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十一話 湿地帯にて

「危な!」

さっきの世界から今の世界に転移されてきたそこは地面より2メートル位の高さの場所だった。

しかもその下には、湿地帯が広がっていた。

危うく水に落っこちるところだ。

「DANGER!  DAMP AREA?」

「って、ニックさん?」

「HITOSHI? IS IT YOUR NATIVE LANGUAGE?」

英語?

ということは。

「ルノさん!」

「RUNO!」

あの人どっか行ってる!


 僕たち3人はそれぞれ使う言語が違う。

それを違和感なく意思の疎通ができているのはルノさんの通訳魔術なるよくわからない代物のお陰だ。

それの性能は高く、結構距離が離れていても、またルノさんが寝ていても発動が続く。

 つまり現状、ルノさんが行方不明。

あの人の特性は、運がない事。

一日に一回はついていない事が発生すると本人は言っているほど。

考えてみれば、この異世界を強制的に飛び回る事態で、怪我をしたのはあの人だけだ。

今のところおもちゃの山に潰されたのと催眠解けて転んだので2回頭から血を出して、スピンする自動車から吹っ飛ばされて、でもって人工衛星で酔って吐いた。

ついでにワサビ入り大福を食べたのもあの人だけだ。

……こんなんでよく魔王をやってこれたな。

このあたりは見通しはいい。

どこかに隠れているとすれば、湿地の中。

……さすがにヤバイだろ。

いくらあの人でも水中で呼吸できるとは考えない方がいい。

でも、湿地の中を見てわかるか?

こっちの声が届くか?

「ただで行方不明になる人じゃない――――――このキャプテン・レッドが音を拾おう! 手がかりがあるはずだ!」

「WAIT! RUNO’S MAGIC DON’T EXERISE!」

DON’T EXERISEって……発動していない、だったはず。

つまり、魔術が発動されていない……。

ニックさんの発音がネイティブだけどわりと聞き取りやすい発音で助かった。

助かってないのが、ルノさん。

そうだよ、あの人ならついてない事態を魔術で無理矢理何とかする人だ。

それで知らせるしだろうし、その暇がなくてもその発動で居場所がわかるはず。

最悪の事態を想定すべきか……?

あの人がここにいれば余計な事を考えるなって言うはずだ。きっと。

くそ、今は全力で地面に耳を当て、音を聞き取る。

キャプテン・レッドの聴力で、あの人を。

ボゴボゴと何かが水中で暴れている音が聞こえる。

「そこだ! その水溜まりだ!」

「OK! STILL LIVE?」

ニックさんがバットを手が見えなくなるほど高速で振るった。

水溜まりの水が、一発で吹き飛んだ。

いない。

「WHY?」

いや、音はした。

水溜まりに注ぐ、奥の水路から青い服の袖と人の手が見えた。

でかい魚のえらに片手を突っ込みながら。

そして、水のなくなったそこに流れ込んできた。

「マウコウェン!」

と言いながら。

ルノさんだ。

そして、何を言っているか全くわからなかった。

多分、ついていない、と言っているんだろうけど。


 焚火をつけて、ルノさんの服を乾かしながら、魚を焼く。

魚臭くなりそうだけど。

火はニックさんがバットでつけた。

何を言っているかわからないが、事実だ。

バットスイングの摩擦でやったのか?

てか、生木に火をつけてないか?

というより、そのバットは本当に木製なのか?

「アエカンパッコ チャタイ エイワンケ イサム」

ルノさんが言う。ニックさんの発音より聞き取りやすいくらいだけど、意味がわからない。

通訳されていないし、ルノさんが火をつけていないことから、多分魔術は使えない。

理由はわからないが、そういう世界なのか?

「まあ、とりあえず無事でよかったですけど」

「ヒトシ ニック アミプ イヤイライケレ」

僕とニックさんに何か言っているのか。

ああ、服か。

今ルノさんはニックさんのユニフォームと僕の学生服の上を羽織っている。

ルノさんの青いドレスを改めて見ると、生地の厚いしっかりとした一品だ。

装飾と言える部分も多く、かなり水を吸っているから乾くのに時間がかかりそうだ。

その他ブーツに靴下など諸々ずぶ濡れだ。

「まあ、しばらく休んでいますか」

「HEY」

ニックさんが構えていた。

「DRY THE DRESS」

そう言うや否やまたバットスイング。

風圧でドレスから横殴りの雨の様に飛沫が飛んだ。

触ってみると、さっきより水分がかなり飛んでいる……。

この人、本当に物理学を無視するレベルでバット一本あればなんでもやるな……。

「エモニピリカ  プリ」

するとルノさん、羽織っていた服を脱ぎ、細身の体を外気に……ちょっと!!

