第3章03話 発芽と昔話
早朝にアデルさんにたたき起こされた。
「ミノル、芽を見に行くぞ。早く用意しろ」
アデルさんが俺のベッドの横で指示している。
朝の5時30分だ。兵隊さんは朝が早いと言っても早過ぎる。
「ベランダで待っているぞ」
アデルさんとしては気を使っている方だ。裸でベッドから引きずり出されると思った。
服を着て顔を洗って歯を磨き出来上がり。
「行きましょう」
我々は先ず館の森の聖樹に行き芽が出るよう御願いしてから、忘れられた森にワープした。
「ミノル、芽だ! 本当に一晩で育ったぞ!」
芽が生えていた。既に30センチくらいになっている。前回と同じだ。
「聖水をかけるのを一度やらせてくれ」
「ハイ、どうぞ」
聖水の瓶をアデルさんに渡してあげる。
アデルさんは、しゃがんで丁寧に芽の根元にかけている。
聖水をかけ終えると、二人で柏手を打ち拝んだ。
「芽がスクスク育ち、立派な聖樹になりますように」
アデルさんは、俺より少し長く拝んでいた。
「明日はどのくらいに育つかな?」
「前回は1メートルくらいになりました」
「そうか! 楽しみだ。明日も来るぞ」
明日もたたき起こすと言う意味か。
少し雑談してから、聖樹の芽に礼をして、朝食に行った。
朝食は最近の傾向として、叔父さんと兄さん2人で貴族対策。
ピーター隊長とミレン隊長が辺境対策で、5人はガヤガヤ話していた。
食事が終わって、お母さんの所に行き小声で話しかけた。
「30分くらいで良いですから、時間をいただけませんか?」
「ミノル。遠慮しないで何時でも言うのよ。ミノルの為なら時間なんて、いくらでも作るわ」
「一緒に外へ御願い出来ますか?」
お母さんはニコニコして俺の手を取り立ち上がり、アデルさんにも頷き廊下へ出るよう即す。
残った5人の男達は話しを止め、我々3人を目で追っている。
「では3人で行きましょう」
お母さんは何でも、お見通しのようだ。
アデルさんが3人まとめてワープした。
「お母さん、聖樹の芽です。昨日アデルさんと植えました」
「素晴らしいわ! ミノル、アデル、よくやってくれたわ! お母さんは誇らしいわ!」
「一晩で、こんな大きくなって。奇跡よ! 二人ともお手柄だわ」
「ミノル。ここは何処なの?」
「ここは『忘れられた森』です。アデルさんに捨てられた森が有ると教えてもらって」
「素晴らしいわ。アデル、大手柄よ。そうそう、お詣りが先ね」
なんと、お母さんまで柏手を打ち拝んだ!
何処かで見られてたかな?
お詣りが終わると、お母さんが歌い出した。伝統的なロクデニア大陸語の精霊を讃える歌だ。少し変えて歌っている。
『おお精霊達よ。私の息子とあなたの誠実なしもべの娘が聖樹の種を蒔き芽を息吹かせました。力を貸したまえ、聖樹が大地と共に世を正しく導くことを。精霊世界の大いなる繁栄を』
俺のロクデニア大陸語だと、こんな訳しか出来ないが、お母さんの透き通った美しい歌声と単調なメロディーが感動的に感じさせる。
アデルさんは涙を浮かべてた。
「二人に昔の話しを伝えましょう。以前この森はエルフ達に任せていました。
エルフ王はこの森の聖樹に自分達だけが近づけるようにして、他民族を排除してたのです。
ホフマン家は館の森の聖樹を管理して、どの民族でも近づけるようにしてました。
ある日エルフ達は何が有ったか知りませんが、この『忘れられた森』の聖樹を焼いてしまったのです。以来、森はどんどん痩せてエルフ達は困窮しました。
その時パスコ王国はアイラス教団と共に、治安維持を理由にエルフを排除するか聖樹を切るかをホフマン家に迫りました。
ホフマン家はエルフ達を守る為に聖樹を切り、魔獸の森に住む許可を与えました。
エルフ達は50年くらいは魔獸の森に住んでいたのですが、ホフマブルグがあまりに近いので街に住んで狩りをするエルフが増えたのです。
エルフ王国は、どんどん人口を減らし2000人以下になりました。そして突然居なくなったのです。
ホフマン家はエルフ達が黙って消えたことにより、ただ聖樹を切ったと同じ結果となったのです。
だから、この2ヶ所の聖樹を復活させた功績は計り知れないのですよ」
疑問点は、お母さんが知っていた。
あの温厚で、誇りに生きるエルフ達に何が有ったのだろう?
「ミノル、私の誇りよ、貴方は。アデル。よくミノルを助け行動してくれました。いくら感謝しても足りないくらいよ」
お母さんは、超ご機嫌でニコニコしている。
「私も暇を見て毎日来るようにするわ。あら、慈善事業の会議の時間だわ。先に帰るわね」
お母さんは突然ワープで消えた。
「相変わらずの独演会でしたね」
「いや、あれが奥様の良さであり強味なのだ」
二人で呆然として、お母さんが消えた場所を見ていた。




