第3章14話 アデルさんにプレゼント
朝の5時30分俺は身繕いを済ませ、椅子に座っていると、アデルさんがノックもせずに入って来た。
「珍しいな! 起きておる」
「アデルさん。これ」
小さな箱を渡した。
「わ、私にか!」
「はい、アデルさんに絶対似合うと思いまして」
アデルさんは箱を開け中の物を取り出した。
「髪留めか? なんと美しい石だ。私なんかに……さぞかし高価な物であろう。もったいないぞ。将来嫁にでもやれ」
「駄目ですよ。アデルさん用に買ったんですから。アデルさんがお嫁さんに行っても、時々僕を思い出して貰おうという陰謀も有るし、子供の時からお世話になりっぱなしですから御礼です。絶対に受け取って下さい」
「いや、有り難いが……こんな高価で美しい物を私にか、私は嫁になぞ行く事は絶対無いぞ」
「何を言ってるんですか。この品は600年くらい前に錬金術師が精霊魔法を……」
トメラさんに聞いた品の成り立ちと効果を全部説明した。
「精霊魔法か! 確かに光の粒が見えるし、温かさと安心感みたいな感じがするな。素晴らしい物だ!」
アデルさんは鏡に行き短いポニーテールに髪留めを付けた。
アデルさんが一瞬、青い光と光の粒に包まれたように見えた。
アデルさんが寄って来て俺の髪をガバッと引いて上を向かせてキスした!
長いキスだった。俺は真っ赤になり身体の力が抜けフラフラになった。1億デルの価値は絶対有る。
キスは暫く続き、唇を離した後しっかりと俺を
両手で抱きしめて言った。
「ありがとう。本当にありがとう。私に心のこもった事をしてくれたのは、奥様とミノルだけだ。心から感謝する。愛しているぞ」
抱きしめられて耳の横で話すアデルさんは涙声だった。
真っ赤な顔とフラフラのまま聖樹の所に行く。
館の森の聖樹に先程の出来事を感謝し、アデルさんがお嫁さんに行っても俺を時々は思い出してくれるように御願いした。
忘れられた森の聖樹は聖樹らしい姿になってきている。
「大きくなったな」
「館の森より早い気がします。後は地脈に根が届くのを待つだけです」
「そうか、それは素晴らしい!」
聖水を1本ずつ持って二人でかけてからお詣りした。
「地脈に根が早く届きますように」
精域は凄く豊かになっている。
「さて、朝食に行きますか」
「今日は寄子と奥様達で一杯だぞ」
「パス。アデルさんは?」
「私も遠慮する」
「時間が有るならコーヒーモドキ行きません?」
「それは良いな。行こう」
我々はリリアドルフに行った。
「アデルさんと一緒だと安心感が有って好きですね。ボーッとしてられます」
「そんな事を言うのはミノルだけだ。私も好きだ、こういう時間を増やさんとな。ギスギスしていかん」
コーヒーモドキを飲んでアデルさんを見る。髪留めが似合っている。
「なんだ?」
「忘れてました。朝ご飯食べて無いですよ」
「そう言えば食べて無いな」
お姉さんを呼んで海老料理を注文した。
「エールもな」
「朝から大丈夫ですか?」
「良いではないか。祝いだ」
「まあ、いいですけど」
酔う前に、こんなに素直に感情を出すアデルさんを見るのは子供の時以来だ。
「「乾杯」」
「美味いな!」
「美味いですね」
「日本ではまだ飲んではいけない年か?」
「まだ駄目ですね」
「ミノルは18歳だったかな?」
「後、少しで17歳です」
「そうか、若いな」
「日本なら警察に捕まります」
「大丈夫だ、ここでミノルを捕まえる警備隊はいない。お前が司令だ」
二人で大笑いした。
「司令と副司令が朝からエールですか」
「良いではないか。嬉しいのだ」
こんなに喜んで貰えているのを見ると、プレゼントして良かったと思う。そりゃ1億デルの髪留めを貰えば誰だって喜ぶと言う人もいるだろうけど、その人にプレゼントしたいと思わせる物がある。
お母さんには高価ではあるけど、遥かに安いマント留めだった。でもお母さんに似合うと思ったし、プレゼントしたいと思った。
たまたま、今お金が有るから言えるのかもしれないが、金額では無いと思う。
「ミノル、何か考えているのか?」
「アデルさんが喜んでくれて良かったなと思っていたんですよ。僕って日本に帰っても何も無いんですよ。両親は死にましたし、兄弟みたいなダニエルは行方不明だし、学校に戻っても僕は留年ですから知らない人ばかりの教室に戻るんですよ。
此処には叔父さんも兄達もお母さんもアデルさんもいるんです。特にお母さんとアデルさんには世話になりっぱなしで……今があるのも二人がいたからと思ってます。
アデルさんには魔法を基礎から教えて貰い、躾をして貰い、他の人に言われたら恥ずかしくて自殺したくなるような事までアデルさんにして貰って大きくなったんですよ。
だからなんとか喜んで貰えて、時々は思い出して貰えるような物を探してたんです」
「安心せい。私もミノルが来なかった間、毎日のように何をしているのか、何時帰って来るのかと思っておった」
アデルさんは、その後は黙って海を見ていた。
俺はアデルさんを見て、嬉しいなと思っていた。




