第3章22話 枯れかかった聖樹
「聖樹だな」
「聖樹ですね」
半径10メートルくらいの円形の草地の中心に古木が立っている。
幹に耳を当てると水の微かな音がする。枝は太いの以外は殆ど枯れて葉も少ししか無い。
俺は剣帯のマジックバックから10本聖水を出しアデルさんに半分渡した。我々は根元に聖水をかけてゆく。
聖樹が聖水をかける度にピキピキと音を立てる。効いているようだ。
「ミノル。此処を見ろ」
アデルさんの所に行くと根が切断されていた。他の根も4本切断されている。
「これが原因ですかね?」
「そうだと思うぞ」
俺は切断された根で細めで切断された根が余り離れていないのを選んで、根に両手を当て精霊魔法で治療してみた。
手を当てた場所が青い光に包まれピキパキッと音を立て出した。
「ミノル、効いているぞ!」
俺は休まずに治療を続ける。少しずつ根が伸びているような気がする。
20分くらい連続しているとさすがに疲れた。
「変わろう。私もやる」
アデルさんが手を当て精霊魔法をかけ始めた。青い光と共に、パキパキッと音がする。やはり伸びている。
「僕は部屋に帰って聖水取って来ます」
俺は部屋で剣帯に聖水を補充して、残りの15本程をポケットに入れ、聖樹に戻った。
アデルさんが休まず続けている。
俺が根の切断された所に聖水をかけると、バキバキっと少し大きい音がした。アデルさんとまた魔法役を代わる。確かに少しずつ根は伸びて切断して離れた根に近づいている。
アデルさんが切断されて離れてしまっている方の切断部分に聖水をかけると根から小さな音がした。
生きている。繋がる可能性がある。アデルさんが離れている方に精霊魔法をかけ出した。ピキと音が聞こえて来た。
「一旦休みませんか?」
「そうしよう」
我々はテラスに戻りお茶と木の実のケーキを注文した。魔法の連続使用はとても疲れる。
エルフのお姉さんが、お茶とケーキを持って来た。
「美味いですね、このケーキ」
「うん、美味い」
「アデルさん時間は大丈夫ですか?」
「問題無い。困るのは、司令も副司令も見付からない奴らだ」
「今日中に1本繋がりませんかね」
「そうしたいな」
こういう時のアデルさんはイキイキしている。
我々は1時間程休んで、また聖樹の修理に戻った。
聖樹側の根と地面から出ている側に分かれ、時折聖水をかけながら精霊魔法の連続治療を繰り返す。根の中心部分が少し白くなって来たような気がする。
昼休みを取ることにして、テラスに戻り昼食を注文した。昼定食とソーセージしか無いので両方頼む。アデルさんがエールを頼んだ。
「良いではないか。戦っている訳では無い」
アデルさんに押し切られた。
定食はキノコのクリームシチューと木の実のパンだった。
「美味いな」
「美味いですね」
ソーセージも茹で上げでとても美味しい。エールにとても合う。
「良い宿だ。気に入った」
遅くに着くお客も多いし飲みに来る客もいるので、食堂も夜12時くらいまで営業しているそうだ。
「夕食は戻らないとまずいですよね」
「そうだな、昨日も館で食べてないからな」
「適当に食べて僕はここに戻ります」
「私もそうする。此処の夜メニューも気になる」
アデルさんは飲む気だ。
「何日かかりますかね?」
「太いのも多いし…2週間くらいかな」
「座ってばかりじゃ疲れも取れませんから、部屋を確保します。何かゴタゴタが起きれば、1ヶ月以上かかりますよ。飲んでいて下さい」
お姉さんに支配人に会わせるように言って席を立った。
支配人は俺を一番良い部屋に案内して見せてくれた。3階で景色は良いし部屋もとても広い。ベッドはキングサイズくらいで応接セットも有る。ベッドの下に補助ベッドもある。
部屋風呂と露天風呂がついていて、風呂はどちらも広い。
露天風呂とベランダから聖樹が見えるのが最高だ。
「1日15000デルで、1ヶ月ですと25万デル、1年なら200万デルで如何でしょう?」
安い! この部屋が15000デルなんて、余程人が来ないのだろう。
お金は毎月、家賃だけで使い切れない程入ってくるので心配無い。
「では1年契約で」
支配人は大喜びだった。
簡単な契約と料金を払っていると、アデルさんが来た。部屋を見てくるように言うと、お姉さんに案内されて行った。
支配人には指示が無い限り、俺とアデルさんだけ部屋を使わせるように言っておいた。
「良い部屋だ、高いのだろう?」
「田舎で観光地でも無いので安いです。びっくりするくらい。仕事の期間と暇つぶし用に1年契約しました」
「半分出すぞ」
「要らないです。僕が勝手に決めたんですから。アデルさんもドンドン使って下さい、無駄になっちゃいますから」
「わかった」
魔力の補充も終えたので聖樹に戻った。




