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第1章18話 聖樹の種を植えた


 今日の朝食にもダニエルがいない。

 食卓に牛乳ビンの一輪生け花でも置いてやろうかと思う。


「ダニエルは熱が出てるので、治るまで帰れないそうよ」


 レナ叔母さんがうんざりした顔で言う。


「連絡あったのですか?」


「キュレット伯爵夫人からね」


 あの馬鹿、何を考えているんだ。そろそろ帰って来ないと殺されるぞ。


 部屋に帰って念話してみたが、返事が無い。

 困ったものだ。


 机の引き出しから聖樹の種を出し眺める。

 一番大きいのをポケットに入れて、裏の森に行くことにした。


 森の中心に行かなくては。

 この森は木が密集していない。常に手入れがされているように草が生えていて歩き易い。

 でも森番は居ないそうだ。

 時々ウサギの大きいのとか、鹿みたいなのが見える。本当に危険な動物は居ないようだ。


 一時間も歩いただろうか。右側の方が明るく見える。

 そっちに向かって歩くと、空き地があった。半径10メートルぐらいだろうか。

 日差しが良く、とても明るい。

 ポケットから種を出し、見ながら中心に歩く。

 空き地の中心あたりで種が本当に光った。

 30センチくらいの円形の上でだけ光る。

 ダガーで軽く土を掘り種を置き聖水をかけた。ピキッと種から音がしたような気がする。

 種の上に土をかけ、また聖水をかけた。聖水はすぐに吸収され、少し土が下がる。

 俺は柏手を打ってから拝んだ。


「立派な芽が出て、聖樹に育ちますように」


 明日も聖水をかけに来よう。

 植えた場所から館が見える。

 切らなければ良かったのに。


 俺は一礼してから、自分の部屋に飛んだ。


 土で汚れた手とダガーを洗い、ローブを脱いで朝ミリーさんの置いて行ってくれた冷えたお茶を飲む。以外と美味しい。

 種が光るか。この世界らしい。不思議の国だ。でも困っている人も沢山いる。

 さて、冒険者ギルドに行って治療ボランティアでもするか。


 ギルドに到着すると、今日も集まっているようだ。


「坊ちゃん、すみません今日もお願いできますか?」


 ジグロさんが済まなさそうに聞いてくる。


「良いですよ。始めましょう」


 これのお陰で治療の技術も上がっている。骨折なんか相当上手く治療できるようになった。

 今日も骨折が6人、ケガが5人。皆、魔獸の森の前でやられたようだ。

 この時間ならもう一度稼ぎに行ける。

 古い骨折は下手な治療で曲がってたりして、手が使えなくなってたり、杖でやっと歩いてたりで大変だ。

 聞くと薬草を摘んだり、罠を仕掛けてウサギを狩ったりして生きていたそうだ。

 責任重大なので、時間がかかるけど丁寧に治す。治った時の満面の笑みは見ていて気持ち良い。

 今日は13人治した。

 なんか冷たい物が飲みたいが、ここの食堂にはエールと水くらいしか無いので、お茶をジグロさんに貰って飲んだ。

 結構美味しい。


「今日も狩りするのですか?」


 ジグロさんが聞いてくる。


「狩りに行くと毎日怒られてるんですよ」


「凄いのにばかり当たってますからね」


 急に騒がしくなり5人くらいが走り込んできた。


「坊ちゃん居ますか!」


 女の子の冒険者が俺の方を指差した。


「うちのマネが死にそうなんだ。助けてくれよ!」


「机の上に乗せて。何が起きました?」


「巨大な奴の角で突き飛ばされたんだよ。死にそうなんだ。助けてくれよ!」


 腹部が血だらけだ。

 剣帯からポーションを出しながら言う。


「上着を剥いで、邪魔になる」


 誰もしてくれないので、ダガーでシャツを引き裂く。

 女の人のシャツを裂くのは罪悪感が有るけど仕方ないからゴメン。

 腹部に穴が開いているようだ。

 透視で見ると肝臓と腎臓もやられている。俺の技術で治せるんだろうか?

 イチバチでするしか無い。

 

「見ているだけでなく手伝え! このポーションを少しずつ飲ませて」


 麻酔魔法で鎮痛をしてから、ダガーで傷を少し広げ、手を入れ内臓に触れて治療魔法をかける。傷口から青い光りが漏れてくる。

 透視で見ると肝臓と腎臓が回復を始める。出血量との勝負だ。

 光りが消えたので、見ると内臓は治ったようだ。手を引き出し傷口に魔法をかける。


「ポーションを与えて。血が足りないのだから!」


 傷口の周りを青い光りが包み込む。上手く付いてくれ。やり直す時間が無い。

 また柏手を打ち拝んでしまった。

 傷が深いだけ時間もかかる。

 光りが消えたので透視で見ると、中までつながっているようだ。

 お姉さんの息も、落ち着いて来た。


「成功したみたいですね」


 全員、息を吐き出してほっとしている。

 顔から落ちたのか右側の顔が凄い状態になっている。

 透視で見るとアゴの骨が折れている。位置を手で修正して治療。

 青い光りを見ながら、上手くいくようにお願いする。

 曲がらず上手く付いているようだ。

 次は歯を再生。右側の歯が全滅状態だ。

 仕方ないので口に手を入れ、1本ずつ再生していく。

 最後に削れた頬の肉を再生して、ポーションをかけ傷が残らないように気を使う。

 治ってみると、黒髪のキリッとした美人さんだった。

お腹にもポーションをかけて終わり。


「出来る事はやりました。後はしばらく寝て過ごし血を増やして下さい。残ったポーションは持って行って飲んで下さい。」


 ジグロさんに洗面所の場所を教えてもらい、自分を洗いに行った。


 いくら綺麗なお姉さんでも、血だらけは気持ち悪いです。

 でも死ななくて良かった。

 ファンタジーな世界の死は身近過ぎる。



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