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第3章21話 マインズドルフ


 朝はアデルさんが起こしに来なかった。

 昨夜帰ってからアデルさんの部屋に運び、コートとブーツと靴下を脱がせてベッドに置いてきた。

 さすがに起きれなかったようだ。

 朝風呂に入って着がえ終えるとミリーさんが来た。


「坊ちゃん昨日は大変だったと聞きました。ミリーは心配です」


「大丈夫ですよ。心配してくれて有り難う」


 ミリーさんは微笑むと洗濯物とブーツを持って出て行った。

 ミリーさんもアデルさんと同じで、子供の頃から世話になっている。


 食事に部屋を出るとアデルさんも部屋から出て来た。珍しくグレーのシャツだ、俺とお揃いになってしまった。

 階段で一緒になり食堂に向かった。


「昨夜はミノルに迷惑をかけたようだ」


「いえ、あのくらい何時でも」


 我々が食堂に入るとすでに全員揃っている。今日は中隊長さん二人も特別参加らしい。


「オハヨーございます」


 全員が俺達を見る。ナンカ雰囲気が違う。


「ミノル。襲われたようだな」


 我々が席につくと、叔父さんが言ってきた。


「はい、まあそれ程大騒ぎするような事でもありませんが」


「日に二回も襲われると普通は大騒ぎするものだと思うぞ」


 叔父さんがニヤリととして言う。


「あれ、ミルレドルフの件はもう知っているんですか」


「なんだ? それは」


「ミノル、ミレルドルフのは三回目だ。最初のはミノルが美人にデレデレして毒を盛られたやつだ」


 アデルさんが言った。


「違いますって、デレデレしてませんよ。ヘンドリックス夫人の知り合いと言うので、立ち話もナンだから、お茶に行ったんですって」


 全員がフーンという顔で俺を見ている。全然信用されてない。


「ミノルが珍しく高級カフェテラスにデレデレしないで美人を誘って、毒を盛られたのが最初で2度目がリリアドルフ、そのミレルドルフのは何だ?」


 叔父さんが言うと、お母さんがニコニコして俺を見ている。


「本当に美人にデレデレしたわけじゃ無いですって」


 ミレルドルフの件はアデルさんが詳しく説明してくれた。


「アデルさんが一緒だったんで、凄く楽でしたよ」


「そういう問題じゃ無いだろう」


 ノア兄さんが真剣な顔で言った。


「日に三回狙われるのが異常という意識がミノルには無いのが問題なのよ。相手が美人で無ければ二回だったかもしれないけど」


 フェン兄さんがニヤニヤして言う。


「ヘンドリックスさんの所で『北の国』の話が出たのですが、叔父さん聞いた事あります?」


 俺は話題を変えた。


「聞いておらんぞ」


 ピーター隊長もトレル隊長も知らないようだ。


「今、尋問中の昨日ヘフナドルフで捕らえた中の1人が北から来たような事を言っております」


 トレル中隊長が答えた。


「近日中に返答があるかもしれませんがヘンドリックス辺境伯には、やる気が有るなら僕とアデルさんで、その港町を平らにする用意は有ると伝えてあります」


「そうか、わかった」


 叔父さんが好きにしろという感じで言った。

 次が俺とアデルさんに護衛を付けるという話だった。


「申し訳無いのですが、お断りします。犠牲者を出すだけです。相手は凄く強いのです。

 雷神を6発撃ってやっと倒れるような相手ですので、護衛は確実に犠牲者が出ます。我々も護衛を守る余裕が有るか保証出来ません」


 皆がしぶしぶ俺の意見を認め、なんとか護衛は避けた。


 朝食が終わりアデルさんと廊下に出ると、お母さんが出て来てアデルさんを呼んだ。お母さんがアデルさんと何か話して、俺に手を振って自分の部屋に帰って行った。


「何です?」


「ん、何でも無い」


 我々は聖樹にお詣りに行った。

 館の森は、林寸前から立派な森に変わって来ており、聖樹は夏の光を浴び鬱蒼と茂っている。

 妖精が沢山、光の粉を撒いて飛び周りのどかだ。


「妖精さんオハヨー」


 俺が言うと妖精さんは空中で止まって光の粉を沢山撒いて答えてくれる。

 我々はいつものように揃ってお詣りし、忘れられた森に移動した。

 こっちの聖樹も、ほぼ完全に近い状態で地脈に根が届くのを待つばかりだ。

 我々は聖水を根に丁寧にかけて、お詣りした。


「地脈はまだかな」


「前回は三ヶ月くらいでしたから、10月辺りには行くと思っているのですが」


「そうか。楽しみだな」


 俺がパトリックさんの所に行くと言うと、アデルさんも今日はヒマというので一緒に行く事にした。

 パトリックさんは事務所にいた。


「パトリックさん、朝からお茶が飲めて景色の良い所知りません?」


「有ります。マインズドルフと言う村なんですが、鉱石や薬草を仕入れる所です。村外れの山の裾に旅館があって、美味しいお茶や料理が楽しめます。テラスも付いてますよ」


「マインズドルフとは、捨てられた街の裏山の奥に有るという村か?」


「それです。裏山と言っても山2つくらい離れてますけど、ホフマン領内で古い村すがアデルさん行った事有ります?」


「いや、無い」


「今、お連れしますよ。丁度、鉱石の仕入れが有りますから」


 パトリックさんはカバンを持ってマインズドルフにワープした。

 マインズドルフは中規模の村で旅館や鍛冶屋、なんと冒険者ギルドまで有る。


「あれ、山の所に見えますでしょう。風呂入る時は必ず別料金の個人用を使ってください。時々鉱夫や冒険者ナンカが来て良く無いです」


 パトリックさんは仕事に行った。我々は飛んで旅館に行った。

 旅館の名は『妖精の宿』、看板に書いてあった。中に入ると食堂になっており、テラスも利用できるようになっている。

 テラスに出ると、思ったより高い所で景色が良い。椅子に座り、エルフのお姉さんにお茶を注文した。


「ここ良いですね」


「うん、良いな。気に入ったぞ」


 お姉さんがお茶を持って来た。


「濃いめで美味いですね」


「うん、美味いな」


 テラスから村全体と、左右の森と街道、広大な草原まで見える。

 お茶を飲んで左に座っているアデルさんを見て美人だなーと思っていると、その視線の先に何か見える。


「アデルさん左の山の裾に有る木、聖樹に似てません?」


「なに……似ているな。聖樹域は無いが似ている」


 お茶も飲み終えていたので、行ってみることにした。


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