閑話休題~過去編②~
過去編は続く
俺とオッサンは熊肉を担ぎ廃屋に戻ってきた。
1年半という長い時間。
渇望して止まなかった生きるための力をようやく掴んだ。
強さとはなんだろうかという抽象的な俺の疑問はカケラだが掴んだと自負していた。
その日の夜はオッサンと熊肉をひたすら頬張った。
今までオッサンからは湿気たパンやら。味の薄いスープといった味気ない物ばかり食べていた。そのことに対して反論があるかと言われる答えはNOである。食事なんてのは生きる上でただ必要なだけでありそれ以上でもそれ以下でもないのだと思う以外になかった。
「....上手い。...上手いなこれは。」
俺の常識が大きく変わった瞬間だった。
俺の7年間を大きく変える瞬間だ。
「上手いか...。そうだろうな。お前は今まで食べ物に関して興味がない。そんな無表情だったよ。だが自分で仕留めた食糧だけは価値観が変わった。これはお前のモノであることをな。」
俺のモノ。
これは俺の所有物であるのか。
不思議な感覚である。この世で俺のこの身以外に対して明確にこれが俺のモノという意識が芽生えるのは違和感しかなかった。だからこそなぜか思った。
「俺は十分満足したよ。後の熊肉はオッサンにやるよ。思いのほか悪くない気分だ。」
俺の所有物であるなら俺の好きにしていいのだろう。
食欲は湧いたがそれを必要かと思うとやはりどちらでもいいというのが感想である。俺の価値観を大きく変える出来事だったはずだったのだがやはり生存欲求以外は俺の心を占めるに値しない。
「お前には欲というのがないのかね~。ちなみに何で熊肉をくれるんだ?」
「俺なりの敬意の現れだと思ってくれればいい。今まで感謝の気持ちなぞあまり抱かなかったんだが、俺に初めて分け与えられるモノができたとき思ったのがオッサンにあげるという結論なんだ。なんだいらないのか?」
「....。」
オッサンが目を見開きただただ無言でこちらを見つめてきた。
なんだ?キモいな。
正直オッサンがあっけに囚われた表情なんて初めて見た。
「....。」
「いいかげんなんか言えよ。どうしたんだ一体?」
「...あ..いや。なんでもない。少し昔を思い出してな。この熊肉をくれるって話だったか。...そうだな。頂くとしようか。」
昔?まぁ長年生きていれば何かしらあるもんか?
オッサンの過去か...。
「そういえばオッサンの名前なんていうんだ?正直今まで全く興味すら持たなかったから気にすら留めなかったが...。いや正直今でも全く興味がないんだが聞いとく。」
「おいおい!人に名前聞かれてここまで関心を持たれないのは初めてだぞ?それでも遅すぎないか名前聞くの!」
オッサンがツッコんだ!?
あの適当な受け答えしかしなかったオッサンが...。
なぜか少し感動した。
「いや知らんし。あったらまず名前を聞くのが常識なのか?いろいろ学んだ気がするがそんなこと教えて貰ったっけ?」
「....。はぁ~。しまったな礼儀とかマナーとかは教えてなかったな。でも仮に教えたとしてお前は名前を覚える気はあるのか?」
「ない」
「レスポンスタイム0!!即答かよ!いいよオッサンでよ。渾名ってことでオッサンという言葉を記憶に焼き付けておけや!」
若干涙目になるオッサンであった。
いや~。ツッコムオッサンは面白いな。
「オッサ..ツッサンは面白いな。」
「....お前って笑うんだな。凄い不気味すぎて怖いな。そしてツッサンってなんだこら!」
これがかつてのシンドウが初めて渾名を付けた第一号だったのである。
そして口では非難っぽいことを口にしているが俺はこのオッサンに仲間意識が芽生えていたのである。
◇
夜は明け次の日
「お前はこれからどうするつもりなんだ?」
ツッサンはいきなり尋ねてきた。
教えられることは教えたって言ってたからな。免許皆伝というくらいならもう俺は一人でやっていけるのかもしれん。現に俺は半年前の時点で世渡りくらいできる自信があった。
「この腐った街からは出て行くだろうな。だがオッサンに教わったことが本当なら面倒なことにはなりそうだ。逆に質問することになるがツッサンはどうするんだ?」
「変わらないだろうな。俺はこの街でひっそり暮らして行くだけさ。お前ならもうこの街から出て行くこともできるだろう。好きに生きろ。」
