第4章04話 新大隊長
お姉さんが夜の定食とエールを持って来た。
「今日は鹿のステーキと香草と野菜のシチュー、エルフ風のビスケットでーす。おしぼりもどうぞ」
「何時も有り難う。助かるよ」
お姉さんはニッコリとして去って行った。
「冷めないうちにどうぞ。食べながら話しましょう」
鹿のステーキは柔らかく臭く無い。
「美味いな」
アデルさんがステーキをエールのつまみにしている。
「美味いですね。鹿とは思えないです」
コロン中隊長が同意して食べている。トレル中隊長も誉めながら食べている。
「遠慮せずエールも飲んで下さい」
俺は叔父さんから聞いた話しを伝えた。
「そこで提案なんですけど、騎士団、警備隊、共に大隊長を任命しますので、候補がいたら推薦して貰えませんか」
「騎士班長のドロンですね」
「ドロンさん、あのデカくて髭の強い人ですよね?」
「はい、司令はドロンを知っているので?」
「知っているも何も、子供の時から練習相手になって貰って、ぶっ飛ばされたり張り倒されたり、凄い人ですよ。9歳の子供に手を抜かないですから」
皆、大笑いだ。
「実はドロンは今年45歳で騎士の定年になるんです」
「そんな、勿体ない。凄く優秀な人なのに」
「はい、本来なら私の前に中隊長になるべき方なのですが、ピーター隊長がドロンを嫌って私が中隊長になった訳で」
「好き嫌いで人事ですか。馬鹿らしいですね」
「トレル中隊長さんは誰か?」
「ジャン中隊長です。若手の最高です」
「では、可能なら今ここに呼べますか?」
両中隊長が念話で連絡を取っている。
俺は冷めてしまったステーキに手を出していると、お姉さんが新しいステーキを持って来てくれた。
「司令さんは話してばかりでしたので、コックが新しいのを持って行けって」
「はいアデルさんはエール」
アデルさんはキレイに全部食べてていた。
「おお、有り難いな。串焼きなどは無いのか?」
「ウサギの香草焼きでーす。コックのおススメですよ」
「良いな、持って来てくれ」
アデルさんは飲むのに専念している。
「ジャンがドロンさんを拾って来るそうです」
「うん、活気が出て来ていて良いな」
人事じゃ無いでしょう。アデルさん、ずるい。
「野菜のシチューも美味いですよね」
コロン中隊長も喜んで食べている。
俺は無言で熱いステーキとシチューに専念した。
話しているうちにジャンさんとドロンさんが現れた。なんで呼ばれたのか不思議そうな顔をしている。
コロン中隊長が話しの概要を2人に説明している。食べてしまえるチャンスだ。
お姉さんがエールを持って来てジャンさんとドロンさんに食事の説明をしている。
俺はエールでステーキを流し込んで完食した。ステーキもシチューも美味かった。
「ドロンさんはステーキ2枚頼んだら良いんじゃないですか?」
「ええ、腹が減って死にそうですからな。坊ちゃんもだいぶ食べれるようになったようですな」
「ドロンさん程は食べれません」
笑ってエールを飲み出した。緊張が解けて来たようだ。
「コロン中隊長が説明したように隊長両名が自宅謹慎となりますので、ドロンさんとジャンさんに大隊長を引き受けてもらう事とします。宜しいですね」
2人は驚いて食事を中断している。
「食べて下さい。冷えますから。『はい』とだけ言ってくれれば、それで結構ですので」
アデルさんと両中隊長が笑っている。
「大隊長が二人になるのですか?」
ジャンさんが聞いてくる。
「いえ、ドロンさんとジャンさんだけです。コロンさんとトレルさんには騎士団情報隊長と警備隊情報隊長を引き受けていただきます。宜しいですね」
コロンさんとトレルさんは不意打ちに慌てているのを見て、アデルさんは大笑いしてエールを飲んでいる。
俺は無視してお姉さんに全員のエールと串焼きを頼んだ。
「今までも隊長は居るだけで役に立ってなかったのですから、暫くはドロン騎士団大隊長とジャン警備隊大隊長に運営して貰います。不足した中隊長は早急に補充してください。
コロン騎士団情報隊長とトレル警備隊情報隊長は大隊長職に慣れるまで補佐する事。
両大隊長は情報隊に三名ずつ隊員を専属で移管して下さい。隠密と警戒が高い人材が望まれます」
お姉さんがエールを全員に配った。
「はい、全員立って下さい」
全員、ノソノソ立ち上がった。
「では、反対意見も無いようですので今をもってコロン騎士団情報隊長、トレル警備隊情報隊長、ドロン騎士団大隊長、ジャン警備隊大隊長の任命とします。乾杯!」
アデルさんが大笑いし、残り4名がキョトンとしている。
「では着席」
「ところで、隊長さん達が望む人材が居た場合話し合いで解決して下さい。決してドロンさん風の話し合いではありません、宜しいですね」
全員大笑いとなり、和やかになった。
「司令は隊長無しで問題無いとお考えですか?」
ジャン警備隊大隊長が聞いて来た。
「普通は隊長が居たら大隊長が二人とか居るものです。隊長が一人大隊長が一人なら隊長は無用です。何故なら大隊長が隊長の役目をしている事が明白じゃ無いですか」
「うん、確かにそうだな」
アデルさんは他人事モードだ。
「儂なんかで良いのかね」
「上司を馬鹿にして、部下を全員無能みたいな風潮が蔓延して居るのは不愉快です。ドロン騎士団大隊長に規律を締め直して貰いたいのです。
9歳児を蹴り倒すような迫力でお願いします」
また全員笑っている。
「指揮は先日ヘフナドルフの捕り物の時、見せて頂きました。ドロンさんの見事な指揮でしたね。ジャンさんはサポートに徹し全員逮捕に大きな貢献をしてました。よって問題無しです」
ドロンさんが少し涙目になっていた。




