11-5 嘘の本流は正義に輝く⑤
シンドウの正義への道は記される
夜の月明かりは街を優しい光で照らすがそれ以上の悲嘆の喧噪が全てを無に変えるようである。
避難場所に近づく程血の匂いは香ばしく鼻を通りすぎ血中の...いや体内の怒りのアドレナリン?幸せのセロトニン?が大量分泌されさらなる興奮状態に至る。
「死..死...死...。」
もう目の前には死への道しか映らない。
落ちている死骸はどんな悲しみを背負って旅立ったのだろうか。
やるせない思いをしただろうか?まだ生への執着を持ち死の実感すらもっていないだろうか?
お前達に恨みはないが俺の自己満足のため盛大に役に立ってくれ。
さらに歩みを続ける。
避難場所が見えるほどに到達時点で避難誘導の構成員の4割は支配下に置いただろう。
その証拠におよそ駆り出された20名弱の内、約5割の死体は転がっている。
「十字架よ祭れ!祭れ!ハッハッハッハ!」
錬成魔術を繰り返し簡易的な磔台を作成し張りつける。
魔術使用に必要なモノは基本は精神力....強き意志力である。事象を変える程の意志力の行使。
口で言えるが簡単なものでは決してない。
「全て無に帰す。...杭よ罪人に死を。」
俺の場合は圧倒的な殺意をもって死を呼び寄せる程の禍々しい杭を生成する。
禍々しいと豪語するだけありこの杭はただの杭ではない。
指した相手の血液を糧とし肥大化を起こし吸い切ったら粉砕し血液毒に変換しまき散らす。
吸った者は体内の赤血球を破壊し身を滅ぼしてく。
12年前からどれほど技術が進歩したかは分からんが当時この毒を解毒できるのは俺ただ1人。
回復特化のユイでさえ治すことはできても毒を消すことはできなかった。
俺の回復魔術は激痛と共に毒すら破壊する。
「さぁまだ生き延びてる避難民がいるな。奴隷と共に悶え苦しめ。」
肥大化が止まった杭が一つずつ粉砕され中を舞っていく。
煌びやかに紅色の粉末が四方に飛び回る。
対策としてはマスクをすれば8割方回避できるのだが知らないやつが咄嗟に防ぐことなぞまずできない初見殺しである。
しばらく骸となった死骸の様子を見ながら避難地に歩みを進めたが予想通りの地獄絵図である。
既に息絶えた者。
足の腱を切られ動けず悶えている者。
痛みという感覚すら忘れて命令のまま犯すことに必死になっている者。
大半は現状に泣き叫び嗚咽を漏らす者である。
「だ..だずげ....。」
平気そうに歩いているところを見られたのか1人の女性がこちらに手を伸ばしてくる。
衣服は乱れ今にも崩れ落ちそうなほど不安定な足取りである。
「悪いな。これは俺達のボスの命令でな。お前らのような寄生虫はもういらん死ねとな。」
俺は女性の首を鷲掴みし宙に吊るす。
息がしづらいのは当然のことで顔色はどんどん青白くなっていく。
特に何の恨みもありはしない。ただただ怒りのままやりたいように死を振りまくのみである。
「お前ら聞きやがれ!これはボスの意志だ。お前らの命には毛ほどの価値も見出してはいない。増えすぎたから処分するただそれだけだ絶望して死ね!」
周り一体に聞こえる声で伝えてやる。
首を鷲掴んだ女性の首は既に直角に曲げ命は断ち切った。
同時に周りから凄まじいほどの負の念が蔓延する。
先ほどの魔術の行使は精神力と言ったが他にも変換可能なのである。
俺の場合は絶望である。死の間際に見せる人の輝きを共感覚として影響を受け力へと変える。
これは人それぞれで異なるが一番多いのが救助だったり仲間意識だったりするものだ。
例として挙げるならば瓦礫の下敷になった救助人をとてもじゃないが持ち上げられない物量を助けるためという意志で限界を越え持ち上げることもあったり、チームスポーツにおいて共通の目的を持ち立ち向かうことで普段発揮できないような力を見せることもあるだろう。
「私達が何をしたというのだ!....あのボスがそんなこ....ぐぉ!」
「そうだなあのボスがそんな命令下すわきゃねーよな!だがよいつだってどこだって人ってのは嘘をつく。」
俺は途中で奪っておいた拳銃で余計なことをいうおっさんのド頭をぶち抜いた。
ザクロのように真っ赤に爆ぜる姿はもはやこの世に二つとない花火を上げる。これでもう助かる余地は存在しないことを悟っただろう。
「さて俺にも慈悲の心はあるんだぜ!皆殺しが命令だが見逃してやるしチャンスもやろう。まだ子供は残っているな。命令をくれてやる。」
足の腱が切れて気絶している子ばかりだがこれくらいなら治せる。
演出ってのはただただ悲劇にすれば盛り上がるわけではない。ストーリがなければ駄作もいいところだ。
「何をさせる気なんだ!貴様ぁぁあこんなこと許さんぞ!!」
戦闘力はないがいたぶられ捕縛された青年が勇敢にも叫ぶ!
当然殺される覚悟はあるのだろう。このような若者が増えてくれれば世の中もマシにはなるのかもしれんが力なき正義は自己満足に過ぎんことを俺はよく知っている。
スパンッ!!!
もう一つザクロの花火が散る。
まぁ生かしても良かったのだが話を最後まで聞くのがマナーってやつだ。
「他にも異論があるやつはいるのか?」
仕方ないのでそろそろ意見を言う機会を作ってやる。理不尽に物を言うだけではコミュニケーションが成り立たんからな。周りを見渡すが言葉に詰まっている者が大半だがな。
スパンッ!スパンッ!
適当に近くで悶えているやつ二人を楽にしてやる。
この避難所には100人以上は収納できるだろう広さがあるがざっと見て60人近くいる。多少減ろうが何の問題もない。
「他にも異論があるやついるだろがよ?聞いてるのはこちらだ殺しやしねぇよ。さっさとせんと毒で死ぬぞ?」
多少目の色を変え勇気を振り絞っている。
いつの世でも変革を起こすのは覚悟と貫き通す意志だ。
この現実を変えたいと思うなら立ち向かってくるがいい。
変えるべき現実を避難民は還ることができるのか?