「ヘトポ!! ポクナアミプケ!」

何してんの、この人! 目をそらす……、下は長いドロワっぽいの履いてるのか。

上も、羽織っているのから覗いてたけど、中世ヨーロッパ的なの……。

色はこの人魔王だけど、白い。

これ以上は、必死で見ないでおく。

って、ルノさん腕輪してるのか。

服の下にするのもおかしい気がするけど。

「WAIT! ARE YOU OLD  WOMAN?! NOT ASHAMED?!」

「アエイシラムネプ! アン オロ チクシ イサム カネ!」

「THINK ABOUT WHAT!」

「ホクレ! マウコウェンアン!」

 言い争う二人とは明後日の方向を見ていた僕。

上空に、巨大な本が浮かんでいるのを見た。

 来やがった!!


「二人とも! 来たぞ! 戦闘準備するのだ! このキャプテン・レッドが観察、監視をしているうちに!」

毒ガエルの様な真っ赤な表紙の本が、パラパラとページをめくりながら飛んでいる。

完全に不自然なこの光景は、いつもの異形だ。

めくられるページが、止まった。

黄色い毒々しい色の、右手が載っていた。

……あん時の右腕か!

出所、これかよ!

ぶちまける様にそれらが本から落下してきた。

一直線にこっちにやってくる。

 状況、前回より大分悪い。

地面が、水溜まりだらけでかなり悪い。

何より、ルノさんが戦力にならない!

その上、本体が上空だから遠距離攻撃しないといけない!

それができるのニックさんだけで、ニックさんは何かを打つ形じゃないとそれができないけど、ここにはそんなに打てる物がない!

でもって、お互いの言葉が通じない!!

「くそ!」

「SHIT!」

「シ エマシテク! 」

「何という事だ!」

「WHAT THE FUCK!」

「ナカトゥネ!」


ともかく、やれる事をやるしかない!

「ならば――――――タタカイマス。ゴシュジンサマ」

アリムで攪乱する。

作戦は言葉が通じない以上、立てれない。

やるべきとしたら、ルノさんを守る事。

攻撃手段がないから、危険だ。

ニックさんは自分しか本体を叩けるのがいないのはわかってるはずだ。多分。

 本が頭上に来た。

直接右腕を降らしてきた。

くそ。守れるか。

ピュン。ガ、ゴ。

空気を切る音と、何かを打ち砕く音。後ろから聞こえてきた。

ニックさんか。

「OH、STORNG」

え?

違う? 自分がやったんなら、そんな事言わない。

ピュン、ピュンと空気を切る。

目の前の右腕を破壊するのは、ルノさんだった。

ユニフォームを下着の上に羽織り、両手に棒を持っていた。

両腕の腕輪から紐が伸び、それは手にしている棒につながっている。

 そんなの仕込んでいたのか!


「ヒトシ アラパ アニ!」

やるべき事、多分あっている。

降りしきる右腕を破壊し続ける。

嫌な音ばかりだけど、気にしている暇はない。

 ……そういえば今火に炙っている、ピラルクみたいにでかい自分の身長並みに大きい魚を仕留めているんだよな。ルノさんって。

魔術無しで。

考えてみれば、物凄いペースで色んな世界を渡り歩いてそのたびに戦闘して、平然としているように見える。

アスリートとしても明らかに色々おかしいニックさんや女神から妙な能力を与えられた僕とも違う、魔法使いと言えるキャラだ。

体力が少なくても違和感ないけど、この人に関してはやけに体力がある?

