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第2章18話 アデル精霊


 朝食は今日も報告会だ。最近、普通の朝食の事は滅多に無い。


「最近の状況から判断すると、我が領は大きな額では無いが恒常的な黒字である事が判明しました。前家宰による帳簿の改ざんが酷く正確な数字がまだ掴めない状況です」


 ノア兄さんの報告は明るいものだった。


「地方の情勢はまだ安定せず、汚職とアイラス教団の影響が大きく、まだ時間の掛かる情勢です。幸いな事に3晩連続の大作戦が、赤字の予定から大黒字に変わったことで、地方対策の費用は別予算を使わずに済んでおります」


 フェン兄さんの報告も、まあまあ明るい。


「ミノルは偉いわ。貴方のおかげで領内は良い方に進んで来ているのよ。お母さん鼻が高いわ。」


 ノア兄さんとフェン兄さんが、始まったーという顔をしている。


「ミノルのおかげで聖樹も立派に育っているし、精霊様も妖精達も元気だし、あの草木の美しさはは素晴らしいわ」


 叔母さんの独演会が始まったら誰も止められない。


「はい、お母さんの指導に従った結果、あそこまでになりました」


「ミノルは嬉しいことを言ってくれるわ。アデルも聖樹は美しいと思わない?」


「あの。私は側に行っても何も見えない立場でありまして……」


「ミノル、駄目じゃない。今の貴方があるのもアデルのおかげなのだから、貴方がちゃんと連れて行かないと」


「はい、今日中にでもアデルさんを、お連れします」


 叔母さんとアデルさんには何があっても頭が上がらない立場の俺としては、何でも仰る通りなので素直に従う。

 残りの時間は叔母さんの独演会で御開きとなった。


「アデルさん、これから行きます?」


「嬉しいが、入れるかな?」


「大丈夫とは思いますけど」


「そうか。では歯を磨いてから行こう」


 アデルさんが言うので、俺も歯を磨きに部屋に帰った。


 玄関で待ち合わせたら、階段でアデルさんに会った。

 アデルさんが歩いて行こうと言うので2人で並んで歩いて行く。

 森はより豊かになり、鳥のさえずりと木漏れ日の中を歩く。


「ミノル君はレナ様の前では、お母さんと言うが他では叔母さんと言うな」


「日本の母が生きていた時の癖ですよ。意識的には今は、レナさんがお母さんなんですけど」


「なら常にお母さんと呼んでやれ。レナ様は喜ぶぞ」


「そうですね。そうします」


 アデルさんは満足そうに微笑んだ。

 この時からレナ叔母さんが、完全に母になった。


 聖樹のエリアが見えて来た。


「そこです」


「何も見えんぞ。普通の森だ」


「手を繋いで良いですか?」


「何を言っておる。一緒に風呂にも入ったし、共にベッドで寝た仲ではないか」


 そりゃ子供の時だって。

 アデルさんと手を繋いで領域に入る。


「これが聖樹か! 美しい。こんな場所が見えなかったのか!」


「今のところ一部の人しか見えないし、入れません。まずは、お詣りしましょう」


「そうだな。どうすれば良い?」


「自由で良いですよ。僕は日本式ですけど」


「それでいくぞ。教えろ」


「二礼二拍手一礼と言いまして、拍手の後に日々のお礼をして、願い事がある人はお礼の後に、最後に一礼して会えたことを感謝しておしまい。見て、真似してください」


 俺がお詣りすると、アデルさんも真似てお詣りした。

 聖樹の周りの光の粒が集まりだし、人の形を作り出した。

 精霊様だ。


「久しぶりですね」


 精霊様が微笑んで語りかける。


「こちらがアデルさんと言い、僕の先生です」


「ミノルの先生ですか。初めまして」


「ア、アデルと申します。精霊様」


「ミノルは、これから多くの困難に立ち向かいます。助けてあげてくださいね」


「この身に替えましても必ず!」


「ならば少し力が足りませんね。足してあげましょう」


 アデルさんが、青い光に包まれた。


「時折、顔を見せなさい」


 精霊様が俺に微笑むと光の粒が拡散し、精霊様の姿が消えた。


 アデルさんが呆然としている。


「行きましょう」


 アデルさんと俺は一礼の後、聖樹域を出た。


「今は見えるようになった。これが本当の森の姿なのだな」


「力を貰えたようですね。プレートを見るとわかりますよ」


 アデルさんは自分のプレートを見て固まっている。


「全部レベル100になっている! 精霊魔法もあるぞ! 精霊の願いとはどう使うのだ?」


「明るくと思えば明るくなるし、除霊とか聖域化とか祝福とか良い事を願うと起きるみたいです。呪い除けみたいなバリアーも張れましたね。まだ良く解らないのです」


 アデルさんはプレートを見て、手を震わせている。


 突然アデルさんに、思い切りキスされた!

 柔らかい唇が心地よく、足から力が抜け顔が赤くなっていくのがわかる。


「こんなに嬉しい事は無い! ミノル、感謝するぞ! 愛しておる!」


 ファーストキスでありました。

 キスも愛されるのも凄く嬉しいのですが、ナンカ違う……


 アデルさんと俺は手を繋ぎ、アデルさんは意気揚々と、俺は真っ赤になって、ふらつく足で引きずられながら森を出た。


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