7-4 嘘は咎人に在り方を示す④
いざ決戦の時です!
訓練から3日目
期日通りバトルの通達が行われ会場に辿りついた。
「おい!てめぇ千秋に何しやがった!ボロボロじゃねーか!」
訓練から生き延びこうして辿り着くことはできたが擦り傷だらけで打撲も数か所あり目も虚ろである。
「おいおい俺達は恋人だぞ。そして俺の初戦の戦いは見たんだろ?俺は千秋に勝った。俺の物なんだよ千秋はよぉ~。いやぁいい声で何度も何度も鳴いてくれたぜ苦しそうにな。これが支配プレイってやつだな。千秋は最高にいい女だったぜ。ストーカーさん。」
俺は息も絶え絶えな千秋の頬の擦り傷を舌で舐めてさらに相手を挑発する。
「許さねぇ。ぶっ殺してやるぜクソ野郎。」
惚れた女を誰かに取られ、自分が支配したかっただろうにそれすらも奪われる。最高の怒り感情が見えるな。タッグ相手からも嫌悪を示されているな。強そうだ。
「おらぁ立て千秋!バトルだしっかりしろや。」
俺は千秋の顔をはたき意識をハッキリさせる。そして耳元で話かける。
「勝つために来たんだろうがよ。これを飲み込め!一時的にだがアドレナリンが分泌され疲労を感じなくなる。」
俺は千秋に飲み込ませる。震えていた身体は収まり意識ははっきりしていく。
「..ふぅ。..シンドウ君。私は乗り越えられたのかな。まだハッキリしてないんだけど。」
「それを今から証明するんだろ。負けたらすべてが終わりだ。俺は負けを許さない。この意味は分かるな。」
千秋さんの目が怯えと共に決意をあらわにする。
「分かったわ。必ず勝って見せるわ!」
いい返事だ。そして立ち上がる。そして耳打ちをやめる。
「いい子だ。千秋。先に着替えてこい。アナウンスもう時間だろ。俺達は一緒にもう着替え室行くからな。」
アナウンス「試合開始時間と...勝手に進行させないように!まぁいいでしょう。開始準備を始めてください。」
「おいてめぇ何千秋と一緒に行こうとしてやがる!」
「俺達恋人だぜ。お互いのことは良く知っている今更だろ。嫌なら襲いかかって来てもいいぞ。反則となるかもしれんがなぁ。」
俺は挑発しながら千秋と同じ更衣室に向かう。いや~目が血走ってるね。怖い怖い。
◇
更衣室にて
「千秋さん着替え終わったか?」
俺はノックする。
「はい大丈夫です!」
俺は部屋に入る。目の前の千秋さんは以前のビキニ姿だ。相変わらず着替えるの早いな。
「今から回復魔術を施す。千秋さんが自分で回復できればそれでいいんだができるか?」
「申し訳ないけど。回復魔術は高難易度で学生時代身に着けるまでには至りませんでした。」
そうか。俺も回復魔術の有用性が高いことから欠陥品でもいいから身に着けたのだ。ユイのような天才はそうはいない。
「俺の回復魔術は欠陥品でな激痛を伴う。だから痛み止めだ。数分だけなら痛覚を遮断できる飲んでくれ。今回は勝つためだ。千秋さんに激痛を与えたくないそれだけだ。訓練のような物じゃないから安心してくれ。」
俺は少し怯えた表情だった千秋さんを軽く抱きよせ耳打ちし背中をさする。
「分かりました。信じます。」
「ありがとう千秋さん。必ず勝とう。」
千秋さんに薬を飲ませベンチに横になるように指示する。痛み止めなんてあるなら今までなぜ使わなかったというと、この薬は身体に当然負荷がかかる。先ほどの疲労を回復させるアドレナリン分泌剤を使わないと耐えられない恐れもある。今の極限状態の千秋さんにはこうでもしないともう気絶し戦えなくなってしまうのだ。今日を乗り越えさえしてくれればいい。
◇
5分程で身体の打撲や傷は治した。悪いが顔や腕は先ほど見られてしまっているため急に治ると不審に思われるため残した。それでも水中で沁みることのないようにはしてある。身体の擦り傷もある程度は残したが同様にだ。
「治したぞ。これで戦う分には十分動ける。行くぞ。」
「分かりました。」
◇
会場に戻った。
