第4章14話 魔王さん
トメラさんが来た。
「気持ち良いのに、参加しなかったのですか?」
「狩りに使う魔力が無くなっちゃうんですよ」
「そうか、飛ぶのを覚えたばかりだと魔力が減りますよね。慣れると魔力を余り使わないで飛べるんですけど」
トメラさんは準備運動を始めた。
「凄く簡単だったな」
アデルさんが言う。
「こっちは奇襲ですし、射程もこっちが長いので反撃が有りませんでしたからね」
「うん、射程が長いのは凄く有利だな」
「サキバさん、時間がかかってますね」
「まさか、あれ置いてバイバイとは言えんだろう。多少の説明は要るぞ」
アデルさんがトメラさんに笑いながら言った。
サキバさんが帰って来たのは更に15分後だった。
「遅くなってスミマセン、捕まってしまって。狩り行きましょう」
サキバさんは俺にマジックバックを返してくれてから、狩り場にワープした。
我々が降り立ったのは小山の中腹だった。目の前に草原が広がり、トナカイと牛の中間が巨大化したようなのが大群でいた。
「凄い数だな。ミノル、騎士団と警備隊に狩りに来させるか」
「良いですね。予算不足解消ですよ」
「早く狩りましょうよ」
トメラさんが今にも飛び出しそうな勢いだ。
「作戦を考えないと。奴らは自分の安全圏内に危険を感じると突っ込んで来るんですよ。20メートルくらいだったかな。これだけ密集していると凄い数で襲って来ますよ」
「それじゃ倒しても、集められないじゃないですかー」
トメラさんが不満そうに言っている。
「手前のを一気に必要数倒してから、僕が囮で電撃かナンカ弱いのをビュンビュン飛ばして引き離すから、その間に獲物を集めてください」
「その役、私がします」
サキバさんが立候補した。
「じゃ手前のを30頭くらい倒しますか」
「それじゃ足らないですよー、4人で分けたら10頭にもならないじゃないですかー」
「分けるって、僕は要らないですよ」
「私も要らんぞ、トメラにやる」
「私も要らないよ。最初からトメラの開店資金の為に来ているんだから」
トメラさんは少し涙ぐんで皆に頭を下げていた。
「一番近くの辺りで…あの大きめなのが多い群れ、あれ倒しましょう。サキバさんは、囮になって引き離してください」
俺とアデルさんが大きいのを30頭くらい倒すと、サキバさんが高度を下げて自分を見せながら雷魔法で魔獸に刺激を与えて誘導を始めた。
サキバさんの誘導が上手で群れの方向が変わり、徐々に倒した獲物から遠ざかっていく。
50メートル近く離れたところで回収作業を始めた。
大きめな獲物から借りてきた業務用マジックバックに入れてゆく。何せ大きな生物なのでバックに入れるのが大変だったのだが、慣れてくると意外と簡単に入れられるようになった。
バックが足らなくなって、24頭で打ち止めとなった。トメラさんが悔しがっているのを笑っていると、サキバさんも戻って来た。
「さて、事務所に帰りますか」
「あのー、父に顔出してもらえませんか?」
サキバさんが言って来た。
「密入国、密猟の立場ですよ」
「それは無いですから……お願いですよ」
「ミノル、サキバにも立場がある。私も一緒に行くぞ」
「……アデルさんも来るのなら行きますか。でもフェン兄さん嫌がりません?」
見晴らしで戦っていた男の1人が、フェン兄さんなのは分かっていた。
「大丈夫ですよ、困っているでしょうけど」
結局行く事になった。
「トメラさんはパトリックさんに獲物を届けた方が良いです。肉が駄目になっちゃいます」
「はい、先に帰りますますね。ミノルさんアデルさんアリガトー」
トメラさんがワープで消えた。
「じゃ我々も行きましょう」
サキバさんは我々を、先程フェン兄さんともう1人が戦っていたドーム型の見晴らしみたいな所に連れて来た。
背が2メートル以上有りそうなガッチリ型、黒髪のハンサムおじさんがいた。50歳くらいかな。
「始めましてミノル司令、アデル副司令、国王のラルドと申します。先程は危ないところ助けて頂き、大変有り難う御座いました」
「とんでもない。国王陛下が危ないなんて。こちらも久々に派手に魔法を使えて楽しかったです」
「これは豪気ですな司令殿の強さは噂通りでした。感謝しております」
アデルさんは緊張モードで、だんまりだ。
「あの、ミノルで結構ですから。司令は臨時でやってますので」
「司令が臨時ですか? では私もラルドで、精霊様直属の方々に国王陛下とか呼ばれましても、アッハッハ」
気さくな人だ。
「では、ラルドさんで」
「私はミノル殿で呼ばさせて貰いましょう」
「先程は何でラルドさんと正体不明のもう1人で戦う羽目になったんです?」
魔王さんは子供っぽい顔になった。
「実は私だけで戦うしかなかったのですが、正体不明な方が突然現れて一緒に戦ってくれたのです。敵もその正体不明さに恐れおののきましてね、いやずいぶん助かりました」
ラルドさんがフェン兄さんを見もせずに話す。
「わかったよ、ミノル悪かったよ。さっきは有り難う。死ぬ寸前だった」
「礼は兄さんの大切なサキバさんに言うべきでしょう。サキバさんが僕とアデルさんを誘ってくれたから、あの戦いに参加出来たんですから。ねーサキバさん」
「そーですよねー! だからミノルさん大好き。もっと言ってやってくださいよ」
ラルドさんとアデルさんが大笑いする中、サキバさんは可愛い顔になり、あの良い香りをプンプンさせながら言った。




