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第3章04話 捨てられた街


 二人でホフマブルグに帰り、アデルさんが働いているように見せる方法などを考えながら街を歩いていると、パトリックさんが忙しそうに歩いている。


「あれ、ミノルさんにアデルさん。今日は」


「忙しそうですね」


「夏なので早く捌かないとマズい品が大量に有りまして、人に会ってたのです。お二人で寄っていきませんか? 父も暇そうですし」


 事務所にお邪魔すると、ハリーさんがご機嫌良く迎えてくれた。


「暑いとヒマでしてね。食用油を捌くのがせいぜいです」


 ハリーさんの話しを聞くと、実験農場で菜種に近いものを植えた時の実験で油を取ったのだが、粕はブタに食べさせるので問題ないが、油が大量に出て処分に困っているらしい。

 俺とアデルさんはアイスコーヒーモドキを美味しく飲んで聴いていた。


「大量に有るなら海老フライ作ってエールと一緒に売るのはいかがです? リリアドルフで海老は安く大量に手に入りますよ」


「それ、いいですね。ブタが冬に出るまでパイロット店ですね」


「パトリック。リリアドルフ行って海老を仕入れフライを出しなさい。試食です」


 ハリーさんが食べたいだけなのが明白にわかる。

 パトリックさんがすぐにワープで飛んだ。

 サキバさんが匂いを嗅ぎつけ現れ、アデルさんと話し始める。日本の女子高校生並みのノリで、ハリーさんが嬉しそうに中に入って話している。


「日本では二八と言って2月と8月は商売がヒマなんです」


「ニッパチですか。良い事を聞きました。パトリックも日本に三年いたのに何も知識を利用しない」


「これからですよ」


 そんな話をしているうちにパトリックさんが海老フライを持って来た。


「試して下さい。そのままでも、ソースでも美味しく食べれます」


「美味い! パトリック、エールと一緒に売るのならエール無しでは試食にならんぞ」


 ハリーさんは朝から仕事する気ゼロみたいだ。

 サキバさんとアデルさんは、寡黙にひたすら食べている。


「あの大味なリリアドルフの海老がフライだと美味しいですね」


「そうですね。気が着きませんでした。安いんですよ。一尾30デルで買えました」


「じゃ150デルも貰ったら結構利益が上がりますね。海老フライサンドも良いな」


 仕事の話しをしているのは俺とパトリックさんだけだ。残りの三人は完全に酒盛りになっている。

 余りにうるさいので、パトリックさんと隣の部屋に逃げて話を続けた。


「表通りに1件店を買ってあるので、そこで始めてしまおうかなぁ」


「今月中に始めれば良いじゃないですか。鳥唐揚げなんかも売れますよ。500デルでエールと海老フライ、皆さん喜びますよ」


「確かに十分利益は出る価格ですね」


「日本では晩酌セットとか言って、サラリーマン向けでよく有りますよ」


 パトリックさんが、やる気満々だ。


「そう言えばミノルさん、面白い話しがあるんですよ」


「何です?」


「正門から左の街道があるでしょう。あれどんどん行くと砂に埋もれて街道が無くなるのですよ」


「そうなんですか」


「はい。でもその砂を越えて行くとまた街道が現れます。そこら辺りでホフマン辺境伯領でなくなって、誰も統治しない土地になるのですが。

 それを進んでいくと、城壁が見えて来るんです。『捨てられた街』と呼ばれている無人の街なんですよ。それも1万人規模の大きな街です。昔ドラゴンに滅ぼされたとか、疫病で全滅したとか色んな噂だけ残ってます」


「そこが何か?」


「最近、誰か住んでいるみたいだと聞きました。それもアイラス教団関係者ではないかと言う噂なんです」


「またですか。何人くらいか聞きました?」


「聞いてません。でも相当居るみたいです。街道を、どんどん進んで行くと、またホフマン辺境伯領に入り海に出ます。

 そこに魚村が有り、その村に食料を買いに来ているらしいのです」


「調べに行かないとマズいですね。教えて下さって有り難うごさいます」


 二人で事務所に戻るとミアさんと二人のお客さん三人が増えていて、完全な酔っ払いが6人になっていた。

 パトリックさんが、苦笑いしている。

 ハリーさんの古い友人だそうだ。


 ここまで酔っ払うとアデルさんは扱いが難しい。最近は、いきなり俺にキスをして『ミノルは可愛いのう。愛してるぞ』などと言い出し、頭をぐしゃぐしゃになぜてくる。

 キスされるのは、とても嬉しいし最近は期待しているのだが、ここでヤラレるのはマズい。

 アデルさんの後ろにソッと近付いて、治療魔法でシラフにする。


「なんだ。何か有ったのか?」


 いきなりシラフになったアデルさんはキョロキョロしている。


「隣の部屋に」


 俺とアデルさんは隣の部屋に移動し、先程聞いた話をした。


「その漁村は知っている。調べに行くか」



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