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第4章12話 山の精霊


 テリッチさんは、大きな箱を抱えて戻って来た。工房はこの村の裏はずれに有るそうだ。


「20本以上有ると思います。5日くらいはもつでしょう。生産を始めないといけませんが……」


 俺は1000万デルを数えてテリッチさんに渡した。


「材料仕入れに相当かかるでしょう、無くなる前に言って下さい。他の払いにも流用して結構です。この食堂の飲食は全て私が支払いますので、自由に利用して下さい」


「こんなに……助かります。聖樹に使うポーションは材料費が高いので本当に助かります」


「この聖樹には聖樹域が無いが、以前は有ったのか?」


「今でも有ります。館の森のような若い聖樹は明白に聖樹域が分かりますが、地脈の本流に根を張った聖樹は森の一部となり見えなくなります。

 普通の人は見えませんし、近寄れません。そうでないと妖精を守ることができないので」


 アデルさんが感心したように、納得していた。


「先程、館の森の聖樹は枯れたと言ってましたが、我々は200年前ホフマン家が切り倒したと聞いてましたが」


「館の森の聖樹は、枯れた後ホフマン家が再生努力をしたのですが無理でした。その後、立ち枯れた聖樹であろうと切れと王が要請し切られました。

 忘れられた森の聖樹は、まだ再生の可能性が有りましたがエルフ王が自分達の力では無理という理由で燃やしてしまったのです。この時からパスコ王国には精霊はいなくなり、アイラス教団の世界となりました」


 話を聞いていると頭が痛くなりそうなので、聖樹に行く事になった。


 3人で聖樹に行くとテリッチさんが聖樹の状態を確認していた。我々は減った聖水を足していく。


「聖水ですか。良い方法ですね。私も聖水を足しに来ます」


 テリッチさんが根を見て回っている。何か生き生きしている。

 アデルさんと俺が根の治療を始めると、テリッチさんはポーションの瓶にストローのような物を付けて幹に4ヶ所差して回った。


「差す場所を決めてあるのです」


「後10センチくらいですね。凄いです。全ての根を20センチくらい切り取りましたから」


「この山には、山の精霊は居なかったのですか?」


「昔はいたのですが、精霊様は今は居ません。古木だけは残っていますが」


「どこに有るのです?」


「宿の上ですよ」


 我々は作業を中断して古木に行った。

 大きく、幹も太い立派な古木だ」


「子供の頃、師匠が連れて来てくれたので入れるのですよ」


 俺はポケットから聖水を6本取り出し、根元にかけてみる。古木がピキ、ピキと音を出した。


「生きてますね」


 俺が言うとテリッチさんが、幹に耳をあて聴いている。


「水の音が少ししてます」


 アデルさんにも聖水をあげて根元に更に聖水を撒いてみた。ピキピキが続いてする。


「水の流れる音が大きくなってます!」


「明日からここもだな」


「そうだな、放ってはおけぬな」


 アデルさんも同意する。


「先ずは聖樹に力を注ぎ暫くは聖水とお詣りに、ここに来ようか」


「私、出来るだけ聖水とポーションを作って、この樹にも持って来ます。200年前に根が地脈から離れていると思いますので」


 テリッチさんの説明に納得した。

 俺とアデルさんが日本式でお詣りすると、テリッチさんが不思議な顔をしていたので説明した。

 テリッチさんも真似していた。


「材料の仕入れとポーションと聖水の生産も有るので、此処で失礼します」


 テリッチさんが消えた。我々は風呂に入って着替えることにした。魔法を大量に使ったので気持ち悪い。


 アデルさんに怒られながら身体を洗い、歯を磨いてから風呂に入った。露天風呂は疲れるた時には最高だ。


「色々な話が聞けましたね」


「意外な話が多くて驚いたぞ」


「瘴気の沼に森の精霊も驚きました」


「やはり長く生きている者から聞くのが良いのだな」


「館の森も……館といえば洗濯物を出して無い! 服も取って来なくっちゃ」


「私もだ」


 という訳で、服を取ってからマイヤー商会でトメラさんの進展を聞いて、昼食をということになった。


 マイヤー商会に着くと顔ぶれが揃っていた。


「ミノルさん、いいところに来ました。違う海老を仕入れたので試食なんです」


「楽しみですね」


「カレーも新型です。是非食べてください」


 パトリックさんがにこやかに言った。暗いのが1人いる。


「トメラさん、どうなってます?」


「私のお金じゃ裏通りの小さな店しか買えないので、それにしようかと思っているんです」


「いくら足らないんです?」


「2億デルも足らないから無理です」


「2億出資してあげますよ」


「ダメです! 世話になりすぎです」


「マイヤー商会も出資を申し出たのですが、同じでして」


 パトリックさんが言った。


「魔獸の森騒ぎの時だったら2億くらいは簡単だったんですけどね。あのトナカイと牛の混血みたいなヴオフォォーンてやつ、あれ1頭1200万デルなんで稼ぎましたね」


 俺の話しにトメラさんが色めき立った。


「あれ、魔人の国に沢山居ますよ。大群で居ますよ誰も狩らないから。あれ強いですから」


 とサキバさん。


「エー! 俺あれ矢11本で倒しますよ。雷神なら1発で5頭くらいいけますモン、弱いですよアレ」


「あの魔獸を矢で倒すのミノルさんくらいですよ」


 パトリックさんが言う。


「サキバ、私を連れて行って、お願い!」


 トメラさんが真剣だ。


「行くなら、サキバさん手出して」


 サキバさんの魔力を1.3倍くらいに上げた。


「凄い! また上がった!」


「精霊の守護主になったら力が増えたんですよ」


「アリガトー! ミノルさん大好き。あ! アデルさんゴメンね」


 サキバさんが俺にしがみついて言った。

 アデルさんが笑っている。


 トメラさんがジト目で見ている。


「増やします?」


 トメラさんに聞くと首を縦に振る。

 手を取り魔力を送ると並みの魔術師より少ないくらいだったが2.5倍くらいになった。


「アデルさんゴメン! ミノルさん嬉しい!」


 やはり、しがみついている。


「さあ、二人で行って稼いでください。僕は仕事なので海老フライとカレーの試食です」


 俺は2人に無言で睨まれていた。


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