◆091◆引っかかり
二人は、奥に入るドアの前で会話をしている。
(よくやった)
ミーレンさんが何か言ったようで、ムダマンスさんがそう言った。
声は聞こえないけど、口元で何を言っているかわかる。残念ながらミーレンさんは僕に背を向けているので口元が見えない。
(そうだな。その方がいいだろう。目的はそっちだからな)
うん? 目的はそっちって?
やば! ムダマンスさんと目が合った!
取りあえず僕は、軽く頭を下げて置く。ムダマンスさんは、ニッコリ微笑んだ。
いや、口元を読んで会話を盗み聞きしていたなんてわからないだろうけど。
目的って、後継者の事なのか?
でも、何と比べてそっちなんだ?
「お待たせ」
戻って来たのはミーレンさんだけだった。袋に入った血ランと依頼書を手にしている。
「はい」
「ありがとうございます」
二つを渡され僕は礼を言った。
「じゃ、行こうか」
「え? 一緒に行くんですか?」
「貰ったお金は俺がここに持って来るよ。君は、完了の手続きにギルドに戻ればいいだろう? その方が手っ取り早い。まあそれに、口約束だからな」
つまり監視って事か。
まあ確かに、弟子にするつもりだと思っていたとしても結構な額だ。お金を回収できないと困るだろうし、騒いだところで証拠もない。
僕は、そんな事をするつもりはないけどね。
◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆
「こんにちは」
僕は、依頼主の建物の中に入った。ここは、問屋の様だ。
「はい。いらっしゃい」
「あの……依頼の件できたのですが」
「依頼って、血ランですか?」
「はい」
お店の人は僕を見て驚いて言った。ミーレンさんは、ドアの所で立っている。
僕は、袋に入った血ランを見せた。
「これをどこで?」
「えっと……」
「これは君が採取した物ではないだろう? どう見ても保存してあったものだ」
「ムダマンスさんから譲って……」
「あそこから? 悪いがそれは引き取れない」
「何で?」
「ここだけの話、その人には関わるなと……」
「おい! 商売敵だからって変な事吹き込むなよ!」
突然ミーレンさんが、割り込んで来た。
父親が悪く言われればそうなるか。
お店の人が、ミーレンさんを見て息をのむ。ムダマンスさんの息子だと気づいたんだ。
「とにかく! 欲しいのは新鮮な採り立てだから!」
「わかりました……」
ミーレンさんが、お店の人を睨み付けている。
「ミーレンさん……」
僕がボソッと言うと、ふんとドアに向かう。
「お邪魔しました」
僕達は、店を出た。
どうなってるの? ムダマンスさんって悪徳商人とか?
「父さんは、商人ギルドに所属してないんだ。それによそ者だからな。よく思われてないんだろう」
それにしたって……。
そう言えば他国から来たんだっけ?
「商人ギルドなんてあるんだ……」
「あぁ。自由に商売したいとギルドに入ってないみたいだな。俺は十年ぐらい前からこの街にいるけど、父さんは五年程前から来て住んでる。まあ、ちょっと強引な所があるけど鑑定スキル持ってるから信頼はしてもらってるんだ」
「え!? 鑑定? なんで鑑定師にならなかったの?」
「うーん。それは父さんに直接聞いてくれよ」
そこまではいいけど。
でも何か変な気がする……何だろう? 何にひっかかるんだろう?




