第3章20話 北の国
「ミノル司令お久しぶりです」
「お久しぶりです。司令は止めてください。臨時司令でクビになる予定ですので、ミノルで結構ですので」
「相変わらずですね。本来は精霊の守護者と言えば我々貴族より上位の方なのに」
この世界では精霊の守護者は貴族の上の地位だという事はお母さんに聞いていた。
精霊の守護者は精霊様から直接与えられる地位であり、貴族のように人間から与えられた地位など比べようが無いのだそうだ。
「あれ、バレてました? 精霊の守護者」
「バレるもなにも、ミノルさんは有名人過ぎるくらいですよ」
ヘンドリックスさんが笑って言った。
「だから日に3度も暗殺されかかるんですね」
「3度目なんですか!」
俺は今日起きた事を説明した。
「それは大変でしたね。しかしミノルさんとアデルさんという、この世界の最高レベルの魔術師と言われる方々を襲うなんて」
「すみません、他所様の領地で騒ぎを起こしまして。ポニーさんにまで迷惑をかけてしまいました」
「迷惑なんて、とんでもない。でも港でばかり襲われてますね」
ポニーさんがヘンドリックスさんを見ながら言った。
「そうだな……やはり『北の国』が拠点かな」
ヘンドリックスさんの説明によると、家宰一派とアイラス教団を追放した後、北の港町をアイラス教団に乗っ取られ家宰一派もそこに居るらしい。
取り返したいが、家宰一派には雇いの魔術師や騎士団隊長と騎士団50人まで居る。
ヘンドリックス辺境伯領とてもには人手が無い状態で放置しておいたところ最近になって『北の国』を名乗りアイラス教団の魔術師などが結集している情報が入って来たらしい。
「奴等のおかげでボロボロですよ。早く立て直さないと大変な事になるのは解っているのですが、今は領内を守るのが精一杯なのです」
「では魔術師は現在ポニーさんだけですか?」
「そうなのです。私以外の魔術師は全員家宰一派でした」
「大変失礼ですがポニーさんのプレートを見せていただけますか?」
ポニーさんは自分のプレートを俺に渡した。攻撃スキルで60くらいがやっとだった。アデルさんも横から見て困った顔をしている。
「ポニーさん、こちらに来て下さい」
ポニーさんが不思議そうな顔をして来た。俺は立ち上がり、ポニーさんの両手を取り魔力を入れてみる。やはり魔力不足だ。
少しずつ魔力を送り込むとポニーさんの魔力量が増え出した。ポニーさんが眼を丸くしている。
結局、倍くらいの魔力量となり普通の魔術師よりは大きくなった。
「倍くらいです。まだ増えますね、今度また」
アデルさんがポニーさんのプレートを見ながら言った。
「明日、冒険者ギルドに行ってスキルを買うと良い。全部70から80近くにはなるだろう」
「緊急時ですから、それが良いと思われますね」
ヘンドリックスさんがうなずいた。
「アデルさん、飛び方と範囲魔法の使い方を教えてあげて下さい。僕は辺境伯の魔力量を増やします」
「わかった」
アデルさんがポニーさんを連れて部屋を出た。
「辺境伯も自分を守れるくらいには、なりませんと」
ヘンドリックスさんの魔力は意外と伸びた。
「凄いですね。ポニーさんなみですよ」
「なんと、お礼を言ったら良いのか…」
「北の国の情報収集をお願いします。キレイに片付けて良いなら言って下さい。僕とアデルさんで片付けます。ただし平地になりますけど」
ヘンドリックスさんは驚いた顔で俺を見て言った。
「近いうちに返答します」
お互いに近況など話していると、アデルさんとポニーさんが帰って来た。ポニーさんは興奮気味だ。
「ポニーさんは飛べるようになった」
アデルさんが俺に言った。
「では、遅くなりますので今日は失礼しましょう」
我々は相手の返答を待たず、礼をして館に帰った。
「ミノル、腹減らんか?」
「減りました。パトリックさんの店に行ってみません?」
即座に行く事になり、海老フライ屋さんに行くと灯りがまだついている。
中を覗くとパトリックさんが出てきた。
「これから海老フライカレーの試食です、よろしかったらご一緒に」
我々は大喜びで中に入った。
ハリーさんとサキバさんが笑顔で迎えてくれて、ハリーさんが言った。
「パトリック、エールも持って来い」
「はいはい」
「今日はナンを焼いたのですよ。先にお呼びしたかったのですか、リリアドルフの話を聞いて遠慮しました」
「気にしないで下さい。鼻を感にやって来ますから。ナンは楽しみですね」
「ナンとは?」
アデルさんが聞いた。
「インドという国のパンです。カレーには最高ですよ、カレーもインドが起源ですから」
パトリックさんの返答にアデルさんは納得している。
海老フライとカレーが配られた。俺は海老フライにカレーをたっぷり漬けナンに乗せて巻いて食べた。
「美味い!」
皆さん俺の真似をして食べた。
「「「「美味い!」」」」
この後は、お代わりとエールで皆さん大満足だった。
結局、アデルさんを引きずって帰ったのは夜中でした。




