5-4 嘘の英雄は未来の希望に縋る④
シンドウの新たな敵が今現れようとしている。
「シンドウさん僕がカリヒトさんに勝てる可能性がある分野って何かありますかね?僕は何とかしてカリヒトさんからポイントを奪いたいと思ってます。」
ヤマタケの言わんとしてることは分かる。恐らく何か勝負でも仕掛ける予定なんだろ。ポイントを謀反者を見つけて5ポイント取るなんてのは確率の問題だし、相手に違うと言われればそれまでだ。
点数を取りたければ相手を上手く呼びだし先生に端末を確認して貰いながら宣言するくらいだ。だからお互い納得の上で自白を掛けて勝負するのが王道だろ。
この課題のいやらしいところは5ポイントとであれば増えるが、自白の場合お互いの利益を優先するならば増えないのだ、プラスマイナス0だから。ポイントは多く欲するなら俺と匙のようなことはしない。だから俺は差額100ポイント分を渡すことで取引した。
「肉体的ステータスは勝てると話したな。相手がどんな技量があるか分からんがそれは勝てる。例えばジャンプ力や腕力とかか。だがな結局何よりも、ものを言うのはステータスだ。それをお前は持ってる」
ステータスは上がってる。それに戦い続けてることで技量も上がってきてる。知力をこれからってとこか。
「では何とかそれを使った戦いに誘い出したいです。単純にこちらは負けたらポイント2倍払うとかでは無理ですよね?相手が5分5分の勝負を、いや8:2くらいハンデを負わないと来ないくらいですか、勝負を仕掛ける方は。」
「落ち着け。お前がしたいことは分かっている。知恵は貸してやるって言ったろ。勝負したいなら誘い出す方法くらい考えてやる。」
闘志が出たことで焦っているというとこか。でも少しずつだが状況を把握してどうすべきの判断能力が磨かれている。
「お前のやる気は伝わってるが、それだけで実力が埋まるわけではないのは分かるだろう。知力をあげたいなら思考を止めるな。絶えず最善策を模索し続けろ。自ずと見えてくる。」
「...ふぅ。分かりました。お願いします。」
切替をしっかり行うのも大事だから、いい傾向だと思うぞ。スポーツプレーヤーが陥りがちになりやすいが気持ちを引きずってしまうというのはその人の能力を半分以下にまで落とす。苦しい時ほど一旦落ち着くだけで状況を一変させることがある。
「田中を呼んでこい。伝達係にする。」
「分かりました」
ヤマタケに伝え、去って行く。
◇
30分ほどでまた呼び出されるとは思っていなかったのか驚いてる
「なんか、俺に気を遣わせてしまって悪いなって思いながら去ったのに逆戻りはないっすよ~」
「お前の話方ってそっちがデフォルトなのか?まあいい、本題に入る。田中はお前昔は凄腕のバスケットシューターだったって情報を調べたらあったんだが本当か?」
「シンドウどうやってそんなことまで調べたんだよ。昔の話さ、怪我しちまって指の感覚が鈍ってドロップアウトしちまったんだよ。」
情報の調べ方なんて様々あるからな、昔の記録を調べるのは苦労するがな。
「そうなのか、技術としてはもう残ってはいないのか?人は生まれ持った才能が確かにある。田中は努力家だと俺は見ているからこそ尋ねたんだ。怪我で諦めてしまっているのかと。」
「...諦めきれるわけないわな。確かにもう部活もなにもやっていないがシュートならば誰にも負けないさ。プレイはできんがこの才能は捨てられない。」
自分の他より優れていることはそんなに多いものではない。この学校にいる時点でそういう力を秘めているからこそ入れたのだろう。
「俺は賭けに出ようと思う。ヤマタケに感化されちまってな俺は何とかお前も一緒に卒業できる方法を考えた。」
「シンドウさん本当なんですか!流石にさっきは勝手が過ぎたと反省してます。でもできうることなら田中さんを僕は見捨てたくはありません!」
はぁ~俺も生ぬるくなったもんだ。ヤマタケには死ぬほど頑張って貰うことにはなるかもしれんが。
