第1章23話 お母さんにプレゼント
ヘルンブルグはホフマブルグに比べると少し小ぶりだが良い街だ。ガラの悪いのも表通りには出て来ないのか、のどかで良い。
少し高級そうな宝飾品店を見て、レナ叔母さんに何か土産はないかと入ってみた。
貴族の奥さんだろう客が数人いる。そんなに悪い店ではないようだ。
見てみるがぴんとこない。
やはり田舎臭い。
少し広めの場所を取って、少し大きめなマント留めが置いてある。大きな緑の石が真ん中にあり、妖精らしき女性が両側で石を支えている。
これならいいかも、などと考えながら見ていると老人に近い男が寄って来た。
「これは当店自慢の一品物で、石は珍しい美しい魔石で呪い除けと毒除け、更に魔法防御と幸運が付加されまして、両側から海の妖精で支えてます。細工はドワーフ物でお値段は300万デルですな」
だから早く帰んな。と言った感じかな。
周りの貴族のご婦人達も耳を立て始めている。
爺さん、口調も悪いし声が大きいのよ。
と言っても、別に腹もたたない。
俺のような若いのが来るところでもないし。
でも叔母さんに似合いそうだなぁと思う。
思ったより安いというのが本音だ。
1000万デルとか言うのかと思った。
田舎じゃ高いと無理か。
どうしよう。買ってしまおうか。魔獸でお金も有るし。自分で稼いだお金じゃないと価値が無いものね。
少し悩んでから言った。
「これ、ください」
爺さんが目を丸くしている。
俺はカウンターの上に財布から300万デル出して並べた。
爺さんが動かない。
「すみません。早くして貰えませんか。夕食に遅れると怒られるもので」
爺さんがようやく動き、300万デルを何回も数える。無言のままだ。
「証明プレート」
それだけ言って手を出す。
泥棒とでも思ったのかな。
失礼な爺さんと思うが、田舎だとこんなモンかと思って出してあげる。
ホフマン辺境伯家専用のプレートを持って固まっている。
「早くして欲しいと言っている。ホフマン家を侮辱するのか?」
面白がって強く出てみる。ここの世界ではこの方が皆さん好きみたい。
話しを耳ダンボしていた貴族の奥さんの一人が飛んできて
「私しイレア・ヘンドリックス。ヘンドリックス辺境伯の妻ですが、ミノル様でいらっしゃいますか?」
「これはこれは。ヘンドリックス辺境伯夫人で、ミノルと申します。ご主人には大変お世話になっております」
辺境伯夫人は全然美人ではないが、とても人好きのする素敵な人だ。
「そなたは御屋形様に恥をかかせる気なのか! 何か申せ!」
爺さんは相変わらず無言で、俺のプレートを持って固まっている。
奥から中年の男が飛んできて、平謝りに謝り始めた。息子さんのようだ。
最初からこの人なら、このような事にはならなかった。
「妾にも聞こえていた。人を馬鹿にした口調でマント留めの説明をし、ミノル様が買うと言って金を払うと何回も数え直し何の説明もせずに証明プレートを要求したのだぞ! どこの世界に金を目の前に積んだ客に商人が証明プレートを要求する店がある! それも、御屋形様の友人に!」
女性は嵩にかかると強い。信じられないくらいの強気で攻めていく。
学校の時もこういう娘が沢山いたよなぁと思って、見物してしまった。
結局、店は辺境伯夫人に脅されて200万デルにしてくれた。
イレアさん、ありがとうございます。
「大変お世話になりました。なんとお礼を言って良いのか、辺境伯様にも宜しくお伝えください」
「とんでもない。これに懲りず是非また、ヘルンブルグに遊びに来て下さいませ」
と言うわけで、俺とイレアさんはにこやかに手を振って別れた。
馬鹿な爺さんのお陰で、館に着いたのは夕食寸前だった。
顔を洗って歯を磨き、慌てて食堂に行った。
俺は真っ直ぐレナ叔母さんの席に行き
「お母さん。僕は今日ヘルンブルグに行ったので、これお母さんへのお土産なんです。こっちに来て自分で稼いだお金で買ったものですので、是非受け取って下さい」
叔母さんは目をまん丸にして、満面に笑みを浮かべ
「ミノルが自分で稼いだお金で買ってくれたの! なんて素敵なんでしょう!お母さんは嬉しくって」
「早速開けてごらん。儂も中を見たい」
隣の叔父さんが即す。
「見て、何て美しいマント留めなんでしょう! いいのかしら、こんな高価なものを。ミノル、ミノル素敵すぎるわ」
「確かに高価で上品な品だ、済まんなミノル」
と叔父さんもニコニコして言う。
結局、本日は叔母さんが騒ぎ続けて報告会にもなってなかった。
叔母さんのヘルンブルグはどうだったの? という質問に、カニが美味しかったことや、あちらもアイラス教団の悪事と領内の汚職摘発、魔獸の大発生で大騒ぎの最中であると言うと、叔母さん以外は全員真剣な顔になった。
食事が終わると、素早く退室する。
叔母さんが手を振って見送ってくれた。
風呂に入って寝よう。
疲れた。




