている……、ニックも多少火傷を負っているか。くそ、硫酸か何か出してるのか!」
このままだと、あの二人が危ない。
でも下手に突っ込めない。
「奴の行動範囲を狭める。『燃え尽きろ』」
二人の周囲にさっきと同じく炎が上がった……ってダメじゃん!
それヤバイ!
「む? どうしたのかね? とにかく奴を……」
ぼくの体は小さい。
だから考えるよりも早く動く。そしてそれは結構正しい。
思わず少しジャンプした。
両足を開いた。
ぶっ飛んできた尻の棘を両足で挟み込んだ。
「つっ……!」
お姉さん!
「私は問題ない! 君は……!」
何も考えずに捕まえたから、これからどうしよう!
両足で挟んだアイツは抜け出そうと暴れる。
一応顔を覆っていた両腕に、硫酸がかかった。
くそ。
痛いな。
ポケットの中のポータブルカセットは変わらずにノリのいい音楽を流してくれている。
神様がくれたのは、音楽だけだ。
考えるのは止めた!
ビートのままにやってやる!
全力で体をひねって奴を地面に叩きつける!
まだ離さない、今度はブロックの上!
まだ離さない、お次は尖った石の上だ!
お前はまだ離してやらないぞ!
「ヘイ! ピーンボールボーイ!!」
お兄さん! パス!
全身のバネを使って、両足から思いっきりお兄さんの方へ投げつけてやる!
「OK!」
お兄さんのバットと奴の激突は、この世の物とは思えない衝撃音を鳴り響かせる!
「よし。『吹き飛べ』そして『燃え尽きろ』」
するとそいつにレーザーみたいなのが照射された。
え?
いや、物凄い勢いの風にのった炎?
そんな炎に飛ばされたあいつを待ち構えているのは。
「……ォォォオオオォォォ……」
あの巨人が両腕を上げていた。
そしてそれを振り下ろした。
虫を踏みつぶした音を100倍くらいにした轟音が、周囲に聞こえた。
もはや哀れなくらいぐちゃぐちゃな、蠍の棘。
念入りに巨人が飛び跳ねて粉砕していた。
「さて、もういいだろう。念のため私が始末する。『飲み込まれろ』」
すると地面に影みたいなのが広がって、蠍の棘も本体もその影の中に文字通り飲み込まれていった。
そして蠍は跡形もなくなった。
……お姉さん、何者なの?
「魔術師だ。そういう君は? 明らかにただ者じゃないだろう。ここまで素早く軽業を決める者を見た事がないぞ」
いや、ただのガキだよ。ぼくは。
「ルノ、ここ俺の世界だ。で、このボーイは俺の同類だ」
「む。ニック、さすがに君は珍しい存在か。彼も同じと。……でだ、ニック」
「ん、どうしたよ」
「『燃えろ』」
「うわ! 熱! 何しやがんだよ!」
お兄さんが燃えた! ええ?!
「何ではなかろうが! あの異形が私の炎を消したのは毒液によってだろう! 証拠にここらの草木が枯れている! 彼を近づけるなと念信魔術で伝えただろうに、彼にあの異形を蹴らせてどうする!」
「俺の同類なら、並みの毒はたいしたことないんだよ!」
「どのような毒かわからんだろうが!」
「あのルノさん、まあ今は落ち着いて下さい。とりあえず終わったんで。あと、早めにここから離れた方がよさそうだし」
黒い服のお兄さんが横から入ってきた。
誰?
「僕はあの鉄の巨人に変身していたんだ。あのヒーローとメイドも僕。それでさ、あのパトカーのトランクに入ってたの見えたんだけどさ」
……忘れてた。
蠍に刺さっていたパトカー。
そのトランクが壊れて、白い粉が入った袋がいくつか零れ落ちてきた。
「………ヤベェ」
「………アレですよね」
早く逃げよう。めんどくさくなるよ。
三人を案内しようとした時だった。
「フリーーーーーーーーズ!!!」
警察とチンピラが大勢周囲を囲んでいた。
どうしよ……。
銃を突き付けられたぼくたち。
そんな中、お姉さんは優雅な足取りで歩く。
まるで銃がどれだけ危険なものかわかっていないかのように。
「さて、諸君。これは、これらは何なのだろうか?」
笑顔を警察とチンピラに向ける。
「多分、ルノさんの想像通りだと思います。アレなお薬です」
と黒い服のお兄さん。
「ヒトシ。やはりそうか。…………!!!!!!」
お姉さんの周囲から高熱を感じる!
……これはこれでヤバイよ! ヤバイって!!
