第1章07話 襲撃
レナ叔母さんの強硬な意見で急遽全員で晩餐会にすることになった。
ホフマン家も安泰となり、家族が全員揃ったのに祝いをしなければ末代までの恥だそうで、誰も逆らえなかった。
キュレット伯爵夫人を除く全員が楽しそうだ。
「ミノル君、魔力強くなってないか?」
魔導剣士のアデルさんが気が付いたようだ。
「魔導士のサキバさんに広げて貰ったんですよ。魔力が無いと良い武器も防具も持てないと言って」
「彼女か。最高の魔術師にやって貰ったな。ミノル君は運が良いな」
アデルさんはサキバさんを知っているようだ。
「ミノル、お前に教えて貰った手で全員30%値引き呑んだぞ。お前が兄弟の中で一番貴族向けかも知れないな」
ノア兄さんがニコニコして話し出した。
「いえいえ、ノア兄さんの貴族的悪らつさで乗り切れたに過ぎないと思います」
皆で大笑いしている中、フレードリッヒ叔父さんが俺に質問してきた。
「ミノル。家宰が逃げたのを知っているな?」
「はい。さっき聞きました」
「では問おう。お前ならどう対処する?」
「エー! 僕みたいなガキの意見聞いたって……」
「この国では、お前は既に大人だ。遠慮無く言え」
「日本風になっちゃいますよ」
「構わん。言え!」
諦めて普通の意見を言うことにする。
「家宰は叔父さんの弟さんですよね。ならば家宰家は廃嫡のうえ取り潰し。早急にノア兄さんを家宰に任命のうえ、後継者指名します。家宰派が残ってないか徹底的調査のうえ、見つけ次第領内追放か投獄ですかね」
皆が、シーンとしてしまった。
「ミノルちゃん貴族向けだわー、1時間程かけて皆で話し合ってた中で最高の意見だわ」
フェン兄さんが大笑いして言った。
「ミノルの言う通りかも知れない。ここで中途半端な幕引きをすると、後が面倒になりかねないな……」
フレードリッヒ叔父さんは腕を組んでしばらく天井を見ていた。
「決めた! ミノルの言う通りする。家宰家の廃嫡、取り潰しは即座に。明日から調査開始。ノアを跡継ぎと指名する!」
ホフマン家の新しい一歩の責任を負わされたようで気分が重くなった。
裏庭に4人の敵反応を感じた。
「アデルさん。裏庭に4人!」
アデルさんは剣を持って飛び出した。ピーター騎士隊長は念話で指示しているようだ。
急に食堂のベランダに6人の敵反応が現れた。
俺は反射的に短剣を抜きながら大窓のガラス越しに氷弾を乱射して一人倒した。
ピーター騎士隊長が剣を抜いて、机を飛び越して窓側に来た時、ガラス窓を突き破って他の敵が飛び込んで来た。
俺は氷弾を乱射しながら、侵入者に思いっきり踏み込んで切り付けた。
短剣にザックリとした感触が伝わり、相手の首の付け根から胸に抜けた。
男は背中から床に倒れて行った。
もう一人がフレードリッヒ叔父さんに向かって走っているのが目に入った。
相手を後ろから風魔法で吹き飛ばして、フレードリッヒ叔父さんから引き離し切りかかった。
立ち上がろうとしてこちらを向いた時、俺の剣が刺客の胸に突き刺さった。
男は自分の胸を両手で押さえ、呻きながら膝から崩れる。
俺は慌てて自分の剣を引き抜いた。
男は手で胸を押さえたまま前に倒れた。
キュレット伯爵夫人が悲鳴をあげているのがうるさく感じる。
残りの三人はピーター騎士隊長が片付けてくれたようだ。
俺は短剣を持ったまま座り込んでしまった。
うー、気持ち悪い。
吐き気がするけど、胃の中に何も無いので吐けない。
四つんばいになってゲーゲーいっていると、レナ叔母さんが背中をさすってくれた。
「ミノル。良くやってくれたわ。辺境伯の命を守ってくれてありがとうね」
「夢中でしたので……気持ち悪いです」
俺が青い顔で四つんばいから解放された時、アデルさんが飛び込んで来た。
「裏庭の4人は制圧しました」
アデルさんは部屋の惨状を見て驚いている。
「良くやった。身体を流しておいで」
フレードリッヒ叔父さんが言ってくれた。
俺はうなずいてフラフラと立ち上がった。
「マイヤー商会さん襲われてませんか?」
ふっと気がつきノア兄さんに聞いた。
ノア兄さんは慌てて連絡している。
「襲われたそうだ! でも撃退したので御心配無くと」
キュレット伯爵夫人以外、全員無音状態だ。キャーキャーうるさい。
「その馬鹿女を追い出せ!」
フレードリッヒ叔父さんが冷たく言った。
「叔父さん。寄子さんは?」
ノア兄さんが慌てて念話を始めた。
「シュルツ男爵の館が現在囲まれているようです! あとの寄子は無事です」
「ピーター。とりあえず100人程兵を送れ!」
ピーター騎士隊長が怒鳴りながら部屋を飛び出していった。
「服を替えに行きたいのですか、僕が歩くと館中汚すような気がします」
ミリーさんが大量のタオルを持ってきて身体や足を拭いてくれた。
自動洗浄だけあって服やブーツや剣帯はきれいになってきているのに、俺自身は汚れが酷かった。
足の裏をしっかり拭いて部屋に向かった。
ミリーさんがついてきてくれた。
「ミノル坊ちゃん。ミリーは鼻が高いです」
階段でミリーさんが言ってくれた。
……僕、気持ち悪いです……