第1章22話 カニだ!
ヘンドリックス辺境伯との契約に銀行に行くと、箕輪さんだけ居た。
世間話をしていると、斎藤さんとヘンドリックス辺境伯が現れた。
「遅れて申し訳ありません。書類がやっと出来まして」
斎藤さんが言うと箕輪さんが笑っていた。
「ミノルさん今日もお手数かけます」
「いえいえ。返済額は多少減額出来ました?」
「出来ました! 全体で20%くらいです。アドバイス助かりました」
「良かったですね。残った額分、領内の何かに使えますしね」
そんな話しをしながら、書類にサインをして30分くらいで終わった。
「ミノルさん。もし、お時間が有りましたら昼食にお誘いしようと考えているのですが」
何も予定は無いし、このオジサンは気さくで好きなので行くのに同意した。
箕輪さんと斎藤さんにお礼を言って、ヘンドリックス辺境伯のワープで2人で飛んだ。
着いた場所はヘルンブルグのレストラン前だった。中央の幅広い大通りに面している古そうな店で『海の妖精』と書いた看板が入り口の上にある。
傾斜がついた大通りで、左の突き当たりに館が見える。ヘンドリックス辺境伯の館だろう。右の突き当たりが正門のようだ。
「きれいな街ですね。ホフマブルグと雰囲気が大分違いますね。広い大通りが特徴的でいいですね」
「冬に雪が積もるので、除雪した雪を置く場所が必要なのです」
「大量に降るのですか?」
「いえ。そうですね、冒険者や狩人が狩りに出れる程度ですか。でも、時折大雪になった時のために必要なのです」
「さあ、中に入りましょう。本来なら館にお招きせねばならないのでしょうが、今日食べる物は館では美味しくないのですよ」
「何なのです?」
「カニです!」
俺は大喜びで中に入った。
「大型のカニが水揚げされいるので、是非ミノルさんに食べてもらおうと思いまして。この店は貴族や大商人なんかは来ない庶民的な店ですが、海の幸は最高なんですよ」
店主さんに案内されて、一番奥の席へ案内される。キリッとした茶髪の女性騎士が立っている。
「私のお守り役のポニー魔導剣士です。こちらミノルさん」
「ポニーです。御屋形様から聞いております」
「ミノルです。宜しくお願いします」
ヘンドリックスさんは、店主さんにも紹介してくれた。二階と三階は宿だそうで全室風呂付と店主さんは自慢していた。
「昼から騒がしいですが、美味いので来てしまうんです。私が貴族達と会うのを好かないのも有りますが」
ヘンドリックスさんが笑って言った。確かに騒がしいのでサイレントを発動すると、ヘンドリックスさんとポニーさんがびっくりしている。
一通り説明して、欲しければ差し上げると言った。
「欲しいです!」
ヘンドリックスさんとポニーさんにあげると、とても喜んでいた。
カニが来た。大きなタラバガニだ!
タラバガニの足の山盛りが二皿とエールがテーブルに置かれる。
「日本からのお客様と聞きまして、浜ゆでです。カニ味噌もありますよ」
「ぜ是非!」
「斉藤様に鍛えられましたので、ご満足いただけるとは思うのですが」
ヘンドリックスさんが、ポカーンとしてるので店主さんが日本風の食べ方と説明する。
「食べましょう。食べれば分かります」
俺がカニの足を取って、切り目から身を抜いてかじりつく。
「美味い!」
ヘンドリックスさんとポニーさんも、俺のを見て身を出して食い付く。
「「美味い!」」
「単純な塩ゆでがこんなに美味しいなんて!」
ヘンドリックスさんがニコニコして言う。
「塩加減で何回、斎藤様に叱られたか数えきれません。今は私が浜に行ってゆでてます」
カニ味噌が来た。大きめのボールにドンと入っている。
俺が取り皿に取り、スプーンで味見する。
「これは新鮮で美味しいですね」
俺はカニ味噌にカニ肉を付けてほうばる。止められない。父に教わった食べ方だ。
ヘンドリックスさん達も、同じことをする。大満足のようだ。
「こちらでは、このような食べ方をしないです。足を焼いて食べるのが一般的ですね。カニ味噌ですか、これ。捨ててたんですよ。なんてもったいない。今考えると」
ヘンドリックスさんは、興奮気味に話している。
「そもそも、このカニは下品とか言って食べないです。貴族達は」
とポニーさんが教えてくれた。
俺達は色々と情報交換しながらカニを食べる。借金返済後、フレードリッヒ叔父さんが襲われたこと。アイラス教団の悪事。魔獸の森の異変などを話すと、ヘンドリックスさんのところも同じようなものだそうだ。
アイラス教団の悪事は相当酷く、ヘンドリックス辺境伯領内の幹部と癒着し汚職が蔓延しており、現在必死に捜査・逮捕している最中だそうだ。
また、魔獸も同じような状態で手が付けられないでいるとのことだ。
食べ終わったら、三時過ぎだった。
街を少し見て勝手に帰るということで、レストラン前でヘンドリックス辺境伯と別れた。




