5-1 嘘の英雄は未来の希望に縋る①
今度こそ新たな特別編成クラスメンバー現る。
シンドウさんが去ってから時間が経ちイベントの鐘は放送よりもたらされる。
「ただいまを持ってフラッグ回収を行って貰います。参加リーダーは特別編成クラスより9人おります。ルール通りポイントは各リーダーにポイント50分のフラッグを渡し終わっています。争奪戦を開始ください。期間中、午前は通常通りの授業を午後は自由行動とします。フラッグの所有権が大きく変動した場合は放送いたします。それでは始め!..と言いたいところですがさっそく変動がありました。リーダーはヤマタケさん。組織名は擾組獲得ポイント280でダントツの一位です!詳細は質問であれば受付ます。以上です。始めてください。」
放送は鳴りやみ。
僕たちは唖然としていた。
一体シンドウさんは何をしたのか?
「ユイさん!シンドウさんは一体何をしたんですか!」
ユイさんは笑顔のままつぶやく。
「皆さんは何に驚いているんですか?シンドウさんが本気を出したということは、この程度で済むわけないですよ?」
「この程度って何を言ってるんですか!ポイント280ってどうすればこの短時間に稼げるんですか!」
放送は再び流れる
「ポイントの変動がありましたので報告します。先ほどと同じくヤマタケさん率いる擾組獲得ポイント50が加わりポイント330となりました。そしてサトウさん率いるサトウ組が獲得ポイント50となりました。以上です」
再び放送が鳴りやみ。静けさが取り囲む。
何が起こってるんだ。シンドウさんは確かに凄い人だ。だがあまりにも...
放送は三度目が流れる
「あ...あ~。マイクテス、マイクテス。俺はリーダーのヤマタケが率いる擾組の参謀だ。サトウ以外の各リーダーに告げる。ペナルティーを受けたくなければ早めのリタイヤをオススメしてやる。幹部の配置場所は予想できている。時間の問題だ。リタイヤに応じるリーダーは今日中に体育館に使いを出せ以上だ」
再び放送が鳴りやみ。静けさが取り囲む。
シンドウさんだ。声は変えているが間違いない。
◇
10分経過した
「すまねぇ。またせたな、後少しで詰みだ。流石に各幹部を倒さないとフラッグが手に入らん以上限界だな。」
「いやいや。どういうことですか!開始30分も経ってないんですよ!」
「んだよぉ。お前が全力で力貸せって言ったんだろうがよぉ~あれは嘘かよ。」
シンドウさんはにやにやしながら言ってみせる。僕はこの人を侮っていた。いくらなんでも力の差がありすぎる。それはわかっていたはずなのに...
「シンドウさん。僕が悪かったです。全力は出さなくていいです。ここからは僕達だけでやってみせます!」
「そうかい。んじゃ頑張んな。知恵くらいなら貸してやんよこの程度なら。」
「シンドウさんやりすぎですよ?してやられたからといって大人げないですよ。」
遠くから見ていた大衆は思う。
とんでもない組に入ってしまったのだと。
その後3時間と経たずに7人の使いが幹部が負けを認めたフラッグを持ち込み、前代未聞のイベント初日で終了が告げられた。状況判断でフラッグがこれ以上動くことはないと判断されたらしい。
◇
イベントが終わり翌日
特別編成クラスに来たら1人の女子生徒が窓側の奥の席に座っていた。席は11席あり匙は中央の席に座っている。
「おはようさん。昨日はお互い切磋琢磨できた良い1日だったな。俺はこの学校に来れたことを誇りに思うよ。そうだと思わないか?」
俺は昨日のことが何を示しいるのかなんて分かりきっていながらも挑発していく。
「あんたが参謀さんってことだね。話が早くて助かるわ。私は先日の課題をシロネとしてリーダーをやっていた者だよ。」
「いきなりJKが話かけてきたな。俺にはユイがいるからナンパはちょっと...。愛人としても無理なんでごめんなさい。」
俺は相手が軽く顔を赤くしながら話かけてきたものだから、告白かなと思い先に断りをいれる。ますます顔が赤くなったな。モテる男は辛いぜ。
「...あんた絶対友達いないでしょ。人のことおちょくらないと気がすまないってことがよーく分かった。」
だからなんで皆俺に友達がいないと思ってんだよ!昨日は30人と仲間、友達みたいな雰囲気ができてたよ。