 ルノさんはニックさんの周囲で棒を振るう。

ニックさんはというと。

「GO TO HELL!!」

焚火の燃えさしを本に向かって次々打ち上げていた。

ルノさんが守るような形でニックさんは遠距離攻撃にある程度集中できる。


 湿地帯は右腕にとっても動きにくいのが幸いだ。

アリムの問答無用な怪力は多少の地面の悪さをもろともしない。

水にはまっても力だけで押し切ってしまえる。

原作のとんでもなさが反映されているか。

で、ニックさん。

「GO TO HELL WITH YOU!」

右腕を打ち上げていた。これがあったか。

 上空の本は焦げ、また右腕の体液で汚れていた。

これ以上、本からは右腕は出てきていない。

 パラパラとページがめくられていく。

止まったページには、炎。

一帯を覆いかぶさるだけの炎が吹き荒れてくる。

けど。

「NO PLOMBLEM!」

ニックさんが水を湿地からバット一本で放出するかのように、打ち上げた。

またページがめくられる。

次は岩石。それ悪手だろ。

「NO PLOMBLEM AGAIN!」

やっぱり、上空へ打ち上げられた。本に命中。

ニックさん、頼りになるな。


 明らかにさっきまでと違う雰囲気の本。

混乱しているかのように高速でページをめくり続けるものの、それが止まらない。

「HONE RUN!」

ニックさん、今度は近くに生えていた大きめの樹をバットで折って、そのまま打ち上げた。

尖った切り口が本に突き刺さる。

だからそのバットは本当に何でできているんだ。

樹が貫通し、ページがめくられることがなくなった本。

死んだかのように上空で静止している。

すると。

「ナントイウコトデゴザイマショウカ。ゴシュジンサマ」

「REALLY?!」

「マク ハウェアン!」

本のページがばらけて落ちてきた。

地面に落ちた数多くの紙から、大量に無作為に様々な物が出てきた。

例の右腕に細かい蟲、タールらしきもの、それに引火する炎、大量の砂。

時間が経てば経つほど出てくる。

炎で右腕や蟲は阻まれている。早くなんとかしないと。

「タダイマムカイマス。ゴシュジンサマ」

アリムで抑えれるか。アイアンゴーレムは地面が悪くて使えそうにない。

「HITOSHI! COVER ATTACK!」

ニックさんがまた水溜まりの水に向かってバットを振るう。

音速を超えた時に発生する衝撃音と共に発射された水飛沫は続々と現れてくる異形に弾丸のように突き刺さる。

砂混じりだから余計に威力が増しているはずだ。

ニックさん、本当に頼りになるな。

地面に落ちたあの本のページ、あれを破けばこれ以上出てこない。

……多分、そうであってくれよ!

 右腕の巨大な奴や変な色の熊をかいくぐり、蟲の群れを突破し積み重なったページの山へ。

「オヤブリイタシマス。ゴシュジンサマ」

手に触れた時だった。


バン


体が跳ね上がった。

衝撃。痛み……それと痺れ。

手にしたページにはジグザグの黄色い線が。

雷だ、これ。

周囲の異形も大体ダメージをくらっている。

けれど、僕の体が動かない。

意思があるだけましか。原作のアリムの頑丈さも再現されていて助かった。

高圧電流をまともに感電させられても、しばらくしたらまた動けたからな。

だけど、当分は無理だ。全く体が動かない。

その間に宙に浮かんでいる蟲にやられる。

アイアンゴーレムに変化だ。

 ああ、泥に体が沈んでいく。

アイアンゴーレムは体が大きいし、大の字でいるのならこの程度の沈み込みで済むはずだ。

異形が攻撃しても多少の事じゃビクともしない。

ただやはり体が動かせない。

やってしまった。

「HITOSHI! REMNAIN THE STATE!」

ええと、どういう意味だっけ?

すると散弾のような水飛沫が僕の辺り一帯を襲った。

ニックさんがまた飛ばしてきた。

これで異形はかなりダメージを受けた。

ああ、わかった。ニックさんが言ったの、その状態のままでいろって意味だ。

アイアンゴーレムならこの位の水飛沫じゃ大した事はない。

このままニックさんが水飛沫を飛ばし続けて削り続けていく作戦か?

でも視線をページの束にやる。

まだ異形が出てきている。これじゃ時間がかかる……って、ちょっと!

 ユニフォームを羽織っただけの、半裸姿のルノさんが降ってきた。


 ルノさんが足蹴にしているのは、本の表紙部分。

ニックさんに打ち出してもらって、飛び掛かったか。

それを地面に落とし、僕が倒れている付近に降り立った。

「マウケセヘ!」

そういうや否や、ページの束に手にしている棒を突き立てた。

出てこようとした異形ごと何度も何度もページを突き刺し続ける。

それはもう執拗に。

ページは水に濡れて、いつしかぐちゃぐちゃになって何も出てこなくなった。

この手があったか。

水に思いっきり濡らせば、そりゃ本の体裁は失うし、何も出てこなくなるだろう。

ニックさんからの水飛沫はこの意味合いもあったんだな。

てか、ルノさん。言いたいことあります。


「ちょっといいですか……シッペ!」

腕輪のところを避けて、指二本で思いっきりはたく!