ツッサンが望むならこの腐った街を一緒に出ようかと思ったが、出る気がないならいい。観たところいやいやこの街にいるというわけではないらしい。
「そうかい。計画に必要なもんが揃ったら出て行く。それまではまだここにいるから話相手くらいならいつでもなってやるよ。」
ツッサンがやれやれという表情をしながらも少し嬉しそうな表情している所を見ると寂しかったりするのだろう。俺は俺の道を行くと決めているため構うことはしないがな。
◇
4か月は経っただろうか
俺は街近隣の森で生物を狩り、その肉や皮を売り金を稼ぎ。
その金で商売のイロハを失敗を繰り返したが掴みさらに稼いでいた。
まだである。こんなガキが生きていくにはもっと貯蓄が必要だ。出なければすぐ死は近づく。
俺は子供にしては恐ろしく慎重であった。過去の非力で何も持たない自分がゴミ同然に死ぬ。それだけは絶対に回避すべきだと心が訴えてくる。
「凄いなお前。拳銃4丁に手榴弾3つに防護服にナイフ...金を稼いだと思ったら次々に武器へと変えていきやがる。おっかないね~」
「何を言ってやがる。こんなものはまだまだ序の口だ。俺は勝たねばならないんだこれくらいはやるさ。」
俺は実際に俺の思う通りに動いたら失敗はあったが、最終的には目的は達する。
俺はこの4か月に生まれて初めて達成感や生を実感したと言っても過言ではない。
....しかし欺瞞に満ちたこの世界はそんな俺を嘲笑うかのごとく牙をむいてくる。
◇
◇
6か月が経った。
「後必要なもんは足をなんとか手に入れるってところか...。」
この街でガキの俺でも扱える武器はあらかた集め終わった。
街を出ることは可能いつでも可能だったのだが地図上でこの場所を確認した時にとてもじゃないがガキ1人が旅に出て生きていけるわけがないと思った。
この南西端のベイカレッジから次の街があろう場所は10kmも森林と山々が囲んでいる。
正直これを自力だけで乗り越えるのは至難だ。
野生の獣がうじゃうじゃいやがるのだ。熊を殺すことは可能だったがあくまで相手とのタイマンだったことも勝因の一つだっただろう。
「苦戦しているようだな。この街は傍からみたら一方通行のゴミ捨て場みたいなもんだ。脱出は厳しい上にできたとしてもこの街の外で受け入れられかも分からん始末だ。」
俺がこの関門に悩んでいるとツッサンが現在の課題をさらりと言ってきやがった。
「ツッサン知ってたのかよ。早く言えよ!くそっどうなっていやがんだここはよ。調べれば調べるほど....闇が深いとでも言えばいいのか...。」
謎が多いのはまだ変わらんが分かったことをまとめよう。
ここは隔離された場所である。しかし牢獄というわけでもない。
無法地帯な側面はあるが...物資はあるし生きるにはことかかない。
それを手に入れられることすらも困難な者は死あるのみというのはかわらんがな
どういうルートかは分からんが支給はされているのだ。金銭の概念もあることからやりようによっては働く者もいる。
街を客観的にみるとすれば中心に管理棟が建てられており、周りに汚くはあるが建物が乱雑に並べられている。その建物のさらに外側に廃屋が並べられている。廃屋はギリギリ雨風を凌げるレベルだ。その一角に長い間俺とツッサンはいたことになる。
「そうだな。お前も気づく頃だろうな。この街はな過去に大罪を背負ってしまった者達で集められて作られた場所なんだよ。そして人類は同じ過ちを繰り返し起こし同じく大罪を背負った者がこの場所に捨てられる。ここで生まれたであろうお前には何の罪も本来ないはずだが受け入れられることはやはりない。希望を持たせることも絶望を持たせることもしたくなかったんでな黙ってた。すまんな。」
「....。罪ってのは。踏み荒らしてはいけない禁忌に手をだした者ということでいいのか?」
情報を集めていくうちに謎であったピースを埋めるため質問を行った。
この街の者は皆、ここになぜいるのかということだけは決して話さない。恐らくだが隔離されてなお禁忌に触れるだけで処罰の対象にされるということだろう。
とあるお調子者なやつがおり俺が上手く会話を誘導し秘密を聞き出してしまったのだが....次の日にはもうそいつは消されていた。そいつの居場所まで把握していたにも関わらず所在を掴むことができなかった。