「本題よ。同盟を結んで欲しい。昨日のフラッグで何が起こったのかは予想できるわ。あの点数の動きから分かる。方法に関して教えろとは言わない。それを実行できる力があること自体が問題だと思うからね。」
やんちゃそうな見た目と言動ながら冷静に状況の把握ができている。この状態での同盟は事実上屈服の証のようなもんだ。配下のことを思えるやつなんだろうな。
「ククッ。随分殊勝なこと言うじゃないか。プライドはないのかよぉ。この同盟の意味分かってて言ってるんだよな?」
「分かっているわ。私は条件として何を差し出せばいいんだ。これは敗北の証だという事が。」
ここまで辿り着いてるだけあるな。この頂きに辿り着いてなおプライドを捨てることがどれほど覚悟がいることか。
「気に入ったよ。そうだな将来俺はお前を仲間に引き入れるから、良い回答を考えくれればいい。今後俺はシロネに対して今回のように動くことはない。諦めることはない。全力でぶつかってこい!今度からはヤマタケが相手をする。知恵は貸すがな。」
「その言葉だけでも舐められてるってわけだよね。初めまてだわこんな屈辱的なことはない。でも感謝するわ。仲間の件はそうね善処するわ。っていうよりこれはシンドウが私にナンパしているんじゃないの?浮気は後ろから刺されてしまうから注意しておくことだね。んじゃ戻るわ」
要件を済ませるとさっそう去っていく。
同盟ね、確かにこうでもせんと勝ち目がなくなってしまうからな。他のリーダーも考えてそうだがシロネのように大胆にはならないか。
さてシロネと同等かそれ以上のやつらが相手となるヤマタケは勝ち残れるかな?まぁいいさ、また期待だけはして待っているとしよう。
◇
◇
「匙はさ、このイベントどうやって勝つつもりだったんだ?」
匙には前のイベントで取引をしていた。
「僕はシンドウさんのようなトリッキーなことはできませんからね。勝つのは無理だったでしょうね。1人のみの場合は特殊フラッグは1日8時間規定の場所で相手にゲームのルールを決めさせ戦うこと、通常のフラッグは要求されたら1人1個まで強制的に渡すようになってました。あなたには感謝してます。」
やはりメンバーを集められなかった時のリスクはかなり重いらしいな。今回の件で9名のボス設定がなされていることを考えると最大で100名近くは課題に要求されるだろうな。
「感謝ね〜。確かに俺は匙と取引しお互いのフラッグを交換した。本来は交換なぞせず奪っても良かったんだがな、でもこの交換を行うことでこのイベントは事実上ポイント変動が極端になくなる。こちらも感謝しているよ。」
ゲームで交換することにより幹部は規定の位置でゲームを行う必要がないし、譲渡権限もなくなる。通常のフラッグも交換すれば奪われたと判断し所有権をなくすため配下に配る必要はない。これは事前に交換のことを匙には話しておき、匙が質問をすることにより確証は得ていた。
「いえいえ、獲得ポイント50は少なかったですが、今回はこれでよしとします。お礼に聞いて来ましたよ。報酬とペナルティーに関して、報酬のこのポイントは使用方法がいくつかあります。これからのイベントで使用するもよし、リーダーであればポイント交換で何が得られるか聞けるらしいですよ。」
まぁ今回で質問しなくても聞けるだろうとは思ったが、配下にどんなメリットがあるかを伝える必要があった場合士気を上げることができるから頼んでいた。逆も然り。
「ペナルティーの方はマイナスポイントとして貯蓄されていくそうです。怖いことですね。」
マイナスが一定以上となると恐らくだが、特別編成クラスから落とされるとかそんなもんだろう。
「なるほどな。お前は何か別の狙いがいろいろありそうだが、また何か取引できそうな事があったら仲良くやろうぜ。」
来て早々だが俺達は教室を出ることにする。油断ならないな。フラッグを奪うことは匙もやろうとしていた。取引の末50ポイントを確実にやるということにし着地したが、俺がいなかったら恐らくダントツトップはあいつになっていたのではないかと考えている。なんせ俺はあいつからフラッグを奪えなかったからな。
「さてこの学校は思った以上に手強いやつがいるな。ヤマタケ気張れよ。形はどうあれポイントは得た。途中編入だからポイント差がどれくらいあるかは分からんが。」
