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第1章17話 農業しませんか


 三人で妖精の樽に着くと席が用意してあった。


「多少ウルサいですが事務所も嫌なので」


 俺はサイレント魔法を掛ける。我々の周囲が一瞬軽く光り静かになった。


「これは良いですね!」


「フェン兄さんに貰ったんですよ。要ります?」


「要ります! 是非」


 俺はハリーさんとサキバさんに魔法をあげた。


「サイレントは周囲の音を多少聴けます。ウェイトレスなんか来る場所に便利です。サイレンスは完全に遮音します。どちらも内側の音は外では聞けません。サイレントクリア、サイレンスクリアで解除です」


 ハリーさんが席を立ち少し離れる。俺は大声をあげて机を叩いた。


「本当に何も聞こえませんね! 有り難う御座います」


「どう致しまして」


 サキバさんも嬉しそうにしている。


 店のお姉さんが注文を聞きにくる。

 ハリーさんが料理とエールを注文した。


「ミノルさん、夕食は?


「一応食べたので軽く」


「一応ですか?」


 摘まめる肉とソーセージを注文してくれた。


「今、館は大騒ぎで夕食も報告会状態なんですよ」


「じゃ食べた気しないですね。まあ、この状態じゃ仕方ないですか」


 サキバさんが話しをしながら、魔力増加をしてくれた。


「また増えましたね。大きいのを打ったからでしょう。雷神は相当使いますから」


「バレてるようですね」


「今日のも全部聞いてますよ。ミノルさんはちょっとした有名人ですから」


 とサキバさんが笑いながら言った。


「レベルが上がっても、あのような上級魔法は普通すぐには使えないのですがミノルさんは凄いですよね。子供の頃から魔法を使っていたのもプラスになっているのかも」


 お姉さんがエールを持って来たので礼を言って受け取るとニッコリ微笑んでくれた。


 乾杯してから俺はエールを魔法で冷やして飲んだ。確かにギルドのより遥かに美味い。

 ハリーさんが不思議そうに見ている。


「日本では冷やして飲むんですよ。凍ったジョッキに入れて」


 俺がハリーさんのジョッキに魔法を掛ける。


「美味い! これは良い!」


 サキバさんのにも魔法を掛ける。


「美味いですねー! 温度調節が難しいかも。今度から絶対これですね」


 2人ともニコニコしてエールを飲んでいる。


 お姉さんがソーセージの大皿を持って来た。俺が礼を言う。


「日本では給仕にも礼を言うのですか?」


 ハリーさんが聞いてきた。


「はい、皆では無いですが昔からそうしてますね。仕事でも気持ち良いじゃないですか。言われた方が。それより熱いソーセージと冷えたエール。最高ですよ」


「美味い! 別物のようだ!」


「本当に美味しいです。今まで無駄にソーセージを食べてたみたいです」


 二人とも大満足のようだ。


「しばらく内緒でやりませんか? ちょっとしたアイディアが有るんですよ」


「是非、聞かせて下さい」


「ジャガイモのフライと鳥の唐揚げです。これ程ビールに合うものは無いです。ビールはエールの日本での名前くらいに思っておいて下さい」


「フライですか?」


「油で揚げるのです。簡単で美味しいですけど、安い油が必要になります」


「なる程」


「日本ではナタネ、植物の油が中心ですが豚の油も美味しいです。つまり畜養が必ず必要になるのです。小麦だけでは生産効率が悪いので米も作るべきです。小麦の5割増しの効率が有る筈です。ここなら年二回収穫できるかも。連作も大丈夫だし、食文化を変えるのです。

 失敗は無いです。日本も同じ歴史をたどっていますから。今のように森に食料を頼っていては都市が大きく成れないのです。人口が増えれば商売も大きくなります。先に手を出した者が勝ちます」


「つまり農業に手を出せと?」


「大都市の食料を握るのですよ。消費の仕方は大衆向けの安い店を出して広げるのです」


「なる程。壮大なプランですね」


「壮大ではないのです。簡単なんですよ。理解さえすれば。日本の農業高校に留学した人材を雇うと良いです。彼らは理解してます。こちらで誰も理解しないのでストレスになっていると思いますよ」


「探しましょう人材を。見つかると思いますよ、日本の農業高校出身者は勤め先が少ないですから」


「ホフマブルグの近くに水田とジャガイモ畑、養豚場と養鶏場を作るからが第一歩ですかね。心配なら、お金は私が出しますか? 1兆デルも有れば余裕と思います。最初からそんなには要らないでしょうが、リスク無しなら興味も出ますでしょう」


「いや、リスクを負うのが商売でから。ただ、今ミノルさんの言ったことの20%も理解してないのでしょう。明日から勉強です。でも、その前に動きます。経済と商品の連作と、その支配権という基本的考えで良いですか? 単純化し過ぎかとは思いますが」


「最初はそれで良いです」


 ハリーさんは眼を輝かせて話し続けた。遅くなったので、明日も会いましょうということで別れた。





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