case1 真実の姿
この世に「異世界人」「転生者」「転移者」と呼ばれる人間が出没、出現し始めてはや20年が経とうとしていた。
この者達が現れてから世界の均衡は著しく崩れ、人並み外れた身体能力と何世紀も進んだ知識をもつ黒髪、黒目の人間が住む国が世界の覇権を握るようになり、絶えず国同士の争いが行われるようになっていた。
この物語は黒髪黒目の人間を駆除し世界を元に戻さんとする一人の若者の話である。
case1 本当の姿。
「黒髪黒目の人間が現れた?」
「はい。国王からの伝書鳩に記されています」
「その人間は今どこにいる」
「未知数の力を持つ可能性もあるため今は城下町にて泳がせ、王城内の来賓室に滞在させるようです」
「分かった。直ぐ王城に向かう。馬を出してくれ」
そう言いつつ牛革製の黒チョッキを着るこの男の名はグラン。世界中、いたるところに現れる黒目黒髪の転生者を専門に狩る「世界均衡保持人」の一人である。
そして、伝書鳩を王城へ向けて飛ばしグランを追い越して厩へ駆けていくこの女性は各国に配備されているワールドアベレージャーの補佐官を勤める「国王指定補佐官」通称マネージャーと呼ばれる役職の人間である。
「伝書鳩に記されていた時刻は!」
「今より30分前です」
「ならまだ城下町にいる筈だ!先に王城に入って先手を打つぞ!」
「かしこまりました」
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「只今参上いたしましたワールドアベレージャー。グランと申します」
「そのマネージャー。11です」
場所は王城中央に位置する謁見の間。一目で上質な物と分かる落ち着いた赤色の絨毯の上でかしづくグランと11。絨毯の両端には大量の近衛兵達が槍を天に掲げ整然と並んでいる。
「迅速な対応感謝するグランよ。遂に我が国にも異世界人が現れよったか。噂に聞いた以上に無礼な男だった。かしづきはしない、敬語を使わない。異能をこれ見よがしと発現させる。…単刀直入に言おう。グランには件の異世界人を無力化させたのち捕縛してもらう。後は不敬罪で拷問、監禁し異世界の知識を吐かせた後見せしめの為に国道沿いで餓死するまで晒す予定だ」
「かしこまりました。では件の異世界人がここへ帰ってきしだい…」
その時、謁見の間の扉が音を立てて開かれた。
「ようおっさん!城下町を見学させて貰ったぜぇ?チンケな所だ。それに、治安も悪い。途中で酒場に寄って暴れている冒険者を二人ばかしボコっといたぜ」
絨毯を土と泥で汚しながら堂々と歩くその男、件の異世界人だ。
「ふむ。ではグラン。その異世界人を不敬罪でひっとらえよ」
「かしこまりました」
「ん。なんだお前?俺はこの国でいう異世界人だ。俺には女神から授かった力があるからな。自由にやらせて貰うぜ?」
異世界人の手が青白く発光し始めた。




