第2章17話 農業専門家現る
あの日以来アデルさんは軽装で仕事もするようになった。
「楽でな。止められん」
見た感じも少し若くなったような気がする。
軽装にマントで凄く似合う。
今日はフェン兄さんと地方仕事らしく、騎士団5人を引き連れワープして行った。
まだ、アイラス教団の残党狩りが残っているようだ。
俺はハリーさんと打ち合わせで事務所に飛んだ。
「お久しぶりです。ドタバタしてまして、サキバさんを借りるばかりですみません」
「とんでもない。活躍は聞いてますよ。正常化するまでは大変だと思います」
サキバさんが衣類を持って入って来た。
「忘れないうちに渡しておきませんと。ミノルさんが忙しくしている間に新型を試作したので、持って行ってください。全部性能的には相当上がってます。チョツキは皮では無いですが、今着てらっしゃるのより性能はかなり上と思います。マントは先日の戦いも考慮して耐熱性・不燃性をかなり上げてみました。体温維持もしますので、暑く無いです」
ハリーさんの説明を聞いているだけで、強化されたような気になる。
「サキバがローブ派なので、アデルさんにも協力してもらうのに試作品の提供を始めました。この世界は女性の方が多いですから」
どうりで服装が一気に変わった筈だ。
「アデルさん、凄いのですよ。先日来てもらった時、ついでにレベルアップもしてみたんですよ。全スキル80超えですよ!」
サキバさんが嬉しそうに話す。
「凄いですね。完ぺきに魔術師になりましたね。俺も嬉しいですよ。アデルさんには子供の頃から迷惑掛けっぱなしですから」
事務所に金髪の頭の良さそうな27歳くらいの男の人がパトリックさんと入って来た。
「ミノルさん。トリル農業技師です」
「はじめまして。やっと会えましたね、心待ちにしてたんですよ。ミノルです。宜しくお願いします」
「トリルです。ミノル様が農業技師導入を進言して下さったそうで、有り難うごさいます」
「その様は止めてください。言葉使いも、もっとくだけて貰えると助かります」
結局、ミノルさんになりました。
「豚舎はすでに稼働してます。私が就任してすぐ授精させた豚200頭が114日くらいで出産、1頭8~10頭生み、その子豚は6ケ月くらいで精肉できます。親豚用に2頭ずつ取っても1500頭くらいの食肉が、3月辺りに出荷できる予定です。本来なら、ずらして毎月とか3ケ月ごとに出産みたいにしたいのですが、元の頭数が少ないので現状では無理です」
「親豚は増やせないのですか?」
と俺が聞く。
「無理です。国中から少しマシなのをかき集めたのが今の数です。自分で増やして改良していくしか無いですね」
「今日はレベルが下がるのですが豚が手に入りましたので、どんな生産品になるかのサンプルをトリルさんに作ってもらったので試食していただきます」
パトリックさんの説明でミアさんがサービスワゴンを押して来た。
燻製の良い香りがする。
「実験農場特製の、ハムとベーコンとソーセージです。ハムとベーコンは生と焼いたもの、ソーセージは湯で調理してます。飲み物はトリルさん特製のビールです」
ハリーさんが、配られた肉を順番に無言で食べていく。湯通しソーセージは勢い良くかじりついて、油と肉汁でハフハフ言いながらビールで流し込んだ。
「美味い! 全部美味い!」
「農場の肉ができたら、もっと美味いですよ」
トリルさんが、さらりと言う。
「もっと美味いのですか? 想像がつかない。ビールは、もっと生産出来ないのですか?」
ハリーさんは完全に自分の世界で、仕事の雰囲気ではない。
「トンカツです。ソースはやはりトリルさん特製です」
「これは美味い! 鳥カツの倍くらい美味い!」
ハリーさんは、もっと増産ばかり言っている。
トリルさんとパトリックさんは、返事をしないでカツを食べていた。
「このソース美味しいですね」
「使えそうな野菜を使って作りました。ミノルさんは東京の人でしたよね」
「はい。中濃派です」
「私は帯広の高校だったので、やはり中濃派です」
「私も東京の高校でしたので、中濃ですね」
俺とパトリックさんとトリルさんは三人で笑ってしまった。
「聞いていると、早い段階でもう1人農業技師さんが必要な雰囲気ですね」
「トリルさんに紹介してもらって、交渉中です。水田に詳しい方で来てもらえそうです」
良かった。トリルさんだけでは大変だ。
「中濃派とは何なのです?」
ミアさんが聞いて来た。
「日本国内の深刻な争いです。トンカツソースか中濃ソースかで地域が分断されているのです」
俺の説明にトリルさんとパトリックさんが大笑いしていた。
街道が使えなかった時ワープ運搬に使っていたという、特大マジックバックを数枚お土産に貰った。 畳むとポケットに入るという便利さなので嬉しい。
夕方になるまで、色々話して帰った。