アナウンス「両者装着は完了しましたね。ただいまより鉢巻・近藤 VS シンドウ・千秋 による水中戦を始めます。ルールは鉢巻さんより受けて受理しました。内容としましては両名の戦闘不能又はリタイヤ宣言を持って決着とすること。片方が戦闘不能となったとしても戦闘は続行となります。片方が戦闘不能になった場合のみもう片方がリタイヤ宣言を行うと決着となります。では所定の位置についてください。」
ストーカーらしい実に性格の悪いルールだ。片方がやられても続行ということは状況次第でいたぶることを前提にしているんだろうな。他にもいろいろ考えられる。だが俺にそんなルールを押し付けたことを後悔させてやる。
◇
所定の位置にそれぞれがついた。
アナウンス「ではバトルを開始してください!」
さてどう動くかな。俺は相手二人を観察する。
予想どおり近藤とアナウンスされた男が目の前に立ちはだかる。鉢巻は千秋さんに方に行った。
「...ヒヒィ(かかってこいよ!)」
俺はレギュレーターを口から外してにっこり微笑み手で合図し挑発する。
相手はそれでも様子を見ながらゆっくり間合いを測りながら近づいてくる。やはり強敵っぽいな~見るかぎりだとステータスは高いな。何をしてくるか分からん以上うかつには動かない。学園の時は舐めプしていたところがあったが、この監獄ではそんな甘いことをしている余裕はないだろう。
「...フン..(喰らえぇ)」
俺は手始めに錬成魔術で短剣を生成し両手で二本投げつける。水中なのであまり速度は出ないが相手の動きは見れる。
「..カン..カン....。」
自己強化の魔術で硬化でもしたのだろう。短剣を手ではじき飛ばされた。
どちらかというと近接戦闘タイプなのだろうか。身体を見ている限りだと瞬発力に偏っているように見える。水中戦の場合に発揮されやすいとは言えないから。とにかく強いやつを引き入れたということだな。
「...ガン...ガキィン..」
これでどうだよ俺は棍を生成した。手の平サイズではない。手にサイズの紺を8本ほど繋ぎ合わせた。俺は自分の欠点を補う方法なぞいくらでも考えている。近距離だろうが遠距離だろうが戦闘方法はある。
さぁ戦いを楽しもうじゃないか近藤!
やばいケンジの悪癖が移ってしまったかな。
◇
◇
千秋側
「...フン...(動きが良く見える)」
私はあの過酷な2日を乗り越えられたのだろうか。鉢巻の動きが以前よりハッキリ見える。
鉢巻も私と同じ士官学校卒だ。戦闘スタイルはよく似てて錬成魔術で武器を生成し戦う。戦闘技能としては私の方が実力は上だったはずだが、エリア戦を経て抜かれてしまった。
「....ブフぅ...」
私の槍が鉢巻の腹を突く。感触からして魔術硬化で防がれてしまっている。だが手応えを私は掴んでいた。これならいける!
「...ギィン...ギィン」
お互い槍で公戦する。槍の戦闘技術では負けていないはずだ。力はあちらの方が上だが受け流しながら隙を作ればよい。
「...!?(急に離れていった。)」
鉢巻は遠く離れ手が光出す。...ライフル!?...そんな細かい技術を生成できる高難易度な錬成魔術を使用している。しかも水中なのよ。どうやったら撃てるというのよ。
「...キィン...キィン..。」
私はとっさに盾を生成し弾を受ける。仕組みは分からないけど撃たれた。水中で遠距離武器を使われるのは恐ろしく脅威だ。動けば撃たれる隙を作るし止まっていればいつ接近され近接戦闘になるか分からない。そして私は甘かった。急成長したかもしれないが。私が燻っている間も鉢巻は成長を続けていたのだろう。何か考えなければ。
◇
シンドウ側
「....。(まずいなこの状況は)」
俺は敵の隙を伺いながらも千秋の方を見ている。思った以上に鉢巻はできるようだな。このままでは負けるだろうな。
「..ブフォ..(よそ見はやっぱりいかんな)」
近藤は拳圧を魔術で強化し飛ばしてきた。そんな遠距離攻撃方法あるわけね。油断してたわ。
これはいかんなと思い鉢巻と近藤の直線上に移動する。これなら打ってこ..