「俺はこの一年で手に入るポイント及び課題で手に入るポイントを賭けようと思う。それで相手の要求ポイントと釣り合わせる。田中が言った約7000ポイントも俺だったら一年で集められる。要はお互いの最大全ポイント賭けた勝負だ。相手が3年であれば後がない緊張というのは早く解決したいはずだ。勝負内容は3番勝負決闘だ。俺とヤマタケと田中で申し込む予定だ。田中はやる気はあるか?」
「おいおい、そりゃ無茶だ!カリヒトはそんな甘くない。全ポイントなんてリスクを犯すわけないだろ。」
そんなことは分かっている。こんな勝負勝てる自信がなければ申し込んでも出てくるわけがない。
「俺はやる気があるのかと聞いた。相手が相当有利になるリスクまで考えている。お前を捨て駒扱いしたやつをお前は許せるのか!お前は去年の敗北でプライドまで完全に折ってしまったのか!」
「...許せるわきゃねーよ!なめんなよシンドウ俺は確かに負けたが絶対あきらめない執着の塊だ。あいつをつぶせるならやる気なんていくらでも出すわ!」
相当恨まれてるやつのようだな。怒りの赤黒い色してやがる。
「やる気が出たようだな。申し込む内容を話す。田中にシュートを行わせるために賭けるリスクだが俺が負う。条件は俺の勝負内容はあちらが決めることだ。先生を通し勝負内容が1%以上でも俺に勝てる要素が認められればいいとする。拘束具の強制等はできるが俺に危害が入ることはなし。ヤマタケはカリヒト側で一番強い相手と肉弾戦を行うことだ。要はだ舐められてる田中が勝たなければ100%負けると言ってもいい。田中はこの条件でやる気はあるか?」
「だから待てって、なんでそこまでしてくれるんだよ。俺はつい最近入ったばかりだぞ。負けたら正直絶望しかな..」
「俺はやるかやらないか聞いてんだ!こんなハイリスクを負いたいわけねーだろ。だが内のリーダーはお前を救うって言ってんだよ!どうするチャンスを掴むのか離すのか、早く決めやがれ!」
田中は動揺している。過去の自分を想い今やるべきなのかを決心する。
◇
◇
田中がカリヒトに伝達し次の日
申しでは受け入れられた。
場所は4つある体育館の一つを貸し切り状態としている。観客はいない
この場には俺、ヤマタケ、田中、ユイ
そして相手側にカリヒトと思われる男と女性が二人
教師が二人(片方はアカネ)これは何かあった時公平を期すためお互い1人づつ呼んだ。
「お前がシンドウか、大した度胸だなあんな申込するなんてよ。とんだ足手まといなリーダーだよな~ホント。お前この勝負終わったら内に来いよ。重要なポスト用意してやっからよう。」
「あんたがカリヒトか、恐ろしく貪欲な目をしてやがんな。だがあんたの目が節穴だってことを証明してやんよ。舐めてたら痛い目見るぞ。」
俺とカリヒトは相対する。
こいつの色はどす黒いなこれ以上ないくらい闇が深そうだ。この世には圧制を行って国をまとめるタイプが存在する。それも一つの形だ。人間はもともと命令を受け行動することが一番楽だと判断してしまう傾向にある。自ら考えなければ進歩がないと分かっていても、楽な道というのはそれだけ誘惑的なのである。
「おいシンドウ、この場にいるべきは対戦者だけの予定だぞ。ユイって名前だったな、なんでいる。」
「ユイは医療班としてだ、一切決闘には手を出さん。障害レベルAクラスのダメージをくらっても大丈夫なようにという保険だ。」
「へぇ~医療班ね~可愛い子じゃないかぁ。こういう純粋な子ほど汚したくなるってな!ぜひともユイちゃんも内にきて欲しいなぁ~可愛がってやん.!?」
俺は無表情でゴミを見つめる。こいつに躊躇う理由は一切なくなった。地獄に叩きおとす。
「..おいおいキレんなよ。冗談だよお前の女には手はださねーよ。」
「言葉には気をつけることだ。寿命を減らすことになるからな。」
俺は怒りを鎮める。いかんいかん。あれだけヤマタケに感情論を出すなと言っておいて俺がなってはいかんな。
「んじゃゲームの開始としようぜ。後悔しないように存分に戦えよ。先生たち始めろよ」
「年上を敬うという言葉を知らないのかしらね。」
相手側の教師がつぶやいている。あくまでもアカネは保険として用意しただけである
「はい!ゲーム開始を宣言します。このゲームはお互いの同意を得られたことを確認しました。
このゲーム勝者は相手の全ポイント分を賭けることとします!
