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10-2 嘘は支配者の傀儡を謀る②

シンドウと鉢巻の戦略は駆け巡る

 宿付近にカリスを呼び出した。


「カリスすまんな度々の注文をしてしまって。」

「今度は2週間分の食料に野営のための道具に...人遣いが荒すぎないかしら?」


 俺は金稼ぎとケンジの連れて来たボスを運ぶのに2日使ってしまった。明日は約束の3日目だからそれまでに買出しは終わらせたい。


「自分でやることも可能なんだが、これでも疲労が溜まっていてな休みたい。その代わり明日カリスを急成長させてやるよ。マフィアのボスと互角に戦えるよう戦闘技術を叩き込んでやる。もしくは刑期を終えたら1000万円やるよ。」


 一応命の恩人だしな。ここで不自由なく過ごせる環境作りが、刑期を終えて監獄から出た時に金を払うくらいすべきだろう。


「....。どちらもいらないわよ。私はそんな打算で動いているわけじゃないわ。気遣いは不要よ。でもそうね、ボスほどじゃなくていいから幹部レベルくらいにしてくれると助かりはするわ。だから叩き込まないで優しく手解きよろしくね。」


 ウィンクしながら買出しメモとお金を持っていき去る。やれやれ1番俺が苦労しそうな選択肢を選びやがったな。無茶をさせる方が俺としては楽なのにそれを禁じてくるかよ。


「さて目標としては3人ともレベル3ってとこだが..ミーアと鉢巻は生き残ってくれるといいな。流石に3人もカバーできるほど周りを見る余裕はないからな。」


 死ななければ命を繋ぐことができる。致命傷Bなら直せるがそれ以上だとリタイヤだ。カリスはつきっきりで見るから危険は少ないがミーアと鉢巻は2人でなんとかしてもらわないといけない。


「ベストはシキがカリスを、ケンジが鉢巻を、俺がミーアを見れれば確実なんだろうが、あの2人は言うこと聞かんからな。ケンジはなんだかんだ言ってもやってくれそうなんだが...危ないな。」


 俺は計画を練りながら部屋に戻るのだった。


 ◇


「鉢巻さん。千秋さんを襲う気があるなら早めに言って下さいよ。邪魔してすまない。俺は別の宿に...」

「誤解だ!待ってくれ!」


 俺は部屋に入ると鉢巻が千秋に覆い被さっていた。2人屋根の下にいるんだ。こうなるよな普通わかってるよ俺は喜んでるんだぜ。


「遠慮しなくていいんだぞ。性欲は3大欲求の一つだ。襲ったとしても何も恥じることはない。むしろ否定する方がおかしいんだ。さぁ存分に楽しませてやれ。」


 俺は部屋の扉を閉めようとし鉢巻は高速でストッパーを生成し扉を閉め切るのに反抗する。こんな素早い錬成魔術始めて見たかもしれん。流石が鉢巻!


「ここで誤解されたままで帰らせる訳にはいかねぇーんだよ。」


 そのままストッパーで生まれた隙間から手を伸ばされ掴まれた。ここまで2秒くらいか。人間の反射速度を超えてる気がする。


「分かった事情は聞くから離すんだ。」


 俺は往生際の悪い鉢巻を見ながら部屋に入る。千秋も鉢巻も上気した顔で佇む。


「そんなに激しいプレイをした後みたいな顔されて、そういうことしてた以外何かあるのかお互い服も乱れてるじゃないか。」


 これは明らかにヤッてるところに乱入してしまった空気読めないタイプだっただろ俺。


「千秋さん気分はどうだい?鉢巻さんは激しかったかい?」


「ん?そうね気分は高揚してるかな。鉢巻の多彩な技に翻弄されっぱなしよ。思い出すな士官学校の頃を。」


 よし。俺はもう一度部屋から出ることを試みる。離せ!離しやがれ鉢巻!足を掴むな!


「柔道の話だ!柔道だから!寝技かけてただけだ!」

「鉢巻さん。その...女性に寝技かけてる発言の時点でセクハラなのでは?」


 鉢巻は混迷しているな。シンドウである俺は言葉の意味を理解しているが、今は違う...だから今がチャンスだね!