特別編成クラスは1年〜3年が入り混じっている。当然2〜3年はポイント獲得量が多いだろう。まだ1年生の間ではシステムが動き出したばかりだったらしいのでギリギリ最悪の状況を回避できるタイミングで入学したと調べていて分かった。アカシめ。絶対狙ってやってただろうがな。
「そうなんですか?確かに特別編成クラスは僕達が入ってる時点で学年は関係ないみたいですね。ポイントはできれば配下集めに使いたいと考えてます。どう思いますか?」
知恵を貸すって言ったからな。知恵をどう活用するかはヤマタケ次第だ。
「俺はそれで構わないと思ってるよ。基本的には配下不足であることに変わらん。今後課題で配下の増減があると俺は考えている。こうでもしなければ差が埋まらんからな。」
「ありがとうございます。僕は集まってくれた配下1人1人がどんな人なのか調べるために友好を深めていきたいと思ってます。次の課題が出題されたらまたお願いします。」
ヤマタケは去っていった。誠実と言えばいいのか、真っ直ぐ間違えていいから突き進む、そんな後ろ姿を思わせる。過去の自分はどうであっただろうか、王道を征くみたいなことは俺にはできん。だからこそ応援くらいはしてやろうと思ってしまうのか。
「シンドウさんはやはり優しいですね。あまり自分を過少評価しなくてもいいんですよ。私にとっては誰よりも頼りになる人なんですから。」
ユイの言葉には全く曇りがない正直な言葉だった。そうだな、仮に理解を得られなくてもこの世で最も愛した人が理解してくれるならそれ以上何を求めるというのだ。
◇
その後課題は出ず、ケンジとアカネさんの赴任の時が訪れた。
「俺は剣山 狼朗という。本日付でここの担任だ。どれ技量をみてやるコロシアイでもやるか。」
「ケンジさん!ダメですって抑えてください。アカシさんに言われたでしょ!...私は赤神 貴音といいますよろしく。」
やはりこうなるよな。よく今まで帝国機関で仕事できてたなと思う。アカシに頼んでいてよかった。ほっといたら帝国史に名を残す殺人鬼になってるとか嫌だからな。
「ケンジ先生。俺さ誰とでも無差別格闘ができる部作る予定だから顧問になってくれ。貴音さんは副顧問になってくれ。」
あの宣伝を嘘にはできんからな。もしダメだった時のためにやはり今回のイベントは印象で箔がついたからよかったのかもしれん。
「手続きとか堅苦しいことがなく、これからもないんだったらいいぞ。もし必要だったらアカネに言え。」
「わかりました。ありがとうございます。アカネ先生よろしくお願いします。」
「はぁ~勝手に決めるんだから。アカネ先生か...」
嬉しそうな顔をやめろ。にやけてるぞ。
「ちょっと待てよシンドウ!それはズルってもんだぜ!この寛容なシロネさんだって黙ってみてられんな!私のとこ..」
「五月蠅い。黙れ!この負けネコのシロネコがぁ!モブはさっさと自分のアジトでも戻ってちやほらされてろ!」
「っんだとシンドウ!いい気になりやがって!勝負しろやぁ!」
そうなぜか今日はシロネが来ている。匙は空笑いしている。俺は俺の邪魔になるやつは全力で排除するタイプだ!
「なんで今日は来てんだよこの不良少女が!引きこもりはさっさと引きこもってやがれ!シャバの空気吸ってんじゃねーよ。」
「私は犯罪者じゃねぇー。好きで引きこもってるわけじゃねーんだよ!...そのケンジさんのファンだからサイン貰いたくて...。」
「ミーハーか!なに言い繕っても私欲だだ漏れじゃねーか!」
「そうですよ。..そのシロネさん?ダメですよ生徒と先生がそういうのは..」
「..!?バキィ...。」
教卓が粉砕した。
「お前ら五月蠅い。シンドウ、部活の件は勝手にやれ。シロネとかいったなシンドウの作る部で俺に勝てたらサインでもなんでもしてやるいいな!」
「「「はい!!!!」」」
俺達は皆、ハイと言うしかなかった。
「アカネ行くぞ!挨拶はこんなもんでいいだろ。俺は鍛錬に戻る。お前ら何かあったら戦事以外はアカネに言え!以上だ。」
なんか、ただメンドくさがってるだけなのにしっくりくるのはなぜだろう。あいつ意外と天職だったり..しないよな。うん。
「やばいケンジ様カッコイイィィイ!私この学校いやこのクラス入れてよかった!うっ...感動で目にゴミが..」
こいつ思った以上にキャラ濃いな...
シロネさんの可愛いとこが見れましたね。満足です。