では第一戦 更科 春香 対 シンドウ の体育館全てを使った神経衰弱を行って貰います。
枚数は520枚あり10セットのトランプを使います。
ルールとしては裏返ったカードを開け同じ数字、そして同じマークであるカードを同時に引けばカードを得る。開ける方法は交代で二枚づつ開ける以外認められない。開けたカードが揃っていればもう一度二枚引く。お互いに危害を加える行為を禁止とする。上記以外で反則行為と思われれば随時警告を行う。最後に更科さんは先行して最高129手先に行ってから進める。場のカードが258枚以下となった場合は交代とする。以上です。」
こりゃ酷いゲームだな。俺を最大限まで警戒しての行為だろうな。対戦形式をこの形にすれば相手に手はだせんし、変に恫喝すれば反則行為になりかねない。事実上実力が試される。
「さぁ強いし頭も切れると噂のシンドウよこのバトルはどう覆してくれるか楽しみだなぁ~」
こいつホント腹立つな。性格悪すぎて絶対友達いないだろ。
◇
カードが配り終え
更科さんが開け続ける
「おいおいコイツはやはり持ってやがんな」
俺は暇なので座りながら様子を伺う。
「シンドウは気づいたようだな。更科は完全記憶能力の持ち主だ。俺もまさか現実に存在しているとは思わなかったさ。この光景を見るまでわな。」
カリヒトが近くにすり寄ってきた
「おい俺がお前と友達みたいに思われるじゃねーか。ユイ以外はDon't Touch Me!触るな、触れるな、俺をどうにかしていいのはユイだけなんだよ! 」
「ハハハっいや~こういうやつをからかうのは最高だぜ!」
◇
着々と進み258枚捲りやがった。
「更科さん交代です。次はシンドウさんお願いします。」
「待ってましたぁ!シンドウお前の実力見せて貰うぞ!」
こいつうるせーな。黙って見てやがれ。
◇
20分後
「終わったぞ262枚だ。これで勝ちでいいですか。近藤先生」
「...はい。勝者シンドウさん。」
あ~疲れるな、目が本当に疲れる。
「てめぇ何をしやがった!連続で捲り続けるなんて偶然じゃないよなーおい!」
こいつ本当に俺のこと調べたのか?俺の観る目はステータスを暴くほどのレベルなんだぞ。こんな紙ペラ一枚魔術を使わなくたって覗けるぞ。ちなみにユイにはバレるので悪用し覗き行為なんて昔の学園時代はしていたが今はしてないよ。覗き行為は犯罪です。
「偶然も偶然さ~いや~運が良かったぜ。なんせ勝率1%を用意してよくてこの結果だからなぁ。このお題考えたやつオツムが足りないんとちゃうかな~どう思うバカヒトちゃんよ~」
「ぶっ殺し決定だなお前はよぉ~シンドウ!ほえ面かくなら今の内だぜ。第二戦始めろ」
「では第二戦 中野 文さん 対 田中 真さんのバスケットゴールを使ったフリースロー勝負を行って貰います。中野さんからシュートを10本行い交代します。ゴールに入った本数を競います。同数場合繰り返し行います。これもこちらが反則行為だと判断した場合警告します。以上です。」
中野さんからのシュートが始まるが明らかにおかしい。中野さんは小柄で運動するよりも本を読むタイプだ。勝つ気ないのか?
「まぁ見てろよシンドウ。ハハハッ」
◇
10本投げ2本入った。
「いや~文ちゃんは頑張ったぞ~2本も入ると思わなかったぞ。」
っちぃやはりそうなんだな。
「入れる気はなかった。いや1本でも入れば良かったってことなんだな。田中ぁぁあ!」
「すまんなシンドウにヤマタケ、俺はカリヒトを裏切れんのよ。勘弁な」
「ど、どういうことですかシンドウさん、田中さん」
ヤマタケは人が良すぎるのだ。すでに田中はこちらに仲間になる時点でカリヒトの罠は張られていたということだ。
「ハハハッいい表情になったじゃねーかシンドウ。オツムが足りないって誰が言ってたっけ?クッハハハッ」
◇
案の定
田中は全部外した。
「ハハハッ傑作だぜ。いや~ちょろいちょろい。田中の演技もなかなかだよな~。こいつな嘘は言ってないんだよ。去年先輩がポイント足りなくて退学したのもこいつが俺と繋がって落としたんだよ。ひでーやつだよな。あの先輩名前なんだったか覚えてねーわ。田中のやつ相当あいつは許せないって愚痴ってたな。いや~シンドウには嘘が通用しないってのはホントだったようだな!ハハハッ」
「.....」
田中がしたエピソードには嘘がなかった。確かに俺は本当の嘘を暴けなかった。
「チキショオオオオオオ!くそが!田中絶対に許さねーからな。くッだましやがって!」