「...フフ..(仲間が後ろにいても容赦なしかい!)」
と思っていたが拳圧は俺を少し通り抜けると霧散した。コントロールも完璧かい!いやいや強敵だなーおい。
近接戦闘だとあの強化魔術で、遠距離でも強化魔術で攻撃する。それしかないなんてことはないはずなんだよな。仕掛けるかな。
俺は一旦遠くに離れる壁面近くまで行く。近藤も付いてくる。壁面に足を着くと14本のクナイを生成した。4本そして4本を投げそして最後に2本を持ち壁面を蹴る。
「..ガキィン、ガ、ガ、」
近づきながら飛ばしたクナイは弾からていく。次いで投げたクナイも弾かれた。
近藤はさらに近づきつつ拳圧を打ってくる。こちらも拳に強化を施し拳圧を弾く。クナイを魔の力を注ぎ磁力を発生させる。先ほど放たれたクナイが再び戻ってくる。
「...!?」
流石気づかれるか、背中を硬化され弾かれる。俺はさらに4本クナイを生成し下に投げる。
「...!?」
今度は動揺しているな。体が上手く動かないのだろう。全てのクナイに糸を張り巡らせ三方向から縛り上げる。最初に投げた4本はマイナスの磁力として俺が蹴った平面の反対側に刺さり、壁面を蹴る際に4本刺して、今下に4本だ。投げた後の4本は注意を引くためである。
「...ビキィ...」
あらら。やばいな。馬鹿力だね〜クナイが外れかけてる。仕方ないね。
「..ガァガァガァああああ...」
気絶したか。俺は手の平で雷の魔術を発動させる。俺の雷魔術は触れた物のみ感電させられる程度だ。糸には伝導体が仕込んである。できればあまり手の内は晒したくないんだがやむ終えなかったな。
さてこちらは片付いたあちらはと。
◇
千秋側
「...キィ..(これはまずいわね。)」
交戦を続けていく内にこちらはガードをし続けているが遠距離攻撃に気を取られ近接攻撃ダメージを受け続けている。
「...ガキィン...ガキィン..。(近寄ることが困難だとどうしようもないわね。)」
鉢巻はヒットアンドアウェイを繰り返しくる。小細工にしかならないけどやるしかない。
「..ガン...!?..」
私は鉢巻が近づい来たところに盾を投げつけ、光魔術を使い目潰しを狙う。少しでも気を晒され..
「...ガハァ...。(何で私の位置が..)」
鉢巻が攻撃力重視の金属のハンマーで殴り付けられた。壁面に激突し意識が朦朧とする。硬化は魔術は全身を防御できるほど有用性は高くない。攻撃を受ける一点に張るものだ。だから範囲の広いハンマーでは防ぎきれない。
「...ウゥ...。(しまった。)」
さらに錬成魔術で杭を生成され動けないように壁面と固定されてしまう。
「...。」
せっかくここまで戦えるようになったのに。ごめんなさいシンドウ君。
◇
シンドウ側
あらら負けちまったか。俺は戦闘を終え少し観察していた。できれば千秋さんには1人で勝って貰いたかったんだがな。
俺は捕らえられている千秋と鉢巻の方へ向かう。
「...。」
何を思ってるのかは想像つくな。仕方ない手助けしてやろう。
近づくと鉢巻は短剣を千秋の首元に手の動作で死ねと合図を出してくる。人質ってことか。こちらもいるんだがこんなことするやつが助っ人に慈悲をかけるか怪しいな。
「..ツタァン...ツタァン...ツタァン」
俺は容赦なくピストルを生成し撃った。鉢巻の要求を飲む理由はない。恋人なんて嘘なんだから。鉢巻は咄嗟にに盾を構えて身を守ろうとするが意味はないぞ。
「...カハァ..。」
俺が撃つのは鉢巻ではない千秋の方だからか。
「...!?」
鉢巻は驚いているようだ。出血具合を見れば撃ったのが本当だと気づいているだろう。
「....。(容赦はしない。)」
俺は手で同じ合図を送ってやる。
鉢巻はまたも血走った目でこちらを睨んでくる。
人質にするようなやつに睨まれる言われないんだがな。
「....。(では!)」
俺は距離を取ることにする。鉢巻が千秋をどうするかなんて知ったことではない。このままだと千秋は出血多量で死ぬ。
「...タァン...タァン」
ライフルで撃ちこんでくる。余裕を見せてかわす。もう距離を取っている。そんなのは当たらん。千秋のことが気になり動けないのだろう。出血は続く。助けたければ自分がリタイアしなければならないのだ。
「....あぁぁ...。」
鉢巻は杭で千秋の脇腹を刺す。
酷いことするな。そちらも殺すことに躊躇がないことをアピールしているのだろう。俺は遠くから千秋の顔面めがけて撃つ。
「...カン..。」
そりゃ防いでやるよなぁ。殺す気がないのだから。でも俺はそんな躊躇はしない。
鉢巻はこちらに向かってくる。俺を倒す選択を取ったらしい。そうするしかないだろうからな。さて近藤とはまた別の戦いができそうだ。
◇
遠くから音が聞こえる。だがもう限界である。
体は2日に受けた訓練でボロボロ。精神的にも激痛でどんどんすり減っていく。私は死ぬのだろうという思いが頭をよぎり続ける。
私は頑張って来た。士官学校時代もトップクラスを勝ち取り続けた。だがそのせいで変なプライドを身につけてしまったのだろう。私は私の目の前を誰かに行かれるのが耐え難い。そんな思いで歩み続けたせいで鉢巻には迷惑かけたし恨まれているだろう。
だがそれでも私は勝ち続けたかった。今は過去を引きづりこんな体たらくになってしまったが、シンドウ君が導いてくれた。年下の子に情けないけど彼にだったら前をいや横に並びたいと思えてしまうほど輝いて見えて...惚れてしまったかなこれは。こう見えて恋愛なんてそっちのけの人生なんだったんだけどな。
意識が消えそうだ。走馬灯のように思いが駆け巡る。まだ戦いの音は聞こえる。...戦いたい。勝ちたかったな。
「いつまで寝てやがる。そろそろ起きろ馬鹿弟子がよぉ。」
シンドウ君!?