「アラカ! アチカラタ!」

「いや、人に無謀な事するなって言っておいて、自分も人の事言えないじゃないですか!」

「アン アキヤンネレプ! ワ イヤイキプテ キッカラ!」

「いや、だからって魔術使えない上に半裸でって、無謀でしょうに!」

「イミ セタク  イモクパクノ キッカラ!」

「仕方ないって、自分で運がないって言っている人が何してんですか! てか服を着てください!」

「カッタロ! ネプ ネ ヤッカ  イキ! アミプ エペコチリリ! ワッカ ホプニ!」

「どこに目をやれってんですか! 困るんですよ! 高校生には刺激強いんです!」

「コヤイクス アエラムサラク!」

「気にしてください! 魔王様でしょうに!」

「IS IT IMAGINATION THAT A CONVERSATION MAKES ENDS MEET THOUGH LANGUAGE ARE DIFFERENT?」

ええと、言語違うのに会話が成り立っているのは気のせいか、ですか。

ええ、僕もそう思います。なんで意味もわかってないのに、意思は通じてる気がするのはなぜだ?

「APART FROM THAT、I KNOCK OVER A SWORD」

剣を倒す……、忘れてた。

ルノさんの靴下を干すのに使っていたりするけど。

 ニックさんが剣にかかっていた靴下をつまみつつ、剣を倒す。

剣は火に炙られ、ちょっと焦げ付いているでかい魚の方に倒れた。

「……」

「……」

「……」

「それ?!」

「マ チェプ?!」

「BAKED IT! ALL RIGHT?」

「焼いちゃってますよ! 魚! どうなんですか? これ」

「……TRY IT」

「ホシキ! エトコ オロケ サッアミプ」

「服、ですか? ですよね。てか早く着替えてくださいよ。どこを見れと言うんですか」

「コヤイクス アエラムサラク」

「ARE YOU OLD  WOMAN?」


 火の近くに置いたのとニックさんのバットスイングもあって、ルノさんの服は思ったより早く乾いた。

ルノさんの準備は整ったようだ。

「ヤクン イニスク」

剣の柄をとりあえず魚の口に入れる。

で、引っ掛けるようにして引っ張ってみる。

「イネ エタイェ」

「THERE DON’T BE UNREASONNABLENEESS EVERY TIME」

「抜けないです」

「THIS ISN’T BECAUSE IT GRILLIED A FISH」

「チェプ カムイラメトク エラナク 」

「でも毎回……うわぁぁぁぁぁ」

「タアンペ? ……ウワアァァァァ」

「THIS? ……Nooooooooo!」


 またしても落下する様にして別な世界へ行く僕たち。

ルノさん、熱いだろうに焼いた魚を手早く鷲掴みして食糧確保するのは、なんていうかもう、さすがです。


 今回ルノが話しているのはアイヌ語です。話すならあまり知られていない言語を、と思いこれにしました。

とは言っても、素人がアイヌ民族博物館アイヌ語アーカイブhttp://ainugo.ainu-museum.or.jp/を見ながらやったので、間違いはあるでしょうが、多めに見てください。

異世界のアイヌ語みたいな言語という事で。

(実際魔術という単語が見当たらなくてマムシという単語で代用していますし)


ルノが話している内容は、上から以下の通り。

「ついていない!」

「魔術が使えないとは、予想外だ」

「ヒトシ、ニック、服をありがとう」

「良いやり方だ」

「もう一度!! 下着を乾かす!」

「必要がある! 私はどこまでもついていない!!」

「早く! 良くない事が起こる!」

「くそ!」

「なんてことだ!」

「ヒトシ 行け!」

「何という!」

「終わりだ!」

「痛い! 何事だ!」

「私は魔王なのだ! 場合により危険は仕方ない!」

「服を着る暇がなかったのだ、仕方なかろう!」

「勝つためだ! なんでもやるぞ! 服は滴るほど濡れているのだが! 水が飛んできただからな!」

「気にしないぞ!」

「どうだ、抜けるか」

「それでは頼む」

「焼いた魚?!」

「待て! その前に服を乾かせてくれ」

「気にしないのだが」

「魚が勇者だと困るがな」

「これ? ……うわあぁぁぁぁ」

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