第3章15話 9月
9月となり8月より世の中が活発化しているようだ。
朝食後、俺を除く全員が忙しそうに食堂から出て行った。お母さんまで忙しいのは珍しい。
ミミーと散歩は昨日やってしまったし、冒険者ギルドはナンカ行く気がしない。捨てられた街のドタバタ以来、生き物の生死に暫く関わりたくない気分なのだ。
という訳で食後のコーヒーモドキを飲むことにした。
あくまでもコーヒーモドキを飲みに来ているのだけど、目の前に有ると海を見てしまう。
東京に住んでいた時は海なんか殆ど行った事が無いので珍しいのかもしれない。
晴れた良い日の海は穏やかで、ボーッとしていると心地良い。もう30分くらい何も考えず、ただボーッとしている。
視界にいきなり人が入った。パトリックさんだ。
「また海見物ですか?」
「良かったら座りません?」
パトリックさんはコーヒーモドキを注文してから座った。
「海老フライ屋さん、凄く流行っているみたいですね。」
パトリックさんの海老フライ屋さんは8月の下旬からスタートして、毎日行列が出来ている。
「御陰様で流行ってはいるのですが1日1000尾しか仕入れ出来なくて、今日は1尾35デルにしないと売らないと言い始めたのですよ」
パトリックさんはコーヒーモドキを飲み、憤慨している。
「あれ買うの、パトリックさんの所くらいでしょう?」
「そうなんです。足元見て稼ぐ気なんですよ」
「僕とヘフナドルフに行きません? あそこでも海老が穫れるかもしれませんよ」
アイラス教団事件以来村の経済が低調で何かしないと、また何か起きかねないと会議で聞いたばかりだ。
「いいですけど、あそこの村はまだ入村制限してますよ」
「僕が入れないとは思いませんよ」
早速二人でヘフナドルフにワープした。
警備隊がいきなり現れた我々を囲んだ。相当怪しまれている。
「ご苦労様です。漁業の責任者はどこです?」
「し、司令殿。少々お待ちください!」
二人が走って何処かに飛んで行った。
我々は港に歩き出した。
「さすが司令の威力は違いますね」
「臨時司令なんですけど、なかなかクビにして貰えません」
お爺さんが港で網を巻いている。側に置いた箱に魚と海老が入っている。30センチ以上ある海老だ。
「同じ海老ですね」
パトリックさんが嬉しそうに言う。
「兄さん、海老買ってくれよ1尾20デルでいいよ。魚は50デルだ」
日本語だ。
「この海老は此処で沢山穫れるの」
俺の質問にお爺さんは苦笑いして言った。
「こればかりで困っているよ」
「これ以上の大きさなら1日に1000尾買うけど、1尾15デルで駄目ですか?」
「喜んで売るよ。買ってくれるのかい?」
「毎日2000尾集められますか?」
パトリックさんが喜々として質問を始める。
「15デルなら3000尾だって集まるよ。小さいのは駄目だ。枯渇するから」
頭の良いお爺さんだ。獲物の枯渇を考えている。パトリックさんがお爺さんと商談を始めている。
桟橋に向かって来る船に警戒が反応している。
俺はパトリックさんを置いて桟橋に向かって歩き出した。10個くらいの赤い点が見えてきた。
どうしよう。いきなり雷撃では船が暴走する。一応、短剣から中剣に装備を取り替えた。久し振りの中剣だ。
「司令! 何か起きましたか?」
トレル警備隊中隊長だった。5人くらい部下を従えている。誰かが連絡を入れたようだ。
「あの船、警戒で見てください」
「我々にお任せを!」
ワープで20人くらい警備隊員が現れた。
「桟橋を気が付かれないように封鎖しろ!」
トレル警備隊中隊長の命令に警備隊員が、家や倉庫に隠れるように走って行く。
コロン騎士団中隊長が騎士団員20人程と現れた。俺に会釈してトレル警備隊中隊長と話し騎士団員が桟橋に向かった。
「司令殿は離れていてください」
仲間外れにされてしまった。せっかく装備まで替えたのに。
警備隊と騎士団が続々と集まり出した。
ピーター隊長とミレン隊長が現れアデルさんと兄達も現れた。
全員状況を把握しているようだ。優秀な連絡将校達だ。
「ミノル司令。後は我々でする。手を出すな」
アデルさんにまで言われてしまった。俺はパトリックさんの所に戻った。
「とりあえず2000尾から、今日はこれから1000尾捕って来るそうです」
パトリックさんはご機嫌だ。
「白身魚が有れば魚のフライも出せますよ」
俺もヤケになって商売モードに入る。船が桟橋に入って来ている。
「白身魚のフライですか! いいですね!」
パトリックさんは、お爺さんと魚の話を始めた。
オジサンが隊長さん達の方にダッシュして行った。
「村長が忙しそうじゃのう。白身魚は三種類穫れるな!今全部箱の中にいるから焼いてやるよ」
舟が桟橋に付き村長も隊長さん達の所に着いた。
お爺さんが三種類の魚をおろして、塩をしフライパンに入れた。我々に皿を配ってくれた。香ばしい良い匂いがしてくる。
フライ返しで返すと焚き火の火で少し焦げて美味そうだ。焼けたのから我々に配ってくれた。
「「美味い」」
「じゃろう。こいつ等は美味い魚なのに売れんのじゃよ」
桟橋では、一気に逮捕が行われたようだ。
お爺さんは3種類の魚の味の特徴を言いながら、次の魚を皿に入れてくれる。
「これも美味い!」
パトリックさんが絶好調で喜んでいる。
俺はひたすら焼きたてを食べる。
「美味いですね!」
「ミノル、俺達にもくれよ」
兄達だった。