「女性を押し倒しただけでなく、寝技をかけて動けなくする。これを聞いてあなたはどう思います?」


「自首するしかない..だと。..ここ監獄だったな。でもシドウさんの言う通りではある。弁解の余地はない。潔く..」


「責任を持って千秋さんを嫁に貰うと!そうですかそうですか大変立派なお考えですな。見直しましたよ。」


「え?鉢巻あんた私のこと好きだったの?」


 うっし!会話の誘導成功!鉢巻は正義感が強いからな非があれば認める。ならばつけいるのは簡単だ。


「いやいや千秋には好きな人がいるとシドウさん聞いてただろ。」

「違いますよ鉢巻さん。私はね、シンドウさんがどんな人か知らない。でもあなたが千秋さんを好きであるのに無理をして離れようとしているように見えるので気になっただけです。千秋さんがどうのとは聞いてはいませんよ?」


 俺は核心的な所を突いていく。最悪この姿の俺と仲違いを起こそうと最悪逃げればいいだけだ。ノーリスクでハイリターンってやつだな。


「それは客観的に見てのことだろ。こんな場面を観られたんだそう思うこともあるだろうよ。冷やかすならやめることだな。」

「....。鉢巻照れてるの?もしかして。」


 鉢巻よ逃げられんぞ。ミーアは鈍いが着火してやればその気にはなるだろう。鉢巻が必死に取り繕っているから気づかないだけで。


「誰が照れてるだ。照れてなぞいない。千秋からも言ったらどうだ。俺はそんな色事には関心がないことは知っているだろ。」


「いやいや鉢巻さん。そんなに否定するなら真正面から嫌いです関わるなくらい言ったらいいじゃないですか?千秋さんにわざわざ言わせなくても。」


 以前ならどうどうと言っていたが、今はミーアが好きかという感情を意識して聞いている。ここで素直に嫌いと答えれば本当に縁は切れるだろう。わざわざミーアも嫌がる相手に付きまとうことはしないだろうからな。友達以上恋人未満という快い状態に満足しているからこそ欲がないのだ。俺は鉢巻の未来のことが分かる。絶対に鉢巻はいつか後悔するとな。お前の過去に何があろうと心は偽れない。嘘にはできないんだよ。


「....。」

 ミーアが凄くさびしそうな顔をしている。ここで鉢巻との糸は切れるのだろうと分かったはずだからだ。ミーアは馬鹿ではない。鈍くはあるが人の感情の機微はしっかり読み取っている。なんせ俺がかつて知らなかった一面を言い当ててさえいたのだから。


「...俺は千秋のことなぞ。」


 覚悟は決めていたという顔をしているが、いざこの状況になってしまうと難しいようだな。感情の色が渦巻いている。言葉を紡ぐことが難しいようだ。


「...千秋のことは好きでもなんでもない関わられていい迷惑だ。..俺は行く。」


 鉢巻は言葉を言い切り。立ち上がる。

 はぁ~意志は固いか。俺は間違っていたのかもしれん...。


「シドウさんあなたには感謝しているが同時に言おう。俺を甘く見るな。思い通りに動くと思ったら大間違いだ。」


 鉢巻は俺の隣を通りすぎる際に語りかけてきた。

 俺は誰もが幸せになることを少し望んでいる。中でも愛に関しては一押しだ。俺は寂れた心をユイに救って貰った。だからこそ救われるやつがいるのなら同じように救われて欲しい。それだけだったんだが人の心だけはどうにもならんということか。


 鉢巻はそのまま去っていった。


「...ごめんなさい。千秋さん。全て私の責任だ。この罪はどんな形であれ償うと約束しよう。...本当にすまない。」


 俺は動揺し続けているミーアに語りかける。


「..私はやはり鉢巻に嫌われていたのかな...。士官学校ではどうしてもほっとけなかったの。この世を恨んでいるそんな表情ばかりしてた。他人に興味がなかったあの頃の私でも鉢巻だけはどうしても目を背けることができなかった。これでも頑張ったんだけどな。やっぱりままならないね。...いやだよわたしこんなの..」


 これは俺が招いた結末なのか...。やはり俺は人に不幸しか与えられないのか。少しはマシなやつになれたとそう思えてきたのにこの仕打ちか...。俺が悪いのは分かっている。調子に乗りすぎたのは認める。


「すまない少し席を外す。」


 俺は部屋から去ることにした。責任は果たす。ユイよすまない。


「...ブルルルルル..。」


 頼む出てくれ。ここで終わるわけにはいかないんだ。

「...ブルルルルル..。」

「...ブルルルルル..。」


 やはりあんな状況じゃ出ることなんてできないか。くそっ!

