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11-2 嘘の本流は正義に輝く②

夢の世界はいつも起きるころには薄れゆく

 意識は微睡に中を彷徨う。

 10分と決めたはずだが中々意識を覚醒させることができない。

 人が夢を見ている時におぼろげに体験する経験は目を覚ます一瞬の内に脳が見せていると言われている。

 人が見る夢は長く感じることもあれば短く感じることもある。

 それでも一瞬の時であることは変わらない。

 俺は夢を見る際にこれが夢であるという意識を持ち見る確率が8割近くある。

 なぜなら人は不幸を感じるからこそ幸福を夢見ることもあれば逆もありうる。

 普段何気ない日常を過ごす者であれば特に見ることがないものだ。


「俺の精神は以前に比べ圧倒的に弱くなってしまっているようだな。」


 俺はこれが夢であると分かっているからこそ呟く。

 俺の目の前には今ミーアがいる。普段はあれだけやかましいのに今はただただ微笑みながらこちらを見つめてくる。今は生きていてくれるそれだけでもうなにも望まないというのにどうあっても叶うことはない。


「ごめんな。救ってやることができなくて。これは俺の増長が招いた結果だ。ミーアなら俺と肩を並べてくれるような特別になってくれると期待しちまった。俺の望みはただ好きな人達と歩みいずれ果てるまで共に人生を往く。ただそれだけなのに....。」


 現実は残酷だ...。

 生まれは死を体現するゴミ溜め。

 脱出しても悪意は俺を最悪と結びつける。

 人生で唯一の幸運はただただユイと出会えたことだけだ。そのおかげで仲間ができ変わるはずだった。

 だが結局はさらなる災いを呼ぶだけだった。


「俺が好きになるやつらは次々と死んでいく...。」


 これからも戦いは続くだろう...ケンジ、マカベ...ユイ。いずれはまた孤独の道を往くのではないか。

 死は必ず俺の周囲を漂う。

 一体どれほどの屍を踏み越えねばならないのか。

 どこまでいけば...道は辿りつくのか。


「世の中にはハッピーエンドはない物なんかね~。」


 俺は開き直るようにわざと明るく話かけた。

 答えなぞ返ってくるわけないのになにいってんだか。


「....せばいいよ。」


 ん?ミーアの口が動き。優しく微笑む。

 俺の深層心理であるからどんなことを呟かれようが関係ないのだが..。


「....できるよ。」


 少しずつ鮮明に声は聞こえてくる。

 死んでもなお心配してくれるのか....優しいやつだな。


「やり.....やっちゃい...ユー!」


 おかしいなだんだん応援というより笑顔が怖く見える。

 ミーアの背後には死神が口を三日月のようにひきつらせ不気味に微笑む。



「敵は皆殺しにしちゃいなよ!ィェーい!」



 ....。死神とユイはテンションアゲアゲで盛り上がっている。


 はぁ~。俺は末期かもしれん。

 俺は自分の小指を容赦なく折り夢からの脱出を試みる。


「私はここまでだけど...シンドウ君の道はいつか必ず幸せな道に皆を連れて行けるよ。頑張れ!」


 ミーアはグっジョブ!とでも言いたげに親指を立て今までで最高に輝いた笑顔で見送ってきた。

 なんでいつも最後に台無しする癖に夢では覆すかな....。

 夢の中で不幸を幸福に変えられたのは初めてかもしれないと思いつつ意識は覚醒していく。


 .

 ..

 ....。


 目が覚めると周りはもう暗くなっていた。

 10分どころじゃないな。おそらく4~5時間は寝てたか。

 体感時間では10数分なのだが思ったより疲労が溜まっていて起きれなかったか。


「寝坊なんて...社会人としてはアウトだな。地球にいた頃だったら起きた瞬間青ざめたとこだ。」


 いつの間にか地面に寝転がっていたようで背中や腰が少し痛かった。

 周りを警戒しながらも立ち上がると少し遠くに人の気配がするだけだった。

 恐らくクリスが周りの様子を伺いに行ってくれているのかもしれんな。


「いやおかしい。クリスが1人で行動するか?」


 俺の目は万能ではない。経験則から人の気配には敏感な方だがいるのは本当にクリスだろうか?

 ミーアが亡くなってしまい。この森で1人で行動する危険性が分からないわけがないだろう。離れるにしても俺を起こすか、起きるのを待つのが普通ではないか?

 そしてなにより不可解なのはここにあるはずのモノがない。

 ミーアの死体がないのだ。


「一体何が起きていやがる。.....かぁぁぁここに来てから後手に回る一方な気がするな。」


 俺は頭を掻き毟りイライラとした鬱憤をこれ見よがしにみせる。

 ここに来てから仲間とは分断され、マフィア共には殺されかけ、挙句の果てには大切な人を奪われた。

 ふと思い出すとこれは不運、不幸で起きたことであるのか?

