第4章17話 再生と山の精霊
「テリッチさん、こんなにポーションや聖水を作っていて御飯食べました?」
「余りに身体が自由に動くし、材料費の心配が無くなったのでポーションばかり作っていたので忘れてました」
テリッチさんが本当に嬉しそうに笑って言った。この人は朝より若く見える。メダルの加護が戻って来ているのかもしれない。
「我々も食べて無いので一緒に食べませんか? 何をするにも空腹では進みません」
三人でテラスに行き、お姉さんを呼ぶと、いつものようにエールとタオルの熱いお絞りをまず持って来てくれた。
「鹿肉のソテーと野菜のシチューにエルフパンでーす」
3人分頼むと、相変わらずピョンピョン厨房に飛んでいった。
俺が顔を拭いているとテリッチさんとアデルさんが既にエールを無くし、アデルさんが追加を注文していた。
「テリッチさん、お酒好きなんですね」
「はい! でも材料費とか呪いを考えると、たまに自作の酒を飲むくらいだったので、凄く嬉しいです」
「どんどん飲もうではないか! ここのエールは美味いぞ」
アデルさんが既に飲む姿勢を前面に押し出している。話しは早い内にしないと。
「テリッチさん。作業場に宿泊施設は有るのですか?」
「無いです。狭いですから。床で寝てます」
精霊の守護は無給なので錬金術師のような稼げる人がするのだが、テリッチさんのように加護が無くなり身体が病んでしまうと悲劇だ。
「私がこの宿に部屋を取りますので、そこに住んで下さい。食事も酒も全てお金を気にしないで。よろしいですね」
「良いのですか? 私には夢のような提案で……」
「是非とも、そうして下さい」
2人を残して支配人さんの所に聞きに行くと、年100万デルの部屋で良いのが有るというので見に行くと、2階で1人には広いくらい、ベランダからは聖樹が見え小さな露天風呂も付いている。
早速、お金を払い鍵をもらった。
テラスに戻ると二人は軽いつまみでエールを飲み続けている。俺は部屋の説明をして鍵をテリッチさんに渡した。
二人はすぐに部屋を見に行った。
「司令さんだけ、お先にどうぞ」
お姉さんが料理とエールを持って来てくれた。
「いつもアリガトー」
「こんな事しかできないんですー」
鹿肉のソテーは相変わらず鹿肉なのに柔らかく凄く美味い。本当にここのコックさんは素晴らしい。
俺が半分くらい食べた辺りで二人が帰って来た。部屋は相当気に入って貰えたようだ。
お姉さんが二人の料理とエールを持って来ると、凄い勢いで食べ始めた。
「鎮樹様はそんなに酷い状態なんですか?」
食べ終えた頃に聞いてみた。
「何が何でも生かしたいのですが…」
「実は魔王さんに再生魔法を貰いまして、余程の時以外は精霊関係は使わない方が良いかもしれないと言われてはいるのですが…」
「今が、その余程の時かもしれません! 私は使ってみるのに賛成です。枯らしたら終わりですから」
テリッチさんが力説した。
「じゃ、これからやってみますか」
我々はすぐに鎮樹様の所に行った。
明るくすると短い草地の中に古木が見える。
「アデルさん、やります?」
「お前が一番魔力が強い。やれ!」
「では」
俺は柏手を二度打ちお詣りした。
「鎮樹様が無事、元の偉容を取り戻し精霊様が宿りますように」
ワンドを持ち、心を清め唱えた。
「再生」
鎮樹はピキピキバキバキ音を立て、その容姿を変えてゆく。幹は太くなり失われた枝が戻り葉を茂らせ、根は太く数を増やし樹皮は緑を含む茶色となった。
「ドドン」
大きな音と地震のような揺れと地響きがした。
俺は身体を鎮樹様の周囲の草地に向けた。
「再生」
短い草地が膝くらいの高さに伸び、色とりどりの種類の草花が咲き乱れ出した。
「地脈に達したみたいですね」
「そうだな、ミノル凄い魔法だな再生は」
テリッチさんがアデルさんの言葉に頷いている。
「私もこれ程、見事に再生するとは考えてなかった。みごとだ、良くやったぞミノル」
我々は振り返り鎮樹を見た。樹の根元に白いローブを着た30歳くらいで銀髪のハンサムな男が座っていた。
「私が山の精霊だ、男の精霊でガッカリしたかな、ハッハハ。まだ久し振りの姿で力が出ない。座ったままで許せ。皆も近くに寄れ、話しづらい」
気さくな精霊様だ。皆そばに寄った。お母さんが突然現れ、キョロキョロしている。精霊様に引きずり出されたようだ。
「どれミノル、お前には世話になった。まずはお前の精霊の守護主を追認してやろう。これでお前は精霊の守護主の力を全て使えるようになった。私や他の精霊を呼び出すことも出来るぞ。それと明日の昼に使えるように力も増やしておいたからな」
精霊様は俺に笑ってウインクした。
「アデル、お前は美しいな。ミノルがお前にデレデレな筈だ、お前もミノルの躾に頑張っておる、良いことだ。もっとビシビシやっても良いぞ、強大な力を持ってしまった今が大切な時だ。だがもう少し期待に応えてやれ、勉強会とかな。ワッハッハ。
お前も精霊の守護者として追認しよう、守護者の力も全て使えるようになったぞ。守護主が不在または緊急の時、お前も精霊を呼び出すことが出来る。精霊を守り、守護主を守るための力も増やしておいた」
アデルさんは真っ赤な顔で精霊様に頷いていた。声が出ないようだ。
「テリッチ、この200年の間本当に良くやったぞ。私も、あのような身体であったので何も出来なかった。済まなかったな。
お前も精霊の守護人として追認しよう。精霊魔法だけで無く他の魔法も上げておいた。姿は200年前に戻し飛べるようにもしておいた。ミノルから取った知識だがな。
精霊、そしてミノルとアデルを支えてくれ。明日はお前も手伝え、良いな」
テリッチさんは精霊様に頷いた。やはり声が出ないようだ。
「レナ、突然呼んで済まなかったな。お前は良い歌声をしている、楽しく聴いておるぞ。これからも頼むぞ。
お前の精霊の守護人を追認してやろう。力と若さも与えておいた。それとお前も飛べるぞ、ミノルに感謝しろよ。帰って良いぞ」
お母さんが突然消えた。若くなっていたような気がする。
「ここの森と館の森は再生してくれ。忘れられた森はしばらく後回しだ、エルフ王が戻って来ても困る。聖樹域は精霊が望むまで放っておけ。
ミノル、私の守護人を探してくれぬか? 若い女の子が良いなの守護人を探してくれぬか? 若い女の子が良いな、急ぐ必要はない」
「かしこまりました」
「貢ぎ物はせんで良いぞ。酒とか料理とかは欲しいと思わんからな。まあ、なんだ、お前が望むなら置いていっても拒否はせぬぞ」
「では早速」
「皆、ご苦労だった。また会おう」
我々は食堂に戻った。
「すぐにエール5杯と料理を、森の精霊様の供物です。待ってますから」
お姉さんは、他の客用を厨房から略奪しエールを持った。俺とお姉さんは鎮樹にワープすると自作の供物台まで用意されていた。
「何だ、もう持って来たのか。要らぬと言ったのに。この娘が明日からも持って来るのか? 良い娘だ。カワユイな。では、頼んだぞ」
俺とお姉さんは食堂に戻った。
「ミノル様、アリガトーございます! 私って巫女役になっちゃいました!」
お姉さんは、支配人さんと厨房のコックさん達の所へ飛んでいった。