 俺がまだ甘いのか。こんなその場しのぎの方法ばかり考えているから気持ちを分かってやれないのだろう。


「ミーア!!」


 俺はドアを激しく叩きつけるように開く。


「...!?..え?..シンドウ君?」


 泣きながらも瞳を見開きながらこちらを見る。俺は元の姿に戻り答える。


「ミーアなんて顔してやがんだよ。こちとらお前があんまりにもやかましいもんだから無理して来てやったのによ。」


 酷い茶番だ。俺から仕掛けといて俺が後始末をする。こんなやつが策略家だと笑わせる。


「...私さ鉢巻に逃げられちゃったよ。..ごめんねシンドウ君不甲斐ない私で。」


 心ここにあらずって感じだな。本当に馬鹿な二人だ。お互いを知りすぎているからこそ近づけないのだろう。だからこそキッカケを作ろうとしたのだ。...鉢巻絶対後悔するからな。


「俺が仲間として観ているのはここではケンジとミーアだけだ。何を謝る必要があるんだよ。不甲斐ないってなんだ俺が計画していたマフィア潰しはできないとでも言うつもりか?」


「ごめんね...。今どうしても身体に力が入らないの。なんでかな...もう少し待って貰ってもいいかな?私はやるよ。私は必ずシンドウ君のために。」


 これか。これが鉢巻が拒む理由なのかもしれんな。俺なら導けるか...こんなの呪いでしかない。俺はこの二人を大きく見誤ってたのかもしれん。

 ミーアは狂気的に尽くすタイプなのかもしれん。周りが観えすぎているからこそ単純な感情に気づかない。俺と鉢巻という途方もない不幸に引き寄せられた誘惑の塊がミーアだ。俺はミーアを救ってきたために惚れられたと思ったが、鉢巻なんて及びもつかない本当の不幸の塊である俺に引き寄せられたのかもしれん。

 鉢巻は過去が過去なだけに性欲に関しては恐ろしく抵抗感があるのだろう。男は女と接触を繰り返すほど性欲防止ホルモンと愛情ホルモンが分泌され性欲が収まる。だからこそ鉢巻は誘惑を断ち切れるのだろう。お互い上手く付き合っていけたのも偶然なのか必然なのか怪しくなるほどの相性の良さだ。...いや相性が悪いの間違いなのか、これではお互い救われない。


「嬉しいよミーア。俺のことを支え続けてくれ。俺の力になってくれ。俺はミーアに期待しているよ誰よりも。」


 俺はミーアを抱きしめながら答える。観えすぎているからこそ等しくどうでもいい。ものすごく幸運な人を観ても興味は示しても動く動機にはならない。不幸な人間みた場合はどうだろう。私なら分かってあげられる救ってあげたいと思ってしまうのは人の性、ミーアの性なのだろう本質としては。だからこそ救われてやることが救いになる。こんな不幸な循環があるだろうか。


「...うん。私頑張るよ。シンドウ君愛してる。」

「あぁ。俺も好きだよミーア。」


 俺達はキスをした。俺はミーアを救わねばならん。だからこそこれは裏切りだ。ユイへの取り返しがつかないほどの。鉢巻は千秋が好きでもこれでは救えないと分かっていたのだろう本当の意味で。だがどう救えばいいのか分からない。こんなものを。だから自分を遥かに上回る実力を持つ俺に託した。そういうことだろ。やってくれたよ本当に。