「....(コクリッ)。」
オッサンは頷いて返してきた。ここには誰もいないはずだがそれでも口にすら出すことが恐れられているんだろう。核心に触れない比喩表現が多いのもそのためなんだろうな。
「....はぁ~。ツッサンは一方通行にゴミ捨て場と言っていたが脱出方法が0ということではないんだろ?いつか辿り着けるだろうが悠長にしているには性分に合わない。教えてくれよ。これは禁忌じゃないんだろう?」
ツッサンは無駄なことはしないタイプだということが共にいて身に染みてる。ツッサンが俺をここまで引っ張り上げたんだ。ただ俺に生きて欲しいなんて殊勝なこと考えているように思えなかった。
「方法は確かに存在する。だが今のお前には教えられん。教えても殺されるのが目に見えてるからな。教えて欲しかったら条件がある。のむか?」
「........。のむ以外に選択肢が俺にはないな。」
条件を話出さなかったってことは前提条件を既になくしにきているのだろうな。
上等じゃねーか!こんな条件できるわけないだろ!というのを前提条件にしようとしているのであろうな。おそらく俺だったらできる範囲に上手く抑えれるように会話を誘導するだろうから。
「条件はな
熊を100頭に狼1000頭を殺し
それを元手とし2億円稼いで持って来い。
獣の解体は持ってくる度にやってやる。
おそらく相場としては200万くらいにはなるだろう。
それを100倍に増やすんだ。」
「......。」
俺が思ったのは.....。
....。
面倒だな。という感想だけだった。
分かっている。こんな条件普通に考えても実現性は0だろう。
できるわけがない。ガキだったら。
だが俺は普通のガキではない。
もう恐れはしない。困難なぞ踏み越えてやる。
俺の闘志に火は灯った。
◇
ツッサンとの条件をのんでから約3か月
「お前に合ってもう2年か..時が経つのは早いな~」
「....。」
「お前はどうしてそこまで頑張れるんだ?もう後30年は若かったらできたのかね~」
「....。」
「いやいや冗談だって。こんな芸当できるのなんてお前以外そういて溜まるかっての~」
「....疲れてんだよ。ニヤニヤしながら面見せにくんじゃねーよ。」
目の前にはガキにかしずく熊が20頭に狼200頭
もはや忠誠を誓う配下のように黙って頭を下げている。獣の本能が敵に回してはいけない生物を認識しているのだろう。
「ようやくこれで終わりだ。頭を上げやがれ!........そして【死】を持って尽くせ!」
一斉に頭を上げた獣達がガキの目を伺った瞬間に震えそして倒れていく。
残ったのは熊が3頭に狼が1頭であった。
「ご苦労だった。【去れ】」
残った獣は決死の勢いで飛び出していった。
この光景は一体なんなんだろう。
いや分かっている。この光景を見るのは3回目だ。
最初は殺しては1頭ずつ運んでいたが、非効率だと考えたのか一気に殺し一気に解体を求められたのだ。
「まさか経った3か月で殺し切るとはな。」
「いやいや初めに頭が回っていればもっと早かったんだがな。こちらはおまけだろう。金を稼ぐ方が時間掛かるからな。」
つまらないモノ観るような目でこれからのことを考えるガキの姿に
苦笑いを返すことしかできなかった。
この獣殺しに限ってはすぐ終わるだろうことは分かっていた。
最初熊を【殺意】を持って殺した時、自分がどれほど危険なモノを育んでしまったか震撼せざる負えなかったのだ。このガキに物心がついた頃がいつかと問われたら間違いなくあの瞬間だろう。ただただ淡々と生きるために鍛錬するという普通はもっと歳を積んでから行う工程を習熟している。人にはそれぞれ磨きあげるべきモノが異なるだろうがガキの持つモノは確実に現時点で頂に立とうとしている。
「ふん...お前の成長を見続けるのが楽しみでありながらも....いやなんでもない。」
遠くを見つめながら物思いに耽る。
できる限りのことはしてやろう。それが間違っているのかもしれんがどうとでもなれと投げやりに考えていた。そして少し親バカという単語が頭を過った。
こいつはこんなとこで燻っていい玉じゃねーよな。
◇
さらに1年後
ガキは2億を携えツッサンの元に持ってきた。
過去編は次で終了予定です。




