第2章19話 8月
今日も朝から館の皆さんは、相当忙しそうだ。8月になったと言うのに、アイラス教団の件が地方でまだ尾を引いているようだ。
館の中で暇にしているのは、お母さんと俺だけだ。何故暇かと言うと二人には役職が無いからだ。
叔父さん、兄達とアデルさんと隊長さん二人の疲労が酷そうだったので、精霊魔法で回復と祝福をしてあげたら凄く喜ばれた。
忙しい時は皆さん忙しいようで、ハリーさん達は実験農場が動き初め、最近は顔を見ていない。
俺なんかが顔を出しても邪魔になるだけなので、農場の方にも行かないようにしている。
冒険者ギルドは大忙しだ。夏に沢山稼いでおかないと冬場は獲物も減るので、冒険者は真剣だ。
蒸し暑い森の中で、必死に狩りをしている。
俺なんかが参加して、取り合いみたいになっている大物を狩ったりするのは申し訳無い。
要するに、行く所が無いのだ。
日本の大都市で暇そうにプラプラしていても、周りに似たような人達が沢山いるので目立た無いし罪悪感も無い。
暇ならば家でゲームしてたり、学校の友人とファミレスで話したり本屋やゲームソフト屋さんに行ったり、ナンカする事を見つけられる。
ここでは、それが無いのだ。
皆が忙しそうに働いている。そうしないと生きて行けない。自分の出来る事を一生懸命やっている。
こんな中で暇なのは貴族の奥さん達くらいのものだ。
王都にでも行けば、まだ状況が違うのだろうがアイラス教団の問題の中、俺なんかが今王都に行ったりしたら大変な事になりかねない。
従って目立たないように、インターネットも無い部屋でジーッとしているか、寝ているしか無いのだ。
俺にはヒッキーの趣味が無いので、外出する事にする。
「おはよーございます」
「坊ちゃん、お早う御座います。ミミーが待つてますよ」
厩舎のおじさんが、にこやかに迎えてくれる。
ミミーは小学校3年の時、お母さんに貰った白っぽい馬だ。
この世界の馬は二種類いて、普通のと少し丸みがかって、ロバを大きくしたようなと言うか、ミニチュアポニーの大型と言うか、我々からすると不思議な感じの動物だ。
ミミーは騎士団が乗っている軍馬とは違い、精悍ではない。ムーミンみたいなのだ。頭も良いし足もそれなりに速い。そして長生きの種類なのだそうだ。
「ミミー元気だったか?」
ミミーは嬉しそうに俺に頬ずりしてくる。たまに乗ってやらないと怒るし可哀想だ。
俺が、日本に帰ると本当に寂しそうにしているらしい。
「ミミー。今日は街のパトロールだ。ウンコはここでして行けよ」
「今朝、沢山出してますから大丈夫ですよ」
厩舎のおじさんが教えてくれた。
「では出発!」
「坊ちゃん、お気を付けて」
俺はミミーに乗って館の正門を抜け外に出て、ゆっくりと街に向かう。
貴族街を通っている時、お母さんの友人の馬車に会った。窓から夫人が俺に手を振っている。俺は精霊魔法で祝福を返してあげた。馬車が青い光に包まれる。夫人が大喜びしていた。
ミミーに乗っている俺に手を振る人達に祝福をかける。
何故そんな事するのか。精霊魔法のレベル上げなんです。
良い事に使うと上がりも良く、現在207くらいまで上がっている。
皆さんに喜ばれ、レベルは上がり、仕事をしているように見える。素晴らしいアイデアなのです。
最近は俺がミミーに乗っていると、商店主が店の前で待つているのも多くなった。
俺は店に祝福を店主には幸運を飛ばしてあげる。店全体と商店主が青い光に包まれ、驚きと共に感謝される。
横道に入ると売春宿の女将リリさんが手を振っている。
「坊ちゃん。たまには寄って、お茶でも飲んで行っておくれよ」
この人は診療士の騒ぎの時、冒険者ギルドに来てくれた人だ。
「坊ちゃん、うちの娘達を助けておくれよ。もう1ヶ月も診療受けれないんだよ」
この世界では治療魔法のおかげで売春も危険が少ない。だがレベルの少し高い治療魔法が必要になる。
1ヶ月も治療を受けてないと、悪い病気が広まる可能性が高いので治療に行って、それ以来の仲良しだ。
「はい、お茶に行きますよ」
「だから坊ちゃんは大好きさ」
良い人なんだけど、太り過ぎだよリリさん。
お茶を出してもらって、リリさんに治療と祝福をあげる。
「坊ちゃん、俺にも頼むよ」
女の子待ちの労務者さんに頼まれ、治療と回復と祝福をしてあげた。
終わって二階から降りてきた女の子とお客さんにも、治療と回復と祝福を繰り返す。
リリさんと客待ちになった女の子達と世間話をすると、街で今何が起きているか良くわかる。
昼間から意外にお客さんがいるものだ。
宿の女の子全員の治療が終わったところで、おいとました。
あちこちで治療や祝福をして、ミミーに飼い葉とトイレに旅館の馬舎に寄って俺もサンドイッチをミミーと一緒に食べる。
とても美味しくて良いのだけれど、お金を受け取ってくれないし行かないと店主さんが怒る。
街の人達との付き合いは楽しい。
夕日の中ムーミン似のミミーに乗って館に帰る姿は、格好良くは無いなと自分でも思った。