 俺はミーアをベッドに押し倒し、満たされるまで傍に居続けた。



 俺はミーアを寝かしつけた後、神崎のいる部屋へと訪れる。


「明日作戦は決行だ。約束通り動いて貰う。違えたら命はないと思え。」


「...やはりお前はこちら側の人間だな。いい表情をするようになったじゃないか。」


 俺は罪を償わなければならない。その為なら一切の容赦は不要だ。俺は地球で和やかに過ごし過ぎた。失敗を許す訳にはいかない。


「元々はこちら側というのは認めている。だがこのやり方では辿り着かないのさ。」


 自分の全てを賭けてでもしないとまた負ける。


「意味は分からんが訳ありのようだな。いいさ、明日お前の指定場所に戦力を送る。んじゃ貰っていくぞ。」


 神崎は気絶したどこかのマフィアのボスを連れて行く。これで用意はできた。俺はミーアとクリスを鍛え上げる。俺も余裕はないだろうが死ぬ気で守りきる。


 ◇

 約束の期日となり

 俺達3人は森林エリアの中央付近に来ている。

 俺はクリスに事情を話して変装を解いて貰った。


「シドウさんには話は伺った。俺もミーアをさらに鍛えることを考えていたから実行に移す。ミーア宜しくな。」


「うん。頑張るよ私は。シンドウ君の期待を裏切るような真似はしないわ。」


 恐ろしい程の執念や気合を感じる。失敗を糧としさらに一段階ギアが上がったように感じる。


「クリスはミーアの背中を守るように動いて欲しい。息を合わせる必要はない撃ち漏らしてる敵がいれば対処して欲しいくらいに考えている。」


「分かったわ。私としては対面でやって勝てる気がしないから、それくらいがちょうどいいわ。」


 本来なら突っ込まはするが致命傷を負わないようにカバーに専念するつもりだったが、2人いるので難しい。


「俺は2人のサポートに回る。思いっきりやってこい。遠慮はいらん。俺は敵も味方も死なんようにできるから攻撃に対する罪悪感は考えるな!」


 そのような躊躇を士官学校にいたミーアはせんだろうし、クリスも修羅場は潜っていると見えるから不要かもしれんが一応念のためだ。


「さてそろそろ来るか。」


 さぁあいつらには餌になって貰う。


 ◇


 戦闘を開始10分経過。


「千秋さん強いですね。私の仕事あまりなさそうですね。」

「そうだな。思った以上に動きが洗練されている。リミッターを解除してしまったのかもしれんな。」


 俺とクリスはミーアに追随しながら話していた。


 昨日のことで動きが鈍ると思ったが逆に何か吹っ切れたように暴れている。しかも容赦がない。倒すためなら急所を狙いまくっている。既に3人は倒している。同等レベルの相手なのにだ。しかも連携を取られているのに掻き乱してもいる。


「俺が戦った時と比べて遥かに集中力が増している。」


 元々士官学校での教育で戦闘訓練は積んでいるだろうから不可能ではないと思っていたが、士官学校でトップを取れるというのは本当だったんだな。


「でもなクリス。おそらく後20分程でピークは来るはずだ。注意はしておいてくれ。」


「分かりました。..聞きたいんだけどこのハンドガンどこで用意したの?」


 ハンドガン二丁とジャックナイフを持たせている。


「買ったんだよ。いや〜高かったな。」


 錬成魔術で作成したんだが言わないでおこう。鉢巻も作れるだろうが俺の方が品質は悪い筈だ。複雑な物ほど錬成するのに難易度は跳ね上がる。だから俺昔の経験を生かし銃の部品を錬成し高速で組み上げてる。


「...話す気は無いようね。マフィア達も似たようなの使ってるけど売ってるとは思えないんだよね。」


 流通元も錬成してるんだろうな。だって材料が手に入らない筈だからだ。


「まぁ壊れても構わんから好きに使ってくれ。ジャックナイフを持つ姿が暗殺者っぽくてカッコいいぜ!」


「全く嬉しくないわよそんな褒め言葉?言われても。」


 あ、気づかれた。


「ちょっとシンドウ君とクリスさんイチャイチャするの禁止だからね!シンドウ君は私のなんだから!」


「大丈夫よ。確信を持って言うわ。そういう関係にはならないから。千秋さんを私は応援するわ。」


「俺はミーアのモノじゃない。ミーアは俺のモノだ。誰にも渡さん。はぁ〜集中力切らしやがって。交代だ。パターンBに陣形を変えるぞ。」


 パターンBはクリスを先頭に俺がその少し後ろに付き、ミーアには少し距離を置き休憩しながら追いかけて貰う。


「私はシンドウ君のモノか...わかりました。」


 嬉しそうだなぁーおい。もうこればかりは諦める。決めたことだ。


「私は強くないからね。サポートしっかりやってね。」


 そういいながらもハンドガン捌きが様になってるじゃないか。近接戦闘は苦手だけど遠距離は得意と見ていた。クリスは場の空気を掴むことに長けている。さらに相手の動きの予測もこなせている。銃への抵抗感もない。


「大丈夫だ。近接されたら一定の距離以上近づけないようにしてやる。」


 これだけで十分やり合えるだろうよ。

 ミーアとクリスの連携を訓練していれば2人で戦わせたいところなんだが、クリスの弾をもし被弾してしまう可能性があるし、信頼してないものに後ろから銃を向けられる抵抗感は強い。


「ミーア待て。」


 俺はミーアが下がりきる前に手を掴んだ。


「少し怪我してるだろ。回復してやる。痛いが我慢しろ。」

「大した怪我じゃないと思うけど?...すごく染みるよ。」

「綺麗な肌に傷は残したくないからな。いやだったら無傷で戦え。」


 ミーアの頬がほのかに染まる。もう俺は躊躇しない。ミーアのためになるのであるならばやってやるしかない。


「そのシンドウ君異様に優しいというか..大歓迎なんだけど昨日のことといい何かあったの?」


 昨日は傷心してミーアを慰めていたからあれだが、急に優しくなるのもへんか。


「俺が優しくしてはへんか?少し過去を振り返ってみる機会があってな。こんな俺でも人を幸せにできるか試したくなったのさ。俺はもう人を不幸にしたくはない。」


「それはシンドウ君が気づいてないだけで救われた人は多いはずだよ。というかシンドウ君の言う幸せのハードルが高すぎるんじゃないかな?」


 ...あっけらかんに言われたが、なぜか凄く考えさせられることを言われた気がする。幸せとは何かと問われると確かに答え切る自信はない。でも俺の観る目が幸福の度合いを判断できる。


