第1章01話 フェン兄さん
「久し振りだね。大変だったようだけど……御両親の葬式にも参列できなくて心苦しく思っているよ……」
フェン兄さんが珍しく真剣な顔で言った。まあこんな話し笑いながらする人もいないだろうけど。
「気にしないでください、この状況で行ったり来たりは無理ですよ」
と明るく応えると
「そうなんだけどさ……でも日本でオークに襲われるなんてねぇ……オークが何処から出たか不思議だけどタカハシさんらしいと言うか……ナンカ納得できちゃうと言うか……ねぇ」
やはりフェン兄さんだった。
「ここが大好きだった親父も本望だったと思いますよ、ホントに」
笑いながら応えてしまった。皆も大笑いだった。
「目の前の王都に寄らずに直接辺境伯領に飛ぶけどいい? 陸奥銀行ならホフマブルグにもあるし、実は今というか今朝から大騒ぎなのよ、またデル通貨の大暴落。さっき来る時で1円が4万5千デルだったかな……王国が本日をもって日本の銀行のデル通貨の扱い禁止とかナナメ上のこと言い出すモンだから本日で破産の貴族や大商人がゴロゴロなのよ」
「そんな事になったら自領に引き籠もって軍隊出して借金踏み倒し考える貴族出ません?」
「そう、それなのよ。実はうちもそれ考えているモン。ウチ借金大魔王だからねぇ。朝から王立銀行や大商人達が辺境伯に今日中に借金返済しろと大混乱中なの……朝飯食べた?」
「食って無いです。食べながら話しません?」
フェン兄さんは話しを聞いてビビっているダニエルと違い、ニヤけたイケメン顔で俺を見ながら
「流石ミノルちゃん。話しが早い。食おうぜ~」
フェン兄さんは5歳年上なんだけと昔っから肝が据わっている。金髪に青い眼だしモテるんだろうな。
テレポート魔法でホフマブルグの『妖精の樽』に直接移動した。『妖精の樽』は中の上クラスの昔ながらの大型宿屋で一階は食事と酒を提供し、二階と三階は宿泊施設となっている。
貴族や大商人が利用することは無く、商隊や稼ぎの良い冒険者達などが利用する宿屋で、大通りから少しだけ入った場所にある便利な宿屋だ。
「ヘンな時間になってるけど、朝飯ある?」
「出せますよ。選べませんけど。今朝すごく混んじゃったんですよ」」
お姉さんがニコニコと対応してくれる。
「いいよ、任せるから。4人分ね」
「じゃ、すぐにお持ちしますねー」
お姉さんが行ってしまうとフェン兄さんは『サイレント』と魔法を発動した。
我々の席の周りに一瞬バリアーが見えて消える。
「周りに話しが聞こえなくなるのよ。俺の自作魔法」
「凄いですね、ちょっと騒いでくださいよ」
俺が席を立ち、バリアーから出るとフェン兄さんが何か大声を出した様子だけ見える。
「本当に外に聞こえない! これくださいよ」
「いいよ、ミノルちゃんの頼みなら喜んで。発動は、範囲をイメージして『サイレント』終わりは『サイレントクリア』ね。それと周囲の音も全く遮断する場合は『サイレンス』終わりは『サイレンスクリア』ね」
フェン兄さんは俺の頭に手を乗せて転写してくれた。
「ありがとう。これで自由に話せますね」
「どういたしまして、念話じゃ疲れるモンね」
「で、ストレートに聞きますけど、借金はどのくらいなんです?」
「6700億デル」
「今日中に?」
「5時までかな……」
「俺、出しますよ」
「流石ミノルちゃん。たすかるわー」
「差し上げますので、返済無用です」
「そうはいかないよー」
「1円で4万5千デルでしょう。余裕っすよ」
「済まないね……」
「そうしょうと思って、弁護士に怒られるギリギリまで持って来てますから。1兆デル差し上げますよ。余裕資金も無いとアレでしょう」
「1兆デル!!!」
「辺境伯領を安定経営するには必要でしょう」
「気が引けちゃうよ。辺境伯に『弟にタカルに事欠いて1兆デルとは何事かー』って怒鳴られるね……」
「サイレンス魔法売ったことにしたら?」
「俺、殴られるね」
フェン兄さんと俺が大笑いして話してるのをダニエルとピーター騎士隊長が青い顔をして見ていた。
お姉さんが鳥のサンドイッチと、何かの肉のシチューを置いていった。
どっちも、けっこう旨い。何の肉かは考えないことにした。
「殴られ役はノア兄さんに任せてさ、借金取り順番に呼んで『あなたには迷惑を掛けたく無いので、できるだけ払うが三割引きくらいしない? そしたら今、即金で払えるんだけど。他言は無用ね……』ってやったら? 日本じゃよく聞くけど、この手」
「それイケるかも…ノアならやると思う」
「飯が終わったら陸奥銀行一緒に行きません? 俺、換金しないとならないし為替も動いているだろうし」
朝ご飯を終えた我々は、陸奥銀行ホフマブルグ支店へとテレポート魔法で移動した。




