第4章23話 聖樹再生
服のお披露目の後セリちゃんは情報隊に呼び出され、テリッチさんは薬草の仕入れに出かけた。
「頑張って聖樹の治療をしますか」
「そうだな、テリッチに任せっぱなしになっておった。少し頑張るぞ」
「儂もするぞ。精霊魔法を貰ったから手伝える」
マネさんが参加してくれることになった。
聖樹のポーションと聖水は既に足してあり、テリッチさんの働きが目立つ。
根は後1センチくらい残すだけになっている。
「ミノルの力が増えているから、今日中に根が繋がるかもしれんな」
「アデルさんも相当強くなっているし、マネさんもいるから出来ますよ」
俺が太い幹側の根、アデルさんが切り離された方を担当して治療を始める。
「儂は太い方を手伝おう」
マネさんが俺の前にかがみ込んみ、手を重ねて治療を始める。柔らかく温かい手だ。マネさんのシャツの隙間から胸が見える。アデルさんと同じでノーブラだ。
俺の顔が赤く赤くなっているのが、自分でもわかる。アデルさんがそれを見てニヤニヤしている。
「アデルさんに叔父さんか兄達から何か言って来ました?」
俺は話題逸らしついでに聞いてみた。
「何も無いぞ」
相変わらずアッサリとした返事だ。
「ここ数日、貴族院で王都ですよね?」
「そうだな。奥様も一緒に王都だ。ミノル、お前が今の辺境伯領最高責任者だ」
「御屋形様の不在を狙っての侵攻か。王は絶対勝つ気だったのだろう。御愁傷様だな。ハッハッハ」
マネさんが面白がっている。
「御屋形様は昨日の大勝利で、相当有利になったと思うぞ」
アデルさんも楽しそうに言う。
「なら何か言って来るまで放置します」
三人の力は効果的で、1時間程で後5ミリくらいになった。
「暑くて疲れました。エールでも飲みませんか?」
二人が反対する訳も無く食堂に行った。
「今日はコックが皆さん用に海老を仕入れてますので、焼きますね」
お姉さんがエールと熱いタオルを配りながら言った。
「美味しそうですね。お願いします」
三人で乾杯をしてエールを飲んだ。二人は飲み干して次を頼んでいる。
「次で繋がりそうだな」
「儂もそう思うぞ。1時間くらいで終わるのではないか」
「終わったら風呂だな。気持ちが悪い」
二人の話を聞いていると、私と儂の違いだけでアデルさんが二人いるみたいだ。
お姉さんが海老の串焼きを持って来た。
「美味い!」
アデルさんが声をあげたのが理解できる。塩と香草で味が付いて、実に美味い。俺もエールを追加した。
2人は一緒におかわりのエールを頼んでいる。
「あのー、後少しですから終わって風呂に入ってからにしましょうよ」
鎮樹の精霊様から突然、呼び出しが入った。海老を分けろとでも言うのだろう。
我々はすぐに精霊様の所に行った。
「ミノル、状況が変わったようだ。すぐに聖樹を再生してくれぬか。聖樹の森も全てだ。」
「はい、直ちに」
「忘れられた森も再生してくれ。森の力が必要となった」
「はい。再生して入森規制しておきましょう」
「そうしてくれるか。頼むぞ」
精霊様は消えた。何時もと違った真面目さがある。何か起きるのだろうか?
「アデルさんテリッチさんを呼んで、精霊域の再生を。僕は聖樹の再生をします」
我々が聖樹に戻るとテリッチさんが来ている。アデルさんがテリッチさんに説明している間に、俺とマネさんは根の聖水用の受け口を外しポーション瓶を抜いてゆく。
「では始めます『再生!』」
俺が再生を唱えると聖樹はメリメリと音を立てて変化を始めた。幹が太くなり上にも伸び始めた。
バキバキと音をさせ枝が伸び葉を湛え出す。根が太くなり位置を決めているのか動いている。
突然ドドーンという音と地響きがして少し長い地震が起きた。
目の前には他の聖樹の2倍くらいある聖樹があった。
アデルさんが聖樹域の再生をすると、草花だけで無く聖樹域の周囲は花を湛えた低木で囲まれた。
地面はまだ細かく揺れている。俺は外に出て森の再生をした。山の裾野の森はそんなに大きく無く、簡単に終わった。だが200年前の森は鬱蒼とした姿で再生された。
聖樹域に帰ると光の粒が現れ出したところだった。光の粒がどんどん増え、眩しい程だ。その粒が渦を巻くように集まり、精霊様の姿を作り出す。
「私がこの樹の精霊となります。テリッチ、貴方の知っている精霊は、この樹を捨てた時に使命が終わったのです。貴方は身を挺して聖樹を守り200年もの間良く頑張りました。これからは正しい評価を受けて生きていくでしょう。
貴方は私にも忠誠を誓い力を貸してくれますか?
「はい精霊様」
「これからは、貴方1人ではありません。精霊の守護主を助け力を与え続ける役目も忘れては、いけませんよ」
テリッチさんは大きく頷いた。
「マネ。貴方は精霊魔法を与えられてますね。今はとても重要な時なのです。貴方は全ての精霊に忠誠を誓い、力を貸してくれますか?」
「この身体と命に替えましても」
「貴方を精霊の守護人としましょう。これが守護人としての証しです」
銀色のメダルがマネさんの首に掛かった。
「貴方も精霊の守護主を助け力を与え続ける役目も得ます。よろしいですね」
マネさんが真剣な顔で頷いた。
「二人には守護人の限界を超える力を与えておきました。何故ならこれから戦いが増えるからです。他の守護人には別の使命が有ります。貴方がた二人で守護者と守護主を助けるのですよ」
「アデル。貴方は良く精霊と守護主に力を貸していますね。私にも力を貸してくれますか」
「はい、全力で」
「アデルは一人で守護主を見事に支えて来ましたね。素晴らしい事です。ですが、それにも限界があります。自分でも気が付いてますね」
アデルさんは一瞬、俺を見てから精霊様に頷いた。
「これからは、この守護人二人の力を借りなさい。貴方だけでは貴方がすり減ってしまいます。今日までに減らした分を戻しておきましょう。また減らしたら来なさい」
アデルさんは精霊様に頭を下げて、応えた。
「ミノル。頑張ってますね。これからは、もっと仕事が増えるでしょう。それも民の為に多くの敵と戦う仕事です。心が荒れ沈んだ時は、この三人に頼りなさい。それぞれの力で貴方の役に立ってくれます。
昨日の事で沈んでますね。治しておきましょう。これからは4人で乗り切るのですよ」
心が軽くなった。まだ敵とはいえ生死に関わるのが負担らしい。
精霊様は微笑むと消えた。