「いきなりだが質問を繰り返す。はいかいいえで答えてくれ。」

「え?本当にいきなりだね。分かったわ。」


「母親から受ける愛を嬉しく思うか?」

「はい」

「父親から受ける愛を嬉しく思うか?」

「はい」

「祖父から受ける愛を嬉しく思うか?」

「はい」

「祖母から受ける愛を嬉しく思うか?」

「はい」

「友達から受ける愛を嬉しく思うか?」

「はい」


「以上だ。では今から俺が指定した人からの愛の強い順番を心の中で決めてくれ。当ててやる。一つ言うが性格や育ち環境なんてここでは調べようがないから占いとかの類でやってるわけじゃない。」


「う、うん分かった決めるね。」


 愛の重さは人によって異なる。俺はそれを視覚化して見えてしまう。最初こそこの能力に目覚めた時は今までの不幸はこの目で防げとのことだと思っていた。だがこれも不幸の力でしかない。


「決めたは。」

「そうか、誤魔化そうとしても無駄だぞ。最初の質問以外全てに対し同等レベルまで愛への意思を一定に抑えただろ。そうすることも予測していた。」


「なんで分かるの!?」

「順番をつけるとしたら祖父、母親、友達、祖母、父親の順番だろ。おそらく祖母は物心つく前に他界、父親にはいい思い出がない。真剣に育ててくれた尊敬してる人が祖父。大きな愛を持って育ててくれたが何か不幸なことがあり他界でもしたのが母親。あまり友達はいないが親しみを思い出し思ったのが友達ってところか。」


「...なんでそんなことがわかるの。」


 俺が観えるのは全ての感情であり、多くの人間を見てきたからこそ。分かってしまう。観えているのに救うことができない方が多い。これを不幸以外のなんだと言うのだ。


「気味が悪いだろ。俺はなんでも観通す。この力のおかげで様々な苦難を乗り越えてきた。相手を見透かし悪い意味で策略をこれ以上なく発揮できる逸材がいるだろうか。俺は負けないが俺の周りは否応なしに不幸に飲み込まれることになるのさ。」


 俺が救ったヤマタケやミッシーは不幸の底を歩いてきたからこそ今を幸福に生きてるかもしれない。だがいずれ後悔することにもなるだろう。波乱に巻き込んだのだから。そして俺は最も愛したユイでさえ一回は殺したようなもんだ。勝たなければそれ以上の不幸が起こることが分かっていたから。分からなければ不運を呪い共に命を投げ出すのにそれを俺自身許してはくれない。


「こんなこといきなり言うのもなんだが、ミーアは共感覚ってやつで人の見え方が違うんだろ。」


 俺のような異質なものではないが、人が感じているものを何かしらで汲み取っているのだろう。


「...シンドウ君は本当に見通すんだね。私はそんな具体的な物じゃないよ。意志や気持ちの強いほど人を観ると脳が霞むような、意識を持っていかれるような感覚になるの。自分の中で抑制すれば起きなくすることは可能なんだけどね。」


 なるほどな。抑制ということは人の感情にあまり触れないことも意味しているのだろう。引き付けられるのも俺や鉢巻の近くにいることは寧ろ安定した共感覚しか周りから受けなくなる。強い意志だからこそ周りの意志を跳ね除ける。それはミーアにとっては自分をさらけ出せる場なのかもしれない。


「人のことが分かりすぎるってのも辛いよな。ミーアは偉いと思うぞ。その力で救おうと足掻いているのだから。俺はもう救う道を見出せんかもしれんと何度も諦めたからな。」


 俺は笑ってミーアを撫でてやる。こういうやつは前だけ向いていればいい。俺はその障害があるなら壊してやるだけだ。さて上手く戦っているがクリスも疲れてくるころだろう。


「さぁ休憩は終わりだ。..おい。」

「シンドウ君はもう私の神かなもう天使のようだよ~。私嬉しいよ~。..う。涙出てきそう。」


 クリスの元へ向かおうとしたら後ろから抱きしめられた。大げさなやつだな。まぁ気持ちは分からんでもない。何度諦めようとユイが手を引っ張ってくれて道を正してくれたように。俺も俺ができるなら道を切り開いてやろうじゃないか。






ミーアは己の本質を自分でも気づかない

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