「私がそれ一体どんな思いをしたことか! あの馬鹿どもが! 鉱山の中でばら撒きおって!!!!」
うわあ! どんな原理でこのお姉さんから炎が出ているんだよ! 熱い!
「おい! ルノ! 車とそこのタンクからガソリン漏れてる! あとガス管壊れてる!」
こうして大爆発が起こったんだ。
死ぬかと思ったよ。
「申し訳ない。かのように凄まじく燃え上がる油が存在していたとは。それに可燃性ガスを水の如く配する技術があるとは、予想外だ」
と、ルノールという名前の青い髪のお姉さん。
顔に絆創膏、溶けた黒手袋の下に包帯を巻く程度で済んでいるのが驚きだ。
今時ガソリンを知らない人がいるとは思わなかったよ!
でもって、爆発してすぐに地面を窪ませるって、どうやったの!
「悪い事をしてしまったな。私が炎を出さなければああまで被害は増えなかった」
気にしなくていいよ。
弱い者いじめばかりの警察とチンピラがぶっ飛んでくれて、すっきりしたし。
大体、ろくでもない取引やってたのが悪いわけで。
あの位ならすぐ元通りになるし、警察とチンピラと僕たち以外にケガ人いないし。
「つーか、診療所を紹介してくれてありがとな。そこまでのケガじゃねぇけど、手当してくれた方がやっぱ助かる」
ぼくなりのお礼だよ。
あとであの医者の所でしばらくパシリだけど。
あ、そうそう。これにサインちょうだい!
「おう。ホントはこんなところであんなモンと戦っている場合じゃねぇんだけどな」
と、ニック・ワイズというサインをくれた。
詳しくは聞かないけど、あの蠍を見るに、妙なことになっているだってわかるよ。
昨シーズンの優勝チームのウッドランド・ウォーリャーズは結構好きなんだ。
余計な所でケガしたから不安だけど。
「こんくらいの硫酸ならなんともねぇよ。応援ありがとな」
防弾繊維のユニフォームのお陰で意外と防げたみたいだし、大丈夫かな。
今度はベースボールの試合で戦っている所を応援するよ!
「てか、僕だけ無傷なのが凄く悪いんですけど」
そう言ったのが、黒い服のお兄さん。
学校の制服なんだとか。
でもお陰で助かった。
青い髪のお姉さんが掘った、というか地面を窪ませて僕たちはそこ転げ落ち、このヒトシってお兄さんが鉄の巨人になって蓋になった。
それを一瞬でやれたから、こんな程度の傷で済んだ。
「アイアンゴーレムでも少し溶けてたんだけど、元に戻ったらなんともなかったのはどういう話なんだろう……?」
さあ……?
着いたよ。多分ここ。
「廃墟、だな。私が信仰するディアスの廟もしばしばこうなっているが」
あの変な剣が倒れた方向にあるとしたらここ。で、あるのはこれ。
「女神像ですか。お年寄りが守っていたけど、それが廃れたんですかね」
「この辺りの神様だな。学校で習った覚えがある」
信じられないけど、ニックのお兄さんが背負っている変な剣。
それを剣が指し示した何かで抜こうとすると、別な世界へ行けるという。
それぞれの事情で別な世界へ巡るのを、早く終わらしたいらしいけど。
ここでお別れか。寂しいな。
「ああ、君。フィリプ・ドンミゴ君」
ん、ぼく?
「私は3万の民で精いっぱいで恩のある君に何かをする事も、もたらす事もできん。よって私なりに、言葉を君に残す。私が励みにしているディアスの言葉だ。
“自己の主は自己なりけり。整えし自らこそが至高の主なり”
困難な中かと思うが、絶えず自らを整えたまえ。君は大丈夫だ」
「とりあえず全力で好きなことをやっていけ。どっかでぶつかってもなんとかなる。俺はそうだ。色々また厄介で大変だけどよ。神を信じてねぇ俺はそれを信じている」
「あの僕、単なる高校生でフィリプ君に何も言えないんですけど。ただ、ありがとう」
うん、ありがとう。
ニックのお兄さんが剣を背中か下ろして、柄を女神像の手に引っ掛けた。
で、引き抜こうとすると。
落とし穴に落ちたように、地面に吸い込まれていった。
「それではなぁぁぁぁ!」
「ありがとよぉぉぉぉ!」
「さよならぁぁぁぁぁ!」
……随分と乱暴な移動だよ。
建物から出て、電源を切っていたポータブルカセットのスイッチを入れた。
ノリのいい音楽に合わせて、ぼくの体は宙を舞う。
神様がぼくにくれたのはやっぱり音楽。
信じてみるのはぼくのアクロバット。
今日良かった事は、あの3人に出会えた事。
また出会えることを、あの女神像にお願いしてみよう。