「田中さん一緒に戦おうって言ってくれたじゃないですか!どうしてなんですか!...くぅ。」
「さぁ無能なリーダーのせいで偉いとばっちりだなシンドウよぉ!さぁ続きをやれ!」
「はぁ~第三戦 カリヒトさん 対 ヤマタケさん決闘です。どちらかがギブアップするか障害レベルAと判断された場合負けとします。」
「これでも俺は特別編成クラスに配属されたのは頭のキレだけじゃねぇ。独自の流派を持ち魔術による強化も行う。この学校においてトップクラスの戦闘力だ。お前の実力は知っている。さぁ楽にギブアップなんてするなよ。」
「...」
ヤマタケは動揺している。自分より明らかに格上の相手に
「ヒィッヒィッヒィックソ笑えてくるわ。いや~こんなカモが特別編成クラスメンバーだと。あいつの観る目も落ちたんじゃないか。いや~お前最高だよ。」
「シンドウさんなにを言ってるんですか?」
ヤマタケは頭をかしげ疑問を浮かべている。まぁ今のヤマタケでは勝てんわな。
「ヤマタケ、全思考を放棄し敵を殲滅せよ!!」
「...!?」
空間に制約の力が働く。
「何をごちゃごちゃと言って...ぐふお...」
ヤマタケが駆け拳をカリヒトにぶつける。いやヤマタケのパンチもなかなか飛ばすね~吹っ飛んでったぞバカヒトがよぉ~
さらにヤマタケは駆けカリヒトを背負い投げし逆側に吹っ飛ばす。あれは安藤の技を練習でもして体に染み込ませたかな。
「...かはぁ..はぁはぁ..ごふぉ..な、何が起きていやがる。」
そう思うよなカリヒトよぉ。ヤマタケは本来、人を傷つける真似は好まない。お人よしがそんな真似せんだろ。だから戦って勝つといってもダメージは最小限にし抑えこんでいたのだ。自らを犠牲にしてな。なぜか自分の身はかえりみないから自殺志願者か?と思うこともあったが。
ヤマタケには確かに戦闘センスはない。戦う意志はあるが相手のことを考えてしまい制限をかけてしまっているのだから。だがその余分な思考を取り払えば一転し、様々なモノを吸収しまくってるヤマタケは現在の戦力でいればエリア3のやつらを相手にできる力を持っている。
「くそがぁ!...がぁぁぁ。」
カリヒトの足払いをジャンプして躱し、落ちると同時にカリヒトの足に落ち骨が折れる。
「うっ。...!?うぉ..」
カリヒトに腹蹴りし吹っ飛ばす。
「おいおいまさかカリヒトさんよぉ。この程度ですかぁ?だーれのオツムが足りないって?自信満々の顔が歪んでますよ~。そして田中ぁぁあ!俺はお前にチャンスをあげたんだからなぁ。あのシュートで勝っていれば卒業させてやるつもりだったのに不意にしたんだ。覚悟はできてんだろうな裏切りもん、いや謀反者がぁぁあ!」
「...カリヒトがまさかこんな一方的にあ、ありえない。俺は、俺は間違えたのか。..」
「いーやお前の回答は間違っていなかったよ。だが嘘を言ってなかったからこそ分かったんだよぉ!仕方ねぇから教えてやる。お前はカリヒトの内情を知りすぎてんだよ。俺言ったよなカリヒトのポイントがいくつかよぉ!なんで信用がねぇーはずのお前がそこまで知ってんだよ。他にもカリヒトは3年次だとかペラペラしゃべりすぎなんだよ。筒抜けだわ。..まぁそれでもほっとくつもりだったがお前を信用しカリヒトから点を奪いたいと言ったんだ。助けたかったんだろうな。それをお前は不意にした俺は許さんからな。」
田中が崩れ落ちた
◇
20分経つころに障害レベルA判定を受けヤマタケが勝利
制約を解いたら気絶してしまった。
「あなたたち無茶するわね。私先生になってすぐこんな血みどろな生徒見ることになると思わなかったわよ。」
アカネさんはあきれている。そりゃそういう反応になるわな
「そうですね。俺の場合はここまでヤマタケが強くなるとは思いませんでしたね。」
ヤマタケは強かった。俺も勝てるとは思ったがこんなに圧倒するとは思わなかった。カリヒトは確かにトップクラスだった。だが予想よりもヤマタケは上回ってしまった。思考はないが闘志は燃え滾っていたということだ。本当に実力がつけば期待を大きく超えるかもしれん。俺が邪道ならこいつは王道なのだろう。俺ができなかったことをもしかしたらこいつはこいつなりのやり方で成し得てしまうかもしれない。いつか俺の背中を任せられるくらいなってくれると嬉しいな。..俺らしくないことを考えた、これは改めんといかんな。
決闘の決着は着いた。
ヤマタケ君は強かった!!!