 俺を苛む最悪はもっと理不尽の元にいつも現れるのだ。

 圧倒的恐怖、抗えない災害、虚ろう混沌.....。

 こんなありがちなストーリで仲間を失う偶然なぞ俺が見過ごすわけがない。


「気づくのが遅ぇーんだよな。馬鹿野郎がよ。」


 確実に裏で糸を引くやつがいる。

 ケンジという武器を釘づけにし、別れた俺達をさらに分断させ戦力を削ぐ。

 今の所、敵の唯一の誤算はシキの存在ってところか。あいつが戦術という術中に嵌るわけがない。むしろシキは面白がって戦っていやがるまである。だから俺が助けられたのはたまたまではなく必然であったのかもしれん。


「はははっ...は~。やばいこれは最高にやばいな。ガチでまたキレそうだな。」


 敵さんにとっては俺の脅威度はシキを下回るってことかよ。ウケるわ~

 あの路地裏で殺されかけたのも俺を殺すついでにシキをあぶり出すのが本命である可能性が高い。

 そもそも前提を履き違えていたな。

 なぜ俺達の情報が筒抜けであるような状況なのか?ここのシステムとして送られてくるやつはボスに伝わるのだと思っていた。恐らくはそうなっている。そこに間違いはないはずだが漏れすぎている。


 俺は人の気配がする方向に歩き出す。そこに答えはあるはずだ。


 俺を嵌めるなんて感心関心だな。すこぶる愉快だ。

 だが脅威度を履き違えたな。

 俺は倒れているマフィアの近くに辿り着く。


「..あんたは例のルーキー。...頼むクリスの姉さんが連れ去られちまった。助けてくれ!」


 ガロンファミリアの青年が満身創痍で語りかけてくる。

 ガロンファミリアはクリスを保護したくらいだ。クリスが俺の元を離れたのもガロンファミリアが助けに来てくれたからだろう。


「そうか。クリスはどこに連れてかれたんだ?」

「ミフネファミリアのやつらだ!あいつら多勢に無勢で襲いかかってきやがったんだ!」


 なるほどな。カリノファミリアに続きネジリファミリアに続き...そしてミフネファミリアか..。

 シンドウさんは大忙しですな。カリノファミリアの幹部と部下の大半を相手し、ネジリファミリアのボスを戦闘不能にし、最後は最大規模のミフネファミリアをクリスのため潰しに行くと....。


「なめてんじゃねぇーよ!ボケが!【死】ね!」


 俺は青年の胸ぐらを掴み間近で目を合わせ【殺意】をぶつける。

 青年の目からハイライトが消え、オーラを一気に白に染め上げる。

 絶命した。


「情に厚いね~。意識統一がなっているね~。だとか言う話だったが胸糞悪いやつ頭張ってるようじゃないの?」


 ガロンファミリアの狙いはおそらく脅威度で殺す順番を決めているのだろう。

 恐らく一番はケンジだろう。ケンジならおそらくどんな手段を使おうと止められるやつはいない。だからこの区画の反対側に誘導したのだろう。

 二番目はシキ。勝手気ままに動くやつを捕捉することはできんだろうよ。だから俺とクリスを餌におびきだそうとした。あわよくば俺ともども殺せれば御の字ってとこか。

 三番目に俺が来ていると仮定するとシキを殺すこと敵わずってことだな。


 これだけ経ってもケンジがこちらに来ないのは何か向こうで起きているのだろう。シキを殺したいとこだろうがキーとなる故に俺とクリスは生かされていた。

 情報が洩れているのはクリスが開示していたのだろう。俺が意識を失っている間になにか弱みでも握られていたのかもしれん。


 このあらすじを考えたやつを賞賛するぜ。

 クリスを誘導しカリノファミリアとぶつける。

 恐らくガロンファミリアは一番敵視していたのだろう。

 その後さらにネジリとミフネファミリアをも巻き込み俺達とぶつけた。

 カリノファミリアは戦力の大半に深手、ネジリファミリアは表のボスが失脚、そして今回の誘導が成功していればミフネファミリアも壊滅的な被害が出るであろう。

 誰が得をしているのかなんて分かりきっているじゃねーかよ。

 現状況においてミーアの死体の価値がクリスから開示され俺とおそらく鉢巻は下手気に出れないだろうと思われているだろう。もしばれても人質として使い自分達以外のマフィアのボスの首を要求。

 そしてマフィア共のドンになるとかか。

 まぁ真意なぞ分からんしどうでもいい。この状況を描いたやつに会いにいかねばな。


「夜風か涼しいな~。今夜は血肉踊る素敵なショータイムが見られそうだ。ミーア...君に捧げよう。」


 大分頭は冷えた。

 とてつもなく悪い意味で。



シンドウさんの素敵な反逆は始まる

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