途端激痛と共に意識が覚醒し、内からエネルギーが溢れ出してくる。脳が焼けるようだ。何が起こったか分からないが身体の全神経に痺れが伝わりそして思考が回る。
「ったくようやく目覚めたか。死ぬ気でやれというのに負け犬根性が染み付いてるせいで苦労したぜ。」
どうしてなのだろうか、あれだけ擦り減っていただろう心も身体も今は動く。回復魔術をかけてくれたのだろうか。
「やっと身体が馴染んだようだな。強い意志力ってやつだ。千秋の場合は敗北を受け入れてリスタートする気持ちの切替ってやつだったんかね~キッカケは。」
シンドウ君の言っていることを不審に最初は思ったが。思い返すとその気持ちが勇気に力に変わったのかもしれない。
「さぁ自分で立てるだろ。それともまだ手助けがいるか?」
「...なめないでくれる。私は春日 千秋よ。もう負けないわ。必ずシンドウ君の横に立ってみせるからね。 」
目に精力が溢れているな。ようやくレベル2ってとこかな。負けるわけないだろ。積み重ねてきた物は嘘をつかない。いくらドーピングしていたとはいえ格上相手にあれだけ戦えたのだからな。
千秋は立ち上がる。鉢巻はちと本気で蹴りいれ反対側の壁面まで吹っ飛ばしといた。それでも復帰しこちらに異変に気づきこちらの様子を見守っていたところを見ると。千秋の回復を期待していたのだろう。やばいな向こうの方が王道って感じがしてくる。
「...!?」
千秋が飛び出す。早さは段違いだな。訓練で自重がさらに鍛えられるように柔道にしたのだ。全身を使う水泳ならば効果は適面だろ。
鉢巻は咄嗟に両腕を硬化し千秋の拳を受け止める。
「...うぅ..。」
痛しそうだな~。千秋はメリケンサックを生成し殴っていた。その後も近接戦として連打する。鉢巻は小手を生成し防ぎにかかるが防ぎ切れていない。勝敗は見えたな。
「ぐはぁ!...。」
公戦を続け最後は千秋のアッパーが鉢巻をプール外に吹っ飛ばした。
◇
ある程度治療が施され会場に戻った。
アナウンス「勝者!千秋・シンドウペアの勝利です!」
「「「うぉぉぉぉおおおお!!!」」」
今回は広いステージだったため観客は中継でしか見れていなかったらしい。
「良くやったな千秋さん。おめでとう。」
「....ぐすん。うれしいよ~シンドウ君~。...ってい」
「最初はフラグを立てる目的があったがそう簡単にハグできると思わないように。」
また会場でハグをしてきたので避けた。俺にはユイがいるんだ!浮気はいかん浮気は。
「まさか千秋に負けるとはな。また追いかける立場に逆戻りとは嫌気がさすぜ。」
鉢巻はこちらに近づいて来て悪態をついた。
「ありがとうね鉢巻。私はあなたのおかげもあって強くなれたよ。シンドウ君には敵わないけどあなたのことも好きよ。私が勝ったんだから私の物なんだから!ぎゅっ!」
「くそっこのビッチ野郎がまたそうやって物扱いしやがって...んん。」
鉢巻は千秋に抱きしめられた。
やれやれだぜ。千秋に自分の在り方を示す予定だったのに悪癖は直らんし。なんかいいところはダークヒーローっぽい鉢巻に取られるし。王道の道ってのは俺には難しいのかね。
腑に落ちない様子のシンドウだったが
晴れ晴れとした気持ちにはなっていた。




